転生王子は何をする?

血迷ったトモ

閑話 マルティナの気持ち 2

マルティナは、トリスの声に助けが来たと一瞬思ったが、その姿を視界に収めて驚いてしまう。何とどう見ても子供のシルエットなのだ。
男達は声をかけられたことに驚いていたようだが、姿を見るとマルティナとは逆に安心したのか、調子に乗ってマルティナとは合意だとか何とか言っている。
今この場では、彼らの気分一つであの子供の命は左右される。そんな考えが頭に浮かんだマルティナは、恐怖心を抑えて男達の言い分を認めながら子供に声をかける。

「は、はい。…わ、私は大丈夫だから君はどこかに行ってね?もうこんな路地裏に来ちゃいけないよ?」

恐怖心を抑えきれずに、震えながらであったが、子供は納得したようで頷きながら言う。

「…そう?分かった!じゃあね、お姉さん!」

その言葉に悲しみ覚えるが、自分がこのような状況に至ったのは、自身の愚かな行動だ。だから幼い子供を巻き込むわけにはいかない。そう考えてマルティナは『うん』と言いながら頷こうとするが、今にも泣き声をあげてしまいそうなため、声にならずにただ頷くことしか出来なかった。
が、次の瞬間そんなものはどうでも良くなる。

「とでも言うと思ったかクズ共め。」

「え?」

こんな状況にもかかわらず、なんとも間抜けな声を出してしまった口元を抑えながら、マルティナは幼い子供を見る。
ローブに隠れて顔は見えないが・・・・・・・・・・・・・・、少し見える口元から察するに笑っているようだった。
マルティナが唖然とする中、幼い子供とは到底思えないような事を次々と口にして、男達を罵倒していく。
男達は、その子供の言葉にキレたようで、口汚く罵りながら、子供に暴力を振るおうと近付いていく。マルティナは『止めて!』と叫ぼうとしたが、唐突の状況の変化に着いていけなかったのか、上手く声が出せないでいた。
そうこうしているうちに、男の1人が子供を蹴りあげようと足を引くのが目に入り、マルティナは思わず目を瞑ってしまう。だが、次の瞬間マルティナの耳に入った音は、男の呻き声だった。

「ぇ…。」

マルティナが驚いて目を開くと、蹴られた筈の子供が逆に男を足蹴にしているのだった。そしてマルティナがオロオロしているうちに、子供とは思えない実力であっという間に男達を残り1人まで減らしてしまう。
だが完璧とはいかなかったようで、1人残った男がマルティナの腕を掴んで言う。

「おい!その綺麗な顔に傷を付けられたくなかったら、大人しくしてろ!」

「…。」

マルティナは近くに感じる悪意に、恐怖のあまり目を見開いて固まってしまう。声すらでないようだ。

「ちっ!これじゃあ足でまといだ!いっその事意識を失わせれば!」

動く様子のないマルティナを見て、男は懐から薬品の入った瓶を取り出して蓋を開け、マルティナの口元へと近付けて、発生している気体を吸い込ませる。

「ぁ…。」

全身から力が抜け、動く気力すら無くなったマルティナは、男のなすがままに人質にとられてしまう。
ぼんやりとする意識の中、マルティナは思う。『あぁ、あの子なら人質を無碍には出来ないだろう。最後まであの子に迷惑をかけてしまったな』と。意識もそうだが、視界もぼんやりと霞んでくる。しかしその霞む視界の中、ため息をついた子供が、魔法を行使する光景を最後に、マルティナの意識は完全に闇へと落ちるのだった。


「…ん。こ、ここは…。」

マルティナはフワフワとした暖かい何かを感じながら、その身を起こして辺りを見回す。見るとマルティナの下には布が敷かれ、ご丁寧に毛布までかけてあった。『え?誰が?』と考える暇もなく、ぼんやりとするマルティナに声がかかる。

「お、漸く目が覚めましたか。」

「きゃあ!!」

驚いて思わず悲鳴をあげてしまう。寝起きに、子供とはいえ男性の声が聞こえたのは初めてであったため、過剰に反応してしまったようだ。
慌てて視線を声の方に向けると、そこには先程のローブで顔を隠した子供が壁に寄りかかって座っていた。やはり顔は見えないが、下から覗く珍しい黒髪に更に驚きながも、マルティナは謎の子供と会話を続ける。

その子供はどこか大人びていて、話しているうちについ敬語になってしまうほどで、彼から5歳だと言われるまで大人と同じように対応してしまっていた。アイテムボックスを持っているのか何も無いところからテーブルや椅子を取り出し、紅茶まで振舞ってもらい、気分の落ち着いたマルティナは、自分の状況を振り返って思わず叫びそうになる。
『これは私の憧れている、物語の出会いと同じだ!』と。
ヒロインがピンチの時、颯爽と現れ救ってくれる王子様。子供ではあるが、ローブから覗く口元は凛々しく、マルティナの目には憧れの王子様としか映らなかった。

「な、名前を伺ってもいいですか?」

マルティナは勇気を振り絞って問う。顔が赤くなるのが自覚できるが、そんな事よりも彼の名前を聞く方がよっぽど大切だ。
子供はマルティナの言葉に戸惑い、迷ったようだが、どこか諦めたように口を開く。

「…と、トリスっていいます。家名はないです。」

こうしてマルティナは、憧れの人の名前を聞き出すことに成功したのだ。

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