混じり《Hybrid》【新世界戦記】
療養 1
二人組の女医は共に38歳の同い歳である。一人の名前はネーナ・イワカ。ウィラード人のブルー種である。
再構築前は大病院の出先機関の研究室で新型の義手・義足を研究し開発も行っていた。その当時から大酒飲みであり、研究室でも書類や金の管理がずさんで、公私共に問題も多かったらしい。
再構築直後の混沌とした新世界では、彼女の外科の知識は大いに役立ち、早くからダウアン村に診療所を立ち上げていた。
すぼらだが面倒見の良い性格で、彼女の診療所はいつも人で溢れていた。そしてその噂は近隣の村々にも伝わり、ダウアン村に彼女の診察を求めて来る人も増えていった。
新世界当初からの数年間は各地で天変地異も多く怪我人は絶えなかった。彼女の仕事は忙しくなる一方だった頃、彼女の唯一の息抜きである呑みの席で、一人の女性と出会い意気投合した。その女性の名はポーナ・ミラコビフといった。
ポーナはガレンゴールドで、彼女も再構築前には医療に携わっていたのである。ポーナはガレン文明の二大大国の一つであるゴートビア王国の国営病院で、義肢装具士というネーナと同じような仕事をしていたのである。
ポーナも再構築直後にはインドネシア大陸の北東部の町で診療所を開いていた。再構築後の混乱はどこも似た様な状況で、彼女の診療所も人で溢れていた。しかし、ポーナのいた町の豪族が彼女を取り込み、自分の商売にしようとしたのである。
その豪族がポーナを自分の屋敷に招き、酒を振舞って自分の意向を伝えると、ポーナは激怒し、酒の力も手伝って豪族を半殺しの目に合わせてしまった。豪族の仕返しを恐れたポーナは、その夜の内に町を脱出して以降、行商人となった。
男勝りで物怖じしない性格ながら、几帳面で金の計算も得意であったポーナには、行商人の仕事は合っていたようで、今では気ままに旅を楽しんでいるという。
酒好きという共通点もあり、ポーナがダウアン村に滞在中は毎晩二人で酒を酌み交わしていた。いつしかネーナの忙しい仕事をポーナが自然と手伝う事も増えていった。
ある日もポーナは、ネーナのずさんな事務仕事を手伝っていると、ダウアン村の村長の不審な行動に気がついた。当時のダウアン村の村長は、ネーナには無断で村外から来る患者から謝礼を受け取り、謝礼を出さぬ者には診察を受けられないようにしていたのである。
ポーナは激怒したが、自分の診療所の時の失敗もあって、とりあえずネーナにこの事実を伝えた。
当然ネーナも激怒したが、自分のズボラな性格にも反省して、ポーナに正式に自分と共に診療所を続けて欲しいと依頼した。ポーナにも医療への情熱は残っていて、乗り掛かった船でもあり快諾した。
この頃から既にプランターン峠には山賊が出没しており、ダウアン村が海岸沿いの街道にある事からも、ネーナの患者の中には用心棒を勤めている者も多かった。
その者達にも集まってもらい、二人は当時の村長に詰め寄り、今まで謝礼として貰っていた物を取り返し、患者達に戻してやり、自分達の診療所は村外れに移して、新たに開業する事に決めたのである。
二人の診療所には多くの寄付が集まり、建物の建設に際しても多くの人達が無償で手伝ってくれ、診療所というには大規模なものになっていった。
現在ではこの病院の設備も、診察の為の医療棟の他にも入院の為の病棟やリハビリ施設もあり、看護師の寮までもある。病院付近には、二人を慕ってきた者達が商店を開いていたり、ダウアン村で二人が懇意にしていた呑み屋も移転してきていたりして、一つの街のようになっているのであった。
「どうですか?」
テツが心配そうに診察してくれたネーナとポーナに伺いを立てる。まだ子供で女性でもあるフロンの為に二人揃って診察してくれたのである。
「ここまでされる前に何とかしてやれなかったのかよ?」
ポーナが強い口調でテツに詰め寄った。
テツは一言も発せず、ただ、深々と頭を下げた。
「まあ、言い訳しないのは男としては良いだろうね。この子だってまだ子供だ。ポーナもそれくらいにしてやりなね」
ネーナも一言言ってから話し始めた。
「結論から言うね」
「この娘の左手はくっ付かないし、両脚は膝で切断する事になるね」
予想していた答えとはいえ、改めてそう結論付けられるのはやはり辛い事であった。
テツはゆっくりと天を仰ぎ、深く息を吐いた。
「たがそれ以外の傷についてはキレイに治せるし傷も残らないでしょうね。これについてはそこのエサール人の回復魔術のおかげだね」
「あんた良い腕してるね」
「いえ、応急処置しか出来ませんでしたから。それで歯の方も治せるのですか?」
「ええ。私の再生魔術で治せるね。抜け落ちてなくて折れているだけだからね」
リオールの問いにネーナが答えた。そしてネーナの話しは続く。
「左手と両脚には義手と義足を付ける事になるね。この娘は風の精霊と相性が良いようだから、左手の義手は私が作るね。両脚の義足についてはポーナから」
続いてポーナが話し始める。
「この娘はガレン人だし、錬金術との相性も良い筈だよ。聞けばこの娘の父親も土系の錬金術を使うらしいけど」
「はい。しかし実の父親ではありませんが」
ポーナの問いにリオールが答える。
「実の父親でなくても問題ないよ。ガレンの錬金術は研究と経験で相性が良くなるもんなんだよ。身近に感じていれば問題ないよ」
「それに地面と直接接する義足は、ガレンでは土系の錬金術で作るのが一番良いんだよ。その土系統の錬金術に触れる経験が多ければ、適応するのも早くなるよ」
ポーナの説明に被せるようにネーナが一言付け加える
「早くなると言ってもリハビリには何年も掛かるね。それは私の作る義手でも同じ事だね」
ポーナも一言付け加える
「私もネーナも義肢に関しては専門家だよ。最高の物を作ってやるよ。だけどリハビリは本人次第だよ。長い時間のかかる事だし、本人に良く言って聞かせておくんだよ」
「それは大丈夫だと思います。フロンは意志が固く頑張り屋ですから。義肢の最高峰であるウィラードとガレンの義肢を作って貰えるのは有り難い事です」
「よろしくお願いします」
テツが言ったようにウィラードとガレンの義肢は最高の物であった。ウィラードの魔術式やガレンの構築式を埋め込んだ義肢は自分の手足と同様に動かす事が出来るのである。それでも相性によって付けられない場合もあり、付けられてもリハビリが大変で自由に動かせるようになるには至難の業であった。
「テツ君、ちょっといいかな」
テツの後にリオールがネーナに説明を求める。
「先程先生は風の精霊について言っておられましたが、ウィラードの魔術に精霊という概念はなかった様に記憶しているのですが?」
「たしかにあんたの言う通り、ウィラードでは元々は精霊という概念はなかったね」
「ウィラードの魔術は、あんた達エサールやマウルションタのように精霊の力を借りて、精霊と言葉と誓約を交わす事により発動するという物ではなくてね、大気中に拡散しているマナと言われる物から魔力を抽出し、その魔力を魔術式や魔方陣に流して発動するという物だね」
「だけどそのマナにも属性というものは存在するんだ。その属性の中にも風の属性というものはあるんだよね」
「新世界になって色んな人と交流する内にね、私は各世界では呼び方は違うけれど、実際には同じ様な物も多いんじゃないかと思うようになったんだ。だからエサール人のあんたにもわかりやすく説明する為に精霊という言葉をつかったんだけどね」
「そういう事でしたか。ありがとうございます」
「まあ同じかどうかは研究していかないとまだわからないけどね。職業柄色んな人種と話す事が多いから、私自身、言葉が混ざっちゃってる事も多いしね」
リオールへの説明を終えて、ネーナはセルヒラードの方を向いて言う。
「そんじゃあそこのカクトメスト人も来なさい。診察するからね」
押し黙ったままのセルヒラードに、診察室まで来るように促した。
「いや俺は別に。お嬢の方を引き続きお願いしたいのだが」
「その娘の治療自体は大体終わってるのよ。両脚の手術をするにも準備が必要だ。この病院は大きいが何でも揃っている訳じゃないんだよ。それにな、さっきも言ったが、後は時間をかけてやっていくしかないの。いいからあんたは黙ってついて来なさいよ」
ポーナに一喝されて、セルヒラードはトボトボと診察室までついていったのである。
再構築前は大病院の出先機関の研究室で新型の義手・義足を研究し開発も行っていた。その当時から大酒飲みであり、研究室でも書類や金の管理がずさんで、公私共に問題も多かったらしい。
再構築直後の混沌とした新世界では、彼女の外科の知識は大いに役立ち、早くからダウアン村に診療所を立ち上げていた。
すぼらだが面倒見の良い性格で、彼女の診療所はいつも人で溢れていた。そしてその噂は近隣の村々にも伝わり、ダウアン村に彼女の診察を求めて来る人も増えていった。
新世界当初からの数年間は各地で天変地異も多く怪我人は絶えなかった。彼女の仕事は忙しくなる一方だった頃、彼女の唯一の息抜きである呑みの席で、一人の女性と出会い意気投合した。その女性の名はポーナ・ミラコビフといった。
ポーナはガレンゴールドで、彼女も再構築前には医療に携わっていたのである。ポーナはガレン文明の二大大国の一つであるゴートビア王国の国営病院で、義肢装具士というネーナと同じような仕事をしていたのである。
ポーナも再構築直後にはインドネシア大陸の北東部の町で診療所を開いていた。再構築後の混乱はどこも似た様な状況で、彼女の診療所も人で溢れていた。しかし、ポーナのいた町の豪族が彼女を取り込み、自分の商売にしようとしたのである。
その豪族がポーナを自分の屋敷に招き、酒を振舞って自分の意向を伝えると、ポーナは激怒し、酒の力も手伝って豪族を半殺しの目に合わせてしまった。豪族の仕返しを恐れたポーナは、その夜の内に町を脱出して以降、行商人となった。
男勝りで物怖じしない性格ながら、几帳面で金の計算も得意であったポーナには、行商人の仕事は合っていたようで、今では気ままに旅を楽しんでいるという。
酒好きという共通点もあり、ポーナがダウアン村に滞在中は毎晩二人で酒を酌み交わしていた。いつしかネーナの忙しい仕事をポーナが自然と手伝う事も増えていった。
ある日もポーナは、ネーナのずさんな事務仕事を手伝っていると、ダウアン村の村長の不審な行動に気がついた。当時のダウアン村の村長は、ネーナには無断で村外から来る患者から謝礼を受け取り、謝礼を出さぬ者には診察を受けられないようにしていたのである。
ポーナは激怒したが、自分の診療所の時の失敗もあって、とりあえずネーナにこの事実を伝えた。
当然ネーナも激怒したが、自分のズボラな性格にも反省して、ポーナに正式に自分と共に診療所を続けて欲しいと依頼した。ポーナにも医療への情熱は残っていて、乗り掛かった船でもあり快諾した。
この頃から既にプランターン峠には山賊が出没しており、ダウアン村が海岸沿いの街道にある事からも、ネーナの患者の中には用心棒を勤めている者も多かった。
その者達にも集まってもらい、二人は当時の村長に詰め寄り、今まで謝礼として貰っていた物を取り返し、患者達に戻してやり、自分達の診療所は村外れに移して、新たに開業する事に決めたのである。
二人の診療所には多くの寄付が集まり、建物の建設に際しても多くの人達が無償で手伝ってくれ、診療所というには大規模なものになっていった。
現在ではこの病院の設備も、診察の為の医療棟の他にも入院の為の病棟やリハビリ施設もあり、看護師の寮までもある。病院付近には、二人を慕ってきた者達が商店を開いていたり、ダウアン村で二人が懇意にしていた呑み屋も移転してきていたりして、一つの街のようになっているのであった。
「どうですか?」
テツが心配そうに診察してくれたネーナとポーナに伺いを立てる。まだ子供で女性でもあるフロンの為に二人揃って診察してくれたのである。
「ここまでされる前に何とかしてやれなかったのかよ?」
ポーナが強い口調でテツに詰め寄った。
テツは一言も発せず、ただ、深々と頭を下げた。
「まあ、言い訳しないのは男としては良いだろうね。この子だってまだ子供だ。ポーナもそれくらいにしてやりなね」
ネーナも一言言ってから話し始めた。
「結論から言うね」
「この娘の左手はくっ付かないし、両脚は膝で切断する事になるね」
予想していた答えとはいえ、改めてそう結論付けられるのはやはり辛い事であった。
テツはゆっくりと天を仰ぎ、深く息を吐いた。
「たがそれ以外の傷についてはキレイに治せるし傷も残らないでしょうね。これについてはそこのエサール人の回復魔術のおかげだね」
「あんた良い腕してるね」
「いえ、応急処置しか出来ませんでしたから。それで歯の方も治せるのですか?」
「ええ。私の再生魔術で治せるね。抜け落ちてなくて折れているだけだからね」
リオールの問いにネーナが答えた。そしてネーナの話しは続く。
「左手と両脚には義手と義足を付ける事になるね。この娘は風の精霊と相性が良いようだから、左手の義手は私が作るね。両脚の義足についてはポーナから」
続いてポーナが話し始める。
「この娘はガレン人だし、錬金術との相性も良い筈だよ。聞けばこの娘の父親も土系の錬金術を使うらしいけど」
「はい。しかし実の父親ではありませんが」
ポーナの問いにリオールが答える。
「実の父親でなくても問題ないよ。ガレンの錬金術は研究と経験で相性が良くなるもんなんだよ。身近に感じていれば問題ないよ」
「それに地面と直接接する義足は、ガレンでは土系の錬金術で作るのが一番良いんだよ。その土系統の錬金術に触れる経験が多ければ、適応するのも早くなるよ」
ポーナの説明に被せるようにネーナが一言付け加える
「早くなると言ってもリハビリには何年も掛かるね。それは私の作る義手でも同じ事だね」
ポーナも一言付け加える
「私もネーナも義肢に関しては専門家だよ。最高の物を作ってやるよ。だけどリハビリは本人次第だよ。長い時間のかかる事だし、本人に良く言って聞かせておくんだよ」
「それは大丈夫だと思います。フロンは意志が固く頑張り屋ですから。義肢の最高峰であるウィラードとガレンの義肢を作って貰えるのは有り難い事です」
「よろしくお願いします」
テツが言ったようにウィラードとガレンの義肢は最高の物であった。ウィラードの魔術式やガレンの構築式を埋め込んだ義肢は自分の手足と同様に動かす事が出来るのである。それでも相性によって付けられない場合もあり、付けられてもリハビリが大変で自由に動かせるようになるには至難の業であった。
「テツ君、ちょっといいかな」
テツの後にリオールがネーナに説明を求める。
「先程先生は風の精霊について言っておられましたが、ウィラードの魔術に精霊という概念はなかった様に記憶しているのですが?」
「たしかにあんたの言う通り、ウィラードでは元々は精霊という概念はなかったね」
「ウィラードの魔術は、あんた達エサールやマウルションタのように精霊の力を借りて、精霊と言葉と誓約を交わす事により発動するという物ではなくてね、大気中に拡散しているマナと言われる物から魔力を抽出し、その魔力を魔術式や魔方陣に流して発動するという物だね」
「だけどそのマナにも属性というものは存在するんだ。その属性の中にも風の属性というものはあるんだよね」
「新世界になって色んな人と交流する内にね、私は各世界では呼び方は違うけれど、実際には同じ様な物も多いんじゃないかと思うようになったんだ。だからエサール人のあんたにもわかりやすく説明する為に精霊という言葉をつかったんだけどね」
「そういう事でしたか。ありがとうございます」
「まあ同じかどうかは研究していかないとまだわからないけどね。職業柄色んな人種と話す事が多いから、私自身、言葉が混ざっちゃってる事も多いしね」
リオールへの説明を終えて、ネーナはセルヒラードの方を向いて言う。
「そんじゃあそこのカクトメスト人も来なさい。診察するからね」
押し黙ったままのセルヒラードに、診察室まで来るように促した。
「いや俺は別に。お嬢の方を引き続きお願いしたいのだが」
「その娘の治療自体は大体終わってるのよ。両脚の手術をするにも準備が必要だ。この病院は大きいが何でも揃っている訳じゃないんだよ。それにな、さっきも言ったが、後は時間をかけてやっていくしかないの。いいからあんたは黙ってついて来なさいよ」
ポーナに一喝されて、セルヒラードはトボトボと診察室までついていったのである。
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