異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第54話 少女VS少女のようです

 今回の話は、ジュリ視点です。


 時間は勇者達を分断し、2手に分かれたところまで遡る……。


◇◆◇◆◇


 私達は彼を見送り、3人の勇者の方へ向かった。

 向かった先で、勇者達3人はタクマと分断された事に気付き、行動を起こそうとしているところだった。

 私達はそれを止めるべく、足を早めた。

「彼の邪魔をさせるわけにはいかないわ。だからここで大人しくしていてくれるかしら?」

 勇者達は私の言った言葉に反応してその行動を止める。

「……私達が魔王の手先の言う事なんて聞くと思ってるの?」

「きくー!」

「ちょっとゼロは静かにしてくれないかしら?」

「んー?わかったー!」

 せっかく私が雰囲気出してたのに……。はぁ。全くゼロって子は……。

 そのゼロにはレンが側について、監視を始めた。

 さすがレンね。行動が速い。

「んんっ…。……確かに勇者の貴女達が私達の言う事を聞くなんて有り得ないわね」

「それがわかっているならなぜ私達にあんな事を言うのですか?」

 勇者の中で1番地味そうな勇者が聞いてきた。

 この勇者の名前は何だったかしら……。あ、ミユキって名前だったわね。

 しかし、さっきの質問は少し考えれば分かることなはず。

 それに魔王の手先の言う事は聞かないと言っておきながら、私達に質問を投げかけてくるのはおかしい話。

 今の勇者達は言動が矛盾している……。

 この分かった2つは重要な事のはず。

「貴女達、勇者の癖にそんな事も分からないの?少し考えれば分かることなのに。残念ね」

 私は挑発をして、勇者達の様子を見る事にした。

『ジュリ様。少しやりすぎではないですか?』

『いえ。どのみち勇者とは戦う事になるわ。やりすぎという事はないはずよ。それに、多分この挑発で現在の勇者達がどんな状態なのか分かるわ』

『なるほど。確かにそうかもしれませんね』

 私とレンが念話をしている間に勇者達の方に変化があった。

 私の挑発に激怒したのが1人。確かアイカという名前だったはず。アイカは直情的で、見る限り不安定なのかしらね。さっきまでとはまるで別人の様になっている。

 そして、その怒りを鎮め冷静にさせようとしているのがナユタ。ナユタはアイカの安定剤と言ったところかしらね。

 そしてミユキは、私の言ったことを素直に受け止めて、考えを巡らせている。彼女は常に冷静に物事を捉えることが出来るのね。

「……貴女がしている事。いいえ、したい事は時間稼ぎという事ですか。確かに考えればすぐに分かることでした」

 すると訳の分からないという顔でナユタがミユキに尋ねる。

「それってどういう事なの?」

「そうですね……。時間稼ぎと言うのは、氷の壁の向こう側での戦いを邪魔させない、もしくはその時間を作ることでこれからの戦いを有利に進めるということです」

「それならその時間を作らせたらいけないじゃない!」

 その時、氷の壁の向こう側から彼の叫び声が、ここにいる全員に聞こえた。

 その叫び声は何か痛みを堪えるかのようなもので、聞いていて辛いものだった。

「マスターが…!」

「あるじさま!」

 叫び声を聞いたゼロとリンが彼の元に向かおうとする。

 だが、それはやってはならない。

「ゼロ、リン。行っては駄目よ」

「で、でも……」

「何で駄目なのー!」

「彼が言ったでしょ、こっちは任せろって。だから駄目。第一私達が向こうに行ったら分断した意味がないわ。……それとも彼が負けるとでも思ってるの?」

「マスターは負けないのー!」

「あるじさまは強いもん!」

 それでいいのよ2人とも。

「タクマは1人で戦ってるのね……。時間を作らせる訳にもいかないし私達も始めましょうか」

「うん。タクマくん1人で頑張ってるんだもんね」

「そうですね」

 彼の叫びを聞いた勇者達は戦闘態勢に入ったようだった。

『皆!勇者達が戦闘態勢に入ったわ!気を抜いちゃだめよ!』

『『『『はい!』』』』

 私は思考解析を使って、勇者達の思考を読み取ることにする。思考を読み取ることで、どこにどうやって攻撃を仕掛けてくるのかが手に取るように分かる。

 私は思考を読んですぐに、体を右に捻った。その瞬間、私の心臓があった場所には槍があった。アイカがそこを突いたのだ。

 アイカの攻撃は体を捻るだけでは完全に避けることは出来ず、腕に掠り傷を負ってしまった。そして、そこから一筋の血が流れる。

「私の攻撃に反応するなんて驚きね」

「掠り傷を負ってしまったけどね……」

 私はこのちょっとした命のやり取りだけで実力の差を感じた。

 アイカは転移をしたのかと言うほどの速さで動き、正確に私の心臓を狙ってきた。

 対して私は先に思考を読んで躱したにも関わらず反撃も出来ず、ましてや掠り傷を負ってしまっている。

 これはきついわね……。私は思考を読んで動くことが出来るからまだしも、皆は違う。彼みたいに共有と以心伝心のスキルを持っていたら良いんだけど……。

 私がこれからどうやって対処していこうか考えを巡らせていると、アイカがおもむろに後退した。

 理由は簡単だった。私達の視界を埋め尽くすように展開された数多の火の球が現れたからだ。

 それが全てこちらへ向かってくる。

 くっ……。この数の攻撃は私の守護魔法でも皆を護れるか分からないわ……!

「ここはあたしにまかせて」

 ミルが私達の前に出てきて、そんな事を言った。

 そして、ミルが手を前にかざすと火の球に匹敵するほどの数の水の球が現れた。

 水の球は火の球の方へ向かい、なに1つ外すこと無く正確に迎撃していく。

 無限に感じる火の球を正確に迎撃していくのは相当精神が削れるはずだ。

 だが、ミルはそれをやりきった。

 ミルのおかげで向こうに少しの隙ができた。

 次はこっちから攻撃を仕掛ける!

『ゼロ、レン、リンは転移を駆使して相手の死角から攻撃!常に転移を続けないと狙われるから最低でも1秒経ったらどこかに転移すること!』

『『『はい!』』』

『ミルは魔法を使ってる間無防備になるから私がに付いてるわ』

『ん』

「ニャ!」

『シロは隠れて好機を伺ってちょうだい。自分の判断で出ていいわ』

「ニャー!」

 そして、私達は攻撃を開始した。

 ゼロとレンとリンは一人づつ相手にし、勇者達を翻弄している。

 3人は彼との模擬戦で培った力を十分に発揮し、殺気を抑え、死角からの攻撃を始めた。

 下から、上から、後ろから、様々な方向からの攻撃を加える。

 シロは絶妙なタイミングで現れ、勇者達の体制を崩していく。

 しかし、圧倒的なレベル差によって勇者達にどんな攻撃をしても決定打に欠ける。

 私はその決定打になるものを考えた。

 今の3人は素手での攻撃。魔物化すればそんな事はないのだろうけど、今の様に戦う事ができなくなる。

 なら、その代わりになる武器が必要。

 でもその武器は今の手持ちにない。

 そこで私は召喚魔法で武器を召喚することにした。だけど、今まで召喚していたのは騎士などの動くもの。武器が出てくる保証はないけど召喚するしかない。

「サモン!コール、ウェポン!」

 そして、出てきたのは3種類の拳に着けるタイプの武器だ。

 成功したわ!これを早く届けないと!

 私はこの武器に支援魔法をかけ、ゼロ達に武器を渡した。

「あたしも攻撃をする」

 ミルはそう言って魔法で攻撃を始めた。

 闇魔法で視界を悪くしたり、結界魔法で行動を制限させたりと上手い魔法の使い方をする。

 そのお陰か、さっきまでよりも勇者達の動きが鈍くなる。

「あーも!うざったいのよ!」

 アイカがめんどくさそうに言い、槍を薙いだ。アイカを攻撃していたレンが槍によって飛ばされる。そして、飛ばされた先にナユタと戦っていたゼロが運悪く巻き込まれてしまった。

「レンちゃん!ゼロちゃん!」

 リンが飛ばされた2人に気を取られ攻撃の手を緩めてしまった。

 このままだと3人ともやられてしまう……!

『今すぐ戻ってきて!』

 私がそう言うと、3人ともすぐさま転移してこっちに戻ってきた。

「これでスッキリしたわ」

「ありがとうアイちゃん」

「たまたまよ。それよりもこれのお返しをしないとね?」

「アイカさん。やり過ぎてここでばてないでくださいよ?この後に魔王を倒さないといけないんですから」

「分かってるわよ」

 勇者達の方は全然本気じゃなかったみたいね……。これから一体どうすれば……。

「2対1で戦う方がいい」

 ミルが唐突にそんなことを言った。

「何故2対1なのかしら?」

「1人1人に専念した方がいい。じゃないと勝てない」

「ミル様。後1人はどうするのですか?」

「あたしがシロと組む。でもあの魔法使いはあたしにやらせて欲しい」

「……分かったわ。なら私はゼロと組んでアイカをやるわ。いいわよねゼロ?」

「うん」

「それじゃ私とリン様があの支援系の方を相手するんですね」

「わたし頑張る」

 そして、私達は3つに分かれた。それぞれが相手する勇者の前に立つ。

 ここからが本気の戦いになる。

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