転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第79話 入学前 15

「リアさん、大丈夫ですか?」

「はぁはぁはぁ、だ、大丈夫、です…。はぁはぁ。」

息の荒いリアを見て、トリスは心配そうに声をかける。すると全然大丈夫そうではない声が返ってきたので、トリスは先行するホルスに声をかける。

「お〜い!ホルス!そろそろ休憩しないと、リアさんの体力が持ちそうない!ここらで休憩とろう!」

「りょーかい!」

「す、すみません。ありがとう、ございます。」

足を引っ張っている事に申し訳なさを感じたリアは、恐縮そうに木の根に腰を下ろす。ただ、これは仕方の無いことだろう。ここは獣道でも無く、それこそ『道なき道をゆく』みたいな場所なので、地面はでこぼこしていて足をとられやすい。そのためすぐに体力を消費してしまうのだ。

「別に問題無いから大丈夫ですよ。あ、そうだ。黒装束について教えてもらえません?」

話題転換とばかりに、トリスは敵戦力についてリアに問う。別にその場で対処は可能だろうが、守る対象が居る以上は最善を尽くすべきだろう。

「あ、はい、分かりました。そうですね。彼らはただ純粋に力と速さが人間とは思えない程だったです。私は魔法を使えるのですが、早すぎてまったく当たりませんでした。姉は魔法よりも剣術の方が得意なのですが、一瞬で剣を壊されて、物凄い力で投げ飛ばされてしまってました…。」

「敵の武器はどんな感じですか?」

こちらに合流したホルスが問う。すると予想だにしない答えが返ってくる。

「全員素手でした。」

「「素手?」」

予想外の事に、ついオウム返しをしてしまう2人。

「はい、素手です。それと、少し気になった事で、フェイントが効かなくて、しかも攻撃に対してまったく恐れが無いという気がしました。姉の剣もですが、狙ってやったのではなく、ただ相手の攻撃が当たったから砕けたんですよ。真っ直ぐ一点突破している感じです。」

「う〜ん、トリスはどう思う?」

「俺?多分相手はバーサーカーじゃないかな?」

「「バーサーカー?」」

「あ!えっと、理性が無くなる代わりに、身体能力が物凄く向上している戦士のことだよ。」

こちらの世界にバーサーカーなんて言葉は無いので、慌てて分かりやすく解説するトリス。どうにも未だに地球の言葉を使ってしまう癖がとれないのだ。
因みにトリスが日本語を口にした場合、意識しなければ自動的に称号の転生者の効果でこちらの言葉に翻訳されるのだが、無理矢理こじつけてるため意味が伝わりにくいのだ。普段はこちらの言語を使っているため、この効果の助けを借りる事は少ない。

「しかしそうなると、手加減のしようが無いんじゃないのかな?理性無いって事は、痛覚も鈍そうだし。」

トリスの説明を聞いて、相手がどんな存在かを思い浮かべたホルスは、どうしようかと頭を悩ませる。

「だな。最悪両手足封じ込めちゃえば、何とかなるかね?若しくは意識を落とせればいけるか?」

「うん、そうだね。恐らくその人達は捕えられて実験台にされた人達だろうから、なるべく手荒にしたくないよね。」

トリス達が勝手に話を進めていると、リアが気まずそうに声をかけてくる。

「あの〜…。」

「どうしましたか?」

自分達だけで完結しかけていたので、トリスは悪いと思い話しづらそうなリアを促す。
そんなトリスと、『何かな?』といった表情で首を傾げているホルスを見て、リアは胸糞悪くなる情報を追加する。

「じ、実は言葉を普通に喋る人が何人か居て、その人達が、私達を捕らえるために手加減していたとか、魔族がどうとか、融合がどうのとか言っていたんです。た、多分何ですけど、魔族と人間を融合して、その…。」

「なるほどね。戦力にするってわけか。」

「魔族はそれだけ強いからね。人間に組み込んで、命令さえ聞かせることが出来れば、それほど強力な兵器は無いよね。」

トリス達はリアが言い難そうにしていた言葉を引き継ぐ。
この世界に於いて魔族は非常に強力な存在だ。しかしその数があまり多くないため、今まで何とかその他の種族は滅びを避けてきた。そんな魔族の力が一部でも使う事が可能であれば、それは強大な絶対的な戦力になるのは間違いない。
また、この世界では魔族を含め6つの種族が存在するが、それらは交配が可能であり子を成す事が出来る。因みに『くっ殺』でお馴染みのオークさんは、確かに行為に及ぶが魔物であるため子は成せない。それは兎も角、ハーフは遺伝子的に見て明らかにおかしいが他種族でも出来る。
しかしならば何故融合という、明らかに非効率的に感じる手段を黒幕がとっているのかというと、それはスパンである。ハーフが産まれるには、やはり妊娠という期間を経て誕生するので、十月十日は覚悟せねばならない。しかし融合ならば男女関係なくいつでも好きな時に、能力をある程度好きに設定して完成させることが出来るためである。

「…まったく。きな臭くなってきたな。」

「ほんとだね。」

休憩を切り上げてから10分後、トリス達の気分とは真逆に晴れ渡った天気の中、森が拓けて目的地と思しき洞窟が見えてくるのだった。

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