創造主は暇だったので冒険者になった。

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19.

─バキバキッ─
ルナが魔法を張るのと、視界が木片と紙切れで埋まるのはほぼ同時だった。真紅の光弾は、全てを壊さんばかりに飛び回る。視界が治まると、そこに迷宮図書館の面影は無く、瓦礫の散乱した広いホールのようになっていた。そして─
「いよいよボス戦か?」
ホールの中央に佇む人影は、黒いドレスに身を包み、目には真紅の光をたたえている。その背中には、三メートルほどの巨大なコウモリの翼。その姿はいかにも

          ─最強種族ヴァンパイア─

「ゴブリン達は城の者を生かしておいたのですかね?」
「もしくはアイツが一人で退けたか…。」

三〇年前の戦争の際、このレッドシャイア城を陥落させたゴブリン隊は、新たな拠点とする訳でも無く、そそくさと領地に帰っていったという。もし拠点としなかった、もしくはできなかった理由が彼女だとすれば、彼女が城に居座る事と一人だという事に説明がつく。

「ねえ」
突然、ヴァンパイアが口を開く。同時に、その背中の翼が霧散する。そして、俺達にこう問いかけた。
「今日って何年の何月何日かしら。」
「「「…は?」」」
普段必要最低限しか口を開かないクレアまでもが声をあげる。
「…聞いてどうする。」
「客人のあった日付ぐらい覚えておきたいじゃない?」
「客人と言う割には衛兵が攻撃仕掛けてきましたけど。」
「チャイムぐらい押してくれなきゃ。ゴブリンの残党狩りかもしれないじゃない。」
「はぁ…一九七六年四月二二日だ。」
「あら、もう三〇年経っちゃったのね。」
三〇年というのはおそらく例の戦争の事だろう。
「三〇年がどうかしたか?」
「…あなた達、冒険者パーティーよね?」
「そうだが?」
「実は、この部屋まで辿り着けたのって、あなた達が初めてなのよ。」
「…。」
「チャイムなんて無かったって皆言い訳するんだけどねえ。玄関が大きすぎて目立たないのかしら。」
「…。」
「たぶんもう必要無いけれどね。」
「…?」

それは、あまりにも唐突な申し出だった。

「私の名前はシャルミエ・ゴア。パーティーに入れて貰えないかしら?」

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