転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第59話 比較対象間違えた!

「さて、そろそろ競技場に向かおうか?」

「おう。」

ホルスに声をかけられ、トリスは席を立つ。

「最初は武術の実技試験から受けようか?」

「そうだな。…ホルスが魔法を使うと、絶対に騒ぎになるしな。」

トリスはボソッとホルスをディスる。騒ぎになればホルスが囲まれ、その分試験を受ける時間が遅くなってしまうので、特に問題ないであろう・・・・・・・・・・実技を先に回す事にした。だがこれはトリスの甘い考えであるのだが、今はそれを知る由もない。

「うん?何か言った?」

「いや、何でない。さ、行こうか。」

ディスった部分が上手く聞こえなかったホルスに不思議そうな顔をされたが、トリスは急かして有耶無耶にする。
2人はまた最後尾の方になりながらも、試験会場に向かうのだった。


試験会場の競技場では、もう既に先行組が試験を開始していた。別に筆記試験とは違い1人1人実技を見せるこの試験では、不正のしようが無いので5時まで設けられている試験時間内に受けられれば良いため、2人は少し後ろの方で見学することにした。
武術の実技試験を見ている2人の視線の先には、もはや巫山戯ているとしか思えないような遅いスピードで切りかかる受験生を、試験官がボコボコにしているという事が繰り広げられていた。

「…なぁ、皆手を抜いている訳じゃ無いんだよな?」

「う、うん。多分僕達が異常なだけだよ。」

「うおい!人を人外と一緒にすんなや!俺はまだ常識の範囲内だぞ!?」

「な!動く人間相手に数十メートル先から正確に両手足撃ち抜くトリスに言われたくないよ!」

2人が大声で言い争っていると、受験生から視線が向けられる。

「おい、あそこの2人元気だな。」

「あれ?あの方は確かレンバッハ家の次期当主、ホルスト様じゃないの?」

「ホルスト様?あの金髪の方?じゃあ隣の方は?」

「隣?知らないな?黒髪黒目なんてこの辺に居ないだろ。」

「でもお2人は仲が良いみたいだよ?」

ここまできて漸く注目を浴びている事に気が付いた2人は、頭を下げて大人しくすることにする。
しかし1度注目を浴びてしまっていることにプラスして、ホルストの存在があるため中々視線から解放されずに、苦しい思いをすることになる2人であった。


「よ、よし。気を取り直して武術の実技試験受けようか。」

「う、うん。そうだね。」

ちょっと人が捌けてきたので、2人は受験のため列に並ぶ。
すると、なんということでしょう!2人に遠慮するかのように10人以上並んでいた受験生達が一斉に捌けるのであった。

「「え?」」

「どうぞどうぞ。」

「お2人からどうぞ。」

「まだ時間があるから、お先にいいですよ?」

「「はぁ、そう言うなら遠慮せずに…。」」

『どうぞ』と、言われた2人はトリスを先にして試験を受けることにした。
何やら視線が集まるのを感じるが、トリスは『ご自由にどうぞ』と札のある箱から弓と矢を数本持つ。弓は接近戦をする訳にもいかないので、どうやら的に当ててその点数で合否を判断するらしい。
トリスは受験番号を試験官に伝え、採点の準備が整ったところでトリスは持っていた矢を番えて20メートル近く離れた的に向かって放つ。

『おぉ!』

その矢は吸い込まれるかのように的の中心に当たり、周りから歓声が沸く。続く2の矢、3の矢は前に刺さっていた矢を破壊しながら同じ場所に刺さり、最終的に5本放ったが1度も外すこと無く成功させることが出来た。

「おぉ、流石トリスだね。」

『…。』

歓声もいつの間にか止み、呆気にとられている観客に気付かずホルスは呑気にトリスを褒める。

「…ふぅ。こんなもので大丈夫だろ。…試験官殿?お〜い、もう大丈夫ですか?」

男性試験官(教室でトリス達を担当した人)が固まっているのを見て、トリスは呼びかける。

「はっ!?」

「もういいですよね?それともまだやりますか?」

意識が戻ったのを見て、トリスは試験官に確認をする。

「お、おう。お前凄いな…。」

「そうですか?次のホルスに比べればまだ人間の範疇だと思いますけど?」

トリスはニヤリと笑いながらホルスを揶揄いつつ、『あのくらい普通でしょ?』と試験官に聞く。
しかし試験官の反応は予想とは違いすぎた。

「え?あれが人間の範疇!?お前は絶対人外だ!あの的、刺さらない事で有名なんだぞ!?てか矢自体も物凄く丈夫で、互いにぶつけたぐらいじゃ壊れないんだぞ!?となると、余程上手く芯を捉えてぶつけたか、スキルによる補正か…。あ〜!もう意味分からん!次だ次!」

「え〜。」

頭を抱えて叫んでいた試験官は、トリスの起こした現象を解き明かす事を諦めて次の受験者、即ちホルスを呼ぶ。しかし、ホルスの方が今のトリスよりもステータス的には上であるため、試験官は地獄を見ることになるのだった。

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