異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第152話 聖都ファルクスのようです

 初めの鬼ごっこから数えて二十四回目。その内十回は俺が鬼だ。要するにほとんど捕まってるわけなのだが、どうも鬼でない時の俺の敵は多いようで、皆から逃げるのを妨害されていた。

 それって鬼ごっこ的にどうかと思ったのだが、ルールには妨害禁止なんでものはないし、基本何でもありなのだから仕方がないっちゃあ仕方がない。

 そしてこの二十四回目が終わる頃には、皆に飽きが回ってくる。

 時間的には一ゲーム十分くらいだからもうかれこれ四時間は鬼ごっこをやっている。そりゃあ飽きるよな。と言うかよく今まで飽きなかったと思う。

「で、ここで提案なんだが、今から聖国の都に行かね?」

 何を唐突にとも思うかもしれないが、別に行動を起こさなければいいだけであって、聖国の都に行くのは何ら問題はない。言い換えると観光に行くというわけだ。

「口で説明するの面倒だったから以心伝心使ったが、どうだ?わかったか?」

「そう言われれば確かにそうね。聖都で観光なんて悪くない提案じゃないの」

「だが懸念がいくつかある。聖王がいない今、聖都は混乱の最中であり、教皇は戦争を起こす準備を初めている。その中で、聖都に入れるのかとか、入っても観光できるのかとか」

「実際行ってみないと分からない」

「いやまぁそれはそうなんだがな」

「パパに話してくる」

 ミルは鬼ごっこを四時間もしたとは思えない速さで魔王様の所まで走り去っていった。

「主様。私達もミル様を追った方がいいのでは?」

「だよなぁ。ミルだけだと心配だもんな」

「ミルを追いかけるのー!」

「あ、おい!ゼロ!」

 俺が呼ぶより前にゼロは転移で先に行ってしまった。

「ねぇねぇ。皆は何してるの?ミルとゼロだけが王城に入ってったけど」

 さっきまでシロと戯れていた女神がこちらへやってきた。

 俺は事情を簡潔に説明し、今から魔王様の所に行く趣旨を伝えた。

「ほうほう。楽しそうだね!私も行く!」

「どうせ言わなくてもお前は勝手に付いてくるだろ」

「さっすがー!よく私のこと分かってるね!」

「分かりたくもないがな」

 女神と話してるといつもペースを乱される。なぜだ……。

「あ、あるじさま?もうそろそろ魔王様の所に向かった方がいいのでは?」

「……そうだな。じゃ行くか」

 俺達は歩いて魔王様の所に行く。

「そういえば、聖都ってどんな場所なの?私、帝都しか知らないし、想像つかないんだけど……」

 魔王様の所に向かっている最中、フェイが聖都について教えて欲しいと言ってきた。

 しかし俺もよく知らないので教える事は出来ない。だから、ここは女神先生に出てきてもらおう。

 俺は女神の方を見る。

「……え、私!?」

「お前以外に適任がいるか?俺を含めた他の皆は聖都とか聖国のことよく知らないんだぞ?」

「わかった……じゃあ説明するね!」

 おぉ、なんという変わり身の速さ。思ったよりもやる気満々だった。

「皆知ってると思うけど、聖国は聖王と教皇の二大権力者がいるの。今まではその二大権力者がいてもバランスの取れた政治ができてて、主に景観を美しく保つための政策は双方で意見を出し合って決めてたみたい」

「質問。もし、今回みたいにそのバランスが崩れるとどうなるの?」

 フェイが、質問をした。俺もそれは気になってたので興味がある。

「んー。今回に限って言えば圧政とか独裁政治とかになるのかな?」

「よく分からないの?」

「今まで何回か片方が居なくなることがあったけどそれは一時的なもので、すぐに選定されてたからね。今回みたいなケースは初めてだと思う。だから聖国とか聖都では混乱が大きくなってるんじゃない?」

「おぉ、なんか説得力があるな」

「でしょ?偶には私だって役に立つんだから!」

 偶にはか……。いつも役に立って欲しいところなんだが……。

「ほとんど女神様が言ってくれた通りだよ」

 俺達は話している間に魔王城の中に入っており、後は魔王様を探すだけになっていたのだが、魔王様の方からこっちに来てくれた。

「ミルやゼロちゃんに話を聞いて大体の事はわかったよ。聖都で観光をしたいんだよね?」

「はい。戦う前の視察でもありますが、それを今言うのは卑怯ですよね」

「いやいや、私も話を聞いて視察をしておいた方がいいんじゃないかと思ってね。ただ、今の聖都は混乱が大きいから下手な事はしないようにね」

「分かりました」

「それと女神様」

「ん?なに?」

「もしもの時は皆さんをお守りください」

 魔王様が女神に深くお礼をする。

「それってお願い?」

「いえ、神を信仰する者としての祈りのようなものです」

「じゃあ神として出来るだけ答えてあげないとね!」

「ありがとうございます」

 ん?要するに、俺達が危なくなったら女神が参戦出来るってことか?

 どんな基準なのか分からないがそれは心強い……のか?まぁ神だし力はあるだろう。

「それじゃあ、今から聖都に送るよ。送った先はもう聖都の中にある建物の中だよ。今後そこを使ってくれて構わないからね」

「何から何までありがとうございます」

「君達を頼るのにこれくらいのことしか出来なくて心苦しいくらいだ」

 他人のことを自分の事のように思ってくれるのは魔王様の人柄だろうな。

「……それとミル、あんまり迷惑かけたらダメだよ」

「ん」

「怪我とかにも気をつけるんだよ」

「……ん」

「風邪引かないようにちゃんと布団の中で寝るんだよ」

「…………」

「それと……」

「わかったからもういい」

 ミルって魔王様には厳しいよな。まぁ思春期の娘と父親だったらこんなもんか。

「そ、そうか……。じゃあ最後に絶対帰ってくるんだよ?いいね?」

「ん」

「よし。じゃあ『聖都ファルクス』に送るよ。皆集まって」

 魔王様の誘導で皆が一つに固まる。

「いくよ……。転送!」

 三度目の転送はもう慣れたもので視界が一気に変わっても、驚くことは無くなった。

 俺達が送られてきたのは清潔感のある宿のような所だった。魔王様の言う通り今後はここを使わせて貰うことにしよう。

「マスター見て見てー!とってもきれーだよー!」

 ゼロは窓から外を望んでおり、目を輝かせている。

「外を見るのはいいが、今から外に出るぞ」

「待ってー!わたしもいくー!」

 俺達はこの建物の玄関を通り抜け、外に出る。

 そして俺達の目に入り込んだのは、今まで見た事のないような景観の美しさだった。

 白を基調とした建物に、綺麗に配置されているタイル。街頭やベンチ、草花はそれらとしっかりマッチングするようなものを選んでいた。

 そしてなにより、この先に見える噴水が一番壮観だろう。

 いくつかの街頭に囲まれた噴水は、陽の光を反射してユラユラと輝いて見え、また、噴水の周りで遊んでいる小さな子供達がこの聖都の美しさを体現しているかのような笑顔を浮かべている。

「すげぇ……」

「言葉がでないわ……」

 皆も大体俺と同じ反応だ。これは見た人でないと分からないだろうな。

「ここが『聖都ファルクス』……」

 こうして俺達は聖都へと足を踏み入れた。

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