それは絶対的能力の代償

山本正純

第19話 洞窟のモンスター

数時間後、アルケミナとクルスの二人は、エクトプラズムの洞窟へやってくる。
洞窟の入り口の前に立ったクルスが一歩を踏み出しながら呟く。
「先生。この洞窟を抜けた先に目的地、サラマンダーがあるんですよね。今日中に辿りつくことができますか?」
「この洞窟を攻略するのに必要な最低所要時間は七時間。だから今から行けば、日が暮れる前にサラマンダーに到着することができる」
クルスは確認を済ませると、暗闇に包まれた洞窟の中に入っていく。アルケミナもクルスに続くように、自分の足で入り口に向かい歩き出す。


洞窟の内部は光が届かないため、暗闇に覆われている。アルケミナが錬金術でランプを召喚し、周囲を照らす。
洞窟の壁には紫色の水晶が生えている。その内の一つが突然動き出す。
二人の目の前に現れたのは、洞窟の壁に擬態していた紫色の水晶を生やした大蛇。
その大蛇は二人を襲う。それより早くアルケミナが咄嗟に槌を叩き、大きな壁が召喚する。大蛇はその壁にぶつかり、反動により遠くに飛ばされる。
アルケミナは小さくため息を吐く。
「このレベルなら本気を出す必要もない。ましてや、クルスの能力の出番もない」
アルケミナがハッキリと答えると、クルスは心配する。
「アイザック探検団を全滅させたモンスターもいるかもしれないでしょう。断定するのは早過ぎます」
「大丈夫。その時はクルスの能力があるから」
アルケミナが真顔で答える。
それから二人がしばらく歩いていると、突然アルケミナが立ち止まる。その視線の先には三つに分かれた穴があった。
「分かれ道ですね。右か。左か。真っ直ぐ。どれを選びますか」
クルスがアルケミナに問う。アルケミナは槌を叩き、昨日購入したエクトプラズムの洞窟の地図を取り出す。
「真っ直ぐ行く。それが一番近い」
合理的な意見だと思いながら、クルスが地図を覗く。そこに書かれていたのは衝撃の事実。
「先生。真っ直ぐ行くのはいいですが、その先に生息しているのは主と互角に戦うことができるモンスターですよ。それが四匹います。本当に行くのですか? 一番安全なのは左ですよ」
「構わない。本気を出さないという言葉は撤回する。一度に四匹のモンスターと戦うことになっても、クルスの絶対的能力と私の錬金術があれば負けない。左に行けば遠回り。時間の無駄」
「分かりました」
クルスはハッキリと答え、死を覚悟する。これから行くのは近道だが、危険な場所。一度に強いモンスターが襲い掛かる地獄。
「先生。アイザック探検団を全滅させたモンスターが、この先にいるのではないかと思っているのですか?」
「多分。この先がアイザック探検団のメンバー全員の遺体が発見された場所だから」
二人は危険な近道へと足を踏み入れる。


その先に広がっていたのは、円形のフィールド。その場所にも三つの穴が開いている。その分かれ道は同様に、右と左と真ん中。
アルケミナは地図を見ながら、道を確認する。
「真ん中の穴。それを通れば主がいる出口に辿り着く」
現在この場所には、モンスターが出現していない。その隙に二人は出口に向かい歩き出す。
だが、上手くいかない。突然三つの穴から、黒い羽と一本の角を生やした四足歩行のモンスターが三匹現れた。
それに合わせて、洞窟の天井で眠っていた四匹目のモンスターが目を覚ます。そのモンスターも三匹のモンスターと同様の種類。
合計四匹のモンスターとアルケミナたちが対峙する。
円の真ん中には一匹のモンスター。三匹のモンスターは、それぞれの穴を封じるように立っている。
円の中心にいるモンスターは、アルケミナたちに突進する。二人は素早く攻撃を避けた。
穴を守っている三匹のモンスターは、一歩も動こうとしない。
この状況からアルケミナが察する。
「主に攻撃するのは円の中心にいるモンスター。あの突進が当たれば一溜りもない」
「だったら大蛇を倒した時と同じように、壁を召喚すればいいでしょう」
アルケミナはクルスの意見を聞き、首を横に振る。
「それはできない。あの突進は確実に錬金術で召喚した壁も破壊する。それでは意味がない」
四匹のモンスターは、一斉に黒い羽を羽ばたかせる。それによりカマイタチのような風が生まれる。クルスは咄嗟にアルケミナの体を押し倒し覆いかぶさる。その風の一部に当たったクルスの体には、無数の切り傷ができる。当たらなかったカマイタチは壁に突き刺さった。
「先生。怪我はありませんか?」
「怪我はない。おかげで分かった。あの四匹のモンスターを倒す方法」
アルケミナは四匹のモンスターの体を見る。モンスターたちの体には切り傷がない。それを確認したアルケミナは確信する。
「あのモンスターは超音波でお互いの距離を測り、お互いを傷つけあわないように気を付けている。説明は後。ここはクルスの出番。一分間。時間を稼いで。相手は真ん中にいるモンスターだけ。残りのモンスターを相手にしたら一対二になる」
「分かりました」
クルスは、円の中心にいるモンスターに近づく。モンスターは爪を尖らせ、細い腕を上げる。それから数秒後、腕は振るい降ろされる。
クルスは攻撃を避ける。その間アルケミナは地面に白いチョークで魔法陣を書きこむ。
クルスはモンスターの攻撃を避け続ける。
東に土を意味する下向きの三角形に横棒を加えた記号。
西と中央に気を意味する上向きの三角形に横棒を加えた記号
南に凝固を意味する牡牛座。
北に三日月のマーク。
一分後、その記号で構成された魔法陣を、アルケミナが完成させ、叫ぶ。
「完成した。それを両耳に入れて」
アルケミナは、どこからか取り出した耳栓と紙をクルスがいる方向に投げる。
クルスはそれをキャッチし、アルケミナの指示通り両耳にそれを入れる。拾った紙には次の指示が書いてあった。
アルケミナは白い槌を叩き、錬金術を発動する。その直後、アルケミナは自分の両耳を両手で塞ぐ。
錬金術によって発生した超音波により、モンスターの動きが止まる。
クルスは紙に書かれた指示に従い、モンスターたちを一匹ずつ素手で殴り倒す。
こうして二人は、モンスターたちを撃破する。
アルケミナが錬金術を解除した後で、クルスは耳栓を外す。
二人は真ん中に穴を通り、主が暮らす出口へ向かう。

          

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