ネトゲ廃人、異世界攻略はじめました。
14 未開の森へ
目が覚めた。
このシャヘルに来てから、何日めだろうか。それを、しばし考えなければいけないほどには、ここに来て時が経っていた。
まだ少し慣れないながらも身支度を終わらせて、食堂まで下る。
カウンターに置かれたサラダとトースト、それとコーヒーらしき飲み物をとり、手ごろなテーブルへ着く。
この食事を作る材料は、シャヘルの大地から調達しているらしい。中でもこのトーストは試験的に行われている農業によって生み出されたものだ。
さらに言うと、この食事は毎朝スミス――フロント内における技術者の総称――の女性が作りに来てくれているらしい。
「いただきます」
両手を合わせ、感謝の言葉を口にする。ほとんどしゃべることがなかった現実世界でも、この「いただきます」は言わなかったことはない。
人や命に感謝する心というのは、大事だと思います。
と、そんなことを考えつつ食事を始める。
その時。突然に僕の向かいの席に人が腰かけた。
……ちょっと? 席ほかにも空いてますけど……。
少しの困惑を覚えながら、僕は机の上のトーストからその人の顔に目を向けた。
「この席、座ってもいいでありますか?」
「……え、あ、どうぞ」
もう座ってるじゃん。そのしゃべり方なに? という二つの疑問を抱きながらも僕はそう返した。
そこに座っていたのは、かなり小柄な女の子だった。着ているのはアーツの隊員が着ていた制服と同じものだが、明るい色のショートヘアといい、まるくくりくりした大きな瞳といい、にわかにあのごつい男ばかりいた部隊の隊員とは思えない。
「ありがとうございます! 自分、アーツに所属しているアヤともうします! お見知りおきをであります!」
「う、うん」
うわー、すごいぐいぐい来るなぁ……。
しかし、普通に鬱陶しくはあるのだが、快活な印象の彼女の笑みはとてもかわいらしかった。
「僕はミナト。えっと……」
「もちろん、あなたのことは知ってるでありますよ! ゲームの世界からシャヘルに来た、勇者様でありますよね」
自己紹介で口ごもった僕の話の接ぎ穂をアヤと名乗った彼女が継いだ。
というか、勇者様って……。
「勇者なんかじゃないけど……。それで、もしかして何か用があるのかな?」
少し印象が悪くなるかもしれないが、話が進まないとどうしようもないので僕はそう訊いた。
しかし彼女はそれにはいっ、と元気よく返事をして答えた。
「ジブン、地球で自衛隊に入ってこのシャヘルに来ることができたんですが、現在、実力不足で探索に出ることさえ許されてなくて……」
俯きがちに話す彼女。僕はそれに無言で話の先を促す。
「そんなとき、とんでもなく強い人がやって来たって聞いて、これは教えてもらうしかないって。そういうわけで、話しかけさせてもらった次第であります」
「なるほど、状況は大体わかったよ」
つまり彼女は、外で戦いたいけど実力がなくて実戦に出してもらえない。だから僕に強くなる方法を教えてもらいに来た。
と、そういう状況らしい。
「じゃあ、手伝って――」
「ごめん、僕に協力はできない」
「えっ?」
思わぬ僕の回答に彼女は目を見開いた。
しかし、すぐにもとの表情に戻ると、少しの微笑みをたたえて彼女は言った。
「わかりました。無理言って申し訳ありませんでした。もし上で会うことがあったら、その時はよろしくであります!」
「うん、その時はよろしくね」
そして彼女はぺこりと頭を下げると小走りで場を去っていった。
きっと、僕が彼女に戦い方を教えることはできただろう。
そしてその結果、もしかしたら彼女が実戦に登用されるようになる、なんて可能性もないことはなかった。
だけど、僕には責任が持てない。
僕の行動の結果、彼女がエネミーに命を奪われる。そんな可能性も多くあるのだ。
そんな最悪の可能性、それに怯えて僕は彼女の頼みを断った。とても独善的で身勝手かもしれないが、やっぱり僕に、責任は持てない。
しかし、彼女のことは覚えておこう。あれほどの意欲があるならとても優秀なアーツになるかもしれない。
***
「へぇ、そんな珍しい子がいるのね」
「うん、すごい向上心だよね」
時は進んで、僕はアイリスとともにシャヘルの大地を歩いていた。今日の目標は、この前アクティベートしたポイントから少しでも遠くの土地を探索することだ。
欲を言えば早く次のポイントを見つけたいのだが、あまり結果を急ぐとよくないことが起こるので今日はとにかく安全かどうかを確認するだけでいい、とルカが言っていた。
「違う違う」
「え?」
「あんたみたいなパッとしない奴に近づく女の子なんているんだな、って思ったのよ」
「……酷いや」
いたずらっぽく笑いながらからかってくるアイリスに僕はわざとらしく肩をすくめる。
こうして穏やかに談話なんかできているのはやけに周辺のエネミーが少ないおかげだ。なぜだかはわからないが、やけにこの一帯のエネミーは最近少ない。
ちなみにミケは今日、探索に参加していない。
……この前の夜の事を訊こうと思っていたのだが、またの機会にせざるを得ないようだ。
「しっかし、こうも少ないと逆に嫌な予感がするわね」
僕と同じことを考えていたのか、アイリスが独り言のようにそう呟く。
「確かに数は少ないけど、この前ボルグハルグを倒した影響かな?」
「いや、そうとは考え難いと思うわ。だって、あんな強力なエネミーがいなくなったなら逆にほかのエネミーは活動しやすくなると思わない?」
「それもそうか……」
では、なぜここまでエネミーの数が少ないのか。一通りの可能性を考察してみるが、どれもいまいち現実味を得ない。
そうこう考えている間に、僕たちはアクティベートしたポイントがある草原を抜け、森の中へ足を踏み入れていた。あの最初に降り立った木もまばらな森と違い、ここは一本一本の木の高さも高く、さらにじめじめと湿度が高いように感じる。生い茂る葉によって陽の光はさえぎられ、中は少し薄暗い。
「ミナト。あたしもこの森は探索したことないの。だから、警戒はしっかりね」
「うん、わかってる」
「最悪の場合、近くに何組かのアーツの部隊がいるはずだからその人たちに救援を求めなさい。あたしたちの力だけじゃどうしようもなくなったら、ね」
彼女のその言い方に僕は身の引き締まる思いだった。ここから先は本当に未開の地。どんな凶悪なエネミーが出てこようと不思議ではないのだ。
そう、心の中で呟いた瞬間。
木の根元に生えていた大きな花のつぼみのようなもの。それが、突然に大きく開いた。直後、その巨大な植物は花の部分をまるで口のように大きく広げ、こちらに迫る。
「ミナトっ!」
アイリスの叫びとともにその花の異変に気付いた僕は、襲い掛かる花をギリギリのところでしりもちをつくようにして回避した。
しかし、それはすぐにこちらを正面に据えると勢いよく襲い掛かってくる。
それに僕は、自分の体を後方に倒し、半ば回転するようにしてその植物へ蹴りを放った。
その攻撃をまともに食らい、ノックバックする花。そのすきを見逃さず、アイリスが抜刀しながらその植物の茎を切断した。
地面に落ちた後も数秒うねうねと動いていた花の部分も、やがて力尽き動かなくなる。
「ごめん、助かった」
「危ないときはお互い様よ」
地面に座り込んだ状態の僕は、差し伸べてくれたアイリスの手を取って立ち上がる。
しかし、まったく油断も隙もない。すこしでも気を抜けば、視界からエネミーたちは忍び込み僕を殺しにかかってくる。
さらに、森という状況もあり、視界は悪い。メニューのマップもまだ機能しておらず、なかなかにこの森の探索は厳しいかもしれない。
「とにかく、奥に進んでみましょ。まだ時間はあるし、もう少し奥まで進めると思うわ」
「うん。……もしかしたら、エネミーはいないんじゃなくてどこかに隠れているのかもしれないね。今の、こいつみたいに」
そう言って、動かなくなった花を見やる。
何らかの原因があって、エネミーたちは各々の住処に隠れている、と考えればこの不自然にエネミーの少ないこの状況も説明できる。
……いや、肝心な原因がわかっていないのだから、説明もへったくれもないか。
しかし、とりあえず探索を進めよう。何の情報も得られず帰るわけにもいかない。
そして、僕たちは再び歩き始めた。
明らかに怪しい植物は避けつつ、ゆっくりと歩いていく。
斜め上から聞こえる奇妙な鳴き声や、少しずつぬかるんでくる足元。
森の奥へ進んでいるはずなのに、なぜか木々の感覚は広くなっていっている。
さらに、どうやら森は奥に行くほど標高が高くなっていっているようで、だんだんと上への傾斜がきつくなっていく。
「この奥、本当になにかあるの……?」
若干の疲れをにじませた声で、僕が尋ねる。
「さぁ、わからないわ。だけれど、行かないと何かあるかないかもわからないでしょう?」
あっけからんとそう言ってのけるアイリス。言っていることはまぁ正しいのだが、ここまでハードなハイキングをしてきた僕としては、その言葉にがっくりときてしまう。
しかし。
「あっ……。見て、ミナト」
僕の前を行くアイリスが小さな驚きの声を上げた。
視線の先には、僕も目を疑うような光景が広がっていた。
まず、僕たちが立つ場所から数メートル先。そこからはぱったりと木が生えていない。どうやら、かなり大きな円状に木が生えていないエリアになっているらしい。その面積は多分、テレビで見たことのある野球場以上はあるように思える。
そして、一番に目を引くのはその木のないエリアの中心に佇む、巨木。
……少し言っていることが矛盾しているかもしれない。
周りにある細く高い木とは一線を画した恐ろしく細く、太い樹木。それがそのエリアの中心に悠々と聳えている。
さらに、その巨木の周りの地面にはそれから放射状に延びる木の根がまるで血管のように浮き出ていた。
僕たちはまるでいざなわれるようにそのエリアの中へ足を踏み入れていた。
「こんな大きな木、初めて見たわ……」
「うん。……あれ? でも、GoSにもこんなオブジェクトなかったっけ……?」
脳裏に一瞬映ったその光景。それは、闇夜の森と呼ばれるエリアにあったオブジェクトで、確かその巨大な樹の上には……
「うーん、そんなものあの世界にあったかし――」
「――アイリス! 逃げるぞ!」
「えっ」
小首を傾げて考え込んでいたアイリスの手首をつかんで僕は踵を返した。
そのまま、足に持てる限りすべての力を込めて思いっきり駆け始める。
「い、いきなりどうしたのよっ!」
後ろから絶叫じみたアイリスの声が聞こえたがそれに答えている暇はない。
僕は少しだけ首をひねって、ちらとあの巨木の上を見遣る。
そこには、翼を広げ地へ下降してくる、一体の竜のシルエットが映っていた。
このシャヘルに来てから、何日めだろうか。それを、しばし考えなければいけないほどには、ここに来て時が経っていた。
まだ少し慣れないながらも身支度を終わらせて、食堂まで下る。
カウンターに置かれたサラダとトースト、それとコーヒーらしき飲み物をとり、手ごろなテーブルへ着く。
この食事を作る材料は、シャヘルの大地から調達しているらしい。中でもこのトーストは試験的に行われている農業によって生み出されたものだ。
さらに言うと、この食事は毎朝スミス――フロント内における技術者の総称――の女性が作りに来てくれているらしい。
「いただきます」
両手を合わせ、感謝の言葉を口にする。ほとんどしゃべることがなかった現実世界でも、この「いただきます」は言わなかったことはない。
人や命に感謝する心というのは、大事だと思います。
と、そんなことを考えつつ食事を始める。
その時。突然に僕の向かいの席に人が腰かけた。
……ちょっと? 席ほかにも空いてますけど……。
少しの困惑を覚えながら、僕は机の上のトーストからその人の顔に目を向けた。
「この席、座ってもいいでありますか?」
「……え、あ、どうぞ」
もう座ってるじゃん。そのしゃべり方なに? という二つの疑問を抱きながらも僕はそう返した。
そこに座っていたのは、かなり小柄な女の子だった。着ているのはアーツの隊員が着ていた制服と同じものだが、明るい色のショートヘアといい、まるくくりくりした大きな瞳といい、にわかにあのごつい男ばかりいた部隊の隊員とは思えない。
「ありがとうございます! 自分、アーツに所属しているアヤともうします! お見知りおきをであります!」
「う、うん」
うわー、すごいぐいぐい来るなぁ……。
しかし、普通に鬱陶しくはあるのだが、快活な印象の彼女の笑みはとてもかわいらしかった。
「僕はミナト。えっと……」
「もちろん、あなたのことは知ってるでありますよ! ゲームの世界からシャヘルに来た、勇者様でありますよね」
自己紹介で口ごもった僕の話の接ぎ穂をアヤと名乗った彼女が継いだ。
というか、勇者様って……。
「勇者なんかじゃないけど……。それで、もしかして何か用があるのかな?」
少し印象が悪くなるかもしれないが、話が進まないとどうしようもないので僕はそう訊いた。
しかし彼女はそれにはいっ、と元気よく返事をして答えた。
「ジブン、地球で自衛隊に入ってこのシャヘルに来ることができたんですが、現在、実力不足で探索に出ることさえ許されてなくて……」
俯きがちに話す彼女。僕はそれに無言で話の先を促す。
「そんなとき、とんでもなく強い人がやって来たって聞いて、これは教えてもらうしかないって。そういうわけで、話しかけさせてもらった次第であります」
「なるほど、状況は大体わかったよ」
つまり彼女は、外で戦いたいけど実力がなくて実戦に出してもらえない。だから僕に強くなる方法を教えてもらいに来た。
と、そういう状況らしい。
「じゃあ、手伝って――」
「ごめん、僕に協力はできない」
「えっ?」
思わぬ僕の回答に彼女は目を見開いた。
しかし、すぐにもとの表情に戻ると、少しの微笑みをたたえて彼女は言った。
「わかりました。無理言って申し訳ありませんでした。もし上で会うことがあったら、その時はよろしくであります!」
「うん、その時はよろしくね」
そして彼女はぺこりと頭を下げると小走りで場を去っていった。
きっと、僕が彼女に戦い方を教えることはできただろう。
そしてその結果、もしかしたら彼女が実戦に登用されるようになる、なんて可能性もないことはなかった。
だけど、僕には責任が持てない。
僕の行動の結果、彼女がエネミーに命を奪われる。そんな可能性も多くあるのだ。
そんな最悪の可能性、それに怯えて僕は彼女の頼みを断った。とても独善的で身勝手かもしれないが、やっぱり僕に、責任は持てない。
しかし、彼女のことは覚えておこう。あれほどの意欲があるならとても優秀なアーツになるかもしれない。
***
「へぇ、そんな珍しい子がいるのね」
「うん、すごい向上心だよね」
時は進んで、僕はアイリスとともにシャヘルの大地を歩いていた。今日の目標は、この前アクティベートしたポイントから少しでも遠くの土地を探索することだ。
欲を言えば早く次のポイントを見つけたいのだが、あまり結果を急ぐとよくないことが起こるので今日はとにかく安全かどうかを確認するだけでいい、とルカが言っていた。
「違う違う」
「え?」
「あんたみたいなパッとしない奴に近づく女の子なんているんだな、って思ったのよ」
「……酷いや」
いたずらっぽく笑いながらからかってくるアイリスに僕はわざとらしく肩をすくめる。
こうして穏やかに談話なんかできているのはやけに周辺のエネミーが少ないおかげだ。なぜだかはわからないが、やけにこの一帯のエネミーは最近少ない。
ちなみにミケは今日、探索に参加していない。
……この前の夜の事を訊こうと思っていたのだが、またの機会にせざるを得ないようだ。
「しっかし、こうも少ないと逆に嫌な予感がするわね」
僕と同じことを考えていたのか、アイリスが独り言のようにそう呟く。
「確かに数は少ないけど、この前ボルグハルグを倒した影響かな?」
「いや、そうとは考え難いと思うわ。だって、あんな強力なエネミーがいなくなったなら逆にほかのエネミーは活動しやすくなると思わない?」
「それもそうか……」
では、なぜここまでエネミーの数が少ないのか。一通りの可能性を考察してみるが、どれもいまいち現実味を得ない。
そうこう考えている間に、僕たちはアクティベートしたポイントがある草原を抜け、森の中へ足を踏み入れていた。あの最初に降り立った木もまばらな森と違い、ここは一本一本の木の高さも高く、さらにじめじめと湿度が高いように感じる。生い茂る葉によって陽の光はさえぎられ、中は少し薄暗い。
「ミナト。あたしもこの森は探索したことないの。だから、警戒はしっかりね」
「うん、わかってる」
「最悪の場合、近くに何組かのアーツの部隊がいるはずだからその人たちに救援を求めなさい。あたしたちの力だけじゃどうしようもなくなったら、ね」
彼女のその言い方に僕は身の引き締まる思いだった。ここから先は本当に未開の地。どんな凶悪なエネミーが出てこようと不思議ではないのだ。
そう、心の中で呟いた瞬間。
木の根元に生えていた大きな花のつぼみのようなもの。それが、突然に大きく開いた。直後、その巨大な植物は花の部分をまるで口のように大きく広げ、こちらに迫る。
「ミナトっ!」
アイリスの叫びとともにその花の異変に気付いた僕は、襲い掛かる花をギリギリのところでしりもちをつくようにして回避した。
しかし、それはすぐにこちらを正面に据えると勢いよく襲い掛かってくる。
それに僕は、自分の体を後方に倒し、半ば回転するようにしてその植物へ蹴りを放った。
その攻撃をまともに食らい、ノックバックする花。そのすきを見逃さず、アイリスが抜刀しながらその植物の茎を切断した。
地面に落ちた後も数秒うねうねと動いていた花の部分も、やがて力尽き動かなくなる。
「ごめん、助かった」
「危ないときはお互い様よ」
地面に座り込んだ状態の僕は、差し伸べてくれたアイリスの手を取って立ち上がる。
しかし、まったく油断も隙もない。すこしでも気を抜けば、視界からエネミーたちは忍び込み僕を殺しにかかってくる。
さらに、森という状況もあり、視界は悪い。メニューのマップもまだ機能しておらず、なかなかにこの森の探索は厳しいかもしれない。
「とにかく、奥に進んでみましょ。まだ時間はあるし、もう少し奥まで進めると思うわ」
「うん。……もしかしたら、エネミーはいないんじゃなくてどこかに隠れているのかもしれないね。今の、こいつみたいに」
そう言って、動かなくなった花を見やる。
何らかの原因があって、エネミーたちは各々の住処に隠れている、と考えればこの不自然にエネミーの少ないこの状況も説明できる。
……いや、肝心な原因がわかっていないのだから、説明もへったくれもないか。
しかし、とりあえず探索を進めよう。何の情報も得られず帰るわけにもいかない。
そして、僕たちは再び歩き始めた。
明らかに怪しい植物は避けつつ、ゆっくりと歩いていく。
斜め上から聞こえる奇妙な鳴き声や、少しずつぬかるんでくる足元。
森の奥へ進んでいるはずなのに、なぜか木々の感覚は広くなっていっている。
さらに、どうやら森は奥に行くほど標高が高くなっていっているようで、だんだんと上への傾斜がきつくなっていく。
「この奥、本当になにかあるの……?」
若干の疲れをにじませた声で、僕が尋ねる。
「さぁ、わからないわ。だけれど、行かないと何かあるかないかもわからないでしょう?」
あっけからんとそう言ってのけるアイリス。言っていることはまぁ正しいのだが、ここまでハードなハイキングをしてきた僕としては、その言葉にがっくりときてしまう。
しかし。
「あっ……。見て、ミナト」
僕の前を行くアイリスが小さな驚きの声を上げた。
視線の先には、僕も目を疑うような光景が広がっていた。
まず、僕たちが立つ場所から数メートル先。そこからはぱったりと木が生えていない。どうやら、かなり大きな円状に木が生えていないエリアになっているらしい。その面積は多分、テレビで見たことのある野球場以上はあるように思える。
そして、一番に目を引くのはその木のないエリアの中心に佇む、巨木。
……少し言っていることが矛盾しているかもしれない。
周りにある細く高い木とは一線を画した恐ろしく細く、太い樹木。それがそのエリアの中心に悠々と聳えている。
さらに、その巨木の周りの地面にはそれから放射状に延びる木の根がまるで血管のように浮き出ていた。
僕たちはまるでいざなわれるようにそのエリアの中へ足を踏み入れていた。
「こんな大きな木、初めて見たわ……」
「うん。……あれ? でも、GoSにもこんなオブジェクトなかったっけ……?」
脳裏に一瞬映ったその光景。それは、闇夜の森と呼ばれるエリアにあったオブジェクトで、確かその巨大な樹の上には……
「うーん、そんなものあの世界にあったかし――」
「――アイリス! 逃げるぞ!」
「えっ」
小首を傾げて考え込んでいたアイリスの手首をつかんで僕は踵を返した。
そのまま、足に持てる限りすべての力を込めて思いっきり駆け始める。
「い、いきなりどうしたのよっ!」
後ろから絶叫じみたアイリスの声が聞こえたがそれに答えている暇はない。
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