混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

殺意 6

 先頭のカクトメスト人が『速い!』と思った時には既にもう遅かった。すれ違いざまにテツは、このカクトメスト人の胴を叩き斬っていた。
 テツの戦闘能力は格段に上がっていた。旅に出て、いくつかの怪物の襲撃を退けて、強くなっていった。
 だが、この牧場跡へ潜入する前のテツには、ここまでの力はなかった。潜入し、一人での戦闘を繰り返した事。フロンを守る事が出来なかった己への失望。ダビルドへの怒り。それら全てを糧として今のテツとなっていた。身体能力の高いカクトメスト人に何もさせず、一瞬で斬り捨てたテツにである。

 カクトメスト人を斬り捨てたテツは、直ぐさま左に飛んで、反応し切れていないドフ人の首も一瞬で刎ねた。

『切れない。それに重い』

 2人を斬ったテツの、今彼が持っている両刃の剣に対する感想である。
 この剣の刃は厚く、斬れ味も良くはなかった。その分丈夫であり、受け太刀には向いているだろう。攻撃性能としては、骨を叩き折る事を目的に作られた、主に内部からの破壊を得意とする武器である。
 スピードを信条とするテツの闘い方とは相性が良くはなかった。

『あれは良さそうかもな』

 手にしている武器の性能に不満を感じたテツが、サイロの外にいるアース人の持つ武器に眼を止めた。

 サイロ内まで入ってきている敵の残りは3人である。入り口を少し入った所にアース人とガレン人、その前方やや左にマウルションタ人がいる。マウルションタ人は既に詠唱を始めているし、ガレン人は右腕に特殊な籠手を嵌めていて、左手でその籠手を抱える様な体勢でいる。錬金術を発動する為の籠手だと思われた。
 テツはリオールに目配せをした。リオールが小さく頷く。その頷きを合図にテツは右に駆け出した。
 入り口の2人の前を素通りし、詠唱が終わる前のマウルションタ人に身体ごと突っ込んだ。両刃の剣を体深くまで突き入れ、剣をコネる様にして内臓を破壊しトドメを刺した。
 入り口にいたガレン人が特殊な籠手を振り上げ、テツを視線に捉えたまま、地面に向かって振り下ろす。

「ドシュドシュ、ドスッ」

 次の瞬間にガレン人の胸と腹、そして隣にいたアース人の右肩に穴が開いた。リオールの放った風の矢が貫いたのだ。リオールは唯一の入り口を守る為に、次の詠唱を始めている。
 ガレン人の籠手は地面を操作する構築式を内蔵していた物だったのだろうが、その錬金術は発動する事なく絶命するに至った。

 絶命したガレン人の遺体と右肩を貫かれたアース人は、風の矢の威力でサイロ外まで飛ばされた。テツは突き刺した剣から手を離し、無手となって追う様にサイロ外に飛び出した。
 外に出たテツは飛ばされたアース人に追い打ちをかける。地面に着地し転がるアース人に向かって高く飛び込み、空中で身体を捻ってアース人の首に右回し蹴りを上から斜めに振り下ろしてトドメを刺した。
 テツの着地の瞬間を長身のカクトメスト人が狙う。着地したテツに向かって覆い被さる様に襲ってきたカクトメスト人が、右拳を振り下ろした。カクトメスト人の懐深くに入り込む様に、身体を反り返らせながら反転し、右拳をくぐり抜ける様に躱したテツは、カクトメスト人の喉笛に左の肘を深く突き刺して、首の骨を破壊した。

『2人少ない、逃げたかな?』

 サイロの外にいる山賊が4人しか残っていなかった。テツが最初にサイロの入り口を固めた山賊の気配を探った時には、17人いた筈であった。ダビルドと共に消えた人数が5人で、倒した人数が6人。残りは6人の筈が、目の前には4人しか残っていなかった。本を開いて構えるウィラード人と3人のアース人だ。アース人とマウルションタ人は見た目では区別がつかないが、詠唱していないところを見るとアース人に間違いないだろう。
 入り口の左側にウィラード人と2人のアース人、右側にはアース人1人だけだった。テツは首を破壊したカクトメスト人をすり抜ける様に右に向かって走った。
 右側のアース人とテツの距離が縮まる。無手のテツを近づかせまいと、アース人は手にしている武器を水平に振るってきた。テツは突進に急ブレーキをかけて、その切っ先を躱すと懐に潜り込んで右拳をアース人の鳩尾に減り込ませた。

「サルダレイ!」

 テツの後方から魔術発動の声が聞こえ、稲妻が矢の様にテツの背後を襲う。しかしそれはテツにとっては織り込み済みの事態であった。
 アース人の懐から、アース人の右側を回り込んで背後に回る。その際にアース人の右手に握られていた武器をも奪い取っていた。テツは背後からアース人の背を蹴り飛ばして身を屈めた。

「うぎゃああぁぁぁぁ」

 蹴り飛ばされたアース人は稲妻の矢を受け、悲鳴と共に絶命した。
 崩れ落ちるアース人の後ろで、目的の武器を手に入れたテツが、その武器の柄を両手で握り、残り3人の敵にその武器の切っ先を向けて、真正面を向いて構えていた。

 テツが奪い取ったその武器は、奇しくもテツの出身であるアースの日本国が発祥の武器で刀という。
 刀は斬れ味を追求した武器で、刃が片側にしかなく刀身にも反りがあり、刀身自体も細い。最高の斬れ味を持つ反面受け太刀には向いていない。柄の上に鍔という受ける為の物もついてはいるが、刃が厚く重い両刃の剣の攻撃を受ければ、折れるか曲がるかしてしまうだろう。
 だがテツの戦闘スタイルとの相性は抜群に良いと思われる。

 テツを背後から襲った稲妻の矢は、ウィラード人が放った魔術である。ウィラード人は魔術の発動に詠唱を必要としないのである。
 ウィラード人は詠唱の代わりに、魔方陣や魔法式といったものを、特定の物に込めている。その代表的な物は杖や本ではあるが、人によっては剣等の武器に込めて使用している事もある。
 魔術を発動する際には、合図となる言葉であったり、仕草であったりをすれば、込められている魔方陣・魔法式が魔術を発動させるのである。
 このウィラード人の場合は、魔方陣を内蔵している物が本であり、発動の合図が「サルダレイ」という言葉であった。ただし、本や杖は魔術との相性が良く、一つに多くの魔術を内蔵させる事が出来る為、この本にも稲妻の矢以外の魔術も内蔵されている可能性は高い。テツもその事は承知しているはずであった。

 テツは刀を構えながら慎重に距離を詰めて、飛び込む隙を窺っている。
 山賊達は、ウィラード人が本を開いて魔術発動の体勢を取っている。その左右からは2人のアース人が、各々の武器を構えてウィラード人より若干前に出てきていた。

「ウゴオォアアァァァー」

 テツが山賊達との距離を詰めていた時、突然、牛舎の方向から地響きの様な咆哮が、辺りに鳴り響いた。

「ビュンッ・・・グシャ」

 咆哮と共に何かが飛んで来て、サイロの外壁に当たり潰れてしまった。人であった。体格からしてホビー人であったと思われる。テツは山賊達に警戒しながらも、牛舎の方を横目で確認する。

「ウゴアアァァァー」

 巨大な山の様な人影が、真ん中の牛舎を破壊しながら現われた。ルドロールであった。

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