それは絶対的能力の代償

山本正純

第33話 悪党たちの決闘④

敵意を向けられ、ルスは溜息を吐き、ティーカップを机に置く。
「本当は戦いたくないんだけど」
ルスは椅子から立ち上がり、床に書かれた魔法陣を右手で触れた。一方マエストロは手刀を作り、ルスとの距離を詰める。ラスは一歩も動かない。
マエストロはルスの近くにある紅茶セットを切断。その残骸がルスに襲い掛かる。だが、ルスは魔法陣を爆発させ、残骸を吹き飛ばした。
「魔法陣を爆発させる能力か」
マエストロが聞くと、ルスが人差し指を立てる。
「半分正解なのです。能力名は錬金術爆弾。私が指で触れた魔法陣は必ず暴発します。爆発の威力は魔法陣が精巧であるほど高くなるのです。因みに、この部屋に刻まれた魔法陣の威力は、壁や天井を吹っ飛ばす程度の物です」
「悪趣味な能力名だな。ルス。その名前はお前が考えたのか?」
「違うのです。ラスが考えました。能力名は飾りに過ぎないのです。意味があるとするならば、愛着が湧くことでしょうか?」
「なるほど。ということはラスの能力にも名前が付いているということだな」


マエストロはルクシオンと激闘中のラスの顔を見る。あの少年は、余裕満々な顔付きで仲間と対峙していた。ルクシオンの嵐のような猛攻は、ラスに当たらない。何もない空間に消されてしまう。
「ルクシオン。あなたの絶対的能力は分かりました。その結果、僕の絶対的能力、暗黒空間を破ることは不可能だということが分かりました」
「暗黒空間?」
「その通りです。大体なことは分かるでしょう。直径一メートル程度の大きさの黒い円に、あらゆる攻撃を閉じ込め、任意のタイミングで跳ね返す。閉じ込めた攻撃はエネルギーに変換することもできて、高威力の技に変化させることも可能です。こんな感じに……」
説明の最中、ルクシオンの足を何かが蹴った。威力は自分の蹴りの三倍程度。光速以上のスピード。蹴られた先にいたのは、自分と同じ身長の黒い影。
一撃を受けても倒れようとしないルクシオンの姿を見て、ラスは感心した。
「あの一撃を受けても気絶しないなんて、やりますね。でも、これならどうでしょうか?」
ルクシオンの周りを四つの黒い円が覆う。そこから出て来たのは四人の黒い影。影は自分の技を放っていく。
ルクシオンは前方の影を殴った。だが、影は一瞬で消える。間もなくして、彼女の目前に黒い円が出現して、そこから黒く塗りつぶされた拳が飛び出した。
それで腹部を殴られ、女の体が壁に激突した。その瞬間、ルクシオンの仮面が壊れる。


ラスとルクシオンの戦いが決着した後、マエストロは突然笑い始めた。
「ルス。お前はバカだ」
新人の発言に対して、ラスは静かに全身を振るわせる。
「マエストロ。ルスお姉様を侮辱するなんて、許しません」
「本当の話だ。ルスの能力では俺を倒すことができねえ。俺は何でも切断できる。それが魔法陣だとしても」
マエストロは床に書き込まれた魔法陣を、徐々に切断する。だが、ルスの能力は発動しない。
徐々に床が崩れ、ルスの足場が壊される。マエストロの能力により、ルスの体を中心に大きな穴が開く。
落下していくラスは、一瞬姿を消し、マエストロの背後に姿を現す。
「魔法陣まで切断できるとは。流石なのです。でも私の能力が、魔法陣を暴発させるだけの能力だと思ったら大間違い」
「どういうことだ」
「気が付かないのです?」
ルスはマエストロの開けた穴から、地下に堕ちる。マエストロが穴を覗き込む。その穴の中心に大きな魔法陣が刻み込まれている。
ルスが魔法陣を左手で二回触る。その直後マエストロとラスがいる部屋に書き込まれている魔法陣から同時に白煙が昇る。
異変に気が付いたラスとルクシオンは、大きな穴から地下へ飛び降りた。それから数秒後、壁に刻まれた魔法陣と、切断できなかった床に残された魔法陣が同時に炎上した。
突然の爆発により、マエストロの近くで浮いている仮面が壊される。爆風によって飛ばされたマエストロの体は大きな穴に堕ちる。
彼の体は床に叩きつけられた。その痛みによりマエストロは気を失う。

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