それは絶対的能力の代償

山本正純

第20話 ブラフマVS謎の組織

その頃ブラフマは、エクトプラズムの洞窟の出口にやってくる。
彼の目の前には、気絶した一匹の緑色の毛に覆われた三つ目の怪物。
この怪物はエクトプラズムの洞窟の主とされる存在。その怪物が易々と倒されたという事実。おそらくブラフマが洞窟の出口に到着する直前、何者かが怪物を倒したのだろう。


「弱かったよ。そのモンスター」
それは女の声だった。ブラフマが背後を振り返る。そこには右肩に黒猫を乗せた白いローブを着ている女と金髪スポーツ刈りの男がいた。
「殺してはいないよなぁ。このモンスターの血液は錬金術の実験に必要なアイテムなのよ」
ブラフマが女に確認すると、女は笑顔になる。
「もちろん。私もあなたと同じ物が欲しかったからね。手加減したよ」
「錬金術を使用した形跡がないということは絶対的能力者か?」
「そう。私たちは絶対的能力者。血液を分けて貰おうという考えは捨てなさい。イケメンだからって手加減しないから」
女がブラフマに敵意を向けると、ブラフマは白い歯を見せる。
「わしは強いよ。何ならルール無視のガチンコ勝負でどうだ」
「あなたって本当に馬鹿だね。ただの錬金術師が三人もの絶対的能力者に勝てるわけがないじゃない」
三対一という不利な状況。それでもブラフマは焦らない。
ブラフマは洞窟の壁に触れる。すると突然魔法陣が出現した。
チャンスだと黒猫は思った。黒猫の瞳が赤く光る。だが、何も起きない。
「どうした。戦わないのか。その様子だと黒猫が絶対的能力を使ったのか。だが、何も起きない。ということはわしの能力は黒猫の能力が通用しないということよ」
「うるさい。マエストロ。一気に倒す」
「一気に殺すだろう!」
マエストロ・ルークことパラキルススドライの怪人は手刀で洞窟の壁を切断する。


一方白いローブの女は拳を構える。白いローブの女は一瞬消えて、ブラフマの前に現れる。
ブラフマは何もできず殴られるはずだった。
だが、ブラフマは無傷である。
白いローブの女による打撃が当たる直前に、錬金術でバリアを展開することは不可能だ。
「何をした」
驚愕を露わにする女の顔を見ながら、五大錬金術師は床に手を触れる。攻撃に転じるため、魔法陣を一瞬で出現させて。
「絶対的能力を使っただけよ。お前らとは経験や才能が違う。俺は最強だ」


ブラフマが召喚した紅蓮の太刀を構えようとした直前、エクトプラズムの洞窟の出口から足音が反響した。その音だけで、洞窟に住むモンスターたちの体が小刻みに震える。
洞窟に静寂が戻った瞬間、女とブラフマの間には、謎の白いローブを纏う中肉中背の性別不明の存在が現れた。新たな刺客はブラフマに鋭い視線を向ける。
「ここにいたのか。随分探したよ」
「トール師匠。約束は明日のはずでしょう。なぜ探していたのですか?」
ルクシオンは突然の師匠の登場に、心底驚いている様子だった。トールは首を横に振ってから、ブラフマの顔を見る。
「ルクシオン。お前は探していない。このエクトプラズムの洞窟を住処にしている錬金術師を探していた」
白いローブを着ている女、ルクシオンが聞き返す。
「この男を見つけたあなたは何をするのですか?」
「挨拶。噂は聞いているよ。エクトプラズムの洞窟を住処にして、多くのモンスターを狩っているそうじゃないか? ブラフマ・ヴィシュヴァ。五大錬金術師のあなたが、こんな所にいたとはね」
「わしの正体を言い当てるとは、中々やるのぉ。お前はこいつらの仲間か? だったら教えてやれ。これ以上の戦いは無駄だと」
ブラフマが名乗るとルクシオンは唇を噛む。
「ブラフマ・ヴィシュヴァ。許せない」
そんな彼女の顔を横眼で見ながら、トールが口を開く。
「随分と探したよ。私はトール・アン」
「トール・アン。ルクシオン。お前らはアイザック探検団のメンバーを殺害し、絶対的能力を手に入れた。そうでなければ、お前らが絶対的能力を手に入れることができない」
ブラフマの脳裏には、ある危険な錬金術研究機関の名前が浮かぶ。その答えにトールは不敵な笑みを浮かべる。
「ご名答。あの連中は私一人で殺したよ。絶対的能力なくとも、あの槌の前ではプロの錬金術師が百人束になったとしても、私に傷一つ付けることなんてできぬ。それに加えて絶対的能力も使えるからねぇ。ブラフマ。お前の自信満々のプライドを再起不能な程、ぶっ壊すこともできるけど、今は止めておこう」
「なぜじゃ?」
自身の絶対的能力や錬金術の才能を過信する五大錬金術師が疑問を口にする。直後、トールはブラフマの背中を向けた。
「このまま戦うことになれば、乱戦になってしまうからね。一分後、この場にアルケミナ・エリクシナと助手がやってくる。そうなってしまえば、一対一ではなく一対三になってしまう。助太刀は望まないでしょう」
「確かにそうじゃな。おぬしとは一対一でやりたい。今回は見逃してやる」
話の分かる五大錬金術師の声を聴くよりも早く、トールは洞窟を脱出した。それにルクシオン達が続く。

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