それは絶対的能力の代償

山本正純

第24話 アルケミナVSラプラスの助手 後編

その盾を手にしたアルケミナは、助手の攻撃を防ぐ。だが、黄金の縦の正面が、黒く焦げていく。
「面白いですね。凝固金盾の槌で召喚した盾で身を護るとは。ラプラスさんの説明会に来ていたということは、あなたも絶対的能力者なのでしょう。それなのにあなたは絶対的能力を使わない。研究者として興味があります。なぜあなたは絶対的能力を使わないのか? 能力を使っていれば、瞬殺だったのにね」
助手が興奮したように笑うと、アルケミナは小さく首を横に振り、攻撃から身を守る。
「私が能力を使わないのは、自分の能力が錬金術という理念を根底から破壊する物だから」
その答えを聞いたラプラスの助手は、大声で笑う。
「やっぱり面白い。絶対的能力は、錬金術という理念を根底から否定する物でしょう。そういうものだと分かっているのに、なぜ実験に参加したのでしょう?」
「あなたも絶対的能力と錬金術は共存できないと思っている。でもその考えは間違い。錬金術と絶対的能力が共存できる日が来る」
「それは幻想に過ぎませんよ。いずれ錬金術が滅び、絶対的能力がこの世界を牛耳る世界がやってくる。そのためにも絶対的能力に関する実験を進めなければなりません。それを認めないというのなら、本気で戦いますよ」
ラプラスは盾から槍を遠ざけ、距離を開ける。
静かな風が吹き、松明の炎を揺らす。この瞬間、ラプラスの助手とアルケミナの戦いが始まろうとしていた。
ラプラスの助手は再び火炎槍の槌を叩き、槍を二本に増やした。新たに召喚された槍に、松明の炎を灯す。
助手は燃え盛る槍を両手に持ち、それを振り回す。アルケミナは助手の攻撃を盾で防ぎながら、松明に近づく。
クルスが激闘に加わろうと一歩踏み出すと、アルケミナが声を出す。
「クルス。ここは動かないで。助けは必要ないから」
アルケミナはクルスに告げ、背負っていた創造の槌を手にする。彼女は想像の槌で松明を叩く。すると松明が白い光に包まれ、赤色の大太刀に変化した。
突然の変化に、ラプラスの助手は目を見開く。
「聞いたことがありますよ。万物を創造する槌が存在するという話。確かアルケミナ・エリクシナという五大錬金術師の一人が所持しているとか。そんな珍しい槌を持っているとは。凄いですね。どうでしょうか。取引しませんか。その槌とラプラスさんとの面会許可」
「断る。ラプラスは自分で探す」
「命を助けるというお話だったのですが、残念ですね」
ラプラスの助手は、両手に槍を持ち、それを振り回す。一方アルケミナは手にしている大太刀で槍を一刀両断してみせた。槍の破片が空中を舞う。
ラプラスの助手は攻撃を避けることができない。アルケミナの一撃により、助手の体は空中を飛び、研究所の壁に叩きつけられた。
助手の体は、うつ伏せに倒れる。
戦いが終わり、アルケミナは近くに落ちている石を創造の槌で叩き、鞘を創造した。大太刀の大きさにぴったりな鞘をアルケミナが広い、大太刀を鞘に納める。
鞘に納められた大太刀をアルケミナが背負うと、彼女はクルスに声をかける。
「今の間に堂々と正面から潜入する」
クルスは小さく縦に頷き、アルケミナの後ろを歩く。二人はそのまま、研究所の内部に潜入した。


それから一分後、ラプラスの助手が瞬きをした直後、白いローブを着た二人がラプラスの助手の前に姿を現した。一人は子供のように背の低い女。もう一人は低身長の少年。子供の背は少年の腰の高さ程。二人の顔は白いローブで隠れているため分からない。子供はアタッシュケースを手にしている。
二人の子供は周囲を見渡す。この二人とは何度か会ったことがあるラプラスの助手は、前触れもなく現れた二人組に慣れることができない。少し体を小刻みに揺らした助手は体を起こし、白いローブを着た二人組に話しかける。
「遅かったですね。取引時間にここに来たら、興味深い錬金術師さんと戦うことになって、怪我を負いましたよ」
助手があらましを説明すると、少年が腕を組む。
「そうでしたか? ところでアレは戦闘で壊れていませんよね?」
少年が確認し、助手が首を縦に振る。
「もちろん」
助手は少年に黒色の槌を渡す。
「確かに僕たちが求めているアレのようですね」
子供が槌に触れながら呟く。その後子供は助手にアタッシュケースを渡す。
「報酬の十億ウロボロスなのです」
助手が報酬を受け取る。その後で助手は二人に尋ねる。
「ところで、先ほどの戦いになぜ参加しなかったのでしょう? 近くまで来ていたのでしょう?」
助手の問いに子供が答える。
「私は争いが嫌いなのです。それに私たちとあなたが取引をしていることは、ラプラスさんしか知らないのでしょう。目撃者は必要ありません」
「ルスお姉様。そろそろ行きませんか? 遅れますよ」
子供よりも年上に見える少年が告げた後、ラプラスの助手の前から取引相手が忽然と姿を消した。

          

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