それは絶対的能力の代償

山本正純

第31話 悪党たちの決闘②

トールが外に避難して、六人は建物中に散らばる。全ては初戦から混戦になるのを避けるため。
一分が経過した頃、建物の内部でルスが動いた。小さな子供が白色のローブを脱ぎ捨てる。ラスと同じ顔同じ髪型の子供が素顔を晒した。違いといえば前髪が右を向いていることのみ。
ルスは槌で地面を叩き、魔法陣を地面に刻む。
その様子を物陰に隠れてルクシオンとエルフが見ていた。
ルクシオンはエルフに小声で話しかける。
「見たでしょ? ルスが錬金術を使っているのを。彼女は格好のカモ。エルフ。最弱ではないことを証明しなさい」
エルフが鳴き声を出すと、ルクシオンの肩から降り、静かにルスに近づく。
ルスは一歩も動こうとしない。ルスとエルフの距離が近づき、エルフの目が赤く光る。
エルフは絶対的能力でルスの錬金術を奪おうとしている。一方ルスはエルフの気配に気が付くと、魔法陣の上にしゃがみ、右手の人差し指で触った。
その後ルスの魔法陣がエルフの元に動く。その様子を見たルスは頬を緩ませる。
次の瞬間、ルスから奪った魔法陣がエルフの前で爆発した。灼熱の炎と爆風。黒煙がルスの回りを包み込む。エルフの近くに浮いている仮面が爆風で破壊された。
「やっぱり、推測通りなのです」
ルスは微笑み、黒煙の中で姿を消す。その戦闘をルクシオンが見ていた。
「絶対的能力。錬金術によって刻み込まれた魔法陣を爆発させる能力。侮れない能力ね」


しばらくして、爆風に巻き込まれたエルフが目を覚ます。エルフが身に着けていた仮面の数字が減っている。後一回敗北すれば、強制リタイア。
ルクシオンはしばらく周囲に身を隠し、様子を見ようとする。だが、ルクシオンの前にメランコリアが現れる。
「ルクシオン。ここで会ったら百年目」
ルクシオンは白いローブを脱ぐ。肩まで伸びた長髪。頭からウサギの耳を伸ばしたスレンダーな女性の素顔を晒す。
「さあ、実験を始めようかしら」
メランコリアとルクシオンとエルフの戦いが始まろうとしている。



一階の吹き抜けエリアで、ルクシオンとメランコリア、エルフの戦闘が始まる。そんなルクシオンの体に異変が起きる。ルクシオンの体は突然動かなくなったのだ。
声を出すことは可能だが、足が一歩も動かない。それはエルフも同じだった。
「何をしたの?」
ルクシオンがメランコリアに聞く。
「教えてあげるけど、その前に邪魔な黒猫ちゃんを排除しないとね」
巨乳の女が素早く動き、黒猫の尻尾を握った。その後で彼女は思い切り猫を壁に向かい投げた。
当然のように猫は壁に激突して、気絶してしまう。仮面が割れ、黒猫エルフの体は白い光に包まれ、消えた。
「これでエルフが最下位確定。ということで、あたしの能力について説明しようかな? あたしの周囲、半径五十メートルにいる人間の内、あたしに対して敵意を向けた人物の動きを封じる。それがあたしの能力。その間、あなたはあたしの攻撃を受けることしかできない。残念ながら、この能力は自分でも制御できないの。本当は解除したいんだけど」
メランコリアが素早く身動きが取れないルクシオンに近づき、腹を蹴る。それにより、ルクシオンの体が後ろに飛ばされた。メランコリアはルクシオンとの距離を詰め、サンドバックと同じように全身を殴り続けた。
その刹那、メランコリアの体が突然崩れ落ちる。突然背後からの攻撃を受けたことは、メランコリア本人にも分かった。


この奇襲、ラスによるものではないかと彼女は疑う。しかし、後方五十一メートルの地点に立っていたのは、ラス・グースではなかった。
「ルクシオン。お前を助けたわけじゃねぇ。俺はこの巨乳女とルスっていう餓鬼を倒す。
そして、余裕があったらお前とラスにリベンジする。それだけだ」
残忍な雰囲気を漂わせるマエストロの登場に、メランコリアは頬を緩ませる。
「もしかして聞こえていたのかな? 私の能力の説明。確かに今のマエストロの位置からの攻撃は防ぐことはできない。でも、この間合いを維持しながら戦うことは不可能」
巨乳の女が新手の前に飛び掛かった。これで互いの距離は五十メートル以下。即ちマエストロは行動不能になる。そう思われたが、メランコリアの蹴りは、隙のない動きで避けられてしまう。
「この程度か。くだらない」
絶対的能力が通用しない。手刀で何でも切断する能力を持っているはずなのになぜ?
メランコリアの頭に幾つものクエスチョンマークが浮かぶ。その理由は単純明快だった。
マエストロから発せられる残忍な雰囲気。それに伴う狂気は敵意を超えている。
この事実に気が付いた時は遅く、メランコリアの近くで揺れる仮面は、手刀使いの一撃で壊された。
「負けね」
敗北したメランコリアは呟いた後、黒色の槌を叩いた。すると、周囲を黒い煙が漂い始める。それに混ざり、巨乳女の姿は消えた。


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