転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第94話 頭を抱えるしかないです

トリスは、衝撃のマルティナの称号を見て呆然としたが、慌てて謎スキルと謎称号の解析に移る。


天使の囁き:スキル保持者の、今現在最も知りたい事を、虫の知らせ的な感覚で知らせる。『知りたい』という強い感情を持つ事で、精度が上がる。知りたい事に関して抱く深い愛情、激しい憎悪等が例に挙げられる。
また、保持者にとって都合の良い出来事を強制的に引き起こす事もあるため、LUK値は表記されなくなる。

夢見るお嬢様:白馬の王子様(この場合は、トリス君だね!)が、迎えに来てくれるなどという事を、本気で信じているお嬢様に送られる称号。

天使:その愛らしさ、性格の良さから、不特定多数の者から愛情を寄せられる者に送られる称号。(基本皆に優しいから、この称号を持っている子は、嫉妬に狂った勘違い系男子に刺されることも多々あるよ!トリス君が頑張って守ってあげてね!本当にいい子だよ!)

トリスタン・ラ・トゥールにぞっこん:最早文章でごめんね!こんな特定の人物に対する称号なんて、初めての事でシステムが上手く適用されなかったみたいだね。一応この子は僕が直接監視している者の1人だから、称号が表れたその瞬間に、トリス君にしか見えないようにしたから、君の正体はバレてないから安心してね!By創造神


「…。」

トリスはその場で頭を抱えて蹲ってしまう。
それもそうだろう。『夢見るお嬢様+トリスタン・ラ・トゥールにぞっこん+天使の囁き=いとも容易くトリスを追い詰める』という計算式がたてられるのだから。
しかももっと質が悪いのが、彼女自身に全く悪気が無く、寧ろ好意しかないという事だ。悪人であれば、スキルの消去や記憶の消去など手はあったのだが、10年前の些細な出来事で、ここまで追い詰められるとは思っていなかったトリス。

「こ、これは、真面目に正面から話し合いに持ってくか、無理矢理にでも嫌われるしか方法は無いか…。嫌われる方が手っ取り早いか?しかし俺には女心は一切分からないしな〜。俺の思いつく限りの事やっても、何か受け入れられそうで、何か怖いし。」

今はどうしようも無いので、一旦全てのステータスを平民トリスの状態まで戻し、教室に戻りながら考える。
前世では、他人(特に女子)に興味を持って知ろうとせず、同性の仲のいい数人の友人が居れば良いという、狭い世界しか持たなかった事が仇となってしまったようだ。

「ったく!あの人なら、もっと条件の良い男が、諸手を挙げて恋人にでも何でもなるだろうに!何で俺なんか!」

珍しくイラついた感情を表に出すトリス。いや、どちらかと言うと困惑の方が強いだろう。好意を向けられるのは嬉しいが、今のトリスにとっては非常に邪魔なものだ。
『ホルスが好かれてさえいればそれで良い』というのが、トリスのモットーであるため、年上お姉さんキャラとして、マルティナにはホルスを愛してもらいたいというのがトリスの本音だ。
だがそうこう考えている内に、教室が見えてきてしまったので、トリスは仕方なく一旦思考を中止する。

「チッ!…はぁ。よし、入るか。」

トリスはまるで仮面を被るかのように感情を切り替えると、そのまま教室に入っていく。

「あ、トリス。遅かったじゃん。」

教室に入ると同時に、今度は取り囲まれていなかったホルスから声がかかる。

「ん〜?そうか?トイレ行った序に、外の空気を吸ってたからじゃないか?」

最初ら最後まで全部真っ赤な嘘なのに、全く顔色を変えずに言い放つトリス。

「ふ〜ん。僕が行った時には、既に居なかったから、てっきり何か別の用事があるのかと思ったよ。マルティナ先生に会いに行ったとか。」

鋭い指摘をしてくるホルスに、表情が動きそうになるが必死に耐えるトリス。

「まさか。例えマルティナ先生に用事があったとしても、何も態々今行かなくても。」

「まぁ、それもそうだね。それよりもトリス。」

「ん?何?」

どうにか乗り切ったと思ったトリスは、続くホルスの質問に対して緩んだ気分で臨む。

「トリスは、マルティナ先生の事どう思ってるの?」

「へ?ど、どうって?あ〜、良さげな先生だとは思うけど?」

そのため、動揺を隠す事が出来ないのだった。ホルスの真意には気付いたものの、トリスは敢えてすっとぼけた答えを返す。

「惚けないでよ。僕が言いたいのは、1人の女性として、どう思っているかだよ?周囲の状況を知る事に長けているトリスが、マルティナ先生の気持ちに気付かない訳ないよね?」

「ん〜、そうだなぁ。正直困惑してるかな。会ったのは試験受けに行った時・・・・・・・・・が初めてだし、何で俺?みたいな感じだな。」

トリスは、ホルスが上級光属性魔法の、看破ディテクションを使っている事を感じ、言葉に気を付けて返答する。看破ディテクションとは、嘘か本当か分かる魔法なのだが、抜け道があり、トリスの言う『試験を受けに行った時』とは冒険者ギルドの・・・・・・・と上に付けるのが正しい。あの時は、最初から昇格試験を受けるつもりであったので、あながち間違いではない。それに困惑しているというのも事実なので、現在ホルスにはトリスが嘘を言っているとは感じられていないだろう。

「そうなんだ。ごめん、疑って悪かったよ。実は今光属性魔法の看破ディテクション使ってたんだ。本当にごめん!」

トリスが事実しか述べていないと分かると、ホルスは馬鹿正直に謝ってくる。

「え?マジ?まぁ、良いけどさ。」

「え?良いの?」

「おう。ホルスは、俺がマルティナ先生に対して、ちゃんと対応していなかったら、マルティナ先生が可哀想と思って魔法を使ったんだろ?なら、それは良い事に使ったという事だ。自分自身のエゴのためではなくだ。」

「トリス…。」

失礼な事をしてもあっさり許してくれ、しかも自分の真意まで汲んでくれる友人に、ホルスは感極まったかのような声をあげる。
しかしそれとは正反対に、トリスは騙してしまった事に少々罪悪感を覚えるのだった。

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