異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第123話 帝都を後にするようです

「あれを見ろ!フェイリス様が連れ去られてるぞ!」

「なんだって!フェイリス様をお助けするんだ!騎士を呼べ!」

「騎士はあいつにやられたよ!」

「じゃあどうすればいいんだよ!」

「俺に聞くんじゃねぇ!」

 俺が教会からフェイを攫い、飛んで逃げている時、下からそんな声が聞こえてくる。

 俺は少しだけ申し訳ないと思いながらも、無視して飛んでいく。

「タキシード仮面?ここで一つ下の皆になにか言っておいたら?」

 そんな俺を知っていたのか、フェイがそんな提案をしてきた。

「言ってみてら皆が落ち着くことがあるかもだし」

「そうか。ならばやってみよう」

 俺は一旦空中で動きを止めた。それによってざわめきが起こる。

「皆の者!私の言葉をしかと聞け!私はタキシード仮面!正義を行い悪を成敗する者だ!」

 俺の叫びにより注目が一気に集まり、だんだんと静かになっていく。

「この度、私が出てこなければならない悪事が行われた!それはフェイリス女王様の意向に沿わない結婚である!私はフェイリス女王様を救い出す為、このような手段を用いた!」

「それがいい事だと思っているのかっ!」

「確かにそのような考えを持つ者も少なからずいるであろう。しかし!このままフェイリス女王様を王族としてあそこに居させては、何同じ事が起きないとも限らない!だから私はそこから救い出すのだ!例えそれが攫うという事になったとしても!」

「…………」

 民衆から声は上がらなくなってしまった。

「……しかし、私とて鬼ではない。攫ったからといって、永久に私の側に置いておくということはしない。現在の王族が考えを改め、然るべき約束をするのであればフェイリス女王様も戻ってこれよう」

「…………」

「それまでしばしの別れだ!さらばっ!」

 俺は全速力で街の上を飛ぶ。

 ああっいたい!仮面が風の抵抗を受けて顔面にめり込むぅ!早く止まりたいっ!

 俺は人のいない路地裏を見つけ、そこに着地した。そして、抱えていたフェイを降ろす。

 ついでにめり込んで痛かった仮面も外した。

「あんたって良くもまぁ、あんな嘘をペラペラと話せるわね」

「あながち間違ってないとおもうが……」

「いやー?私の意向に沿わな……い、いや!なんでもっ!なんでもないから!今のは忘れてっ!」

「ん?なんか言ったか?」

 その時の俺はタキシード仮面の格好からいつもの服に着替えていたところだった。

「な、何でもない!聞いてなかったならそれでいい!それよりも!なんであんたがここで着替えているのかの方が不思議なんだけど!」

「そりゃあタキシード仮面の格好してたらバレるからな」

「そんなの私がいても一緒でしょ?」

「……確かにそうだな。そこまで考えが至らなかったわ」

 なんかどっと疲れが出てきて頭が働いてないからかもしれんな。タキシード仮面モードは今後使わない方がいいな。

 それにタキシード仮面がいなくなったということは悪がなくなったということだ。嬉しい事ばかりだな。

「私はどうすればいいの?」

「とりあえず変装でもすればいいと思うぞ?どうだ?俺のタキシード仮面セットを着てみるか?」

「それ余計目立つじゃん!」

 おぉ、確かに!全然頭が回ってねぇや!あひゃひゃひゃひゃひゃ!

 ……すいません。調子乗りすぎました。

 するとこの路地裏に走ってくる六人のグループがあった。

 俺が隠れるところに直でこれて、六人ということはあいつらだろう。

「マースーター!!」

「やはりお前達か」

 一足先にゼロが俺の元へとやってきた。いつもの事ながら抱きつきてくる。

「辛かったよー!!凄い疲れたよー!」

「そうかそうか。お疲れ様ゼロ」

 俺はゼロの頭を撫でて労う。今回、ゼロはとても退屈だっただろう。それでもやり切ったことはすごい事だと思う。

「ゼロ、早いな……。一度手合わせを……」

「エルシャは自重した方がいいわよ?女の子って言うのはあんまりがっつきすぎるとモテないわよ?」

「そ、そうなのか……!ゼロ!今のはなしだ!」

 そんな事を言いながら俺を追ってきた六人が全員揃った。

「タキシード仮面っ……じゃなかった」

「おいミル。お前わざと間違えただろ」

「何のことかさっぱり?」

「お前のことだろ!俺に聞くな!」

「いつものやり取りご苦労様です」

「レンも見てないでどうにかしてくれよ!」

「いえ、私は何かをするよりは見てる方が面白くなってる気がするのでいいです」

「そんなことないと思うがなぁ」

 確かに、ほとんどレンは俺達の成り行きを見てるな。でも、偶にレンがボケが来る時があるからな。あなどれん。

「あるじさまっ!お着替えが終わったら早くこの帝都から出た方がよろしいかとっ!」

「そうだな!じゃあ帝都を出るぞ!皆俺に、付いてこーい!」

「「「りょーかい!」」」

 そうして俺達は帝都を後にしたのだった。


◇◆◇◆◇


ーsaid:ピエールー

 ほっほっほ。やはり行ってしまわれましたか。私にこんな手紙を渡した時に薄々は感じておりましたが、まさか結婚式中にいなくなるとは誰も思わなかったでしょう。

 しかし、あのタキシード仮面なる者……。相当の武術の使い手とお見受けする。ただの騎士では到底かなわないような力を持っておりましたな。

 恐らく先程は相当の力を抜いていたと思われますな。勝つ事が出来るとしたら、フェルト様、もしくはフェラリオン様のどちらかだと思われますね。

 その、フェラリオン様を初めとしたフェイリス様の御家族は放心状態が続いておりますな。

 ここは私がフェイリス様に渡された封書を御家族を渡すように頼まれておりましたので、約束通りに渡すことにしました。

「フェラリオン様。気をお確かになさってください。フェイリス様からのお便りが届いております」

「なにっ!早く私に見せろっ!」

「こちらでございます」

 フェラリオン様は封筒を開けて、手紙を読み始めた。

 私は同じく放心状態にあった、フェアリア様やフェルト様にも同じように封書を渡した。

 すると突然、フェラリオン様が笑い始めた。少しするとフェアリア様やフェルト様も笑い始める。

「流石私達の子だな!無茶苦茶なことを平気でやってのけてしまった!」

「それが私達への怒りなのでしょうね。あの子には悪い事をしたわ」

「お父さんとお母さんはどうするの?あのタキシード仮面を捕まえる?」

「いいや。ここのフェイの頼みにタキシード仮面と及びその中身の人を見逃してくれとあるからな」

「いいんじゃない?見逃しても」

「そうだな。どうせタキシード仮面とはあいつの事だろうし、逆にあいつの側が一番安全かもしれないからな」

 どうやら話し合いが終わったようです。

「ピエールよ、追わないように騎士に言っといてくれ」

「はい。かしこまりました」

 そうして私は騎士から騎士へと渡り歩いた。

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