それは絶対的能力の代償

山本正純

第25話 潜入

取引が行われたことを知らないアルケミナとクルスは、ラプラスの研究所内を探る。だが、研究所内からは人の気配がしない。おまけにセキュリティが機能していない。
「先生。おかしいと思いませんか? あれから誰とも会いません」
「杜撰なセキュリティ。もしかしたら、玄関からの侵入を想定していないシステムかもしれない。見たところ錬金術を使用した形跡もない」
アルケミナが研究所の壁に触れながら歩くと、突然壁に沿ったドアからラプラスの声が微かに聞こえた。
アルケミナはドアの向こうから聞こえてくる会話に聞き耳を立てる。
部屋の中で、ラプラスと白いローブを着た人物が机を挟んで木製の椅子に座っている。
「絶対的能力者は集まったのか?」
白いローブを着た人物がラプラスに聞く。
「五十人程集まっています。敵地で即戦力として使えるような能力者もいました。兵士の派遣は本当の目的が達成されるまでの資金稼ぎが目的ですが」
「質問する。本当の目的はいつ達成されるのか?」
「早くても半年後ですね。まだデータが足りませんから」
ドアの外から聞こえてきた会話から、アルケミナはラプラスが裏で悪事を働いていると確信した。
アルケミナはドアノブを握る。このドアの先にラプラスたちがいる。
その時五人もの人影が研究所の廊下を歩く
アルケミナたちを発見し、立ち止まる。
五人の体には、EMETHという文字が刻み込まれていた。
自分たちの前に現れた五人が、絶対的能力者だということを、クルスは理解する。
それから数秒間の沈黙が流れ、アルケミナたちの背後に、研究所の玄関で戦ったアフロヘアのラプラスの助手が立つ。
再び現れたラプラスの助手は、五人の絶対的能力者に声をかける。
「招かれざる客です。排除しましょう。それがラプラスさんの願いです」
助手の言葉に反応した五人の絶対的能力者たちは、アルケミナたちを囲むように立つ。
アルケミナとクルスは逃げ場を失った。
「二対六というのは不公平ではありませんか」
クルスがラプラスの助手に聞くと、助手は笑いながら答える。
「侵入者を排除するのにルールは必要ありません。この場にいる五人はラプラスさんのためなら、何でもするという意思を持っています。そのためなら邪魔者を排除する。あなたたちは絶対的能力者によって排除されます」
アルケミナたちに立ち塞がる五人もの絶対的能力者たちは躊躇なく、絶対的能力を使う。
五人が研究所の廊下を触る。すると、彼らの指先から、煉瓦で創造された全長一メートルのゴーレムが五体召喚される。
五体のゴーレムが一斉に口を開き、光線を吐き出す。それを避けながらクルスがゴーレムに触れる。クルスの絶対的能力により、光線を吐き出そうとしたゴーレムが儚く消えていく。
一方アルケミナは錬金術によって創造した赤色の大太刀でゴーレムの体を一刀両断する。
二人のコンビネーションによって、ゴーレムたちは一瞬で倒される。
あっさりとゴーレムたちを倒された五人の絶対的能力者たちは、茫然と立つことしかできない。
一分後、アルケミナたちの前に立ち塞がった六人が廊下にうつ伏せの状態で倒れる。彼らはアルケミナとクルスに負けた。


アルケミナは、ラプラスがいる部屋のドアを開ける。その部屋の内部では、肩にファイアトカゲを乗せたラプラス・ヘアと見知らぬ白いローブを着た人物が椅子に座っていた。
ラプラスは侵入者の存在に気が付き、椅子から立ち上がる。
「外が騒がしいと思ったら、侵入者がいたとは。あなたたちの目的は何でしょう?」
ラプラスがアルケミナに聞く。
「聞きたいことがある。絶対的能力者を集めて何をしているのか?」
「EMETHシステムに隠されたバグを探すことが目的ですよ。それ以外は何もありません」
「それはフェジアール機関の仕事。システムの不具合を探すのは建前で本音が隠されているはず。先程敵地に絶対的能力者を派遣するという声を聞いた」
アルケミナの発言を聞き、ラプラスが苦笑いする。
「なるほど。会話を聞かれていましたか。この研究所の研究員や研究対象として研究所を訪れている絶対的能力者なら、隠ぺい工作を施すこともできるのですが、外部の人間に知られてしまうと、困りますね。ということであなたたちを排除します」
ラプラスが不気味に笑いながら、椅子から立ち上がろうともしない白いローブを着た人物の肩に触れた。
「二人で侵入者を殺しましょうよ」
「断る。用心棒の真似事は職務内容に含まれていない。ということで私は逃げる」
「分かりました。トールさん」
トールと呼ばれた白いローブを着た人物は、椅子から立ち上がり、アルケミナたちと戦うことなく去ろうとした。
その姿を見たクルスは隣に立つアルケミナに耳打ちする。
「先生。アイツはパラキルススドライで出会った白いローブを纏った女の仲間です」
「そう。トールという名前には聞き覚えがあった。聖なる三角錐」
アルケミナの真っ直ぐな視線は、出口に向かっているトールの姿を捉えた。トールは幼女の言葉を聞き思わず立ち止まり、体を回転させ、アルケミナと対面した。
「ご名答。トールという名前だけで聖なる三角錐に辿り着くとは、流石としか言えない。前に仲間と遭遇したからという理由もあったんだろうけど」
「あなたの仲間も絶対的能力が使えるということは、アイザック探検団を皆殺しにしたのは……」
「答える義務はないが、そういうことだ。もちろん私も絶対的能力が使えるが、今回も逃げさせてもらう。研究施設を吹っ飛ばすわけにもいかないからね」
目の前にいる人物が、アイザック探検団を全滅させた。この事実に怒ったクルスは、自身の正義感を拳に込め、トールの顔面を殴る。
しかし、その攻撃は一瞬で避けられてしまった。トールは右足の回し蹴りをクルスに命中させる。パラキルススドライで遭遇した女の蹴りの十倍の痛みと共に、クルスの体は崩れ落ちた。
「少し大人げなかったかな?」
そう呟いた後、トールは何事もなかったようにドアを開け、退室した。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品