異世界に転生したので楽しく過ごすようです
勇者編第6話 けじめを付けにいきました
彼等が魔王城を旅立ってから1週間が過ぎた。
これは魔王に聞いたのだが、どうやら彼等は今から1週間後に開催される帝都の武道会というものに参加するようだ。
あいつは強い。だから軽く優勝していくだろう。万が一負けるとしてもあの少女達の誰かであると俺は思っている。
そんな俺達の方は、この1週間何もしてこなかった訳では無い。
魔王に付き従い、元の自分達の世界に帰る為、勉学に励んだ。魔法陣の仕組みや効果など基礎となる部分は十分に学べた。魔王も飲み込みが早いと言っていた。
しかし、それだけではまだ足りない。召喚魔法陣や転送魔法陣の仕組みを理解するのは魔王でも難しいという。俺達が目指しているのはそこだ。
今のペースでいけば2ヶ月から3ヶ月で魔法陣に関しては魔王と同等になれるらしい。
そこで俺達はキリがいいからということで、元々付けるつもりであった、けじめというものをつける為聖都に戻ることにした。
今は俺、逢奏、那由多、海雪の4人で聖都に戻る支度をしているところだ。
するとそこに魔王が心配した様子で話しかけてきた。
「タクマ君本当に行くのかい?なにも自分達から危険を犯さなくてもいいんじゃないかい?」
「いえ、そういうわけにはいきません。俺達はヨハンに勇者として呼び出され、罪もない人殺そうとしました。その第一歩でもあるんです」
それに海雪が賛同し、さらに言葉を続ける。
「まだ私達が呼ばれた理由がはっきりしていません。魔王が聖都に攻め込むという嘘まで付いて何故勇者を呼び出したのか知っておく必要があると思うんです」
そう。今海雪が言ったようにそれを知るためでもある。呼び出した理由が人として非道なものであれば、俺達は今度こそ本物の"勇者"としてそれを止める必要がある。
「そうか。今の君達に何を言っても無駄な様だ。君達の顔には決意が見て取れるからね。でも、一つだけ言っておくよ」
魔王は真剣な眼差しを俺たちに向け、重い声をあげる。
「決してヨハンを舐めるな。彼は強い。もしかすると今の君達と同じ位にはね」
魔王と俺達との間に短く、重い沈黙の空気が流れる。
その沈黙を破ったのが那由多だった。
「魔王さんが言ったように強かったとしても勇者として負けられません!」
「あら、那由多に先を越されてしまったわ。でも、那由多の言った通りだわ。私達は意地でも負けられない。元の世界に戻る為にもね」
「そうだね、アイちゃん!一緒に頑張ろうね!」
那由多の調子外れの声が重かった空気を一転し、和やかな雰囲気に変えた。自然と笑みがこぼれる。
「今の君達なら大丈夫だね。しっかりけじめをつけてくるんだよ」
「「「「はい!」」」」
そして、準備を終えた俺達は魔王に聖都の近くに転送してもらうことになった。
「それじゃ転送するよ。いいね?」
「はい。よろしくお願いします」
「いくよ。転送!」
魔王がそういうと同時に目の前が一瞬暗くなり、光が戻った時にはもう聖都が目の前にあった。
「戻ってきたな……」
「ええ。私達の始まりの場所」
「その、後でいいんだけど皆で少しだけ聖都を見て回ろ?あの時は全然見れてないし……」
「そうですね。気分転換という意味ではいい効果が得られそうです」
「じゃあ観光する為にも早くけじめをつけにいかないとな」
それから、ヨハンの元に向かうまで誰ひとりとして喋る事はなかった。
◇◆◇◆◇
「よくご無事で戻られました!」
俺達は今ヨハンの目の前にいる。ヨハンは教皇だから見るけるのは容易かった。
「積もる話もあるでしょうし中へお入りください」
ヨハンは俺達を中へと促した。
連れてこられた場所は応接室。ここなら結界が張ってあり、声が漏れないようだ。
俺達はヨハンに言われるまま席に座る。
「では改めまして、勇者様方よくご無事で戻られました。私は勇者様方が無事で安心しています」
「御託はいい。俺達はただけじめをつけに来ただけだ」
俺がそう言い放った時ヨハンの眉が一瞬だけぴくりと動いた。ヨハンはそれを隠すように口を動かす。
「けじめ……ですか。何にけじめを付けようというのですか?」
「とぼけないでくれるかしら?魔王を討伐しに行った私達が何も知らないとでも思っているの?そうだとしたらあなたはとんだ馬鹿ね」
「私達は何故あなたが勇者を召喚しなければいけなかったのかを知って、そしてそれが非道なものであるならば止めようとしに来たのです」
「ヨハンどうなの!」
直球に問いただす。初めに全てを知っていると見せつけてから。そうすることでヨハンは逃げ場がなくなり、取るべき行動が二つになる。
一つはとぼけてやり過ごすこと。もう一つが強行手段に出てくることだ。
俺はヨハンが強行手段に出てきてもいいように注意深く観察する。するとヨハンの肩が震えているのが分かった。
俺は最初失敗したという思いやバレた恐怖で身体が震えているのかと思った。しかし、その考えは間違っていたのだと気付く。
「…………は……はは……あはははははは!」
ヨハンは笑い出したのである。それも俺達を心底馬鹿にしたような高笑いだ。
「何笑ってるの!早く教えて!」
「はははは!久しぶりに笑わせてもらったよ。お前達は酷く滑稽だ、笑いが止まらない。そんな事のために私の元に戻ってくるなんてな」
ヨハンは尚も笑い続ける。その笑いは気味悪く、嫌に耳に残るものだった。
そして、それからヨハンは続ける。
「お前達はこれから私の駒だ。この部屋に入った時点でそれはもう決定事項となった。ステータスを見る限り余程無茶したようだな。私の駒になるとも知らずにご苦労なことだ」
「ヨハン!貴様はなにを言っている!」
「そのままの意味だよ。お前達のその安い正義感のおかげで俺はこの世界に復讐ができる。勇者が世界を破壊する駒になるのだ。それを考えると笑いが止まらない」
「貴様ぁ!」
俺が剣を抜こうとしたその時だった。海雪が突然その場に倒れた。意識を完全に失ってしまっている。
「ようやく聴いてきましたか」
「海雪になにをした!」
「私が答えわけないじゃないですか。こんなに頭の弱い勇者だから私に利用されるんですよ。……それよりいいんですか?ほかの二人も同じように気を失いますよ?」
「……!逢奏!那由多!」
俺の叫びも虚しく二人はその場に倒れ込んだ。海雪と同じで完全に気を失ってしまっている。
「あーあ。あなたがもたもたしているからこんなことになるんですよ。もう少し早く私を切りつけていたらこんな事にはならなかっただろうに。こうなったのも全部あなたのせいですね」
「違う!全てお前が仕組んだ事だろ!」
「こうやって挑発に乗ってしまうから、滑稽だと言われるんですよ。さああなたが最後です。もう効いてきたんじゃないですか?」
「なにを……っ!」
不意に何かが抜けていく感じがした。次第に気分が悪くなり、吐き気を催し、頭痛に襲われ、言葉を発することが出来なくなる。最後には目の前が真っ暗になる。足がふらつき前のめりに倒れる。
俺が倒れる前に見たのはヨハンの人を見下した様な嫌な笑いだけだった。
魔王に気を付けろと言われたのに油断してしまった。俺達は負けたのだ。最初からこいつの手のひらの上で踊っていただけだった。
ああ……。あいつとのもう一度戦うっていう約束守れそうにないな……。悔しい……。
そして、俺は完全に気を失った。
◇◆◇◆◇
「これで全て上手くいく。こんな簡単に勇者を手駒に出来るとはな。さて一仕事だ」
ヨハンがそう呟き、手を前に突き出した。すると突き出した手から黒い煙のようなものが四つ現れた。
その煙は一つずつ勇者の中に入っていく。
「さあ。目覚めよ我が最強の駒よ」
ヨハンが四人の勇者に命令を下すと、勇者達は力なく立ち上がった。目は虚ろで、覇気が感じられない。
「…ふふ…あはははははは!これだ!この時をずっと待っていた!これで私の計画は完全なものとなった!勇者よ!我に従い、我に跪き、我を崇めよ!」
勇者達は命令された通りに行動する。勇者達は既に操り人形と化してしまった。
「ああ。そうだそれでいい。計画の第一段階は完璧だ。申し分ない。では、第二段階に移行するとしよう。勇者よこの道具を持って帝都に迎え。命令は追って下す」
ヨハンはポケットに入れていた小型の魔道具を勇者に渡し、帝都に向かわせた。
「ここからだ。ここから私の復讐が始まる!待っていろ。今にこの世界を破壊し尽くす」
その部屋に残ったのは、男の薄気味悪い笑いだけだった。
これは魔王に聞いたのだが、どうやら彼等は今から1週間後に開催される帝都の武道会というものに参加するようだ。
あいつは強い。だから軽く優勝していくだろう。万が一負けるとしてもあの少女達の誰かであると俺は思っている。
そんな俺達の方は、この1週間何もしてこなかった訳では無い。
魔王に付き従い、元の自分達の世界に帰る為、勉学に励んだ。魔法陣の仕組みや効果など基礎となる部分は十分に学べた。魔王も飲み込みが早いと言っていた。
しかし、それだけではまだ足りない。召喚魔法陣や転送魔法陣の仕組みを理解するのは魔王でも難しいという。俺達が目指しているのはそこだ。
今のペースでいけば2ヶ月から3ヶ月で魔法陣に関しては魔王と同等になれるらしい。
そこで俺達はキリがいいからということで、元々付けるつもりであった、けじめというものをつける為聖都に戻ることにした。
今は俺、逢奏、那由多、海雪の4人で聖都に戻る支度をしているところだ。
するとそこに魔王が心配した様子で話しかけてきた。
「タクマ君本当に行くのかい?なにも自分達から危険を犯さなくてもいいんじゃないかい?」
「いえ、そういうわけにはいきません。俺達はヨハンに勇者として呼び出され、罪もない人殺そうとしました。その第一歩でもあるんです」
それに海雪が賛同し、さらに言葉を続ける。
「まだ私達が呼ばれた理由がはっきりしていません。魔王が聖都に攻め込むという嘘まで付いて何故勇者を呼び出したのか知っておく必要があると思うんです」
そう。今海雪が言ったようにそれを知るためでもある。呼び出した理由が人として非道なものであれば、俺達は今度こそ本物の"勇者"としてそれを止める必要がある。
「そうか。今の君達に何を言っても無駄な様だ。君達の顔には決意が見て取れるからね。でも、一つだけ言っておくよ」
魔王は真剣な眼差しを俺たちに向け、重い声をあげる。
「決してヨハンを舐めるな。彼は強い。もしかすると今の君達と同じ位にはね」
魔王と俺達との間に短く、重い沈黙の空気が流れる。
その沈黙を破ったのが那由多だった。
「魔王さんが言ったように強かったとしても勇者として負けられません!」
「あら、那由多に先を越されてしまったわ。でも、那由多の言った通りだわ。私達は意地でも負けられない。元の世界に戻る為にもね」
「そうだね、アイちゃん!一緒に頑張ろうね!」
那由多の調子外れの声が重かった空気を一転し、和やかな雰囲気に変えた。自然と笑みがこぼれる。
「今の君達なら大丈夫だね。しっかりけじめをつけてくるんだよ」
「「「「はい!」」」」
そして、準備を終えた俺達は魔王に聖都の近くに転送してもらうことになった。
「それじゃ転送するよ。いいね?」
「はい。よろしくお願いします」
「いくよ。転送!」
魔王がそういうと同時に目の前が一瞬暗くなり、光が戻った時にはもう聖都が目の前にあった。
「戻ってきたな……」
「ええ。私達の始まりの場所」
「その、後でいいんだけど皆で少しだけ聖都を見て回ろ?あの時は全然見れてないし……」
「そうですね。気分転換という意味ではいい効果が得られそうです」
「じゃあ観光する為にも早くけじめをつけにいかないとな」
それから、ヨハンの元に向かうまで誰ひとりとして喋る事はなかった。
◇◆◇◆◇
「よくご無事で戻られました!」
俺達は今ヨハンの目の前にいる。ヨハンは教皇だから見るけるのは容易かった。
「積もる話もあるでしょうし中へお入りください」
ヨハンは俺達を中へと促した。
連れてこられた場所は応接室。ここなら結界が張ってあり、声が漏れないようだ。
俺達はヨハンに言われるまま席に座る。
「では改めまして、勇者様方よくご無事で戻られました。私は勇者様方が無事で安心しています」
「御託はいい。俺達はただけじめをつけに来ただけだ」
俺がそう言い放った時ヨハンの眉が一瞬だけぴくりと動いた。ヨハンはそれを隠すように口を動かす。
「けじめ……ですか。何にけじめを付けようというのですか?」
「とぼけないでくれるかしら?魔王を討伐しに行った私達が何も知らないとでも思っているの?そうだとしたらあなたはとんだ馬鹿ね」
「私達は何故あなたが勇者を召喚しなければいけなかったのかを知って、そしてそれが非道なものであるならば止めようとしに来たのです」
「ヨハンどうなの!」
直球に問いただす。初めに全てを知っていると見せつけてから。そうすることでヨハンは逃げ場がなくなり、取るべき行動が二つになる。
一つはとぼけてやり過ごすこと。もう一つが強行手段に出てくることだ。
俺はヨハンが強行手段に出てきてもいいように注意深く観察する。するとヨハンの肩が震えているのが分かった。
俺は最初失敗したという思いやバレた恐怖で身体が震えているのかと思った。しかし、その考えは間違っていたのだと気付く。
「…………は……はは……あはははははは!」
ヨハンは笑い出したのである。それも俺達を心底馬鹿にしたような高笑いだ。
「何笑ってるの!早く教えて!」
「はははは!久しぶりに笑わせてもらったよ。お前達は酷く滑稽だ、笑いが止まらない。そんな事のために私の元に戻ってくるなんてな」
ヨハンは尚も笑い続ける。その笑いは気味悪く、嫌に耳に残るものだった。
そして、それからヨハンは続ける。
「お前達はこれから私の駒だ。この部屋に入った時点でそれはもう決定事項となった。ステータスを見る限り余程無茶したようだな。私の駒になるとも知らずにご苦労なことだ」
「ヨハン!貴様はなにを言っている!」
「そのままの意味だよ。お前達のその安い正義感のおかげで俺はこの世界に復讐ができる。勇者が世界を破壊する駒になるのだ。それを考えると笑いが止まらない」
「貴様ぁ!」
俺が剣を抜こうとしたその時だった。海雪が突然その場に倒れた。意識を完全に失ってしまっている。
「ようやく聴いてきましたか」
「海雪になにをした!」
「私が答えわけないじゃないですか。こんなに頭の弱い勇者だから私に利用されるんですよ。……それよりいいんですか?ほかの二人も同じように気を失いますよ?」
「……!逢奏!那由多!」
俺の叫びも虚しく二人はその場に倒れ込んだ。海雪と同じで完全に気を失ってしまっている。
「あーあ。あなたがもたもたしているからこんなことになるんですよ。もう少し早く私を切りつけていたらこんな事にはならなかっただろうに。こうなったのも全部あなたのせいですね」
「違う!全てお前が仕組んだ事だろ!」
「こうやって挑発に乗ってしまうから、滑稽だと言われるんですよ。さああなたが最後です。もう効いてきたんじゃないですか?」
「なにを……っ!」
不意に何かが抜けていく感じがした。次第に気分が悪くなり、吐き気を催し、頭痛に襲われ、言葉を発することが出来なくなる。最後には目の前が真っ暗になる。足がふらつき前のめりに倒れる。
俺が倒れる前に見たのはヨハンの人を見下した様な嫌な笑いだけだった。
魔王に気を付けろと言われたのに油断してしまった。俺達は負けたのだ。最初からこいつの手のひらの上で踊っていただけだった。
ああ……。あいつとのもう一度戦うっていう約束守れそうにないな……。悔しい……。
そして、俺は完全に気を失った。
◇◆◇◆◇
「これで全て上手くいく。こんな簡単に勇者を手駒に出来るとはな。さて一仕事だ」
ヨハンがそう呟き、手を前に突き出した。すると突き出した手から黒い煙のようなものが四つ現れた。
その煙は一つずつ勇者の中に入っていく。
「さあ。目覚めよ我が最強の駒よ」
ヨハンが四人の勇者に命令を下すと、勇者達は力なく立ち上がった。目は虚ろで、覇気が感じられない。
「…ふふ…あはははははは!これだ!この時をずっと待っていた!これで私の計画は完全なものとなった!勇者よ!我に従い、我に跪き、我を崇めよ!」
勇者達は命令された通りに行動する。勇者達は既に操り人形と化してしまった。
「ああ。そうだそれでいい。計画の第一段階は完璧だ。申し分ない。では、第二段階に移行するとしよう。勇者よこの道具を持って帝都に迎え。命令は追って下す」
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