転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第62話 非常識コンビって言われました…

「で、では気を取り直して、開始してください。」

「こっちも2人はいっぺんにやるんですか?」

「はい、トリスさん。」

トリスの質問に笑顔で答えるマルティナ。その笑顔に若干見惚れつつも、トリスはホルスと小声で相談する。

「何使う?」

「え?普通に・・・上級魔法使おうと思ったんだけど。火属性の灼熱の国ムスペルヘイムとか。」

「ホルスの普通について小一時間じっくりと話し合いたいけれども、今は置いておこう。…中級魔法辺りにしないか?」

いきなり、とんでもない魔法を使おうとしていたとぶっちゃけられたトリスは、溜息混じりにそう提案する。

「う〜ん。でも手を抜きすぎて、それで不合格になったら目も当てられないよね?」

「そうなんだよな…。はぁ、仕方ないか。遅かれ早かれホルスの非常識さには皆気付くだろうしね。」

「む、その言い方はちょっと傷付くけど、実力を隠してても仕方ないよね。」

「じゃ、上級魔法を適当にぶっぱなしておけばいいんじゃないか?」

「適当で上級魔法をぶっぱなせるトリスもトリスだよね?」

痛いところを突かれたトリスは、そっぽを向いて口笛を吹いて誤魔化す。
しかし横から突き刺さる視線が痛いので、さっさと終わらせようと目標物に目を向けて魔力を高める。その様子を見てホルスも同様の事を行う。

「『断罪せよ 光の剣クラウソラス』!」

先に魔法を発動させたホルスは、自身の目標物に向かって光り輝く巨大な剣を空中で操作して振り下ろす。因みに目標物は重さ100キロ近くのミスリル金属の塊で、魔法耐性があるので壊れる事はまずないという代物である。
だがそのミスリルの塊が、光り輝く巨大な剣が振り下ろされた次の瞬間には、轟音を立てて粉々になってしまった。

「え…。ミスリルが破壊された?え?」

あっさりと破壊されたミスリルの目標物があった場所を見ながら、マルティナはオロオロとしている。
だが次の瞬間更に非常識な光景を見せられる。

「よし、『冷たく閉ざされた死者の国 顕現せよ 霧の国ニブルヘイム』!」

目標物の周り数メートルが完全に凍りつく。今現在は夕方であるので、日が傾いているのだが、その陽の光が凍った空気中の氷に当たりキラキラと輝いていて、どこか神秘的な雰囲気すら醸し出していた。

「あ、あれは氷属性魔法でも、よっぽどの威力がないと出ない氷の華!」

マルティナは驚いて声を上げてしまうが、それでは終わらなかった。

「『小火ファイヤ』。」

トリスが軽く呟き、小さな火の玉を目標物付近に投げ入れると、発生していた液体窒素がその熱により急膨張して爆ぜた。

『ズガン!』

「きゃっ!」

「おお!」

マルティナは悲鳴、ホルスは感心の声を上げる。
だがトリスは不満足そうに目標物を見ていた。先程の爆発では半壊しかしなかったのだ。

「むぅ、威力不足か…。」

つい呟くように不満を漏らすと、マルティナはくってかかる。

「いやいやいや!そこで不満足そうにするのはおかしいですよ!あの的は壊せないんですよ!?普通は!粉々にしたホルス君は勿論の事、半壊させたトリス君も十分化け物です!非常識コンビです!」

何やら人に不名誉な渾名をつけながら、トリス達をディスり始めるマルティナ。どんどんと距離を詰めてきて、ほぼゼロ距離まで近付いてしまったトリスは、焦りながら必死にマルティナを宥める。

「ちょ!落ち着いて下さいってば!近いですよ!恋人、若しくは旦那さんにこれを見られたら勘違いされますよ!」

すると効果は覿面だったのか、急に大人しくなった。
いや、よく見ると顔から表情が消えている。

「こ、いびと?だんなさん?ははっ!なんですか、それは?」

「さ、さっきの『ははっ!』てところ、某ネズミの王国のキャラクターにそっくりですね!」

目からはハイライトが消え、片言で呟くマルティナに恐怖を感じたトリスは慌てて笑いを取ろうとして完全に失敗する。

「ネズミの王国?何それ?」

「い、いや本で読んだ事があるだけ。ただの物語。だから気にしないで!」

疑問に思って聞いてきたホルスに、視線を向けずに答える。今マルティナから目を離すと、やばい事が起きる気がしたからだ。

「と、ところでマルティナさんは何でこんなふうになってんの!?」

トリスの悲鳴ともとれる声に、ホルスが至極ご丁寧に答える。

「あ〜、マルティナさんは才女で有名なんだけれど、優れた容姿であるのにも関わらず、未だに恋人の1人も出来ない事でも有名な…おわっ!」

セリフの途中で、氷でできた短剣が飛んできたので慌てて躱すホルス。勿論マルティナが投げつけたものだ。しかし投げる時に当然ながらトリスの横を通るのだが、あまりの速さに現在のステータスでは全く反応が出来なかった。

「お、落ち着いて下さい…。ご、ごめんなさい!許してください!」

もはや悲鳴のような声で謝ることしか出来ないトリス。

「…次は、ありませんよ?」

「「はい!了解しました!」」

女の逆鱗に触れた2人は、顔を青ざめさて必死に言うことに従う。

「し、試験は終わりですよね。」

ホルスは吃りながら聞く。

「はい、終わりです。」

「で、では!失礼します!」

どこか陰が見える笑顔で答えてくれたマルティナを見て、若干上ずった声で別れを告げてその場を退散するトリス達であった。

「紅茶の瓶を大事そうに抱えてた、可愛い少女はどこいったんだ…。」

戦慄し、小声でつい呟いてしまったトリス。その声を耳ざとく聞き取ったマルティナは、驚きのあまり思考を停止させてしまうのだった。
彼女が正常の状態に戻って辺りを見回した時、2人は全力で退散した後であった。

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