混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

序章 3

   その頃、日本国の時間では11時20分を過ぎた頃である。三人の子供達は動物達を駆け足で一通り見て回った。
   途中、象の前でまたアキツグが固まってしまったが、この時もテツヒロが移動すると急いでついてきた。
 その後、母親達と合流し、今度は遊園地エリアを駆け回っている。

   それにしても子供というものは小さな身体の何処にどれだけの体力を有しているものなのだろうか。
   入園からここまでの間、止まる事なく動き続けている。


  「それにしても、あんた達ハシャギ過ぎよ。さすがにちょっと疲れたでしょう。少し早いけどお昼ごはんにしましょうか」

   と、サトミが切り出して昼食の席につく事になった。

   テツヒロとみっちゃんは席についてもメニューも見ずに、昼食後には何を見ようか、何をしようかと話し続けている。この二人は同い年でもあり、普段から特に仲がいい。

  「二人共いつまでも話してないで、早く決めなさい。グズグズしてると私が勝手に決めちゃうわよ」

   相変わらずの口うるささで母に急かされ、二人は渋々メニューを見始めた。

   サトミの方では

「アキちゃんは何がいい?疲れただろうからいっぱい食べなさいね」

  とアキツグの世話を焼いている。

   サトミは一番幼いこのアキツグの事が可愛くて仕方ないらしく、普段から母親に「みっちゃんとアキツグ交換しない?」と、冗談半分だろうがよく言っていた。
   サトミですら、息子を呼ぶ時に、みっちゃんと呼称していたのは少し笑えるだろう。


   話しは逸れるが、サトミとアキツグとは後年になって再会を果たしている様である。
   この後に、知り合いと再会する事などは奇跡に近い事だが、アキツグがサトミの家を訪ねるかたちで再会し、数日やっかいになった様であるが、詳しくはわかっていない。
   その時、みっちゃんがどうなっていたのかもわからない。


   五人の注文は揃ったが、このレストランは店員さんが注文を取りに来るのではなく、お客が注文をしに行き、出来上がった料理も自分で取りに行くタイプの店であった。
   いくつか食べ終わった食器が誰もいないテーブルに置かれたままになっている。どうやら片付けは店員さんがやってくれるようである。

   子供達三人が母親達の分もまとめて注文しに行く事となった。

  「ごはん食べたらもう一回ホワイトタイガー見に行かないか?」

   テツヒロが席から立ち上がりながら、またみっちゃんに話しかけた。
   みっちゃんとアキツグも続いて立ち上がったが、返事をしたのはアキツグの方である。

  「うん。僕ももう一度ホワイトタイガー見たい」

  「お前さっきビビってたじゃないか。だいじょう・・・」

   言い終わらぬ内にテツヒロは異変を感じた。
   その場の全員もまた異変を感じ始めている。

  『地震・・・?』

   いや、地震にしてはおかしい。電車が止まる時の、横に一度だけ大きく揺さぶられた様な感覚だ。

   みっちゃんがバランスを崩し地面に手をついた。次いでアキツグもバランスを崩した。
 四つん這いになっているみっちゃんの上に覆い被さりそうになり、慌ててその背中に手をついた。

  『熱い・・・?』

   いや、熱いという程ではないが普通の体温よりも明らかに高い熱が、みっちゃんの背中からTシャツを通してアキツグの手に伝わってきた。

   顔を上げ、兄の顔を見てまたアキツグは驚く。

  『ブレている・・・?』

   いや、歪んでいるのか、よくわからないが兄の顔がハッキリとしない。
 靄がかかっているという様なものとも違う。ハッキリとはしている顔が幾重にも重なって見えている感じである。

   「テツ兄ち・・・」

   「アキツ・・」


  【・・・ヴツン・・・】


   最後に残った感覚は、全ての映像が、光が、スイッチが切れた様に途切れ、闇に変わっていった。

   この瞬間に世界の全ては一度消滅し、そして、再構築された。

   アース暦は2020年の5月5日で終わりを告げた。

   ドイツ国の時間で4時44分。
   日本国の時間では11時44分の出来事であった。


   この後、アース暦2020年の5月5日はBR1年5月5日(BRはBefore Reconstructの略)とされ、それ以前は遡って表記された。

   そして、それ以降5月6日からは新世界、NW1年5月6日(NWはNew Worldの略)が始まる


  


  

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