混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

農園 4

  「では、鎌入れの説明を始めますね」

   テツは小作人達の方に向き直って、講義を再開し始めた。
   この作業に使う鎌はかなり大きな代物である。

    振り回しやすい様に2か所に持ち手が付いていて、少し湾曲した1.2メートル程の長さの柄の先に刃渡り70センチ程の刃が付いている。
   刃の付け根の部分は、立ったままで地面と平行に振れるように角度がついていた。

  「ネフラの根元、地面から1センチくらい上から1.5センチくらいまでの間の部分をスパッとやって下さい。この間の部分だけが唯一切れる場所で、それより上過ぎても、下過ぎても、硬くて切れません」
  「この部分は切れるとはいえ、一気にスパッといかないとやはり上手くは切れないので、思いきりよくいっちゃって下さい」
  「この作業は慣れれば簡単な作業なんだけど、慣れるまでは危ない作業なんで、少しずつ落ち着いてやって下さいね」

   テツは念を押すように言葉を続ける。

  「硬い所で刃が弾かれる事があるし、逆にスパッと行き過ぎてバランス崩しちゃう事もあるから、自分の態勢をしっかり整えてから、一気にスパッとです」

   さらに注意は続く。

  「ネフラの上の部分が間に落ちていたりして、それの硬い所に当たっても危険だから、出来るだけ取り除いてからやって下さい。手が届かない場合は鎌がそっちにいかない様に注意して」

   まだ1本も切っていない内から、いささか注意がしつこい。その後も素振りをやらせては、地面と平行になってないだのなんだのと続いていく。

   テツがこの作業の注意に時間を割くのには理由がある。フロンが去年怪我をしたのは、正にこの鎌入れ作業中だったからである。

   さっきテツが述べたように、この作業には慣れが必要だが、慣れてしまえば気持ちがいい程に、まとめてスパッといけてしまうのである。

   去年のフロンも勢いがつき過ぎてバランスを崩し、自分の脛に刃を当ててしまい、8針縫う怪我を負ってしまった。 それ故のしつこさであった。

  「とりあえずやって見せますね。初めは2・3本づつでもいいですから」

   ようやく実践を始めた。

   テツが鎌を一振りする、5本のネフラがスパパパッと宙に舞った。なるほど、決まればかなり気持ちの良い作業の様だ。

  「んじゃ、やってみて」

   小作人の2人の作業もようやく始まった。
   たまに硬い所にガチンとやってしまう事もあるが、2・3本づつならそれほど難しくはない。ただガチンとやると手が痺れて相当痛い。

  「そうそう」「少しずつ本数増やしていって」などと監督しながら声をかけるが、テツは、この2人にだけかまけている訳にはいかない。
   あの勝気なおてんば娘の様子も、気になって仕方がないのだ。

   小作人達も、その事は承知している。

  「なんかあれば聞きに行くから、お嬢の方も見に行ってやってくれや」

   テツの気持ちも考えてか、かえって小作人の方から提案してきてくれた。

  「そうかい。じゃあ自分の所やっつけちゃってから、ちょっと行ってくる」

   そういうテツに小作人達は、気になるなら自分の作業なんか後回しにして、さっさと見に行けばいいのに、と内心思っていたところに。

  『ズバンッ‼︎』

   音と共に、数十本のネフラが宙に舞っている。見ると、ちょうどテツが鎌を振り切ったところだった。

   彼の手には、彼愛用の鎌が握られている。その鎌は柄の長さこそ少しだけ長い程度だが、刃渡りは他の鎌の倍の長さはある。
   彼はその巨大な鎌を見事に振り回し、あっという間に自分の割り当てを刈りきってしまった。

  「フロンの様子見てくるから、何かあったら直ぐに来て下さいね」

   そのあまりの速さに大人2人はあっけにとられてしまった。




 

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