結末のわからない恋の物語
“まだ”…ないよ
手作りといえば
『kururi』では小さなポップカードを手作りしています。
まぁ、雑貨屋に限らずいろんなお店で見たことがあると思います。
1つ1つの商品に、名刺サイズぐらいのメッセージカードや、漫画の吹き出しのようにその商品についての情報やトリビア、『秋の新作』とか『店長オススメ』なんてコメントを書いて添えてあるアレです。
基本的に女性スタッフに任せているのですが、たまに私も手伝います。
季節の新作なんかがでて、大幅に商品の入れ替えをするときなんかは、そういうポップ類も一斉に作り変えるので、そういう時に手伝います。
そして、意外と上手いのが山口くん。
なんでも、小学生の頃の夢は漫画家になりたかったそうで、画力や構成のセンス、文字の使い分けなど、なんで雑貨屋で働いているの?と思うほどの才能を見せてくれます。
なので、私が女性陣に頼んだそういう仕事も、いつのまにか山口くんがやっていることがあります。
「あ、マリちゃんに頼まれましたー」
と、当たり前のように言って、楽しそうに作業をしています。
ま、本人が好きでやってるなら全然いいんですけどね。
「おや?山口くん何やってるの?」
「あ、店長おはようございます!!マリちゃんに頼まれて、ブラックボードのレイアウト考えてるんです」
なんとまぁ
この日も、レジ横のラッピングしたりする机で山口くんが、コピー用紙と色鉛筆を並べてスマホ見ながらなにやらやっていると思ったら
チラッと見えたスマホの画面には、どっかのお店のブラックボードが写っています。
ブラックボードのラフ案を描いているようでした。
参考になりそうな画像を検索していたのかな。
ブラックボードには、時期ごとの目玉やオススメ商品なんかの案内を書いています。
『kururi』の手書き物はほとんど山口くんが担当しているようなものですね。
雑貨屋のメインとなるターゲットは女性です。
学生から主婦、独身の大人女子まで年齢層は幅がありますが、基本女性がターゲットとなります。
なので、女性目線のポップなどをイメージしたいのですが…
「山口さんできましたー?」
「うん、だいたい。こんな感じでどうかな?」
「わぁ!!すごーい!!さすが山口さん!!」
山口くんに押し付けたマリちゃんがでてきて、色鉛筆で描かれたブラックボードのラフ案を見てオーバーリアクションとも思える反応をしました。
頼んだ手前、おだてなければいけないので、過剰に反応しているのでしょうが、なんだかんだで他の女性スタッフからも評価は高いので、彼は女心を掴むセンスはあるようです。
まぁしかし、そのセンスも恋愛が絡むと霞むようで…
「山口くん、そういえば彼女ができたんだって?」
「ああ…まぁ、彼女っていうかぁ…」
最近、噂で聞いた山口くんの彼女について何気なく聞いてみると、なんだか歯切れの悪い返事。
詳しく聞いてみると、友人のセッティングしてくれた合コンで知り合った女の子と2、3回食事に行くような仲にはなったのだけど、その先になかなか進めないでいるとのことです。
そして、先週末に一緒に某テーマパークに行く約束をしていた(内容的にはどう考えてもデートなんだけど、山口くん的にはデートではないらしい)のを、前日の夜に風邪気味だからとキャンセルされたそう。
ふむ
自分の経験に照らし合わせて考えてみる。
私も、そんなに恋愛経験が豊富ではありません。むしろモテない部類に入るのですが、だからこそ解ることがあります。
ああ、この子無理だな
と、感じるポイントですね。
悲しいかな、女性のそういう雰囲気って、すぐに察してしまうのですよ。
だから逆に、里香ちゃんの好き好きオーラ出しまくりを『どーせからかわれているんだろう』と疑ってしまったりするんですよね。
まぁ、最近そんな体験をした私には、山口くんもまた、その女の子の好意に気づかなかったのではと思いました。
彼女はおそらく、最初は山口くんに異性としての好意はあったと思います。
しかし、肝心なところであと一歩の出ない小心者の山口くんの対応が、自分には興味がないと受け止めたのか、離れて行ってしまったようです。
アラサー山口くんの同年代の子らしいので、結婚を意識していたのかもしれません。
だとすれば、いつまでたっても煮え切らない山口くんからのアプローチを待つのは時間の無駄と、切り捨てられたのではないかなーというのが、正直な私の感想でした。
それらを山口くんが傷付かないようにやんわり伝えると
「マリちゃんにも同じこと言われました」
と、やたら項垂れて言う山口くん。
はははっと笑ってごまかしていますが。その乾ききった笑顔が悲しすぎました。
ああ、女性陣の方が言い方キッツかったんだろうなぁ。
なんとなく気まずかったので話題をそらそうと、ブラックボードのラフ画に目をやると
「店長は、最近『melt』の人とどうなんですか?」
「はぁっ!?」
ちょ……!!まて!!
「それって、り…藤井さんのこと?」
里香ちゃんと言いかけて、慌てて藤井さんと言い直します。
前にマリちゃんからキモいと言われたのを思い出しました。
確かに、他のテナントのスタッフさんを、表向きはたいして交流のない“はず”の女性スタッフさんを“ちゃん付け”で呼ぶのはおかしいですよね。
「ないよ、何にも。お互い既婚者だもん、あるわけないじゃん」
ないよ…と言って昨夜のLINEを思い出しましていました。
そしてこっそり、心の中で
(“まだ”…ないよ)
と、付け足していました。
もうこれは、今後確実に何か起こり得ると確信していたようなものですね。
そしてその『何か』は、すぐに訪れるのでした。
『kururi』では小さなポップカードを手作りしています。
まぁ、雑貨屋に限らずいろんなお店で見たことがあると思います。
1つ1つの商品に、名刺サイズぐらいのメッセージカードや、漫画の吹き出しのようにその商品についての情報やトリビア、『秋の新作』とか『店長オススメ』なんてコメントを書いて添えてあるアレです。
基本的に女性スタッフに任せているのですが、たまに私も手伝います。
季節の新作なんかがでて、大幅に商品の入れ替えをするときなんかは、そういうポップ類も一斉に作り変えるので、そういう時に手伝います。
そして、意外と上手いのが山口くん。
なんでも、小学生の頃の夢は漫画家になりたかったそうで、画力や構成のセンス、文字の使い分けなど、なんで雑貨屋で働いているの?と思うほどの才能を見せてくれます。
なので、私が女性陣に頼んだそういう仕事も、いつのまにか山口くんがやっていることがあります。
「あ、マリちゃんに頼まれましたー」
と、当たり前のように言って、楽しそうに作業をしています。
ま、本人が好きでやってるなら全然いいんですけどね。
「おや?山口くん何やってるの?」
「あ、店長おはようございます!!マリちゃんに頼まれて、ブラックボードのレイアウト考えてるんです」
なんとまぁ
この日も、レジ横のラッピングしたりする机で山口くんが、コピー用紙と色鉛筆を並べてスマホ見ながらなにやらやっていると思ったら
チラッと見えたスマホの画面には、どっかのお店のブラックボードが写っています。
ブラックボードのラフ案を描いているようでした。
参考になりそうな画像を検索していたのかな。
ブラックボードには、時期ごとの目玉やオススメ商品なんかの案内を書いています。
『kururi』の手書き物はほとんど山口くんが担当しているようなものですね。
雑貨屋のメインとなるターゲットは女性です。
学生から主婦、独身の大人女子まで年齢層は幅がありますが、基本女性がターゲットとなります。
なので、女性目線のポップなどをイメージしたいのですが…
「山口さんできましたー?」
「うん、だいたい。こんな感じでどうかな?」
「わぁ!!すごーい!!さすが山口さん!!」
山口くんに押し付けたマリちゃんがでてきて、色鉛筆で描かれたブラックボードのラフ案を見てオーバーリアクションとも思える反応をしました。
頼んだ手前、おだてなければいけないので、過剰に反応しているのでしょうが、なんだかんだで他の女性スタッフからも評価は高いので、彼は女心を掴むセンスはあるようです。
まぁしかし、そのセンスも恋愛が絡むと霞むようで…
「山口くん、そういえば彼女ができたんだって?」
「ああ…まぁ、彼女っていうかぁ…」
最近、噂で聞いた山口くんの彼女について何気なく聞いてみると、なんだか歯切れの悪い返事。
詳しく聞いてみると、友人のセッティングしてくれた合コンで知り合った女の子と2、3回食事に行くような仲にはなったのだけど、その先になかなか進めないでいるとのことです。
そして、先週末に一緒に某テーマパークに行く約束をしていた(内容的にはどう考えてもデートなんだけど、山口くん的にはデートではないらしい)のを、前日の夜に風邪気味だからとキャンセルされたそう。
ふむ
自分の経験に照らし合わせて考えてみる。
私も、そんなに恋愛経験が豊富ではありません。むしろモテない部類に入るのですが、だからこそ解ることがあります。
ああ、この子無理だな
と、感じるポイントですね。
悲しいかな、女性のそういう雰囲気って、すぐに察してしまうのですよ。
だから逆に、里香ちゃんの好き好きオーラ出しまくりを『どーせからかわれているんだろう』と疑ってしまったりするんですよね。
まぁ、最近そんな体験をした私には、山口くんもまた、その女の子の好意に気づかなかったのではと思いました。
彼女はおそらく、最初は山口くんに異性としての好意はあったと思います。
しかし、肝心なところであと一歩の出ない小心者の山口くんの対応が、自分には興味がないと受け止めたのか、離れて行ってしまったようです。
アラサー山口くんの同年代の子らしいので、結婚を意識していたのかもしれません。
だとすれば、いつまでたっても煮え切らない山口くんからのアプローチを待つのは時間の無駄と、切り捨てられたのではないかなーというのが、正直な私の感想でした。
それらを山口くんが傷付かないようにやんわり伝えると
「マリちゃんにも同じこと言われました」
と、やたら項垂れて言う山口くん。
はははっと笑ってごまかしていますが。その乾ききった笑顔が悲しすぎました。
ああ、女性陣の方が言い方キッツかったんだろうなぁ。
なんとなく気まずかったので話題をそらそうと、ブラックボードのラフ画に目をやると
「店長は、最近『melt』の人とどうなんですか?」
「はぁっ!?」
ちょ……!!まて!!
「それって、り…藤井さんのこと?」
里香ちゃんと言いかけて、慌てて藤井さんと言い直します。
前にマリちゃんからキモいと言われたのを思い出しました。
確かに、他のテナントのスタッフさんを、表向きはたいして交流のない“はず”の女性スタッフさんを“ちゃん付け”で呼ぶのはおかしいですよね。
「ないよ、何にも。お互い既婚者だもん、あるわけないじゃん」
ないよ…と言って昨夜のLINEを思い出しましていました。
そしてこっそり、心の中で
(“まだ”…ないよ)
と、付け足していました。
もうこれは、今後確実に何か起こり得ると確信していたようなものですね。
そしてその『何か』は、すぐに訪れるのでした。
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