ポンコツ少女の電脳世界救世記 ~外れスキル『アイテムボックス』は時を超える~

kiki

011  みんなの町に巨大なおじさんがやって来る!

 





 未登場モンスター大放出イベント開催!

 ・イベント期間
 3月31日22:00~サービス終了まで

 ・イベント内容
 ドライネイト帝国、フォリス王国、シャイモア公国、リレーン公国、それぞれの首都に、今後のアップデートで登場する予定だったモンスターが出現します。
 モンスターを全滅させると次のモンスターが現れ、最後には今までのどのモンスターよりも強力なボス、”クラスレジェンドボス”がPOPする予定です。
 非常に強力なモンスターで、個人の力で倒すことは難しいでしょう。
 ですが、プレイヤーのみなさんの力を合わせれば必ず勝てるはず。
 サービス終了直前の思い出づくりに、ぜひご参加ください!

(FSO公式サイトより抜粋)



 ◆◆◆



「ようやく来たかい、ルトリーちゃん」

 ゴルドおじさんが白い歯を輝かせながら、遅れて入ってきたあたしを見た。
 協会にはすでに、あたし以外の冒険者が集まっている。
 視線が一気に集中してかなり気まずい。

「遅れてすいません」
「いいのですよ、急に呼び出したのはこちらですので」

 ピリンキ冒険者協会の長、シャルケットさんが、片眼鏡をくいっと上げながら言った。
 その口調と、細かいことを気にしそうな外見から面倒な人と思われることが多いけど、実はかなりいい人なのよね。
 こうして、あたしが遅れてきても笑って許してくれるし。

「さて、それでは早速本題に入りましょう。ニアリンとネーヴァがモンスターの襲来によって壊滅しました」

 その言葉を聞いた瞬間、冒険者たちが一気にざわついた。

「うそ……」

 もちろんあたしもそのうちの1人。
 ニアリンとネーヴァって言うのは、ピリンキの最寄りの町で、交流も盛ん。
 毎日のように荷物を乗せたトカゲ車が行き来してて、昨日だってニアリンの商人さんを見かけたんだけど――それが壊滅しただなんて。

「原因はスタンピードですか?」
「いえ、巨大な魔物に踏み潰された・・・・・・と聞いています」

 それを聞いたゴルドおじさんは「はっ」と笑い飛ばした。

「踏み潰されたって……おいおい、ニアリンもネーヴァもそこまで小さな町じゃねえぜ? まさかそこまで巨大なモンスターが居るわけでもねえだろうし」

 あたしも彼と同意見かな。
 2箇所ともピリンキとそう変わらない規模の町なのに。

「命からがら逃げてきた方の情報によると、まさにゴルドさんが言った通りのようですよ」
「あ?」
「それだけ巨大なモンスターだそうです。フレイヤ消失の直前に各国に巨大なモンスターが現れたという情報はありましたが、おそらくそのうちの1体でしょう」

 フレイヤ消失の直前――2つの出来事には何か関連性があるのかな。

「ま、待てよ……それが本当だとして、だったらここに冒険者を集めてどうするってんだ!?」
「最初は逃げることも考えましたが」
「だが、近隣の町が壊滅してるんじゃ避難できる場所もねえぞ?」
「ええ、ですので我々には立ち向かう以外の選択肢が残されていません」

 協会はさらに大きなざわめきに包まれた。
 町を踏み潰すようなモンスターと、戦えと言うのか――
 不満の1つでも吹き出しそうなものだけれど、すでに逃げ道は塞がれている、という現実がそれを許さない。
 あたしも、言葉を失っていた。

「はっきり言って、勝つのは不可能でしょう。ポータルを使って遠くへ逃げられる方が居るのなら、そうして頂いても構いません。ですが――」
「他にもなにかあるんですか?」
「……冒険者協会には、他の町の協会と連絡を取るための手段があります。それを使えば国境を超えた先の相手とも話すことができる。ですがそのネットワークの一部に欠損が発生しています」
「どういうことだよ」

 シャルケットさんは、苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

「クロープス大陸の西から順番に町が消失しているようです。どこへ行こうと、我々に逃げ場など無いのかもしれません」

 モンスターの仕業なのか、それとももっと別の要因なのか。
 あたしたちには何もわからない。
 あまり、何もかもが。
 せっかくハイドラやテニアと出会えていい気分だったのに、理不尽じゃない。

 ズウゥゥン……。

 遠くから聞こえた地鳴りを、その時協会に居た全ての人間が聞いていた。

 ズウウゥゥン……。

 それはまるで足音のように、一定間隔で鳴り響く。

「お、おい、まさか――」
「もう少し余裕があると思っていましたが、そう甘くはなかったようですね」
「来たのか? その化物が!?」
「おそらくは。町を踏み潰せるほどの大きさだというのなら、すでに姿が見えているのでは無いでしょうか」

 あたしを含めて、冒険者たちが一斉に建物の外に出る。
 すでに町の人々も家から飛び出して、東の空を眺めていた。
 まだ薄っすらと霞んでいるものの、確かにそいつ・・・はそこにいた。
 外見だけで言えば、ただの日焼けした筋肉質のおじさんだ。
 恐怖の対象でも何でもない。
 けれどその大きさが、頭部が雲を突き抜ける程だとしたら――いや、逆に怖くないか。
 むしろ、笑っちゃうぐらいで。

「は、はは……なに、あれ……」

 そんな生き物が世界に存在していることが、おかしくって、おかしくって。
 けれど、笑っている間にも巨人は一歩一歩、ピリンキに向かって近づいてくる。
 ズウゥゥン、ズウゥゥン。
 その足音は確実に大きくなっている。
 数分もしないうちに、ここにたどり着いてしまうんだろうな。

「シャルケット、住民の避難は任せていいのか?」
「できる限りはやるつもりです」
「なら良い。どうせ潰れたらおしまいだ、町のトカゲも勝手に使わせてもらうぜ?」
「ゴルドおじさん、行くんですね」
「倒すのは無理でも時間稼ぎぐらいはできらあ。おっと、付き合うのは年寄りだけでいいからな、ヤングな連中は町で大人しく俺らの勇姿を見届けときな!」

 そう言って、トカゲ車屋へと駆け出すゴルドおじさん。
 人間の背と同じぐらいの大きさの彼らは、普段は車を引いてるけど、背中に乗ることもできないわけじゃない。
 巨人の図体から素早い動きはできないと考え、機動力で攻めるつもりなのかもしれない。
 でも、あたしだって見てるだけってわけにはいかない。
 本音を言うと、笑うしかないぐらいビビっちゃってるけど、それでもピリンキを守りたいって気持ちはゴルドおじさんにだって負けないんだから!

「ママ!」

 巨人へ立ち向かおうと一歩踏み出すと、背後からハイドラの声が聞こえてきた。
 振り向くと、あたしに駆け寄る彼女の姿と、そして息を切らしながら歩いてくるテニアの姿が。

「戦うんだよね、あたしも行くよ!」
「ハイドラ……」
「大丈夫、あたしママより強いからっ」

 そりゃ事実だけど、はっきり言わなくても。
 ハイドラが居てくれれば百人力だし、本当は戦わせたくないけど仕方ない。
 でも――

「テニアは避難しておいて。走り回って戦うのは無理でしょ?」
「はぁ……でも、薬を渡すぐらいは……」
「そんな無茶するキャラだったっけ?」
「タイタンの恐ろしさは……っ、はぁ……旅の途中で、見てきたから……」

 タイタンって、そういやあたしが協会に行く前も言ってたっけ。
 それがあのモンスターの名前ってこと?
 でも、どうしてそれをテニアが知ってるんだろ。

「最初、タイタンは……リレアニアのすぐそこに現れた。最初はフレイヤたちが戦って、そのおかげでリレアニアからは離れていったんだけど、あるタイミングで戦っていたフレイヤが消えたんだ」

 フレイヤの消失は――やっぱり、世界中で同時に発生していた。

「それ以降、タイタンは野放しの状態だ。リレーン公国内を徘徊してるだけなんだけど、近くにNPCを見かけると襲い掛かってくる」

 だから町も潰された、と。
 もしかして、襲撃された町は跡形もなく消し飛んでるから誰にも伝えることができず、今まで被害も明らかにならなかった、とか?
 笑えない。
 笑っちゃうけど、笑えないって。

 町に近づくタイタンに視線を向けると、先陣を切った冒険者たちがついに交戦を始めたようだった。
 体にまとわりついてくる蚊を振り払うように、巨人は手足をゆっくりとばたつかせる。
 でも熟練の冒険者たちには、そんな適当な攻撃は当たらない。
 うまい具合に避けながら、足元にチクチクと攻撃を加えていく。

「グオオォォォォオオオオ!」

 タイタンの発した咆哮が、町をびりびりと揺らした。
 比喩でも何でもなく、近くの家にあった窓ガラスもガタガタと揺れている。
 そして――

 ズドオオォンッ!

 今までの緩慢な動作からは想像出来ない、素早い掌打が地面に叩きつけられた。
 打撃地点を中心に地盤が盛り上がり、花弁のように巨大な岩が勢い良く突き出す。
 あんなのに巻き込まれたら、生き残れるわけがない。
 岩に所々赤い血のような物が見えたけど、あたしは見てみぬふりをした。
 タイタンの攻撃による揺れは当然町にまで及び、その振動の大きさは立っていられないほど。

「ひっ!?」
「テニアッ!」

 すぐに転んだテニアの体を抱きしめ、揺れが収まるのを待つ。
 ゴゴゴゴゴゴ……。
 近隣の住宅から、メキメキと嫌な音が聞こえてくる。
 音の方に視線を向けると、少し家が傾いているように見えた。
 割と新し目の家でこれなんだから、古い家は潰れてしまっているかもしれない。
 みんな、無事に逃げてるといいんだけど。

「グゴ、ゴオォォ、グオオォォォオンッ!」

 再び巨人は咆哮する。
 群がる冒険者たちを、明確に脅威だと認識したみたい。
 タイタンは自分の前方に向かってくる、トカゲに乗った冒険者の姿を確認すると、右ストレートで地面ごとその生命をえぐり取る。
 ズドォンッ!
 衝撃により、地面から吹き出す複数の岩山。
 巻き込まれた数人と共に、血しぶきと体の一部は宙を舞い――
 ボドッ。
 テニアを抱きしめ、迫り来る揺れに耐えていたあたしの真横に、パーツが落下した。
 赤黒い血液に白い毛髪が絡みついたそれは、一体彼の――ゴルドおじさんのどの部分なんだろう。

「あ、あぁっ、あああっ……!」

 声が震える。
 感じたことのない恐怖が、あたしの体を支配していた。
 あまりに絶望的な力の差。
 ふと、サーラの言葉があたしの脳裏によぎっていた。

 ――NPCは、しょせん付属品に過ぎない。

 フレイヤが居ること前提で世界は成り立っていて、彼ら無しでは、NPCは生きていくことすらできない。
 その現実を、まざまざと見せつけられてるみたい。
 無力さを思い知る。
 こんなに簡単に死ぬっていうんなら、あたしたちは、一体、何のために生まれてきたんだろう、って。
 ズドォッ、ズドドッ、ドォンッ!
 タイタンは怒り狂ったように、地面に繰り返し拳を叩きつけていた。
 もうそこに敵はいないだろうに、冒険者たちの攻撃がよほど癪に障ったのかな。
 ゴゴゴゴゴゴゴッ!
 地面の揺れは激しく、ハイドラですらしゃがみこまないと耐えられないほどだった。
 もちろん、周囲の建物はとっくに潰れていて、ついさっきまで無事だったピリンキの面影はほとんど残っていない。
 あたしは不思議でしょうがなかった。
 それでもこの町を守りたいという意志は、一体どこから湧いてくるんだろう、って。
 もう町と呼べる風景は残っていないのに、みんなは避難しているのに、この衝動は――誰があたしに与えたものなの?
 揺れが収まった所で、あたしは立ち上がる。
 同時にハイドラも立ち上がり、タイタンに相対した。
 あちらもあちらで、最後に残った冒険者があたしだと認識したのか、背筋が凍るような敵意を向けてきた。

 腰の短剣を抜く。
 あたしはこのシャドウナイフで、どう戦うつもりなんだろう。
 どうせあのパンチに巻き込まれて、ゴルドおじさんみたいに細切れになって死んでおしまいだってのに。

「ま、待て、ルトリーッ!」

 焦った様子のテニアが、タイタンに立ち向かおうとするあたしを呼び止めた。

「どうしたの?」
「もう逃げようっ、あんなの無理だ、無茶だ、勝てっこない!」
「どこに逃げるのよ、追いかけられるかもしれないのに」
「だとしても、ルトリーとハイドラが死んだら……」
「悲しんでくれる?」
「当たり前だっ!」

 ありゃ、いつになく素直じゃないか。
 ちょっとじーんと来ちゃった。
 それでも――いや、だからこそ、逃げるわけにはいかないかな。

「ごめんねテニア、あたしには守りたい人がいるから、退くわけにはいかないの」
「命を捨ててでも?」
「そうね、捨ててでも守りたい。もちろんその中にはテニアも含まれてるから」
「……わけがわからない」
「テニアだってそうだったじゃない、命を賭けて誰か大切な人を守るために、ピリンキまで来たんでしょ?」
「それは……」
「だから、そんなもんなの。理屈で説明できなくなって、体が動いちゃう。”あたしはそういう人間”なの。そうとしか言いようがない」

 もしくは、そういう性格だとか、そういうキャラだとか。
 あるいは――

『自分の命に無頓着で、自己犠牲が激しい性格なわけ』

 ――そう、自己犠牲。
 しっくり来る言葉だけど、あれ、何だろ今の。
 まるで誰かに語りかけられたような。

『じきにわかる』

 そう、じきに――なら、気にしないことにしよう。
 今はとにかく、タイタンを止めないといけないんだから。

「それじゃ行こっか、ハイドラっ」
「うん、ママ!」

 ハイドラの背中に捕まると、体が浮き上がる。
 下を見たら卒倒しそうな高さにまで上昇すると、ハイドラはそのままタイタンに向かって突っ込んでいった。





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