ポンコツ少女の電脳世界救世記 ~外れスキル『アイテムボックス』は時を超える~

kiki

019  カタストロフ・ビギニング

 




「ご両親が心配してたわけよ、ニュースなんかにも頻繁に顔を出してね。そのあたり本人はどう考えてるわけ?」

 ミナコの言葉に、ミカは一切の反応を見せない。
 自分には関係ないと、頑なに主張するように。

「まあ、なんとなく私にも察しはつくわけだけど。両親と会話もせずにゲームの世界に没頭、両親曰く娘は”何でも言うことを聞くいい娘”。誰もが察してるわけ」
「それで、私を連れ戻そうと?」
「それは私の役目じゃないわけ。ただし、そういう計画が無いわけではない」
「計画……あなたが何者か知らないけど、両親に伝えといてよ」
「承諾しかねるわけだけど、一応聞いといてあげる」

 ミカは強い意志を込めて告げる。

「私は勇者フレイヤのミカよ、山瀬美香などという人間はもう存在しない!」

 胸に手を当て、毅然とした表情の彼女を見て、ミナコは思わず「はっ」と笑った。
 嘲笑、なのかな。
 あまり良い意味での笑顔では無かったみたいだけど。

「勇者になんてなれやしないわけよ、この世界はもう終わってるわけだから」
「勇者として死ぬことはできる」
「死? ふふ、ただのデータの消滅を死と呼べるわけ? 今のあなたに生命としての価値は――」
「ある、なぜなら私はここで生きているから!」

 何の話をしているのかよくわからないけど、ミナコって女の人は、どうもミカを試しているように思えた。

「……病弱で、あまり喋らない寡黙な少女。それが山瀬美香、か」

 ミナコは遠い目をしながらそう呟くと、表情から一切の笑みを消し、真剣にミカと向き合う。

「私は立場が立場だから、あなたの言葉をご両親に伝えることは出来ない。けれど引き返せなくなるまで、もうあまり時間は無い、とだけ伝えておくわけよ」
「引き返せなくなる?」
「選ぼうが選ぶまいが、救世主メサイアはやってくる――」

 そんな意味深な言葉だけ残して、ミナコの姿は薄くなり、やがて完全に消えた。
 取り残されたミカとあたしたちは、呆然と、彼女の消えた場所を見つめていた。
 何が何だか、全くわからなくて。

「えっと、ミカ?」

 ミナコが消えてから一切動きを見せないミカに、恐る恐る話しかける。

「今の人、誰だったの? いきなり消えちゃったけど、フレイヤ?」
「……たぶん、フレイヤじゃない」
「だったら――」

 誰なの? と問う前に、彼女は答えた。

「ダイバー。法に触れてでも、データの海に潜ってガラクタあさりを繰り返す偏屈な無法者たち」
「ダイバー……?」

 聞いても全然わかんない。
 データの海? ガラクタあさり?
 そんな人が、どうしてあたしたちの世界に姿を表したの? フレイヤと何の関係が?
 疑問は尽きない。
 けれど、ミカはあたしが問いかける前に、自分の中で何らかの答えを出して完結してしまったようで。

「ふっふふふふ……ふはははははははっ!」

 ふさぎ込んでいたかと思ったら、突然笑いだしてしまった。

「関係ない、ダイバーも元の世界も何もかも! 私はミカ、勇者フレイヤのミカ! それ以上でもそれ以下でもない! さあルトリー……でいいのよね。早く町の中に入ろう!」
「え? でも、町長たちの話し合いが……」
「そんなの勇者たる私が行けばどうとでもなるわ! ほら、他の人達もみんな行くわよー!」

 明らかに無理をしてハイテンションを保つ彼女に引かれ、あたしたちはドリュウンの町に足を踏み入れる。
 最初はどうなるかと思ったけど、本当にミカの言うとおりすぐに話はついて。
 ピリンキから移動してきた人々は、住居の確保ができるまでの間、宿に泊まることになった。
 そして、あたしたち3人与えられた部屋には、なぜかミカも宿泊することになっていて――



 ◇◇◇



 ――あたしは部屋で、テニアの抱えている事情と、この先の予定をミカに話していた。
 本当はあんまり話したく無かったんだけど、話すまで部屋から出ていってくれそうになかったから。

「ふむふむ、なるほどね。テニアは大切な人の病気を治すために、命がけの大冒険をしたということか、泣かせるじゃない!」

 泣かせるとか言ってる割には、かなり笑顔だけどね。

「じゃあ3人とも、ここからはピリンキの人たちと分かれてリレアニアに向かうわけね」
「そういうことになるな、ルトリーとハイドラを付き合わせるのは胸が痛むが」
「今さらだよ、テニアさん」
「そうそう、テニアが嫌がってついていくから」
「……ん」

 あたしたちから好意をぶつけられるのにも慣れてきたみたいで、テニアはちょっと俯きながらもはっきりと笑顔を見せた。

「3人とも仲いいんだね、うらやましい」
「そっか、他のフレイヤが消えたらミカの仲間はもう……」
「ん? いや、私は元々ソロプレイヤーだから」
「ソロプレイヤー? ソロってことは、1人で活動してたってこと?」
「あー。そうそう、そういうこと」

 フレイヤさんたちは集団で行動することが多かったし、そっちの方が早く強くなれる、って話を聞いたことがある。
 ソロだと倒せないモンスターもいるから大変なんだとか。
 そう考えると、ソロで今の強さまで上り詰めたミカって実はすごいんじゃ?

「フレイヤが全て消失するという大崩壊カタストロフに見舞われたこの世界で、実はただ1人生き残っていたフレイヤ――いやあ、何度噛み締めても勇者感あるわよねえ」
「勇者、感?」

 首を傾げるあたしの隣で、興奮気味のハイドラが両手を握りしめて熱弁する。

「あたしわかるかも。世界にたった1人ってフレーズ、選ばれし人間って感じがする!」
「ハイドラちゃんわかる? そうよね、たった1人ってのがミソなのよ。私は選ばれてるんだって実感するだけでも幸せだわ!」

 がしっと手を握り合うハイドラとミカ。
 あーあ、変な所で意気投合しちゃって。

「……で、テニアはなんでそこであたしの手を握ってんの?」
「対抗?」

 疑問符をつけられましても。
 しかも、握るだけでは飽き足らず、あたしの手の形を確かめるみたいにニギニギと揉んでくる。
 手だけど、所詮は手なんだけど、さすがにちょっと恥ずかしい。

「特にやることもないし、私もリレアニアまで付いていこうかな……」
「えっ?」

 思わず微妙な反応をしてしまうあたし。

「今のリアクションは、良い意味の驚きなの? それとも”えっ、付いてきちゃうの?”って意味なの?」
「あは……えっと、良い意味、かな」

 正直、あたしにも答えはよくわからない。
 ちょうどいい具合に混ざり合ってた気がする。

「複数人数乗れるマウントも持ってるから、私が居たらかなり短縮できると思うよ?」
「マウント?」
「四人乗りの、魔導車っていうんだけど」
「もしかしてそれって、フレイヤさんたちが言ってた”プレミアムなんとか”ってやつじゃ!?」

 フレイヤさんたちがプレミアムなんとかの話をする時は、必ず枕詞みたいに”守銭奴運営”とか”ボッタクリ”って言葉が付いてきてたような気もする。
 要するに、それだけとんでもなく高価なアイテムってことで。

「私の場合はゲーム内マネーで買ったから、10億ぐらいだったかなぁ」
「じゅ、じゅうおく……」
「さすがにその額は私も手にしたことがないな」

 10億って、ドラゴンの卵3つ分より高いじゃない。
 一生遊んで暮らせるなんてもんじゃないわ、4代先ぐらいまで遊んで暮らせる!
 というか、むしろ豪遊してあたしの代で10億全部使い果たしたい! ハイドラとリゾート地で死ぬまで遊びたい!

「うへへ……10億……」
「ママ、ヨダレ垂れてるよ……?」
「だらしない顔だな」

 おっと、危ない危ない、あたしのお金でも無いのにトリップしちゃう所だったわ。

「要するに、その魔導車ってのを使えば、リレアニアまであっという間についちゃうわけだ」
「あっという間、というか――次の町まで3時間か4時間ぐらいかな」

 十分あっという間じゃない。
 1日1個ずつ町を進んでいったとしても、リレアニアまでほんの3日で到着してしまう。
 しかも、野宿無しで!

「よし、これで話は決まりかな。明日の朝には出発ってことでいい?」

 明日、か。
 急だけど、ミーンさんのことを考えると早い方がいいよね。
 ただでさえ、ピリンキでかなり時間を食っちゃってるわけだし。

「ええ、それでいいわ。今日中に挨拶は済ませておかないとね」
「サーラさんやサワーちゃん、ルークくんとは、しばらくお別れになるってことかあ……」

 暇なときに孤児院の子たちと遊んでいたからか、ハイドラも子供たちと離れ離れになるのは寂しいみたいで。
 まだまだ今日は時間があるし、きっと日が暮れるまで一緒に居ても寂しい物は寂しいんだけど、思う存分一緒に過ごさないとね。

「もちろんテニアも一緒に行くでしょ?」
「ああ、私もお世話になったからな」

 こうして、あたしたち3人はサーラと子どもたちが泊まっている部屋へと向かった。
 ミカは準備も兼ねて、ドリュウンの町を見て回るんだってさ。



 ◇◇◇



 4人で部屋から出ると、廊下で友人のニールと走り回るルークを見かける。
 まったく、他所様の宿だってのに、よくそこまで騒げるわね。
 でもちょうどよかった、一緒にサーラの所に連れてくかな。

「あっはははははっ、ははははは!」
「おーいルーク、どこにいるんだよー!」

 一体何の遊びをしてるんだか。
 ニールがルークのことを探すふりをして、当の本人はひたすら笑い続けている。

「あはははははっ、あっはははははは!」
「ルーク、返事しろって!」
「はははははは! はははははははは!」
「おーい、おーい、ルーク! ルーク!」
「ははははっ、あっはははははは!」

 子供はたまに理解不能な遊びに興じることがあるけど、今日は特に意味がわからない。
 何の遊びか聞き出そうと、近くに居たニールの方に近づくと――

「あっ、ルーク、そこにいたのかよ!」

 彼はあたしの横をすり抜けると、壁に向かって走っていった。
 ガンッ!
 そして背後から、何かにぶつかった音が聞こえてくる。
 ガンッ、ガンッ!
 見ると、そこには何度も壁にぶつかる少年の姿があった。

「あぐっ……ルーク、ルーク! あれ、おかしいな、う、あ……なんで遠ざかるんだ? ルーク、ルーク、ルーク!」
「あっはははははは! ははは!」
「……う、うぅ……ルーク? ルーク、おい、そこにいるんだろ? 返事しろよ、ルーク!」
「ははははははははっ、あっはははははははは、ははははははは!」

 額から――いや、顔中から血を垂れ流しながら、それでもニールは壁にぶつかるのをやめない。
 あたしは慌ててルークの体を後ろから掴むと、呆然と立ち尽くすテニアに指示する。

「テニア、治療道具持ってきて! 早く!」
「わ、わかった!」

 慌てて部屋に戻るテニア。
 あたしが体を拘束しても、ニールはまるでそこに地面があるかのように歩く動作を止めない。
 明らかに異常よ、こんなのおかしい!

「ルーク、そこに居るんだろ? ルークー!」

 まるで壊れたみたいに、そこには居ないルークの名前を呼び続ける。
 もしかして、ニールの目にはルークの姿が見えてるの?
 でも本物のルークは、今も虚空をみあげて笑い続けていて――

「あっははははははは! ははははは! は」

 かと思うと、ぴたりと笑うのを止め、彼の顔から表情が失せる。

「……」

 そしてニールの惨状など目に入っていないかのように無言で廊下を歩き、角を曲がって姿を消した。
 何よ、今の。
 一体何が起きたって言うの?

「ルーク、ねえルークッ!」

 彼の消えた廊下に向かってあたしが呼びかける。

「ん? 呼んだか、ルトリー」

 すると、ルークは何事も無かったかのように、いつもの様子でひょっこりと顔を出した。

「呼んだか、じゃないわよ! 今のニール見てたんでしょ!?」
「は? いや、俺さっきここに来たばっかりなんだけど」
「馬鹿いわないでよっ、たった今、ここで笑ってたじゃない!」
「いやいや、んなわけないし!」

 必死に否定するルーク。
 でもあたしは確かに笑うルークの姿を見ていて、けど彼にも嘘をついてる様子なんて無くて。
 でも実際、ニールはルークと遊びながらおかしくなっていた。

「おい、ルーク! そこにいたのか、ああ、ルーク!」

 ニールはそんなことを言いながら、全く別の方向に手を伸ばす。
 そんな友人の姿を見て、ルークも異常事態に気づいたらしい。

「お、おい、なんでニールがそんなに血まみれになってんだよ!?」
「ルークー! ルウゥゥゥクウゥゥゥ!」
「ひっ……」

 明らかに狂っているニールの様子を見て怯えながらも、少しずつこちらに近づいてくるルーク。

「ニール、俺はここにいるぞ? なあ、見えてないのか?」
「ルーク、ルーク、なんで離れてくんだよ、追いかけろって言ったのはお前だろ? ルーク!」
「なあニールッ!」

 必死な呼びかけも、ニールには届かない。
 急変する事態に、あたしは助けを求めるようにミカの方を見た。
 けれど彼女は――ミナコと話していた時以上に青ざめた顔をしていて。

「この世界は……もう、終わってる……」

 とてもじゃないけど、助けを求めることなんて、できそうには無かった。





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