転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第82話 入学前 18

マッドの命令から数十秒後、トリスとホルスは早くも脅威が接近していることを察知していた。

「トリス!」

「了解だ!リアさん!俺の側から絶対に離れては駄目だ!」

「は、はい!」

明らかに焦った様子の2人に戸惑いながらも、大人しくトリスの言うことを聞くリア。自分より遥かに強い彼らが焦っているところから、異常事態であると何となく感じ取ったようだ。

「手筈はいつも通り!」

「おう!…焦りは禁物だぞ。」

態々言葉に出す必要も無いが、緊張感からか思わず声を出してしまうホルス。そんなホルスを見てトリスは故意に穏やかな声を出し、落ち着かせる。

「…そうだね。うん!頼りにしてるよ!」

「任せろ。お、そろそろ来るみたいだな。」

焦っていたことを認識したホルスは、穏やかな笑みを浮かべてトリスに頷いてみせる。と、そこでタイミングを図ったかのように敵が現れる。

「ガアアァァ!!」

トリス達の居る比較的広い空間から、更に奥に続く道から雄叫びをあげつつ人と大差無いようなものが飛び出してくる。

「先手必勝!『光の矢ライト・アロー』!」

トリスがその存在に向けて、その数40近くの光属性を帯びた矢が放たれる。まだ数メートルの距離があるため、魔法を選択したようだ。だがその存在に矢が触れた瞬間、1本も刺さらずに全て爆ぜてしまう。

「グァ!?」

しかしながら怯ませることには成功したようで、かなりの速度で移動していたその存在が動きを止め、その姿が明らかとなる。
生気を全く感じない青紫色の肌に、頭から凛々しく生える2本の角。そして何よりも特徴的なのが、通常可視化しないはずの魔力が、ドス黒い色でその存在を覆っているのだ。

「こ、これは…。ナニ、コレ?」

驚いたかのような口調で声を出していたホルスだが、そんな事は忘れたかのように首を傾げて、いきなりトリスに問うてくる。

「いや、知らんがな!そもそもあんな奴見た事無いし、あんな見るからに危なそうな奴目撃されてたなら、明らかに有名になってるだろう、よ?…あ、分かったかも。」

ホルスの質問に、ノリノリでツッコミを入れていたトリスだが、段々とその語尾が萎んでいき、そしてポロリと衝撃発言をする。

「え?分かったの?あ、『燃え尽きろ 灼熱の国ムスペルヘイム』!…で、あれ何?」

トリスの言葉に興味を惹かれたホルスは、漸く怯みから復活した敵に向けて、適当に火属性上級魔法を叩き込む。上級魔法だけあって、先程より効いているようで敵は悲鳴をあげている。

「グギャアァァァァ!!」

「う、うぇい。…ホルスだけは怒らせちゃあかんわな。」

「ん、何か言った?分かったなら早く教えてよ。」

魔法を放った後は、その相手を見向きもしない非情さにトリスは戦慄しつつも、自分の考えを打ち明ける。

「前に本で読んだことがあるんだけど、魔族の王、つまりは魔王はその莫大な魔力量から発動するスキルの効果で、魔法はおろか物理攻撃すら寄せ付けない、最強の守りを誇るとか。そしてそのスキル発動中は、魔王の周囲に黒い魔力が漂うらしいんだ。」

「う〜ん、なるほどね。確かにその話と一致するね。ただ、何か弱体化してる感は否めないよね。」

トリスの話を聞いたホルスは、自分が攻撃した感覚からトリスの考えを補強する。

「だな。今も魔法をくらってるみたいだし、多分人間族ベースに魔王との融合を実験したんだろうよ。ま、結果は見ての通り弱体化したものの、普通の人間には脅威となったわけだな。」

それを受けトリスは更に敵の正体に検討をつける。それはモロにドンピシャだったのだが、それを知る由もないトリス達は討伐する事を決意する。

「あれは野に解き放っていい存在じゃないと思います。」

「異議なしです。ではホルス君、前衛は任せた。」

「え?えぇ?魔王との融合?そ、そんな存在を倒せるの?」

敵の正体も検討がつけられ余裕が出てきたのか、トリス達は若干巫山戯つつ戦闘態勢に入る。そんな2人についていけず、リアはただオロオロしているのだった。

コメント

  • 血迷ったトモ

    コメントありがとうございます!
    自分、焦らすの上手いっすよ(笑)。
    と、冗談はさておき、ネタバレになるかも分かりませんが、まだまだ表には本気を出させない気です。

    3
  • わいのにじょー

    そろそろトリスが本気を出すのかな?
    すごく楽しみです!
    頑張ってください!!

    2
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