魔剣による(※7度目の)英雄伝説
第1章『最強の魔剣』編 20話「決闘part2」
「それでは、始めましょうか?」
「分かりました。……では」
学園のアリーナで、一人の少女と少年が剣を構える。そして、この学園の生徒会長である西園寺愛望はその様子を見て…、
「………どうしてこうなったのかしら?」
「今更ですよ?会長」
頭を痛そうにして手を額に当てる。彼女の姿を見て、麻衣がそうは言っているものの、彼女もまたやれやれといった様子である。というのも、これから始まるのはリュートと凜花による決闘である。なぜこんなことになったのかと言うと……、
「私と………決闘してくださいませんか?」
「分かりました」
凜花の問いに即座に答えたリュート。その様子にクロとイザナミ以外のメンバーが驚いた表情をする。流石に予想外だったのか、凜花も少し驚いた顔をしているがすぐに笑みを浮かべ、
「ありがとうございます。……それでは、行きましょうか」
「はい、アリーナでよろしいですか?」
「えぇ。それじゃあ……」
「ちょ、ちょっと待って!」
愛望が二人の会話に入り込む。
「どうしましたか?会長さん?」
「どうした、じゃないわよ!なんでいきなり決闘なの?」
愛望は少し困惑気味である。
「ただの腕試しですよ、会長。心配することなどありませんよ」
「そうじゃなくて……」
「………大丈夫ですよ、会長」
「へ?」
リュートは愛望に向かって、的外れな返事を返す。
「私は負けませんから」
「い、いや。そうじゃなくて…」
「それでは、行きましょうか。神宮寺さん」
「えぇ」
そう言って、二人はとっとと行ってしまう。
「ちょ、ちょっと!」
愛望は止めようとしたが、すでに時遅く。
「………行っちゃいましたね」
麻衣がそうつぶやく。
「………まぁ、あの二人のことだから大丈夫だとは思うのだけどね」
愛望も二人のことを信用していないわけではないのだが、優しい性格からあまり戦いを好まない。もちろん、戦闘能力で言えばこの学園でもトップクラスであるが、彼女は基本的には決闘をしないようにしているのだ。すると、
「大丈夫じゃよ、愛望」
イザナミが声をかける。
「主様は優しいからの。あの娘、凜花?とか言ったかの?その子に怪我などさせぬよ」
そう言って、ニカッと笑う。その笑みはリュートのことを信じて疑わない最高の笑顔だった。
そして、冒頭に戻る。
「それでは………、参ります」
「はい」
そう言って、二人が訓練用の剣を構える。
「…………」
「…………」
二人の間に、一瞬の静寂が訪れる。そして、
「はっ!!!!」
模擬戦が始まった。まず、先手を打ったのは凜花である。【身体強化】の魔法を発動し、超人的なスピードで脇構えの体勢からリュートに迫り、一気に振り抜く。その一撃は相手が普通の魔法師であればこれで終わっていただろう威力であった。しかし、
「ふっ!!」
リュートはそれを正面から受け止める。彼女は女性ではあるが、普段から鍛えているため一般男性よりも筋力などは上である(その細い体からは信じられないが……)。さらには魔法により、身体能力も上がっている。なにより、その速さは常人の目では捉えきれないだろう。それを容易く受け止める彼は流石というものだろう。凜花も一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに切り替えて次の攻撃に移る。
「てぃやっ!!」
「ふっ!!」
凜花が攻め、リュートが時々牽制を交えながらそれらを受け止めたり、弾いたりしている。それを見ていた生徒会のメンバーは、
「………すごいわね」
「………はい。もう、なんでもありですね」
「「…………」」
みな、驚いた表情を浮かべていた。リュートの身体能力は先程の決闘である程度はわかっていたものの、まさか剣もここまでとは思っていなかったようである。クロとイザナミは当然とでも言いたげな表情を浮かべ、リーシャとレイは二人の戦いを見ることに集中しているようだ。
すると、凜花がリュートから距離を取る。
「………やはり、すごいですね。リュートさん」
「お褒め頂きありがとうございます。ですが、神宮寺さんの剣術も見事です。女性の体を活かした柔軟性や、力の反動の使い方。たゆまぬ努力から生まれるその技術力。素晴らしいと思います」
「くすっ。ありがとう」
「では、次はこちらから行かせていただきます」
「………」
二人の間に緊張感が漂う。そう、この戦いにおいて、リュートはまだ一度も攻めていない。凜花の攻撃を弾き、ある程度の牽制を入れているだけなのだ。そのため、凜花は先程よりも神経を集中させ、彼の一挙一動を見逃さないようにする。しかし次の瞬間、凜花の目の前にはリュートの姿があった。
「なっ!?!?」
そして、最初の凜花と同じように脇構えの体勢から一気に振り抜く。
「くっ!!!」
凜花は辛うじてそれを弾く。ギンっ!と鈍い音がする。すぐに次の攻撃が凜花に襲いかかる。
「ふっ!!」
「っ!!」
そのスピードは、先ほどの凜花の斬撃よりも早く正確であった。それに対して、凜花は防戦一方であるが辛うじて彼の斬撃を捌いていた。それを見て、リュートは密かに微笑む。
「(ここまで差があるなんて!しかも、彼はまだまだ本気なんて出してないみたいだし……)」
凜花は悔しく思いつつも、彼の剣技に憧れを抱き始めていた。力のみで押し切るわけでもなく、その技術力から来る無駄のない剣筋はまるで舞を舞っているようにすら思える。彼の剣舞には、自然と人を引きつける魅力があった。
そして、凜花はなんとか距離を作ろうと大きく後ろへ跳ぶ。リュートはすぐさま、凜花を追って前に跳んだ。しかし、凜花はすぐに体勢を立て直し、リュートと同じように前に跳ぶ。その速度は今までとは、比べ物にならない程であった。
「っ!!!!」
流石にリュートも驚いたようだ。この状況は言わば正面衝突。彼女の剣術的にはあまり合っていない攻撃である。しかし、彼女は真っ向からリュートに挑みたいと思い、勝負を仕掛けた。そのことを瞬時に理解したリュートは、
「はぁっ!!!」
「やぁっ!!!!」
凜花のその思いに答えるように剣を振るった。
『キィンッ!!!!!』
金属同士をぶつけた音がする。その音の中心にいた凜花の手には剣はなく、地面に転がっている。対してリュートは剣を持った状態で凜花の首に剣を当て立っている。そこで、愛望が思い出したかのように、
「そっ、そこまで!勝者、リュートくん!!」
決闘の終了を知らせた。
〜凜花side〜
『キィンッ!!!!!』
私の全力の攻撃は、彼に弾かれた。
「(……あぁ。負けたんだ)」
久しぶりの感覚だ。この学園に来てから、身体能力と武術では誰にも負けていなかった。魔法を使った模擬戦でも、自分の身体能力と剣を使って勝ってきた。他の人よりも、魔法の才能がないのは誰よりも分かっていた。だからこそ、それを理由にして負けたくなかった。逃げたくなかった。でも、今日私は彼に負けた。自分よりも魔法を使えないにも関わらず、圧倒的な力を持つ彼に。
「(あれっ?)」
急に体に力が入らなくなった。無茶をしたからかしら?最後の身体能力上昇魔法は、まだ一回も成功してなかったやつだったし。でもまぁ、一回だけ、ほんの一瞬だけど使えたからよしとしましょうか。
「(あぁ、でも……やっぱり、悔しいな)」
そう思いながら、私は目を閉じて倒れていった。……………あれっ?どうして、地面にぶつかる痛みがないの?それになんだか、誰かに支えてもらっているみたいな感じが……。そう思って、目を開けると目の前には………、
「お疲れ様でした。神宮寺さん」
そう言って微笑む、彼がいた。
「大丈夫ですか?神宮寺さん」
リュートがそう言って凜花に向かって微笑む。というのも、凜花が倒れそうになっているのを見た彼がすぐに彼女の元に現れて彼女を支えたのである。
「…………」
「それにしても、先程の模擬戦は実に素晴らしかったです。特に最後の【身体強化】は、今までとは全く違っていました。魔力量を増やしただけでなく、魔力をコントロールして体の一部分に集めることでさらに能力が向上していました」
「………………」
「正直最後のは、少し焦りました。まさか、剣の速度で追いつかれるとは思いもしなかったので。私もやはり、まだまだですね」
「……………………………」
「えっと………、どうかしましたか?」
先程から反応もせずに自分の方をじっと見ている凜花にリュートは少し困惑している。すると、
「……え、えぇ!だ、大丈夫!大丈夫よ!!その、少し驚いてしまっただけだから!!だ、だからその………、少しだけ、離れてくれると、その嬉しいというかなんというか……」
「??」
凜花の言葉は、どんどんと小さくなっていき最後にはほとんど聞こえないほどになっていた。彼女がこんなにも焦っているのは、リュートの顔が目の前にあるからである。凜花は、後ろに倒れてしまったためそれを受け止めたリュートの顔が近くなってしまったのだ。
「(リ、リュートさんの顔がこんなに近くに!!ど、どうすれば……!)」
「神宮寺さん?なんだか、顔が赤くなってきていませんか?」
「い、いえ!そんなことはありませんよ!!」
「そ、そうですか……?」
凜花は、なんとかこの状況から脱しようとするものの、彼が察しが悪いのは分かっているのでどうしようもないようだ。
「(………それにしても、やっぱりリュートさんってきれいな顔してます…)」
恥ずかしすぎて、頭が冷静になったのか、凜花はそんなことを考えていた。
「(ほんと、女の子って言われてもあんまり不思議じゃないですね)」
しかし、余裕が出てきたのもつかの間のことで、
「それでは、少し失礼します」
「へ?何を………」
そういうと、リュートは凜花を抱きたげた。いわゆる、お姫様抱っこである。
「え……えぇ!?!?あ、あの!!リュートさん!?」
「少し我慢していてください。すぐに着くので」
「そ、そういう問題じゃ………!?!?」
「では、行きましょうか」
相変わらず、マイペースなリュートである。
「(な、なんでこんなことに……!?!?)」
凜花は内心(顔にも出まくっているが)パニック状態だった。彼女は女性にしては背が高い方で、性格も曲がったことが嫌いな真面目な性格から同性にもモテている。そして、彼女自身も剣の道を極めようと努力していたため、こんな乙女チックな状況は人生初なのである。
「(…………でも、なんででしょうか。ドキドキして、とても苦しいはずなのに……、とても安心します)」
凜花は、チラッとリュートの顔を覗き見る。
「……………」
しかし、すぐに視線を逸らす。
「(な、なんだかさっきよりもドキドキします……。一体何なのでしょうか、これは?)」
凜花は自分が初めて感じるこの不思議な感覚に戸惑いを覚えていたが、
「(………とりあえず今は、考えないようにしましょうか)」
凜花は諦めたようにリュートに身を任せた。とても不思議で、どこか心地よいこの感覚を感じながら。
To be continue.
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