fate/badRagnarökーー魔王の名はアーリマンーー

家上浮太

時計塔の鬼才

「これでもない、あれでもない、それでもない、私が求めている真実はない、与えられたのは狂気のみ、より客観的に突き詰めて考えていけば真理とは一惑星に自然発生した生物に過ぎない人間などに都合のよくできているはずがなく、人間の尊厳を破滅に追いやる事実があったとしても、そこに善も悪もない」

「個体基礎」「降霊」「鉱石」「動物」「伝承」「植物」「天体」「創造」「呪詛」「考古学」「現代魔術論」を全て学び尽くした。

その知識欲はハゲワシに例えられる。
本人はうざったらしい長髪の男である。
全能とまでは言われない。
封印指定はされない。
階位は与えられない。

彼が名状しがたき恐怖を常に纏わせていた。

不気味がられる。

白人主義で東洋をバカにする生徒達と彼が揉め事を起こした、その結果、その生徒達は皆、発狂したまま精神を壊していた。
肉体も五体を保っている者は誰もいない。

呪術は学問ではない。
それを乱闘で現した。

彼はラヴクラフトを余りにも好み過ぎている、変質であり偏執であり、異常の領域。

完全に精神が錯乱している。
根源如きとさえ彼は思った。

「見たいな、小生を狂わせるほどの答えを」

さて、彼女の狂乱さを刮目しよう。
口に出さず、心の中で独り言を続けながら、時計塔を歩き続けてきた。
目的地である扉の前で止まる。
ロード・バルトメロイ。時計塔院長補佐。現・魔導元帥、若き女帝との面会の面談室。
ノックをする。
「どうぞ」
「失礼します」
バルトメロイ・ローレライがいた。
側にはメイドが紅茶を入れていた。
「お座りになって下さい、時計塔の鬼才」
「はい、クロンの大隊の隊長さん」
レモンティーが彼には注がれる。
「どうですか、本場の紅茶は?」
「えぇ、素晴らしいです」
「貴方の味覚は酸味しか感じない、レモンティーでしか紅茶を嗜めないと存じております、お気に召してくれてうれしいです」
「はい、それで何のようでしょうか?」
「万能と全能はどう違うのでしょうね」
「天才と神の違いでしょうか?」
「ここは魔術を学ぶ場ですよ?」
「根源を見るか、見ないか、ですかね」
「貴方は見たことがおありで?」
「まだないです」
「見る予定はあるんですね」
「もちろん魔術師ですので」
「貴方はなぜここに来た?」
人間の「人格」より「能力」を評価する主義で、強力な特殊能力を持つ人間にはそれなりの関心を持つ、それが彼女の好奇心である。
「答えを見つけたいだけです、一人よりも、他人と一緒に学んだ方が得られる者は多い」
「俗物的な考えですね」
「お恥ずかしい限りです」
彼女は紅茶を一口含んだ。
何か、苦さを感じている。
「ところで吸血鬼に興味はありますか?」
「大隊への勧誘ならお断りします」
それはあくまで、恥じらいに近い。
しかし椅子の後ろの女達は既に怒っている。
各々の凶器を抜いて彼を殺そうとしている。
「おやめなさい」
「そうだぞ、派閥が一つ増えてしまうぞ?」
「勝てると思っているのですか?」
「敗北しても無惨さでは君達が多目になる」
「彼と敵対する意思を示してはいけません」
その言葉に凶器はしまわれていく。
「小生も吸血鬼ではないのだから」
「それでは質問を繰り返します、吸血鬼に興味はありますか?」
「アンズベリには行きたいとは思っている」
「貴方はどちら側ですか」
「中立でいさせてもらう」 
「まさにコウモリですね」
「ハゲワシと最近は呼ばれているのだがね」
「えぇ、お似合いです」
「誉められた、と、思っておきましょうか」
後ろでは凶器の代わりに鋏やバリカンが持たれる。
髪が触手のようにそれらを壊していく。
「しかし、ハゲには成りたくはない」
「髪に拘るなんて、女々しいですね」
「髪が長くないとやる気が出ないんですよ」
「悪癖ですね」
「でしょうね」
「貴方のその知識への暴食さはどんなやる気から来るのですか?」
「人間とは悩むものだからな、答えを見いだしたいのは当たり前だ、仏教の悟りとはまた違う、人間は互いに矛盾する、自己矛盾だってするだろう、小生は自己矛盾の塊だからな、個人名はあっても個体名などは備わらない、この小生は真実のみを見たがる魔物だ」
微笑み、微笑む、夜叉の如き心の鬼ペルソナが嗤う。
「その執念深さは魔術師としては正当過ぎますが、貴方の人格には興味ありません、貴方の能力の源を、貴方の弱点を教えて下さい」
「それが小生を呼び出して剣呑な中での問答の核心か、だが、そんなものはないのだよ」
「へぇ、吸血鬼みたいですね」
笑顔が怖いを字でいっている。
「この不死性だけで人間離れしていると思われては困る、そんなのたかが序の口ですよ」
「これは失礼しました」
「別に見下されているのは分かっていますよ、その仮面の下にはきちんとした貴族主義が眠ってる、嫌悪感されているなら罵倒すればいい、貴女が吸血鬼に感じるのもある種の憧れだ、トラフィムに拘るのもそこに転落する余地があると薄々感じているからでは?」
「貴様!」
「よしなさい」
顔が変わった。
殺意を向ける。
「…ずけずけと人の心に入るな、俗物めが」
「俗物ね、凡人でいられることは幸福である、しかし普通からは乖離したがるのが人間である、だからこそ、貴女を心の底から、羨ましいと思いますよ、ロード・ローレライ」
「………どこが?」
「鋼の心ですかね、安心して下さいな、それを溶かそうだとか、惑わすとかはしないよ」
「そうですか、で、ここに入る時に私設憲兵はどうされました?」
「普通に眠っています」
「それは安心しました」
「えぇ僕は不安ですが」
「私達に怪訝されるのですからね、夜道とか、アンズベリで出会ったら殺しますよ?」
「気をつけます」
「それではごきげんよう」

面談室の殺意の渦は混濁していた、それを背中に犇々と感じながら、部屋を出ていった。
「えぇ、縁があったらまた会いましょうね」




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