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混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

怪物 5

   「実はね、ガードナーさんのところの小作人が二人、怪物に襲われて亡くなったそうなんだよ」

   「どんな怪物だったんですか?」

 グリード氏の報告を聞いて、テツが問い返した。
 作業の手は止めていないが、少し緊張している様な表情に変わっている。


 ここで言う《怪物》とはどんなモノか簡単に説明しておこう。
 何度も述べているように、再構築後の新世界にはいくつもの世界の生物が集まっている。
 同じ世界から来たモノ同士ならば、普通に感じるモノでも、別の世界から来たモノにとっては、異形と感じるモノも少なくない。
 そういったモノの中から、特に人を襲うモノを指して《怪物》もしくはMonsterと言う。又、こういった《怪物》が《混じり》である可能性もあるのだ。


 テツの問いに対しては、会合の際に詳細をメモしていたリオールがグリード氏に代わって答えだした。

   「ガードナー氏の小作人は、三人で稲の収穫作業中に襲われたそうです」
   「逃げ延びた小作人はアース人で、彼の話しから襲ってきた獣は、アース原産の虎という動物で間違いないようです」
   「普通、虎という動物は黄色に黒い縞模様がある動物らしいのですが、襲ってきた獣は、白に黒い縞模様だったそうです」
   「アースには、白に黒い縞模様の虎もいたらしいのですが、それはかなりの希少種だったらしいし、彼が記憶していた虎よりも、襲ってきた獣は明らかに大型の動物であったとも証言していますから、混じっている可能性が高いと思われますね」

   「何処の田んぼで襲われたんですか?」

 テツは作業の手を止めて、問いを続けた。その目は鋭さを増してきている。

   「ガードナー氏の敷地内では、南東の端にある水田だそうですよ」

 リオールの返答を聞き終えた時には、既にテツは立ち上がっていた。そして、おもむろに走り始めた。

   「どうしたんだテツ君?」

 ゴサーロが、テツの只ならぬ様子に声を上げた時には、テツは既に台所の土間に降りかけていた。
 左手で立てかけてあった鎌を摑み、右手で勝手口を開け放ち、彼は外に駆け出した。

 この時になって、ようやくグリードはこの場の違和感に気がついた。

   「リン!フロンは?」
   「フロンは何処にいる?」

 グリード夫妻と使用人達の四人は、フロンの不在に気づいていなかったのだ。

   「お姉様なら、アロンベラを摘みに行ったです」

 一同は青ざめた。

    「ゴサーロ。頼めるか」

   「はい。旦那様」

   「私も人を集めて、直ぐに追いかける。女達は家に残っていなさい」

 先ずはゴサーロが取るものもとりあえずに、テツの後を追った。
 ファルエサールであるゴサーロには魔術の心得がある。武器はいらない。

  次いで、グリードが使用人小屋に走った。当然、人をかき集める為である。


 アロンベラのハウスは、グリード氏の屋敷から北西に2キロメートル程行った所にある。
 先程、テツがグリード氏の屋敷まで向かって来た一本道を、屋敷を通り越してそのまま北へ向かう。
 屋敷周りの空地を抜けると道の西側はまたトウモロコシ畑、東側は牧場が広がり、乗用馬用の馬小屋もいくつか建っている。
 500メートル行くと、道は十字路に分かれていて、そこを西に曲がり800メートル行くと今度は丁字路にぶつかる。ここまでの間はトウモロコシ畑が広がっている。
 丁字路を再び北へ向かう。300メートル行くと用水路を越える。ここから先は、グリード氏の稲作地帯となっている。
 用水路は100メートルおきに流れていて、4本目の用水路を渡った先の道の両側に3つづつ、計6つビニールハウスが並ぶ。
 これがグリード氏のアロンベラのハウスである。

 ビニールハウスを抜けた先は森になっている。森の中には用水路の元になっている小さな小川が流れていて、この川がグリード氏の土地の境界線になる。
 道は森も川も突っ切るように続いていて、この先は、道の西側がガードナー氏の、東側がチャン氏の敷地である。
 両氏共に小川から水を引き稲作を行なっている。ガードナー氏の南東の水田とは、この場所の事である。


 テツが丁字路を北に曲がり、最初の用水路まで150メートルという所で、前方にフロンの姿を見つけた。
 フロンはアロンベラを摘んだ籠を抱え、テツから見て3本目の用水路を渡るところだ。その距離350メートル。

   「フロン!」

 テツは叫んだ。フロンの方でもテツに気がついたが、彼女は軽く手を上げて答えただけである。

 テツがグリード氏の屋敷を出てから、ここまでに要した時間は2分半。テツの出身のアースではオリンピック、いや、世界記録どころではない驚異的なスピードである。
   
 そこから更にテツは速度を上げた。
フロンの歩く道の西側の稲の中に不気味な気配を感じていたからである。

   

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