半魔族の少女は料理と共に

秋雨そのは

49話 マリア・トアネット・カール

内容が暗いです。もし、嫌いな表現あったら最後だけでも見てください。


 女神は語りだしたと同時に、記憶が紐が解けるように流れ込んできた。
 彼女は本当に、どうすれば幸せに慣れたのだろうか。もし、女神の悪戯が無ければ。ミナトさんがもし父親を殺していなければ。いっそ彼女の記憶消せばいいのか。


 私の名前は、マリア・トアネット・カール人間と魔族の間で生まれた子供。母親は貴族で、あまり家族と仲が良くないことは知っていた。それによって、私の父親は死んだことも知っていた。
 父親は魔族で、魔物を束ねる位が高い存在なのも知っていた。魔王がちょこちょこ私の家に来ている事も知っていた。本人が魔王と言っていたから。
 また、父親に黙って……私を研究していることも。

 母親のワンダ・トアネット・カールは、子爵でありながら研究者でもあった。それは私も知らされたことだし。酷い事はされていなかった。動きを観察したり、食べ物に毒を入れたりするくらい。
 普段は……特に父親が居る間は、母親らしいところがあった。慣れない事にも頑張って手伝おうとした時も褒めてくれた。

 父親のベリアルは、高位魔族であり。この森……マルズダマ国の全体的な指揮を担当し、魔物への信頼も厚かった。
 人間として、仕事をしつつ。森に潜り、野生かした魔物を倒して持って帰ってきたりしたのを覚えてる。
 私に対しては、魔法について聞いたりしても教えてもらえなかった。基本は厳しい、父親だった。でも、私はそれで納得していたし疑問に思っていなかった。

 5歳の誕生日に父親を殺されたのを鮮明に覚えてるし、父親の言ったことを覚えている。でも、憎むなって言う方が難しかった。そういえば、その日は雨の日だった気がする……。
 小屋に移動した時、母親が研究と共にエスカレートしているのがわかった。今思えば、あそこが小屋だったのかも疑問に思った。外側は隠されていたけど、中は立派な研究施設そのものだったから。

 6歳になる頃、私は貼り付けにされていた。場所は分からない、でも暗くて怖い場所だということだけ覚えている。1つだけ風が入ってくる場所は、凄い音が鳴っていた。もしかしたら雨だったかもしれない。
 まず、されたことは2つ。ナイフで私を斬りつける事と骨を折る事だ。
 でも、どうせなら……日記といえる物ではないけど、された事を記していこう。

 7歳になる頃には、私の感情に喜びという物は無かった。何回か定期的に行われたことは知っている。
 7歳でやられる事が変わった。この時が一番辛かったかもしれない。本を持ち出し、何時もの様にナイフで斬りつけ、その血を持って何度か繰り返されていた。それと同時に腕の骨をハンマーで砕かれた。
 そういえば、その時も雨が降っていた……雷の轟音が聞こえてるから覚えている。

 8歳には、痛みという五感が消えていた。同時に、悲しみという感情も。
 また、母親は少しずつ若返ったような気がする。8歳の誕生日になる頃には、昔の様な皺は無く、お婆さん同然な顔は綺麗な女性と変貌していた。新しい事はされなかったが、態度が何時も以上に冷たくなっていた。雨は、降っていたかもしれない。雷の轟音の方が大きかったから。

 9歳から10歳は何もされていなかった気がする。されたかもしれないし。覚えていなかった。食事もロクに与えられず、病気になって倒れようと何もされなかった。
 全ての感情が無くなった気もする。外は、地面が割れ鳴り止まない雷と雨が振っていた。

 11歳のある日、母親は家に返って来なくなった。捨てられたのだと思った。それと同時に私は……首を釣り死を迎えようとした。

 その時に出会ったのが、女神。

――貴女は、幸せだった?――

 そんなわけがない! と私は答えた。出来るなら……やり直せるなら別な人生を送ってみたかった。

――貴女の魂を別な場所に持っていく代わりに、その体を貰います。どうですか?――

 そんな事でいいなら、私は承諾した。こんな人生なんて誰も望まない。

――了解しました。それでは、良い旅を……――

 私の意識はその時途絶えた。



 脇で聞いていた、ケルトさんも顔を青くしていた。私はそんな事じゃないかと意外と開き直っていた。
 私の過去もそれ程、酷いわけじゃないが……満足な人生なんて1つも無かった。

――あの子は今、別な人生を送っている筈ですよ。記憶も無く本当の新しい人生にです――

「そう、私はそれだけで十分よ」

 もし、マルズダマ国の暖かさを知っていて、ケルトさんが隣に居なかったら私は……壊れていたかもしれない。
 今、それだけで済んでいるが転生した瞬間、記憶と共に絶望していただろう。元は人であること、人でじゃなく半魔であることに。
 気丈に振る舞っているが、手が力を込めすぎて震え血が流れている。顔は血の気を引いていて、無事なのは声だけだ。
 ケルトさんも同じような状況だけど、私を見つめて。右に並び。左手を私の右手を触り、握ってくれた。

 私は、マリアではない。それだけの事だけど、ケルトさんは微笑んでくれた。今この瞬間に私は……。
 気づいたんだ、彼に恋をしていることに。

 前に告白され、彼の気持ちに気づいていたつもりだった。でも、私は何も感じていなかった。もしかしたら、白雪 葵としてじゃなく。マリア・トアネット・カールという子の事だと無意識に思っていた。
 気づく事が出来なかったのは、マリアという経験が原因だったのかもしれないし。私自身が恋を経験したことが無いからかもしれない。

 もし、許されるのであれば……この姿、この私を好いてくれるなら。
 私は、彼を好きだと言いたい。


次は、現実に戻るようです!

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