異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第90話 事が大きくなったようです

「まさか君から頼まれる事があるとは思わなかったよ。なんでも一人でやってしまいそうだからな君は」

 フェルトとレオンの二人だけを残して救護室から出た時、エルシャさんにそんなことを言われた。

 俺はそれに少し苦笑しながら言葉を返した。

「さっきそれで仲間に叱られたばかりなんですよ。なんでも一人でしすぎるなって」

「ほう、いい仲間を持ったな」

「えぇ、俺にはもったいないくらいですよ」

 エルシャさんは俺の前で談笑しながら歩いている彼女達を眺めていた。

「なら、私のところに来るか?何時でも歓迎するぞ?」

「そうです……じゃない!エルシャさん、いきなり何を!」

 不意打ちににも程があるでしょうに!

 そしてそのしてやったりみたいな顔やめてくれません?可愛くて胸がドキドキしますから。

「もう君には私の気持ちを知られているからな。ならせめてせめて攻めて攻めて攻めまくって、君を落としてやる!」

 やだなにこの男らしさ。男の俺よりも男らしいんですけど。

「それで、今夜デートでもしないか?」

「直球で来ますね……」

「もうなりふり構わないって決めたからな」

「デートの方はまたいつかでお願いします。明日決勝戦ありますし、まだ病み上がりなので」

「そうか、それは残念だ。だが言質は取ったからな。約束……守ってね?」

 その最後のとこでちょっと女の子らしくなるの卑怯ですよ。

 と、ここで俺は気付いてしまった。前にいた少女全員がこっちを向いてむくれている事に。

 え、なに?俺何かこいつら怒らせるようなことした?

 するとジュリがジト目をして俺に言い放つ。

「あなた、鼻の下がのびてるわよ」

「の、のばしてねぇし!」

「私じゃ鼻の下をのばしてくれないのか……」

「い、いや、そう意味じゃないですよ!」

 ジュリの言葉を否定したら、エルシャさんが落ち込む。だが、否定しないわけには……。はぁ、なんてめんどくさい事に……。

 そんな俺を見て傍で笑い転げている女神。後で絶対しばいてやる。

「マスターはエルシャみたいな感じの人が好きの?」

 俺が女神に対してどんな刑を処そうかと考えようとした時、いきなりゼロがぶっ込んできた。

「ゼロ、その好きはラブじゃなくてライクの方だよな?」

「ラブ?ライク?」

 あちゃー。分からないかー。なんて説明したもんか……。

「ラブは人を愛するとかとういう意味で、ライクは食べ物とかが好きって意味よ」

 俺が悩んでいた時、ジュリが説明をしてくれた。それの説明でゼロは理解してくれたようだ。

「それならラブの方!」

「だそうよ?ここまで聞いて答えないなんてそんなことないわよね?」

「そ、そりゃ当然だ」

 な、なんか皆の目線が一層鋭くなったような気がするんですけど。ていうかなってるよね?

 助けて!誰か助けて!どう答えればいいか誰か教えて!誰かー!

「早くマスター!」

「そうよ、早くしなさい」

「主様、私も興味があります」

「あたしも気になる」

「わ、わたしもちょっとだけ」

「私も気になるな。どうなんだ?」

 皆のその期待に溢れた目が俺にとっては絶対への入口にしか見えない……。一体どうすれば……。

「いやー、モテモテだねー。ハーレムだねー。皆の子供作る?作っちゃう?」

「茶化すなこのクソ駄女神!オヤジみたいなこと言ってんじゃねぇよ!」

 ほらお前が茶化すから、それもいいわねとか言い出して賛同するやつが出てきてるじゃねえか!このアホ!

 どうすんだよこれ。俺が一番の被害者じゃん。

 ていうか、なにお前達は子供作る気満々なの?俺しないよ?いや、俺と決まってるわけじゃないんだが。

「あ、あれ?ちょっと思ってたよりも皆が本気にしてるんだけど……。ま、いっか!なるようになる!」

「考えんの放棄してんじゃねぇよこのアホが!この流れどうしてくれる!」

「そこは男の甲斐性でどうにか」

「出来るか!」

 すると、話し合っていた皆が一斉に俺の方を向いた。それはもういい表情で。……俺には悪魔のような顔に見えたが。

 そして、代表してジュリが口を開き始める。

「えー、この話し合いは満場一致で子作りをするという事で決定しました!はい拍手!」

 皆がジュリの声で拍手をし始める。

「なにが拍手だ!勝手に決めるんじゃない!」

「でもあなたを含めてここにいる半数以上がするって言ってるのよ?ここは多数決で」

「こんな大事なことは多数決で決めていいことじゃない!」

「細かいことは気にしない」

「そうです主様。観念してください」

「なんだよ観念って!」

「口が滑っただけです」

「それただの本音じゃねぇか!」

 ミルもレンも何を考えいるのやら……。

 すると俺の服がもぞもぞと動き、中からシロが顔を出した。

「ニャ」

「シロ!俺を助けてくれるのか!」

 しかしシロは俺の元から立ち去り、ジュリの手の中に。

「シロ!まさかお前まで!」

「ニャ」

「くそぉ!この裏切り者ー!」

 忘れていたがシロも性別は女だ。ましてや俺のパーティメンバー。頭がおかしくないわけない。

「あるじさま!ここは男を見せるべきです!」

 いつになく自信たっぷりなリン。

「マスターの子供どんな子になるなるのかなー?楽しみー!」

 既に子供を作るのが決定事項となっているゼロ。

「き、既成事実さえ作れば!」

 危ない考えに走り出したエルシャさん。

「楽しそうだから私も混ざろ!」

 この流れの元凶にして最凶最悪の女神。

「ふんふふーん♪」

 鼻歌を歌って気分が良さそうなミル。

「主様の子の教育はお任せ下さい」

 既に未来を見据えているレン。

「ニャン」

 なんて言ってるかは分からないがよからぬ事を言っているということがわかるシロ。

「結婚して初めての夜になるわけね……」

 などと供述しているジュリ。

 さてここで問題です。この状況で俺がとるべき行動は?

 答え、この場から逃げる!

 俺がその答えを導き出した直後、後からフェルトとレオンの二人が現れた。

「お前らここで何してんだ?」

「楽しいお話でもしてるの?」

 おい!お前ら!そんなことこいつらに聞いたら……!

「私達はこの人と子作りしようとしてるだけよ」

「「ふーんそっか。……えっ!?」」

 ジュリさんよ。あんたさらっとすごいこと言ったんだぜ。そのせいで二人とも認識遅れたんだぜ。

「やだ、私達おじゃまだったみたいね」

「お、おう、そうだな。じゃ、ごゆっくり、なのか?」

 そう言って引き返していく二人。

「おい、ちょっと待ってくれ!」

 俺は引き返していく二人を引き止めるために近くにいたフェルトの手首を掴んだ。

「きゃ!ま、まさか私まで……!初めては好きな人って決めてるのに!」

「このやろ!何フェルトに手ぇ出そうとしてんだよ!」

 え、なにこの流れ!さっきから急展開過ぎてよく分からないんだけど!

「フェルトは俺が守るって決めてんだ!その手を離さねぇならぶっ飛ばしてやる!」

「レ、レオン……あなた……」

 えっ!ちょっと待って!俺に話させて!お願い!

「離せって言ってんだよ!」

 俺は怒り狂ったレオンの鉄拳を頬に食らい、壁に飛んでった。ついでに言うと壁に激突した俺の意識も飛んでった。

 壁にぶつかる瞬間見たのは飛んでいく俺を可哀想に見つめる女神とびっくりしたような表情の皆、それと、怒り狂ったレオンに、なんか乙女の目をしたフェルトだった。

 それから俺が目を覚ましたのは十分位たった時だ。目が覚めたのは俺が気絶したところの床。なぜ救護室に連れていかなかったのか謎なのだが。

「あ、起きた」

 その女神の一言で、さっきいた皆がこちらを向く。

 情けないところを見られてしまったな。よもや一日に二回気絶するなんてな。誰が想像つくだろうか。

「あー、さっきはいきなり殴って済まなかったな。さっき話を聞いたんだが、聞く限りだとお前大変な立場で、助けを求めただけだよな。そうなんだろ?」

「レ、レオン……!お前は分かってくれるのか!そうなんだよ!俺大変な立場なんだよ!」

「お、おう」

 おっと、ちょっとレオンを引かせてしまったようだ。俺の事を分かってくれる奴がいて感無量で騒ぎ立ててしまった。

「私達もごめんなさいね。少し歯止めが効かなくなってたわ」

「少しじゃなく、かなりだったけどな」

 とりあえず騒動は収まったか……。俺、なんでこんな事になってんだろうな。

「いやー、おもしろかった!もう一回する?」

「お前は反省が足りねぇんだよ!」

 俺は反省の色が見えない女神のこめかみに拳をあてグリグリしてやった。

「あうあう!いた、いたい!は、反省してるから!や、やめ!」

「ふんっ。今はこれくらいにしといてやる」

 全く、女神は手に負えん。

「はぁ。もう宿に戻ろう。今日は疲れた」

「まあ、こんな事があったらね」

 全ての元凶はお前だよこの駄女神!と言おうと思ったが既にその気力もない。

「レオン!私達も戻ろ?」

「それはいいが、お前なんか近くね?」

「え?そう?気のせい気のせい!」

「そ、そうか?ならいいが」

 あー、レオンお前も辛い道を行くんだな。レオンに向かって合掌。

「おい、なんだその合掌は」

「特に理由は。強いて言うなら今後のお前のことを思って、頑張れと」

 本当はお気の毒様と思ってます。

「よく分かんねぇけど応援されてるならいいか」

 まあ頑張れよレオン。フェルトみたいなタイプは怒らせると怖いぞ。もしかしたら殺されるかもな!ははは!

 俺がレオンの未来を嘲笑っていたら耳元に女神が顔を寄せてきた。

「で?結局子供は作らないの?」

 俺にだけ聞こえるように小声で囁いてきた女神。声の質で分かるがこいつ笑ってるな。仕返ししてやるか。

 俺は女神の耳元で囁く。

「そういうお前こそ明言してないもんな?だけどお前、本当は子供作りたいんじゃないのか?」

「はうっ!」

 顔が一気に赤く染まる女神。ふははは、してやったりだ!

 さて、女神に仕返しもできたし、皆で宿に戻りますか!

 こうして俺達はようやく宿に戻り始めた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品