半魔族の少女は料理と共に

秋雨そのは

57話 全てへの贖罪

この話、一応解決という形になります


 私は、あの爺さんに両手を拘束され、何処かに飛ばされた。

 目の前の視界が歪みと共に、体が宙に浮かぶような感覚が私を襲った。
 視界が普通に戻る時、そこは見慣れた……私の住んでいる家があった。

「何が起きた……?」

 確かあの爺は、私の家に逃してやろうと言っていたが……。距離がかなりある。
 私の家はハルデルト王国とマルズダマ国の間にある森の中だ。学園を抜けて、街を通り抜け。マルズダマ国に向かう道の方角のため、普通ならあの一瞬で着くはずはない。

「考えてもしょうが無い、折角手に入れたチャンスだ。中に入って、あの爺を殺す準備をしてやる!」

 旅館といえる程の大きな家の扉を、拘束されたままの腕で開けると、中は真っ暗だった。何故か、何時もの様に出迎えてくれる。メイドの姿もない。
 糞っ! あの役立たずが! それにしてもおかしい、明らかに静か過ぎた……この家に誰も居ないような透き通る風が入っていく。

 私は、明かりを付けずに先に進んでリビングに入る。薄暗く、見づらいが長テーブルの何時も私が座る席。入り口から奥の大きな椅子の所に、1つの封筒と小さな水晶の様な物が置かれていた。

 嫌な予感はした。ただ、確かめないことには始まらない。封筒を乱暴に開け、中から1枚の手紙が入っていた。その差出人は夫だった。


愛していた、ワンダへ
 この手紙を受け取っているという事は、俺は……俺と娘、この家の人は誰も居なくなっているだろう
 ある国の王様から、そこに置いてある水晶を貰った。そこから聞こえた内容は、俺達じゃショック以外の何物でもなかった
 この水晶を受ける時に居た男は、周りに仕掛けられた。魔法具を解除し、全てが終わった時に現れた。扉を見てびっくりした
 その部屋は何なのかを、俺はその人と一緒に中に入った。そこには、信じられない内容と優しい君から思いつかないような記録が残っていた――


 私はその手紙を握り潰した。横にある水晶を手にすると……ある会話が聞こえてきた……。
 あの空き教室で、あの半魔族のモルモットとの内容が録音されていた。

「何でこんなものが! そうか……あの時、後ろでコソコソしてたのは!」

 あの後ろで、扉を少し開けた時に誰かにそれを渡したんだな! でも伝達が早すぎる……。いや、今はそれどころじゃない。
 私は、全ての部屋に付けた仕掛けを確認するが……無い。全て破壊された様な後だけが残っていた。

 あの部屋を覗かれたとしても、中には研究員がいる。全員元冒険者をしていた人達であり、簡単に突破出来るはずはない。
 私は、急ぐ……リビングを抜け、静かな廊下の一番奥、何時もなら見ることも出来ない。ただの壁には……大きな隠し扉が出ていた。

「扉が……いや、そこまで書かれてはいたが。この先は流石に……」

 100人を超える研究員がいる。隠しの部屋は地下に続いて、家と同じ規模に広がっている。
 扉を開けると、信じられない光景があった。
 研究員は無造作に倒れ、胴体の上と下は離れていた。また一定間隔に、こっちに来いと言ってるような血で出来た道筋があった。

 家の中と違い明るい空間を道筋通りに進む……、研究員は一人残らず惨殺されていた。切り口は鋭利な刃物のようだ。
 死んでいる人は男女問わず、抵抗も許されていないようだった。

 その惨状を見て、私は言葉を失っていた。ただ、先に進まないと後ろから、死んだ研究者達が追いかけてくるような錯覚が起きている。
 
 一番奥の何時も私が居る研究室に辿り着く、その扉を開けた時に……彼は居た。
 最悪の笑顔を浮かべ、こっちが来る事知っていた様に見ていた。
 他国の誰もが知っている、マルズダマ国で鳴りを潜めていた。最強で最悪の勇者……ミナト・シライシ。

「よぉ……、待ってたぜ。マリアさんの母親……じゃないか、もう関係は無いもんな」

「貴方、何故こんな所に居るの?」

「何故とは酷いな、お前が来るまでお掃除しておいたのに」

 彼は狂っているのか? あの人数の人を殺し、その理由が「掃除」とか狂っているとしか言えない。
 紙数枚をこちらに、見せると言った。

「やっと見つけたよ、お前が若返らせるために。使った実験の資料をな」

「そう、だからどうしたの? 今私はハルデルト王国に居住扱いな上に、この国ではそんな事をやっても許されるわ」

「だから、わざわざこんな場所にまで来て証拠を探しに来たんじゃねぇか」

 その資料は、あの半魔を研究した時の物だ。私がやった証拠を国王に提示するというのか? そんな事じゃハルデルト王国が半魔の為に、私の処遇を任せる訳がない。半分魔族なだけでも、戒めになるというのに……。
 私は言った、どうせそんな物通るわけがない。

「ふっ! ハルデルト国王がそんな物を提示されて、逆に殺されるんじゃないかしら? 結局は貴方達の自己満足よ!」

「まぁそうだろうな、普通通るはずもない。だが、あいつは違う」

「何が違うと言うの? どんなに頑張っても半魔は半魔、人にはなれないわ!」

 ミナト・シライシはさっきまでの悪い笑顔から、殺気の篭った顔へ変わった。それを見た時、私は身震いした。蛇に睨まれた蛙のように。
 だけど今思えば、何故あんなにあの半魔を庇う人が居る? 普通であれば、庇うなんてあり得ない。

「そうか……、まぁここに飛ばされた時点で予想は付いたが。そこまでゴミみたいな人間だと思わなかったな」

「私は探究心に従って生きてるだけよ、その過程はどうだっていいわ」

 そう、魔族が死のうが私には関係は無い。その時考えていた、研究を遂行できれば結婚だろうと魔族だろうとどうでもいい。

「そういえば、1つ聞きたい。7年前あの家族を襲わせたのは、お前だろ?」

「どうかしらね、そんな昔の事知らないわ」

「いや、お前は覚えてる筈だ。なんせ研究したいが為に、自分の家を俺らに襲わせたんだからな」

 私は、7年前結婚し生活を送ってきたが、研究をしていく内に魔族の血がどんな作用があるか気になった。その為、絶対に抵抗するだろう、あの魔族を勇者に殺させる事。そうすれば、半分とはいえ受け継いでいる半魔を好きに研究出来るからだ。
 トアネット・カール家全員は私の息が掛かって、研究者集団になっている。その集団で国王に「魔族と暮らしてる奴が居る」と言えば、誰か仕向殺しに来る。それを狙った。

 結果は成功、私は若返りに成功し研究も。抵抗しないモルモットのお陰でスムーズだった。

「はははっ! あんな絶好のモルモット居ないわよ? 泣き叫ぶけど、私をお母さん。なんて呼びまくって気持ち悪いったらあらしない」

「もう十分だ……」

「だってそうじゃない? 私は正直気持ち悪くて、あの後5年近くも一緒にいただけ感謝して欲しいわ!」

 私は笑った、あの汚らしい魔族の血を含んだ。半魔を。
 ミナト・シライシだって結局は、あの娘の父親を殺してるんだから同罪じゃない!

「言いたいことは……それだけか?」

「はっ? まだまだいっぱいあるわよ!」

「そうか」

 彼は、私に黙って近づく……そのまま頭を鷲掴みにされ、部屋のガラスごと廊下へ投げ飛ばした。

「っ!?」

 投げ飛ばされた衝撃で、壁に背中を叩きつけられる。受け身も取れずそのまま床に落ちる。

「もうお前の話は飽きた……殺すなとは言われてるが、要はお前を殺さなきゃ良いはずだ。どうせ魔族の血でそこそこの傷は癒えるだろう?」

「何……をする……!」

「あの子が、どんな事を思っていたのも知らずに。ただの自己満足で研究なんてしやがって……」

 私は立ち上がり、近づいてくるミナト・シライシから逃げる。走る……しかし、相手は追いかけてくる様子がない。一定のペースで私の後を追ってくるだけだ。
 何故だ……、殺す気は無いとしてもこのまま逃げられる可能性を考えていないのか。

「外には行かないほうが良いと思うがな」

 そんな言葉が聞こえてきた。知らない、どうせただの脅しだろう。外に行けば幾らでも逃げられる。
 私は走り、地下を後にして。玄関へ向かう……。

 玄関の扉を開いた時……私は外に飛び出した。
 その時、空を覆う程の大きさの影が飛来した。

『やっと見つけたぞ! 罪深き人間よ』

 それは、正真正銘のドラゴンだった。この地域ではほとんど見たことが無く、決して遭ってはならない要注意の魔物。
 私は驚きのあまり何も出来ない。唖然と空を見上げる事しか出来なかった。

『魔王様からの指示をずっと……今か今かと待っていた。我らの将、ベリアル様のご息女が生まれた時は涙が出る程喜んだ……』

『しかし、5歳になられる頃には、ベリアル様は他界』

 あの魔族は、底辺じゃないのか? あまり偉い立場では無いとは言っていた。しかし、このドラゴンを言い分を聞くと、あの魔族は魔物を束ねる将ということになる。

『それまでは許容できた……しかし! 小屋へ移動した時、貴様のやった所業を許すわけには行かぬ!』

『1歳の歳を追う事に、悲しみを強くし。雨が振り、雷が落ち、大地は悲鳴をあげ、地割れがおきた!』

『他の魔物に確認させてみれば、貴様は研究と称して。色々な事をしていたそうじゃないか?』

 このドラゴンは何処まで知っている。確かに、1年に1回研究の内容を変えた時。外は不自然に天気が悪かった気がする。
 お陰で面倒な事まで起きるもんだから、覚えていた。

『ここで今、貴様を断罪してぞ!』

「ちょっとそれは、俺らに任せてほしかったんだがな」

『勇者か、貴様とは魔王様との命で相互の手出しはしないように約束されていたな』

 1人と1体は睨み合う様に、見ていた。取り合いというよりは、どちらが処理をするかで揉めている様な喋り方だった。
 その時、森の奥から人が現れる。2人歩いてきた。片方の男がミナト・シライシに話しかける。

「お頭、国王さんから許可を貰ってきたぜ。どう処理しても構わないってよ」

「そうか……、ならドラゴン。俺らは今回はお前らに譲ろう」

『感謝する』

 ミナト・シライシは先程の2人と共に去っていった。残された私は、ドラゴンに話しかけられる。

『さて、貴様の処理を任された。今まで魔物の鬱憤を晴らさせて貰おう』

 私は、地面にヘタリ込み。立つことさえ出来ない。森の中からギラリッと光る2つの目が数百と出てきた。


次で、4章が終わりです。
次は、日常?

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