侯爵と約束の魔女 一目惚れから始まる恋
新たな助っ人
セシルはキングレイ邸の門前に立ち尽くし、怒っていた。しかし叩き込まれた礼儀作法を使い、それを押さえ込んでいる。グレイの頼みでテレポートしたが、セシルは公爵令嬢なので、相手の家に気を使わせないためキングレイ邸に入るべきではないと、グレイが判断したのだ。セシルもそれが正しいことであると理解している。しかし長々と待たされて、セシルは我慢の限界が近づいていた。
彼女は実った麦のような色の、豊かに波うっている長い金髪を人差し指に巻きつけた。夏空のように澄んだ水色の瞳は、怒りで眇められている。しかし怒っている姿は、彼女の凛とした美貌を全く損なっていない。むしろ立ち姿から気品を感じるほどだ。
ようやく屋敷から人が出てきたと思ったら、想定の人数より二人も増えている。
セシルは目尻を釣り上げたが、エヴァの姿を見つけ、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「あら、エヴァ、お久しぶりね。あなたも一緒に帰るの?」
「いいや、エヴァは帰らない」
ジョンは即座に返事をした。セシルの反応も早く、片眉を上げ不快感を表した。
「あなたは?」
グレイは一触即発の雰囲気を感じ、素早く間に入った。
「ああっと、セシル、紹介が遅れてすまない。彼はジョン・キングレイ、キングレイ侯爵だ。ジョン、彼女はレディ・ペルセポネ・ティンバレン、ティンバレン公爵のご令嬢だ」
グレイに続くようにエヴァが、ジョンの耳元でささやいた。とても大事なことだ。
「彼女、自分の名前が嫌いなの。セシルって呼んであげて」
ジョンは頷き、にこやかな笑みで、手を差し出した。
「初めまして、レディ・セシル。私のことはジョンと呼んでくれ」
セシルは先ほど出していた不快そうな雰囲気を消し去り、愛想のいい笑みで答える。
「初めまして、ジョン。私もセシルでいいですわ」
二人は礼儀にのっとった時間の握手をした。
この人、グレイには及ばないけどハンサムね……エヴァのいい人なのかしら。セシルはジョンの顔を、失礼にならないように眺めた。そして自分が待たされた理由を思い出し、なぜ侯爵を紹介されたのか、グレイに尋ねる。
「グレイ? 私は侯爵に挨拶してよかったの?」
グレイは苦虫を潰したような顔で答える。胃の痛みを隠そうとしているせいで、どこか怒っているような雰囲気になってしまうのだ。
「ああ、大丈夫だ。セシル、君に頼みがあるんだ」
「頼みがある? それは命令ですか?」
セシルは鋭く目を輝かせて尋ねた。
「いいや、これは個人的なものだ」
こんな風のセシルの表情で、グレイはいい思い出がなかった。ジョンは不思議そうに、二人のやりとりを眺めている。エヴァとクレアの二人は、このやりとりが毎度であることを知っているため、黙って見守っていた。
「うーん……」
クレアは焦らすように、顎に頬を人差し指をあて、悩む素振りをする。
「頼む」
グレイがダメ押しと言わんばかりに、もう一度言う。
「いいわよ。また貸しが一つ増えたわね」
セシルは幸せが弾けるように微笑んだ。その微笑みはとても美しく、彼女が満足していることをグレイに伝えた。ああ、胃が痛い。
彼女は実った麦のような色の、豊かに波うっている長い金髪を人差し指に巻きつけた。夏空のように澄んだ水色の瞳は、怒りで眇められている。しかし怒っている姿は、彼女の凛とした美貌を全く損なっていない。むしろ立ち姿から気品を感じるほどだ。
ようやく屋敷から人が出てきたと思ったら、想定の人数より二人も増えている。
セシルは目尻を釣り上げたが、エヴァの姿を見つけ、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「あら、エヴァ、お久しぶりね。あなたも一緒に帰るの?」
「いいや、エヴァは帰らない」
ジョンは即座に返事をした。セシルの反応も早く、片眉を上げ不快感を表した。
「あなたは?」
グレイは一触即発の雰囲気を感じ、素早く間に入った。
「ああっと、セシル、紹介が遅れてすまない。彼はジョン・キングレイ、キングレイ侯爵だ。ジョン、彼女はレディ・ペルセポネ・ティンバレン、ティンバレン公爵のご令嬢だ」
グレイに続くようにエヴァが、ジョンの耳元でささやいた。とても大事なことだ。
「彼女、自分の名前が嫌いなの。セシルって呼んであげて」
ジョンは頷き、にこやかな笑みで、手を差し出した。
「初めまして、レディ・セシル。私のことはジョンと呼んでくれ」
セシルは先ほど出していた不快そうな雰囲気を消し去り、愛想のいい笑みで答える。
「初めまして、ジョン。私もセシルでいいですわ」
二人は礼儀にのっとった時間の握手をした。
この人、グレイには及ばないけどハンサムね……エヴァのいい人なのかしら。セシルはジョンの顔を、失礼にならないように眺めた。そして自分が待たされた理由を思い出し、なぜ侯爵を紹介されたのか、グレイに尋ねる。
「グレイ? 私は侯爵に挨拶してよかったの?」
グレイは苦虫を潰したような顔で答える。胃の痛みを隠そうとしているせいで、どこか怒っているような雰囲気になってしまうのだ。
「ああ、大丈夫だ。セシル、君に頼みがあるんだ」
「頼みがある? それは命令ですか?」
セシルは鋭く目を輝かせて尋ねた。
「いいや、これは個人的なものだ」
こんな風のセシルの表情で、グレイはいい思い出がなかった。ジョンは不思議そうに、二人のやりとりを眺めている。エヴァとクレアの二人は、このやりとりが毎度であることを知っているため、黙って見守っていた。
「うーん……」
クレアは焦らすように、顎に頬を人差し指をあて、悩む素振りをする。
「頼む」
グレイがダメ押しと言わんばかりに、もう一度言う。
「いいわよ。また貸しが一つ増えたわね」
セシルは幸せが弾けるように微笑んだ。その微笑みはとても美しく、彼女が満足していることをグレイに伝えた。ああ、胃が痛い。
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