異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第162話 俺の気持ちのようです

 教会を後にした俺は、捕らえられていた皆を連れ、聖国の王城に連れていく。

 衰弱が激しく、早期の治療が必要な者も多い。聖王様もその一人である。ほとんどの人に回復魔法をかけてはいるが、一時的なものなので、然るべき機関へと送らなければならない。

 だが、ここまで大勢になると受け入れが難しい所もあるかもしれない。それに俺はここの近くに治療できる所があるのか分からない。

 ここは聖王様頼みである。

 聖王様の力を使って彼らを救ってもらう。聖王様も初めからそのつもりのようだ。

「着いた。ここが聖国の王城だ」

 聖国の王城は遠目絡みててもわかったが、とりあえず白い。

 流れる様なフォルムと相まって、俺の頭には聖騎士という言葉が浮かんでくる。

「待っていろ。私が門兵に話をしてくる」

「俺も一緒に行きましょう」

 聖王様と共に門兵の所に行く。俺が着いてきた理由は簡単で、いざとなったら聖王様を助ける為である。

「止まれ!貴様らは何者だ!」

「我が名はカームマイン・フォン・ファルクス。この国での聖王だ。通せ」

「せ、聖王様!?し、しかし聖王様は逝去されたと聞きましたが……」

「ではお主は目の前に立っているものを偽者とするのだな?」

「い、いえ、そういうわけでは……。私にも不審人物を入れないという仕事が……」

 まぁ門兵の言う事も一理ある。死んだと思われていた人物が帰ってきたと言うよりは、誰かが変装して乗り込んできたといった方がまだ現実味がある。

 だが、俺にかかればそんなの関係なくなる。

《追体験を獲得しました》

 やはりな。ただ使い方が分からんのだが、いつも通り、誰かに触れてればいいのか?いや、それだと俺の体験を追体験させることになるのでは?

 そんなのはごめんだ。しっかり確認しなければ。

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〔追体験〕
 自分の経験したことを触れている相手に体験してもらう。何を追体験させるかは自分の意思で決めることが出来る。
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 やっぱりそうだったか。ならば聖王様にやってもらう他ない。

「聖王様。お手を拝借してもよろしいですか?」

「よかろう」

「失礼します」

 俺は追体験を聖王様に継承する。

「追体験のスキルです。自分の経験を、相手に体感させる者です。相手に触れていれば発動できますので、これで」

「そうか。門兵よ!」

「は、はい!」

「手を出せ。そなたには私の体験した事と同じ事を体験してもらう」

「えっ。それは――」

 聖王様は門兵が言い終わる前に手を掴み、スキルを発動させた。

 すると門兵の体が一瞬ビクッと震えたかと思うと、聖王に跪く。

「今までのご無礼をお許しください」

「門を守るのがそなたの務めであろう?その務めをしっかり果たそうとだ、誇るがいい」

「はっ!有り難き幸せでございます!」

「そなたには、大臣と執事長を呼んできて貰いたい。一刻も早くだ」

「はっ!」

 門兵は中に入っていく。

 俺が見ていた感じ、いきなり態度が変わったように見えたな。もしかすると、追体験している時間は周りから見れば一瞬なのかもしれん。

 それと聖王様は何の記憶を見せて、本物だと思わせたのだろうか?

「聖王様。失礼ながら先程はどんな体験を?」

「うむ。家族。それも我が娘との記憶だ。捕らえられて居る時のものでも良かったが、聖王だと証明するには家族の方がいいかと思ったのでな」

 なるほど。確かにそうだ。それならば簡単に話が分かる。

「しかし、娘と言うのは理不尽なものよの。私はただ娘の成長を見守りたいだけなのだが、邪魔と言われるのだ。それはなぜなのだ……」

「それは……反抗期ですね。独り立ちする為の準備のようなものです」

「そうだといいが……。よもや私が嫌われているわけではあるまいな……。心配であるぞ……」

 聖王様は思ったよりも、親バカであった。もしかしたら、娘を持つとこうなるのだろうか?よくわからん。

 そんな時城内から、先程の兵士が二人引き連れてやってきた。一人は豪華な装飾に身を包んだ、小太りの男、もう一人は、執事服を来た、白髪でダンディな男だ。

「お連れ致しました」

「うむ。良くやってくれた。引き続き己の職務を全うせよ」

「はっ!」

 門兵は一礼して、門を見張る位置に着く。

「大臣と執事長であるな?」

「聖王様!よくぞご無事でっ!」

「カームマイン様のご無事を私達、執事は心より願っておりました」

「うむ。大臣は緊急会議の準備をしてもらいたい。執事長はこの者達の治療にを任せる。人を使って誰も死なせる事が無いようにしろ」

「「はっ!お任せ下さい!」」

「うむ。では頼んだ……ぞ……」

 聖王様は全てをやり遂げて気を失った。

 だが、俺には分かっている。ほぼ限界の状態でここまで持ち堪えていた事を。それを成せたもの、この国と、そこに住む国民のためである事も。

 俺は気を失って倒れそうになる聖王様の前に少しかがみ、聖王様を背負う。

「お疲れ様でした。聖王様。後は俺が」

「貴様は何者だ?」

「俺は、ただの旅人です。この国にとって重要な情報を持ってきました。聖王様の耳には既に入れてはいますが、まだお伝えしてない事もあります。俺も城内へ入れてもらえますか?」

「大臣様。この者嘘は言っておりません。そして、恐らくこの方が聖王様をお救いした者かと」

「それは真か!」

「えぇ……。そこまで誇る事でもないですよ……」

 俺は少し歯噛みする。この件の裏では俺は惨めに負けているのだから。

「ではそなたも共に、城内へ入るといい。連れがいるなら連れも入れることを許可する」

「ありがとうございます」

「では執事長。聖王様の期待に応えるぞ!」

「かしこまりました。では取り掛からせて貰います」

 こうして二人は動き出した。


◇◆◇◆◇


 今俺と女神は応接間にいる。落ち着くまではここにいて欲しいと、執事長に言われた為である。

「女神、少しいいか?」

「ん?なに?」

「これから先の事なんだが、お前も戦う事は無理か?お前の力がどうしても必要なんだ」

「…………」

「……はぁ。やっぱり無理か……」

「ごめんね?無闇に戦うと、私が堕ちる可能性もあるから」

「神は何にでも平等にってやつか……」

「うん。いいやつだからとか悪いやつだからとか、そういうのは関係ないの」

「神様は厄介な決め事をしたものだ……」

 これからの計画で、女神がいれば楽になった工程がいくつかあるんだが、ダメのようだ。地道にやるしか無さそうだ。

「ねぇ。あんまり気を張りすぎないようにね。皆が悲しむから……」

「皆か……。皆、目が覚めたら何て言うだろうか。もしかすると俺を恨むかもしれん」

「うん。多分恨むよ。何で私達を置いていったんだってね。特にジュリとかすごい怒ってそう」

「だよなぁ……」

「それと泣くと思う」

「何故だ?泣くような事はないんじゃないのか?」

「あなたは分からないだろうけど、私には分かるの。だって皆と同じだから……」

「……?よく分からんのだが……。分かるように言ってくれないか?」

「べー!だ」

「なんという理不尽。俺の心が傷付いたぞ」

 コンコンコンッ

 俺達が話をしていると、扉がノックされた。

「はい!」

「失礼致します」

 入ってきたのは執事長だった。

「こちらは全員分の治療を終えました。命に関わるような状態の者もいませんでしたし、遅くても一週間ほどすれば以前と変わらず動けるようになるでしょう」

「そうですか」

「あなた方に関しては大臣様が、聖王様に一任なさるという事ですので、聖王様が目覚めるまでこの城に留まって貰いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい」

「では新たに、来客用の部屋を用意致します。もう、夜も更けている事ですし、お休みになられて下さい」

 そうか……。俺が目覚めてからまだ一日も経っていないのか。

 女神の言ったように、少し気を張りすぎているのかもしれん。

「何から何までありがとうございます」

「いえ、カームマイン様をお救いいただいたと言うのに、これくらいしか出来ないのが心苦しいです。カームマイン様の娘様は、塞ぎ込んでしまわれたので無事としれば大変喜ばれることでしょう」

「あの、その事ですが、聖王様が生きているという事は、ギリギリまで伏せていてください。事情は明日、聖王様が目覚めてから説明致しますが、その方が都合が良いのです」

「分かりました。大臣様に至急お伝えします。では私はこれで」

 執事長は踵を返して、部屋の外へ。

「ふぅ……。今日はこれで終わりりだ。明日からまた忙しくなるがな……」

「ねぇ。一つだけ聞いてみてもいい?」

 女神が俺に話をかけてくる。

「どうして、あなたは一人でも戦おうとするの?一回はあんな事なったのに、どうしてそれでも戦おうとするの?」

「そんなの簡単な話だ。俺はただこの世界が好きなんだ。俺を仲間と認めてくれる人達がいて、今まで出会ってきた人達に良くされて。前の世界では考えられない程の出会いが、この世界にはあった。俺はそれを守りたい。だから、一人だとしても、俺は戦う。俺の仲間も、今まで出会った人も、これからの出会う人も、その全てを護る為に……」

 不意に暖かい何かに包まれる感覚がした。女神が抱き着いて来たのかと思ったが、女神は俺の目の前にいる。

「そっか…………強くなったんだね…………でも……」

「ん?どういう意味だ?」

「ううん。なんでもないよ」

 女神と話していると、先程の感覚は薄れ、感じなくなる。

 さっきの何だったんだ?どこか懐かしみがあって、落ち着くあの感じ……。ずっとそうしていたいと思える程の心地よい暖かさがあって……。

 俺はそんな事を考えながら、眠りについていった。

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