混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

農園 3

  「痛いよ、フロン。それに危ないから駄目だって断わっただろ」

 「去年だって手伝ったでしょ。今年は気をつけてやるから大丈夫よ」

   少女は唇を尖らせながら反論した。この少女はこうなったらテコでもいう事を聞かないのだ。

   少女の名はフロン・ヴァンデマルク。豪族グリード・ヴァンデマルクの娘である。
   父と同じくガレン人のシルバーで、この種族の特徴でもある銀髪を腰の辺りまで伸ばしていた。

   その、美しく長い髪を後頭部の辺りで、可愛いらしいピンク色のゴムを使いまとめ始め、  早くもやる気になっている。

  「お嬢。また旦那さんに怒られますよ。止めて下さい」

   先ほどからの2人のやり取りを聞いていた、彼女の家の小作人のひとりが、作業の手を止めて訴えた。

  「あなた達が黙っていれば、お父様にはわからないわよ。いいから、作業を続けなさい」

   小作人の訴えを気にも留めず、今度は布製の紐を取り出して、たすき掛けをしている。この紐もピンク色だった。
   最後に軍手をはめて、どうやら準備は整ってしまった様だ。
   服装は、元々動きやすそうな格好をしてきている。

   テツは、準備を終えた彼女の傍に、刈り取り用の大きな鎌を見つけた。
   彼が自分で用意してきた3本の鎌は、自分の傍にちゃんとある。

  「フロン、お前また勝手にうちの鍛冶小屋に入ったな。危ないから入るなっていつも言ってるだろ」

   テツの家は主屋の他に、物置小屋と鍛冶小屋、それと収穫した作物を選別・加工する為の作業小屋とがある。
   物置小屋に置いてあった鎌は、彼の小作人達が持っていったはずで、他には予備として作ったばかりの鎌が、まだ鍛冶小屋に置いたままになっているはずであった。

  「だって必要でしょ。さ〜て、私も始めるわよ」

   駄目だ。全く聞く耳を持たない。

   どうやらテツの方が折れた様だ。グリード氏には、後で謝る事にして、彼女にも手伝ってもらう事に決めた。

  「しょうがないなぁ。こっちの方はそろそろ鎌入れ始めるから、そっちの一画の中折りしててくれるか?くれぐれも気をつけてな」

   フロンは、最初から素直にそう言いなさいな、とでも言いたげな顔をしながら、

「わかったわ。任せて」

   と、これまでの怒った言い方とは別の、キッパリとした返事をし、晴れやかな笑顔を見せた。


 

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