異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第85話 黒幕の正体のようです

 俺はゼロに連れられ皆の元へともどっている間も、タクマの目的が何で、あそこで何をしていたのか、それをずっと考えていた。

 それに他の3人も気になる。あいつらもタクマと同じことをしているのか?それとも人質にでも?

 ……分からん。もう一度会って確かめるしかないか……。

「マスターさっきからどうしたのー?ずっと怖い顔してるよー?」

「……なんでもない。ただちょっと考え事してただけだ。心配かけてごめんな」

 俺は心配をかけてしまったお礼と言ってはなんだが、ゼロの頭を撫でてやった。

「えへへー」

 あんまり心配かけたらいけないよな。今は忘れるとしよう。

「それで、なんでゼロが俺の所に?」

「何かジュリがね、心配だからゼロが一緒についていってあげてって言うからきたのー。なんでジュリは自分で行かなかったのかなー?」

「そっか。ジュリがそんな事を」

 うんうん唸りながらゼロは教えてくれた。

 ゼロが言ったことが本当なら、ジュリには何しに行ったかバレてるっぽいな。言い訳とか考えてた方がいいかもしれんな。

「あ、皆が見えたのー!」

 ゼロが元気な声を上げて、走り出した。俺は走っていくゼロの後ろを歩きながらついて行く。

 俺が皆の元へと着いた時に気づいたのだが、俺が一旦離れた時から進んでいなかった。先に行ってろと言ったはずなんだが……。

「ん。遅い」

 むくれた様子でミルがそう言う。

「いや、俺は先に行ってろって言っただろ?なんで先に行かなかったんだ?」

「心配したから?」

「なぜに疑問形……」

 するとジュリが呆れたように俺を指さし、こう言ってきた。

「あんなテンプレみたいなこと言って居なくなったら何かあるって思うわよ。特にあなたは色んな事に巻き込まれるんだからなおさらね」

 やけに説得力があるな。実際そうだし、何も言えないからなあ。

「で、用事ってなんだったの?」

 やはりその質問が来たか!だが既にとぼける文句は決まってる!

「そ、そんな事より早く戻って料理を作らないといけないなー!皆お腹すいてるだろうしなー!」

 俺とぼけるの下手くそすぎ!何でこんなに棒読みなんだよ!みんなの目がジト目になってるじゃん!

 俺は皆の目線から逃れるようにそそくさと宿に向けて歩みを進めた。


◇◆◇◆◇


 何事もなく宿屋に付いた俺達。それと時を同じくして、買い出しに行っていたレンとリンも宿屋に帰ってきた。

「「ただいまです」」

「おう、おかえり。俺が言った食材は売ってたか?」

「はい、きちんと」

 レンが買ってきた食材を広げて見せてきた。

 確かに買ってあるな。これなら大丈夫そうだ。

「よし、じゃあぱぱっと作ってくるから皆待ってろよー」

「「「「「「はーい」」」」」」

 俺は昨日と同じように料理を作り始める。

 ミルとゼロにはリクエストされてたな。確か炒飯と麻婆豆腐だったか。それも作っておかなければな。

 昨日よりも品数が少なく、感嘆であったこともあり、早めに作り終わった。

 今回作ったのはミルとゼロにリクエストされたやつに、フライドチキンや、フライドポテト、ハンバーガーといったジャンクフードだ。それに炭酸の効かせたジュース。

 手軽に出来てまあまあ美味しいからな。

「みんなー、出来たぞー」

 俺がテーブルに作ったものを並べながら呼ぶと、ここに集まってきた。

「おおぉ……!楽園だ……!楽園がここに……!」

 ミルは開口一番そんな事を言い始める。

「そこまでのもんじゃないぞ。時間もそんなにあるわけじゃなかったし、簡単なものだから期待しすぎるなよ」

 俺はそう忠告してから、皆を席に着かせる。

「ハンバーガーとか久しぶりに見るわね。食べるのが楽しみだわ」

「この世界にハンバーガーないのか?ありそうなもんなんだか」

「サンドウィッチならあるのだけど、流石にハンバーガーはないわ。まずハンバーグなんてものがないのよ」

「なるほどな」

「マスターもう食べていいでしょ!」

 俺とジュリが話していると、ゼロがもう待ちきれないという様子で、涎を垂らしながら輝く目で訴えてきた。

「すまんすまん。もう食べていいぞ」

「いただいまーす!」

「いただきます……!」

 ミル、お前もかよ!

「二人ともそんなにがっつくと……」

「「はむっ!はむっ!……んぐっ!」」

 案の定、二人は喉に詰まらせた。

「言わんこっちゃない……」

 喉に詰まらせた二人はどうにか流し込もうと炭酸ジュースを飲む。

 すると喉の詰まりはなくなったのだろうが、今度は目を大きくして、ふるふると震えだした。

「うん、いい反応。作ったかいがあるってもんだ」

「なんかのどがパチパチした……」

「うー!シュワシュワするのー!」

 炭酸を初めて飲むとそうなるよなー。でも慣れてくるとあのシュワシュワする感じがたまらなくなってくるんだよな。

 そして、俺が尚もじたばたしている二人を見ていて笑っていたら、隣にレンが寄ってきた。

「あの、主様、こんな時で悪いのですが少しお伝えしとかないといけないことが」

「伝えとかないといけない事?」

「はい。それは主様だけでなく、私達全員に関係がある事かと」

 いつになく真剣な眼差しを向けてくるレン。
 
 俺はただ事ではないと思い、さっきまでの緩んだ空気を変え、真面目に受け答えする。

「とりあえず俺に教えてくれ」

「はい」

 そして、レンは驚くべきことを語り始めた。

「私達が主様に言われ、買い出しをしていた時です。私とリン様が出店で買い物をしていた時に、フードを被り、人を担いだ怪しい者がいたのです」

「なっ……!」

 フードを被って人を担いた奴だと……!

 俺の驚きをよそに、レンはまだ言葉を続ける。

「私とリン様はもしや誘拐なのではと思い、少し問い掛けるとこにしました。その人をどうするのかと。そして、フードを被った人の前に出て問いかけました。いえ、正確には問いかけようとしました。私はその人の顔を見て言葉が出なかったのです。その人はあの勇者のナユタだったのです」

「ナユタ……だと……?」

「私はその場に固まってしまって、動く事が出来ませんでした。そして、気づいた時にはもう見えなくなっていました」

 まさか……まさかまさか!

「……目は……目は虚ろで深い闇に染まっていなかったか?」

「はい、確かにそうでした。ですがどうして主様がその事を?」

 タクマだけだったなら人質に取られて、思うように動けなくなってるという事が言えた。だが、ナユタまでもとなると話が変わってくる。

 あの時見たタクマの目と、レンが教えてくれたナユタの目は同じものだろう。

 という事は二人はほぼ同じ状態にあるという事だ。催眠術にかかったか、もしくはなにかに操られているかだ。

 それが出来るやつが他の二人を野放しにするはずがない。

 という事は勇者四人が何者かの目的を果たす為の道具となったという事になる。

 その目的というのがまだ分からないが、決していい事ではないだろう。

 ……誰だ?勇者達を操っているのは?考えろ。考えるんだ。

 まず魔王様は除外だ。あの人が非人道的な事をするとは思えない。ならば他だ。

 確か、勇者達は俺達と別れた後にケジメを付ける為、聖国に行くと言っていた。という事は聖国で操られた可能性が高い。だが、勇者達を相手に出来るのは早々いるはずがない。

 いや、一人いるかもしれない。可能性としての話だが、勇者との接点があり、勇者がケジメを付けると言っていた、教皇という存在。

 よく考えれば教皇は、異世界人を呼び出すだけの力量があり、人を騙すことに長けている。

 ここまで来れば、十中八九教皇で間違いないだろう。

 だが、目的が分からない。何がしたいのか分からない。これでは手の出しようがない。

「タクマやナユタが操られてて、それをしているのが教皇だってこと、本当なの?」

 ジュリが真剣な眼差しで俺に問う。他の皆も俺に真剣な眼差しを向けている。

「ど、とうしたんだよ皆して」

「あ、あるじさま。以心伝心で全部伝わってきましたよ……?」

「マスターは隠し事できないのー」

「マジか……。全部筒抜けにか……。心配かけないようにと思ったんだがな」

「そんなの今更。何回言っても分からない?」

「主様、一人でなんでも抱えこむのはよろしくないと思います」

「そういえば、勇者との戦いの時も本当のこと黙ろうとしてたわね」

「そ、それは……」

「仲間でしょ?仲間にくらい隠し事なしでいいんじゃないの?」

 皆がちょっと怒っている様な気がする。

「ちょっとどころじゃないわよ!あなたさっき一人でどうにかしようと思ってたじゃない!」

 俺の思考を読んだジュリは拳を強く握り、声を荒げる。

「勇者の時だってそうよ!私が何も言わなかったら一人で抱え込むつもりだったでしょ!あなたにとっての仲間は大事な事が共有出来ない、そんな存在なの!そんなの居なくても一緒じゃない!」

 俺は何も言えなかった。そんな事はない、仲間が必要だ、そんな事を言えば良かったのかもしれないが、どうしても言葉が出なかった。

「私は……私はそんなのは嫌。仲間は確かに大切で、守りたい。辛い事に直面したなら一緒に乗り越えたい。戦いになったなら背中を預けたい。仲間にならなんでも打ち明けれるようになりたい」

 ジュリは泣いていた。声が震え、服の裾をキュッと握って、自分の胸の内を全て出すかのように。

「あなたはどうなの?」

 女神が優しく俺を催促する。俺はしばらく考えてから口を開く。

「……俺は皆が大事だ。この世界に来て出会えたかけがえのない俺の宝物だ。だから、もう二度と失わない様に、綺麗なまま大切にしたいのかもしれない」

 ジュリや、他の皆に失望に似たものを感じた。

 それはそうだ。俺が言った事はジュリが泣いてまで訴えた事と真逆の事だ。皆が失望するのも無理はない。

 だが、さっき言ったのは俺の本心だ。丁度あの夢と重なるのだ。大切だ、大事だ、そう思うほど、失うのが恐ろしくなるから。

 でも……でも……!

「でも……」

 俺が口を開くと、皆の目に少しの輝きが戻る

 そして、皆は俺の言葉の続きを何も言わずただひたすらに待った。

「でも、そんなのが仲間と言えないのは分かってる。傷つけるのがどんなに怖くても、どんなに恐ろしくても、信頼し合って共に歩むのが本当の仲間だ」

 俺の思い。俺の理想。理想だから手は届かないかもしれない。でも、理想を掲げるならそれに近づく事こそ大切なのではないだろうか。

「ちょっと遅いかもしれない。こんな俺に呆れたなら俺の前から居なくなっても仕方がない……。だけど今からでも本当の仲間になりたいと俺は思うよ」

 自分の想いの全てをさらけ出して、出した答え。これで駄目だというのならそれはそれでいい。ただ単に俺が悪かっただけだ。

「遅くなんてないわよ」

「わたしはマスターとずっと一緒にいるよー」

「そんなの今更。ずっと言ってる事」

「いつまでも主様を信じてますから」

「わ、わたし達はあるじさまの前から居なくなったりしません」

 皆が俺に笑いかけながら、信じていると信じていくとそう言ってくれた。

 シロは頭をぽんぽんと叩いてくれて、女神は俺達の様子を慈しんで見ていた。

「ありがとう」

 俺は生きてきた中で一番感情の籠った感謝の言葉を皆にかけた。

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