本物は誰だ

桜井かすみ

本体と偽物

きっとこれは、白の痛みなんだ。

胸が何か鋭いものに刺されるように、ちぎれそうに痛い。
これが、つらい、という感情なのか。私はそれを知る。
私には人生がない。つらいなんて知らないはずなんだ、これは誰かの痛み。

きっと、きっと……この痛みは白の痛み。

会議室に教官が現れる。
言い争うなど予測していたかのような、振る舞いだった。

「本体争いなどと、物騒な言い回しをしているが、ここは学校である。諸君、何か血生臭い闘いでも想像していたかな。だが、ここは学校である。そして、キミたちは生徒だ」

教官が堂々と告げるも、二十五歳を過ぎた私たちは学校といわれても、まだまだピンと来ないまま呆然と前を向く。

「共同生活をして、人間とは、人生とは何かを学んでもらいたい」

と言われた私は、これは本体のための学校だとしか思えなかった。
本体に生きることは何かを、偽物を集めてまで考えさせる接待行事だとしか思えなかった。

「ちょっと待って。それって、私たち偽物が関係あるの?それで争いなんて、バカバカしい」

さすが、情熱の塊、赤の二号。

「黙りなさい、二号。あなたは頭が悪いようね。本体と偽物が、決定的に違うものがあるのが分からない?」

教官が強い口調で、二号にいうと、彼女は何か残酷なことを告げられそうな気がしておとなしくなった。

「本物の人生と血も知らない偽物が、本物に勝てるわけないのよ」

「じゃあ、どうして、こんな学校なんて……」と、白が恐々と立ち上がる。

「子供ができないんでしょ?血がないから、そもそも生きることすら仮のものなんでしょ?」

と、発言したのは桃色の六号だった。

六号が涙を浮かべて立ち上がった。

「偽物は、繁殖しちゃいけないの。繁殖できるのは、本物だけ」

「六号、その通り。偽物は繁殖できない。血がないのよ。学校で共同生活をして、人生を学び、総合的に本体と争ってもらうの。ジャッジを下すのは校長だけ。首位についたものが本体となる。本体以外は……これっきりで抹消されるわ。この世界はそうやって繰り返されていくの。期限は3ヶ月。それ以上もそれ以下もない。そして、この期間に自分は消えてもいい、本体を譲るという意思が生まれた時、存在はその時に抹消される。いいか、これは血生臭いバトルではない。精神的なバトルになる。自分を持て」

と、私たち偽物は教官にそう伝えられた。

「本体、お前は消えてもいいと願い、この九体を生み出した。お前は消えてもいいなんて思ったとしても無意味だからな。お前は九体と接触し、それぞれの人生、考え、性格全てを知れ。それが本体の使命だ」

譲るべき人格がいるかどうかを見極めろ、ということだろうか。

何しろ、本体と偽物九体は別の目的をもって過ごさなくてはいけないらしい。

ほんもの、とは一体何なのだろうか。

私はその疑問が頭の中をぐるぐると巡っていた。

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