ポンコツ少女の電脳世界救世記 ~外れスキル『アイテムボックス』は時を超える~

kiki

012  少女に手を出すおじさんにはいつの世だって神罰が下る

 




 近づくと、遠くで見ていた姿よりも遥かに大きく感じた。
 指先ですら人間より大きなタイタンは、目の前に浮かぶあたしたちの姿を睨みつけると、殴りかかってくる。

「グゥオオオォォォオオッ!」
「ハイドラ、回避をッ!」

 ハイドラは急速に高度を下げパンチを避ける。
 あたしは、振り落とされないように必死にしがみつくので精一杯だった。
 さて近づいてはみたもののどうする? 短剣でどうこうできる相手とは思えないんだけど。

「がおおぉぉおおっ!」

 ハイドラが伸びた腕に向かって火のブレスを吐きかける。
 よしっ、ランクCモンスターですら灰にした強力なブレスなら少しはダメージも――!

「グガゴゴオォォッ!」
「うそ、無傷なの!?」
「あいつ強いよ、ママ!」

 そりゃわかってたけど、ここまでとはね!
 タイタンの体は傷だらけ、たぶんフレイヤたちが消える前に戦ってたからだと思う。
 その傷跡を見るだけでも、彼らがどれだけ強かったのかが伝わってくる。
 ハイドラですら傷一つつかないんだもん、こんなやつ、NPCだけで倒せるわけがない。
 ブオォンッ!
 タイタンの左腕が繰り出される。
 それを背中に回り込みつつやり過ごすと、今度は体全体を使ってひねりを加え、裏拳をこちらに放つ。
 ゴオォオオッ!
 今度もどうにか避けるものの、それに生じた余波で吹き飛ばされそう。
 パンチだけで暴風が起きるって、どんな馬鹿力なのよ!

「どうする? どうしたら倒せるの?」
「あれだけ大きいとアイテムボックスにも入れられないし……」

 ダメージを与えられないならスキルを使えば、と思ったけど、アイテムボックスにだって許容限界がある。

「ママ、指先だけを入れたりはできないの?」
「近づけばできると思うけど……」
「じゃあ足! 足を狙おうよ!」

 足の指――そっか、人間って指が1本でも無くなるとうまく歩けなくなるって言うもんね。
 相手はモンスターとは言え、二足歩行の人型。
 同じ理屈で、足止めをすることができるかもしれない。
 それに、動きさえ止めればあれだって試せる。

「ハイドラ、親指に接近して!」
「オッケー、ママ!」

 次々放たれる拳を急降下で回避しながら、一気にタイタンの足元に接近する。
 速度が早い、タイミングを合わせないと――
 親指のすぐ横をすれ違う瞬間、触れるか触れないかギリギリのラインまで手を伸ばす。

「アイテムボックス、オープンッ!」

 対象は、タイタンの右親指!
 空中に開いた異空間への扉が、巨大な親指を飲み込んでいく。
 異変に気づいたタイタンは慌てて足を引き抜くけど、もう遅い。
 その指は黒ずみ、ただれ、もはや指としての機能を果たせる状態ではなくなっていた。

「グオオォォオオオオンッ!」

 タイタンが叫ぶ。
 あたしにはわかんないけど、大声あげてるってことは痛いのかな。
 相手はあたしに怒りをぶつけるより前に戸惑いが先に来ているみたい、すぐに攻撃を仕掛ければ被害は拡大しないのに。

「ハイドラ、次行こう!」
「今度は左の親指ねっ!」

 ヒットアンドアウェイで一旦離れていたあたしたちは、再びタイタンの足に接近する。
 宣言通り、次は左の親指に!

「アイテムボックス、オープンッ!」

 今度は現れた空間が左の親指を飲み込み、入った瞬間に肉を腐敗させていく。
 さすがのタイタンも、両足の親指を腐らせられたんじゃうまく歩けないみたい。
 明らかにおかしな動きを見せながら、膝をつく。
 これで町の人たちが逃げる時間ぐらいは稼げるはず。
 問題は、こっからどうダメージを与えていくか――

「ママ、次はどうする?」
「とりあえずそろそろ相手が動いてくるわ、様子を見て、余裕が出来たら残りの指を狙いましょう」
「わかった!」

 膝立ちの状態で、こちらを掴もうと腕を振り回すタイタン。
 その動きには苛立ちが見える。
 おかげで避けやすいんだけど、そろそろ無駄だって理解しそうなころ。
 つまり、別の手段であたしたちに攻撃を仕掛けてくる、ってこと。
 予想通りタイタンは動きを止めると、右拳を握り、それを思い切り地面に叩きつけた。
 ドゴオォンッ!
 空気を震わすほどの轟音が響く。
 そして地面には巨大なクレーターが作られ、えぐれた分の土と岩が空中に舞い上がった。

「石を飛ばしてこちらを攻撃するつもり!?」

 拳による攻撃は、1人の人間を相手にするには明らかにオーバーキル、無駄が多い。
 実際には、こうして岩を巻き上げてそれを当てるだけで、十分殺せるだけの威力がある。
 拳と違って手数も多いし、避けても掠めていくし――図体はでかいくせに小賢しいっ!
 飛んでくる岩を小刻みな動きで回避するハイドラ。
 大きな岩は当たらないように気をつければどうにかなるものの、小石や砂がハイドラの肌を傷つけていく。
 痛々しい、見てるだけで心が痛む。
 けれど、ハイドラが壁になってくれなきゃあたしなんてとっくにミンチになってるわけで。
 すると、そこにさらに追加でタイタンはパンチを繰り出す。

「ハイドラ、前っ!」
「くっ!」

 突き出される右拳。
 急上昇して危機を脱するも、続けて側方からあたしたちを掴み潰そうと左手が迫る。
 これを今度は下降して逃れた。
 けど急激な動きに、ただでさえ疲れが溜まってたあたしの腕が耐えきれない。
 ずるりと腕が滑り、ハイドラの体が離れていく。

「やっば……!」

 その失態を、タイタンは見逃さない。
 右手であたしの体に掴みかかろうとすると――

 ヒュウゥゥ……ドォンッ!

 突如、ピリンキの方角から飛来した鉄球が衝突し、爆発する。
 大した損傷は与えられなかったものの、動きが止まり、あたしは九死に一生を得た。
 落下しながら鉄球の飛んできた方角をちらりと見ると、黒衣を纏った男たちと大砲が見える。

「漆黒の葬送団じゃない!?」
「ママーっ!」

 そこで、ハイドラがあたしの体をキャッチする。
 そしてお姫様抱っこの体勢のまま、次の攻撃から退避する。
 そっか――漆黒の葬送団のリーダー……確かストールだったっけ、あいつ借りは返すとか言ってたもんね。
 基本的に悪人で信用できないけど、今だけはさんきゅっ。

「ハイドラ、このまま足に!」
「うんっ」

 ハイドラの首に腕を回し、しっかりと体を固定すると、再び足へ攻撃を仕掛ける。
 アイテムボックスを連発しながら、右の人差し指、中指、薬指、小指。
 次は左足――と全ての足の指を腐敗させていく。
 地味に見えて重要な機関である指を失ったタイタンは、とうとう立つこともできずに尻もちをついた。
 ミッションを終えたあたしたちは一旦巨人から離れ、落ち着いて様子を観察する。
 モンスターは歯がゆそうにあたしたちに向かって手を伸ばすものの、ここは届く距離じゃない。

「ここからどうやってトドメを指すの?」

 正直、タイタンを仕留めるための確実な手段をあたしは持っていない。
 なんと、最初に腐敗させた親指の腐敗はすでに回復が始まっていて、相手がかなり高い自己治癒力を持っていることはわかった。
 つまり、悠長に考えている時間はあまり無いということ。
 ……試すしか無い、か。
 あたしはポケットに手を突っ込むと、そこに入れておいた茶色くて丸っこいを取り出した。

「それって……ユグドラシルの種、だっけ?」
「そう、水も土も無くても勝手に発芽する迷惑な木の種なの。ほら、今だってポケットに入れてただけなのに種が割れようとしてる」
「それをどうするの?」
「あたしのスキル、物を腐らせるだけかと思えば、ハイドラの卵を孵化させたりもできたじゃない? 要するにアイテムボックスの中じゃ、時間が異常に進むようになってるってわけ」
「うんうん」
「つまり、アイテムボックスの中にこの種を入れれば――」
「急成長、する?」

 あたしはこくりと頷いた。
 アイテムボックスの許容量を超えたアイテムは、外へ溢れ出してしまう。
 けど、ユグドラシル急成長した結果、どういった形で外に溢れるかは試してみないとわからない。
 仮にあたしの予想通りの形で、樹木が~射出・・されるのだとしたら――タイタンにトドメを指すことだってできるかもしれない。
 もちろん、こうやって相手の身動きを封じたからこそ試せる戦法なんだけどね。

「さあタイタン、みんなの命を奪ったツケ、払ってもらうわよ! アイテムボックス、オープンッ!」

 くぱっ、とタイタンに向けてアイテムボックスの入り口が口を開く。
 あたしはそこにユグドラシルの種を突っ込んだ。
 そして、次の瞬間――

 ズドドドドドドドドドドドッ!

 すさまじい音と共に、アイテムボックスから巨大な木の頭が現れる。
 まるでリアルタイムで成長するように木は、あたしたちから斜め下に向かって伸びると、タイタンの胸を刺し貫いた。

「グオオォォォオオオオオオオオオオオッ!」

 巨人の断末魔が辺り一帯に轟く。
 あたしは作戦が成功したことを悟り、ガッツポーズをしようとしたんだけど――
 ユグドラシルの成長は、それでもまだ止まらなかった。

「あ、あれっ? あれええぇぇぇぇええっ!?」
「ひゃああぁぁぁぁああっ!?」

 あたしとハイドラの叫び声も一体に轟く。
 タイタンを貫き、地面に突き刺さっても伸び続けるそれは、今度はあたしの体をアイテムボックスの入り口ごと斜め上へと導いていゆく。
 あたしを離すまいと必死にしがみつくハイドラに、ただただなすがままに上空へと飛んでいくあたしの体。
 雲を突き抜け、ひょっとしてこのまま宇宙まで飛んでっちゃうんじゃ――ってさすがに恐怖を覚えた所で、ようやくそれは成長を止めた。

「噂には聞いてたけど、まさか……ここまでとはね……」
「ママとテニアさんが言葉を濁してた理由がやっとわかったよ……」

 端から見ると、天から伸びて地面に突き刺さる奇妙な木のオブジェにしか見えない。
 しかも、その一番下には巨大なおっさんが突き刺さってるっていうんだから、これを見て誰が”巨大モンスタータイタンとの戦闘の跡”だって想像できるだろう。
 なにはともあれ、無事にモンスターは討伐できたわけで。

「……ゴルドおじさん、みんな……」

 被害は大きかったけど、もしあたしが最初に飛び出していれば、って想いはあるけど。
 あの時の自分に、”あたしならタイタンを倒せます!”と言い切る自信なんて無かった。
 ユグドラシルだって、こんなにうまく働いてくれるとは思っても居なかったし。
 ……まあ、これもどれもただの言い訳なんだけどね。

「ママ、落ち込まないで。あたしはママが頑張ったのを知ってるし、みんなだってきっと笑ってママのことを讃えてくれると思うよ」
「ハイドラ……」
「落ち込むより、生き残れたことを喜んだほうが、犠牲になったみんなも嬉しい……って、これはあたしの妄想だけど」
「ありがと、気持ちは十分に伝わったから。そうだよね、あたしが落ち込んでたら町のみんなだって落ち込んじゃうもんね」

 復興まで時間はかかるだろうけど。
 泣いてるより、笑って前を向いた方が、気持ちだけでも楽になる。
 よし、笑おう。笑って帰ろう。
 そう心に決めて、あたしとハイドラは、壊滅したピリンキの町へと戻っていった。



 ◆◆◆



 タイタンの頭部付近に、女性の人影があった。
 魔道士のようなローブを纏った彼女は、タイタンに話しかける。

「みんなで協力してモンスターを撃破。犠牲は出たけどハッピーエンドで終わったわけ、わかる?」
「キサマは……ナニモノ、ダ……?」

 先ほどまで獣じみた咆哮をあげるだけだったタイタンが、女性の声に反応する。

「へえ、第二形態になるとAIが搭載されるわけ。面白いギミックなわけね。ま、結局はメインクエスト未完結で、プレイヤーにお披露目されることなく終わったわけだけど」

 そう、タイタンはさらに強力な第二形態へと移行しようとしていた。
 今度は近接攻撃だけでなく、強力な大地魔法による大規模破壊も行うかなりの強敵。
 ルトリーたちでは相手にならないだろう。

「コタエ、ロ……」

 名乗りをあげない女性に、タイタンが苛立ちを見せる。

「せっかちねえ。ま、冥土の土産に答えてあげようってわけじゃない」

 彼女は不敵な笑みを浮かべて、こう名乗った。

「ダイバー」

 潜行者。
 それは彼女を示す固有名詞ではなかったが、タイタンの望む答えとしては十分だろう。

「侵略者であり傍観者。世の中的には悪質な遊び人ってわけよ」
「ナニ、ヲ……」
「データベースに適合する単語が見つからなかった? そりゃそうよ、俗称ってわけだし。でもそうね、前時代風に言えば――」

 ダイバーと名乗ったローブの女性は、少し考えてから、タイタンに告げる。

「クラッカー、ってことになるわけかな。この呼び方、悪役じみててあまり好きじゃないわけなんだけど」
「クラッカー……ハッキング……不正アクセス……」
「そうそう、そういう単語は登録されてるわけね。ま、正体がわかったところで、感動のシーンに水を差す無粋なおじさんには死んでもらおうってわけ」

 ダイバーがタイタンの頭に触れ、目を閉じる。
 そして巨人を書き換えた・・・・・

「コードをいじって、イベント発生。確かここに……よし、自壊開始」
「オ……オオォ……グオオォォォオオ……!」

 タイタンが微かな呻き声をあげると、その体が朽ち果てていく。
 結局彼は、見せ場である第二形態をお披露目すること無く、命を落としてしまうのである。

「第二形態を見れなかったのは残念なわけだけど、それよりあの子の行く末をみたいわけよ」

 タイタンの付近から立ち去りながら、半透明の体になった彼女は呟く。

「AIの生き様・・・ってやつ、見せてもらいたいわけ。愉快な暇つぶしを期待しているわけよ、ルトリーちゃん」

 そして、彼女はFSOの世界――データの海を漂う脆い夢から、ログアウトした。





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