ポンコツ少女の電脳世界救世記 ~外れスキル『アイテムボックス』は時を超える~

kiki

015  昨日の敵は結局のところ今日も敵

 




 前方のゴブリンの眼球にナイフを突き刺す。
 ひるんでる間に、柔らかな腹部に刃をぞぶりと沈ませ、刃を回してとどめを刺し、引き抜く。

「アギャアァァァァアアッ!」

 倒れるゴブリンを押し倒すように、背後から現れたのはトレント。
 鞭のようにしなる枝をあたしに向けて振り下ろした。
 以前だったら回避が間に合わなかったこの攻撃も、今は大地のブーツのおかげで楽々バックステップで避けることができる。
 続けざまに、足元を狙った枝での攻撃。
 これも上に飛び上がり回避。
 くるりと前方に半回転、そしてそう高くはない天井を蹴り、また半回転しながらトレントに向けて急降下する。
 バギィッ!
 回転力を利用したかかと落とし。
 大地のブーツによって増強された脚力は、モンスターの体をど真ん中から真っ二つに割り砕いた。
 背後を確認すると、ストールが少しずつ二足歩行の豚のモンスター、オークにおされてこちらに近づいてきている。
 あたしの前方からも、2体の触手を蠢かせるウツボカズラのようなモンスター――プラントが迫っていた。
 一旦間を置くために後退。
 そのままストールとすれ違い、タイミングを合わせて2人同時に右足を踏み込むっ!

「シャドウステップ!」
「シャドウバインド!」

 似たようなアーツ名を叫び、あたしはストールを狙っていたオークの背後に移動。
 ザシュッ!
 重い体重を支えていたアキレス腱を切り裂くと、モンスターは膝をつき倒れる。
 ストールは手に持っていた針をプラントのに向かって投げつける。
 すると、2体のプラントはその場から身動きが取れなくなってしまった。
 影を縛ることで身動きまで封じる――それがシャドウバインドってアーツなわけね。
 お互いに敵モンスターの身動きを封じると、とどめを刺すべく急所に武器を突き刺した。

「ルトリー、後ろです!」

 あたしの背後の敵を見てフォローしようとするストール。
 それを首を振って拒絶すると、アイテムボックスを開く。

「スキルか? 随分と珍妙なのを持ってるみてえだな!」

 ずるりと異空間がモンスターを飲み込み、さらに背後に居たモンスターに短剣で攻撃。
 ガギンッ!
 っ、堅いわね、こいつ!
 堅牢な体を持つサンドゴーレムには短剣じゃ文字通りが立たない。
 飛び跳ねて振り下ろされた腕を回避。
 ――でも動きは緩慢。
 大地のブーツでつま先を叩き込み、回避。
 短剣で斬りつけ、回避。
 回し蹴り、回避、刺突、回避――
 しつこく回避と攻撃を繰り返し、これが6発目の蹴撃ッ!

「おりゃああぁぁぁっ!」

 ドゴォッ!
 敵の脇腹にハイキックが突き刺さり、サンドゴーレムは断末魔もあげず、砂と化して姿を消した。



 ◇◇◇



「はぁ、はぁ――なんとか……倒せた、わね」
「ポンコツって、聞いていましが……思ったよりやるもんだな、ルトリー……!」
「ふふ、お互い様よ……っ」

 続けざまの戦闘で疲れきったあたしたちは、壁を背に座り込みながら拳と拳と合わせた。
 きつかったけど、体が達成感で溢れてる。
 まさかこのあたしが、ランクCモンスターの群れに勝てるなんてね。
 新装備さまさまだわ、さっすがランクCとランクSアイテム。
 アイテムボックスの使い方もわかってきたし、順調に成長してるって実感できるのはいいことね。

「しかし驚きました……罠で飛ばされたと思ったら、いきなりモンスターに囲まれてるんだからな」
「あんたもそうだったんだ」
「と言うと、そちらも?」
「ええ、うっかりね」
「俺もだよ、うっかりだ。ははっ」

 笑い事じゃないんだけど、釣られてあたしも笑ってしまう。
 とりあえず、ある程度呼吸が整ったらハイドラとテニアを探さないとね、心配してるだろうし。

「そういや、さっきから気になってたんだけど」
「ん、どうしたんですか?」

 戦闘中、ちらりと見えたストールの後頭部。
 そこにあたしは、どこかで見覚えのあるタトゥーのようなものを目撃した。
 記憶が正しければ、確かあれって――

「ストールの首についてるその模様、悪意の種が埋まってる印じゃないの?」
「ああ、よく気づいたな」

 彼はあっさりと答えた。

「いやいや、そんなケロッとされても反応に困るわ。浄化しないで大丈夫なの!?」
「悪意の種と言うのは、人間の悪意を増幅させるものです。元から悪人の俺には効果がねえんだよ」
「何その理屈……」

 でも、実際にタイタンとの戦闘で助けてくれたり、あたしと共闘した所をみると、悪意の種が効果を発揮しているとは思えない。

「自分が信じた悪を貫く、それが俺の信念だ」
「その割にはたまにまっとうなこともしてるみたいだけど?」
「ですからそれが信じる悪と言うやつです、悪の定義なんてどこにもねえんだからよ。誰がどう言おうと、自分が信じる道をゆけばいい」

 なんかかっこいいこと言ってるけど――悔しいけど、ちょっと本当にかっこいいな。
 特に、悪意の種を埋め込まれて平気なあたり。
 口だけじゃなくて、本当に信念を貫いてるって伝わってくるから。
 あとは口調がコレでさえなければね。

「もしかして、その変な喋り方も信じる道ってやつ?」
「二面性のある男はかっこいいからな」

 そういうのが好きな女性も居るだろうけど、たぶん”二面性”の解釈を間違ってると思う。
 まあいいや、本人がそれで納得してるなら放っておこう。

「さてと、そろそろ戻らないと部下を心配させてしちまうな」
「あたしも、同行者と合流しないとね。ところで、漆黒の葬送団はなんで沈黙の洞窟に来たの? ピリンキの町はボロボロでそれどころじゃないでしょうに」
「だからこそお金が必要なのです。噂によると帝国で疫病が流行ってるらしくてな、今なら洞窟最下層に群生している薬草を高値で売りさばくチャンスかと思いまして」

 それって……あたしたちと目的は一緒ってこと?
 つまり、こいつに負けたら、薬草は手に入らないと。

「ルトリーの目的は何なんだ? まさか我々と同じ薬草ではないですよね」

 ここはなんとか誤魔化して、連中を出し抜かないと。

「……い、いや、違うわよ」
「びっくりするぐらい嘘が下手だなお前」
「悪かったわね!」

 自分だって才能が無いことぐらい知ってたわよ!
 あーあ、これでバレちゃったじゃない。
 仕方ない、こうなったら純粋に速さで勝負するしか――

「先手必勝よッ!」

 飛ぶように立ち上がると、あたしは全力疾走でストールから距離を取る。

「行かせませんよ、シャドウバインドッ!」

 針があたしの影を射止めようと迫る。
 でも、甘いっての!
 横に跳躍、針を避けた上で壁を蹴り、再び通路に復帰。
 何事も無かったかのように直進する。

「ちぃ、すばしっこいな! なら――バインドネット!」

 ストールは走りながら針をあたしの前方の壁にばら撒く。
 すると針と針の間が糸で繋がれ、複雑に編まれ、目の前にネットが現れた。
 さっきからバインドバインドって、あたしに縛られる趣味は無い!
 立ち止まり、あたしにできる最高威力の攻撃で糸を引きちぎる。

「はああぁぁぁっ!」

 それはもちろん――回し蹴り。
 だって、短剣よりもよっぽど強いんだもん。
 無事糸は切れ、あたしはダッシュを再開する。
 けれどそうこうしている間にも、ストールは確実に距離を詰めてきていた。
 さすがギルドのリーダーを名乗るだけあって、身体能力も高い。
 大地のブーツを装備してるあたしと速度があんまり変わらないだなんて。
 でもこのまま行けば、あたしの方が先にたどり着く――そう楽観視した瞬間だった。
 目の前の曲がりかど、そこをカーブしようとしたあたしの頬を針が掠める。

「っ――!」

 まさか実力行使に!? と思っていたら、針には糸が付いている。
 その糸はゴムのように伸縮して、ストールの体は一気に壁に向かって加速した。
 そして壁の直前で糸を外し、疾走再開。
 あの針、意外と器用に使えるのね。
 おかげで手が届くぐらいの距離になっちゃったし。
 でも――よし、下への階段が見えてきた!
 ハイドラとテニアには悪いけど、先に薬草を手に入れるためにも、このレースには負けられない。
 さあ、いざゆかん第4階層ッ!
 勢いをつけて階段を飛び降りるあたしとストール。
 その跳躍中、彼が前方を指差し言った。

「ルトリー、誰か居ますよっ!」

 ストールが味方の姿を見間違えるとは思えないし、ハイドラかテニア?
 そう思って指の先に視線を向けると、そこには鎧を纏った、見知らぬ男が2人立っていた。
 2人はあたしを見るやいなや、敵意むき出しの表情で睨みつけると、躊躇せずにそれぞれ剣と槍を構える。

「あたしたちは敵じゃありませーん!」

 必死の無害アピールも虚しく――ってかあの表情、まともじゃない。
 まるで、以前ハイドラとサワーを攫った連中みたいな。
 つまり悪意の種を埋め込まれている、だから説得なんて無意味。

「くすくす、パッチラを楽しませてね。役目を果たすために」

 2人の男性の背後から、少女の声が聞こえた。
 そのシルエット、揺れる羽に尻尾、明らかに人間じゃない。
 あれが悪意の種を埋め込んでる犯人?
 追いたいけど、今はそれどころじゃない。

「ルトリー、捕まりなッ!」

 ストールが伸ばした手を掴むと、彼は後方に糸の付いた針を投げる。
 がくんっ、と激しい反動と共に体は針の方へと引き寄せられ、あたしたちは剣と槍の先端に自ら突っ込む、というアホみたいな末路を回避することに成功した。

「あ、ありがと……」
「こちらも攻撃を仕掛けて煽ってしまいましたので、お互いさまです。それより――あの2人、只者じゃねえな」

 構えから見抜いたのかな。
 確かに表情とか殺気とか、熟練の冒険者、あるいは軍の人間としか思えないほど場馴れしてる感じはする。

「2対2でも戦力は拮抗しないかもしれませんね」
「でもやらないと、増援を待ってたらあいつらに薬草を取られちゃうじゃない」
「そうなるよなァ、じゃあやるか」

 お互いに武器を抜き、敵と向かい合う。
 その時、あたしはふと背後に誰かの気配を感じた。
 足音なのか、空気の流れなのかはわからないけど、確かにうなじのあたりにチリリとした感触があって。
 ふいに振り向くと――こちらにボウガンを向ける、男の姿があった。
 引き金にかかった指には、すでに力がこもっている。
 この距離じゃ、避けられない――

 パシュッ!

 ボウガンから矢が放たれる音。

「ルトリーッ!」

 事態に気づいたストールの叫び声。

 ブシャッ!

 そして、舞い上がる血しぶき。
 あたしの目にはその瞬間、全ての光景がスローモーションに見えていた。





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