侯爵と約束の魔女 一目惚れから始まる恋
二人の間の壁
グレイと繋がっている手鏡を手渡されたジョンは、人払いした。魔法で遠くの人とはいえ、手鏡に話しかける姿を使用人に見せたくはなかった。
エヴァはジョンのそばに座って、二人が会話する様子を見ていた。
「久しぶりだな、グレイ。また白髪が増えたか? まあ、元気そうでよかった。突然で申し訳ないが、頼みがある」
かつての仲間と、五年ぶりの会話だった。ジョンの記憶では、グレイの髪は真っ黒だった。それが白髪混じりだ。《戦乙女》とかいう部隊で何があったんだ? ジョンはグレイに何があったか全く想像がつかなかった。
「ああ、エヴァから聞いた。昔のよしみで、これから私と隊員の二人でそちらに向かおう。これ以上、白髪のことを何か言ったら、この連絡は切るぞ」
グレイは思った以上に白髪のことをきにしているんだな。
「悪かった、もう話さない。ストレスとは怖いな」
通信は切られた。
エヴァは二人の仲が良さそうな会話に驚いた。
「隊長と仲がよかったんですか?」
「ああ、あいつとは長いこと同じ部隊にいたから。あそこでは色んな苦渋を味あわされたよ……話を変えよう。君がいる《戦乙女》とは?」
グレイの過去をエヴァは全く知らないし、ジョンも話すつもりがないようだ。
「《戦乙女》はミュルディスではない異能持ちの女性を集めた部隊なんです。私は魔法から見た異能のアドバイザーとして、特別に所属しています」
「魔法と異能は違うのかい?」
ジョンの質問に、エヴァは身振り手振りを付け加えながら答えた。
「全然、違います。魔法はミュルディスだったら誰でも使えますし、同じ呪文を使えばみんな同じ魔法が使えます。でも異能はその人だけの力なんです。同じ異能はその人が生きている限り他の人には発動しません」
ジョンは魔法や異能について知ることは、初めてだった。その道のスペシャリストとして、熱心に語るエヴァは、ジョンにはとても輝いて見えた。
「先ほども言ったとおり、私は異能を魔法で分析して出た結果から様々なことを考察したり、異能について悩む子たちのカウンセリングを手伝ったりしています」
ジョンは、はっとした。
「では君は隊にとって、とても重要人物というわけだ」
そして私にとっても。ジョンは心の中で、そう付け加えた。
エヴァは口をつぐんだ。そしてゆっくりと頷く。
「そうですね……実は隊長から帰ってくるように命令されています」
ジョンの二人の時間がもうあまり残っていないことに衝撃を受けた。軍人として働いてきたジョンにとって、軍人にとって軍務が大事なことは痛いほどわかっている。しかし彼は、エヴァが自分のそばからいなくなることが嫌だった。
とても苦しそうな顔のジョンに、エヴァは明るさを無理矢理作って話す。
「でも私は、軍よりあなたのそばにいたいんです、ジョン。何があっても、あなたの力になりたいんです」
エヴァの言葉に、ジョンは天にも昇る気持ちになった。
「私も君が好きだよ、エヴァ。君が欲しくて堪らないし、永遠に私のそばにいてほしい」
そしてジョンは本当の気持ちを言う。しかし、そう上手くは行かないことをジョンは知っていた。
エヴァの喜びの顔は、ジョンの続く言葉で段々と暗いものになっていく。
「それでも君は軍人だ。君も自分の力が部隊にとって欠かせないと言っていただろう? 君を私が独り占めするわけにはいかない」
ウソだった。ジョンは今すぐエヴァを腕の中に閉じ込めたくて、堪らなかった。エヴァの悲しそうな顔に、キスをして慰めてやりたい。しかしジョンの忠誠心が愛情の邪魔をする。
ジョンは立ち上がり、椅子に座っているエヴァを見下ろした。
「これ以上、君に惹かれるのが怖いんだ。君が私のそばから離れて行くと思うと耐えられない。まだ会って三日目なのに、おかしいだろう?」
ああ、とても悲しそうな顔。こんな顔をする彼だから、私は彼の力になりたいと思ったのよ。エヴァの胸は万力で締め付けられているかの様に痛んだ。ジョンの頬に触れたくて堪らない。彼を慰めたいの。
「君がいてくれる残りの間、私たちは離れて過ごそう。さようなら、エヴァ」
ジョンはエヴァの頬に、優しくキスをした。子供のようなキスだが、今のジョンにはこれが精一杯だった。
部屋を出て行くジョンを、エヴァは何も言えず見送る。彼が触れた頬はとても熱く、滑り落ちる涙がそれを冷ましていった。
エヴァはジョンのそばに座って、二人が会話する様子を見ていた。
「久しぶりだな、グレイ。また白髪が増えたか? まあ、元気そうでよかった。突然で申し訳ないが、頼みがある」
かつての仲間と、五年ぶりの会話だった。ジョンの記憶では、グレイの髪は真っ黒だった。それが白髪混じりだ。《戦乙女》とかいう部隊で何があったんだ? ジョンはグレイに何があったか全く想像がつかなかった。
「ああ、エヴァから聞いた。昔のよしみで、これから私と隊員の二人でそちらに向かおう。これ以上、白髪のことを何か言ったら、この連絡は切るぞ」
グレイは思った以上に白髪のことをきにしているんだな。
「悪かった、もう話さない。ストレスとは怖いな」
通信は切られた。
エヴァは二人の仲が良さそうな会話に驚いた。
「隊長と仲がよかったんですか?」
「ああ、あいつとは長いこと同じ部隊にいたから。あそこでは色んな苦渋を味あわされたよ……話を変えよう。君がいる《戦乙女》とは?」
グレイの過去をエヴァは全く知らないし、ジョンも話すつもりがないようだ。
「《戦乙女》はミュルディスではない異能持ちの女性を集めた部隊なんです。私は魔法から見た異能のアドバイザーとして、特別に所属しています」
「魔法と異能は違うのかい?」
ジョンの質問に、エヴァは身振り手振りを付け加えながら答えた。
「全然、違います。魔法はミュルディスだったら誰でも使えますし、同じ呪文を使えばみんな同じ魔法が使えます。でも異能はその人だけの力なんです。同じ異能はその人が生きている限り他の人には発動しません」
ジョンは魔法や異能について知ることは、初めてだった。その道のスペシャリストとして、熱心に語るエヴァは、ジョンにはとても輝いて見えた。
「先ほども言ったとおり、私は異能を魔法で分析して出た結果から様々なことを考察したり、異能について悩む子たちのカウンセリングを手伝ったりしています」
ジョンは、はっとした。
「では君は隊にとって、とても重要人物というわけだ」
そして私にとっても。ジョンは心の中で、そう付け加えた。
エヴァは口をつぐんだ。そしてゆっくりと頷く。
「そうですね……実は隊長から帰ってくるように命令されています」
ジョンの二人の時間がもうあまり残っていないことに衝撃を受けた。軍人として働いてきたジョンにとって、軍人にとって軍務が大事なことは痛いほどわかっている。しかし彼は、エヴァが自分のそばからいなくなることが嫌だった。
とても苦しそうな顔のジョンに、エヴァは明るさを無理矢理作って話す。
「でも私は、軍よりあなたのそばにいたいんです、ジョン。何があっても、あなたの力になりたいんです」
エヴァの言葉に、ジョンは天にも昇る気持ちになった。
「私も君が好きだよ、エヴァ。君が欲しくて堪らないし、永遠に私のそばにいてほしい」
そしてジョンは本当の気持ちを言う。しかし、そう上手くは行かないことをジョンは知っていた。
エヴァの喜びの顔は、ジョンの続く言葉で段々と暗いものになっていく。
「それでも君は軍人だ。君も自分の力が部隊にとって欠かせないと言っていただろう? 君を私が独り占めするわけにはいかない」
ウソだった。ジョンは今すぐエヴァを腕の中に閉じ込めたくて、堪らなかった。エヴァの悲しそうな顔に、キスをして慰めてやりたい。しかしジョンの忠誠心が愛情の邪魔をする。
ジョンは立ち上がり、椅子に座っているエヴァを見下ろした。
「これ以上、君に惹かれるのが怖いんだ。君が私のそばから離れて行くと思うと耐えられない。まだ会って三日目なのに、おかしいだろう?」
ああ、とても悲しそうな顔。こんな顔をする彼だから、私は彼の力になりたいと思ったのよ。エヴァの胸は万力で締め付けられているかの様に痛んだ。ジョンの頬に触れたくて堪らない。彼を慰めたいの。
「君がいてくれる残りの間、私たちは離れて過ごそう。さようなら、エヴァ」
ジョンはエヴァの頬に、優しくキスをした。子供のようなキスだが、今のジョンにはこれが精一杯だった。
部屋を出て行くジョンを、エヴァは何も言えず見送る。彼が触れた頬はとても熱く、滑り落ちる涙がそれを冷ましていった。
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