それは絶対的能力の代償

山本正純

第18話 エクトプラズムの洞窟

同じ頃、小太りに金髪のリーゼントの男、ハント・フレイムと金髪のスポーツ刈りで黒いローブを着ている男、ブライアン・フレイムの二人は夜のエクトプラズムの洞窟に向かっていた。
ハント・フレイムは月明かりを浴びながら隣を歩くブライアン・フレイムに話しかける。
「ブライアン兄さん。今回は久しぶりに夜の狩りか」
「ああ。エクトプラズムの洞窟に生息するモンスターは夜になると凶暴化するが、その分モンスターの血液の成分が変化する。その血液は錬金術の材料として高額で売れる。今回の狩りを成功させて大金持ちになろう」
「噂では新種のモンスターがアイザック探検団を全滅させたらしいぜ」
「関係ない」
ブライアンが言い放つと、二人はエクトプラズムの洞窟の入り口に入っていく。
辺りは暗闇に包まれている。ハントが洋燈の槌でランプを召喚して、歩き出す。
それからしばらく歩いていると二人の前に体中に紫色の水晶を生やした大蛇が現れた。
ハントは赤色の槌を地面に叩く。それにより、周囲を白煙が包み込む。一方ブライアンは錬金術で召喚した弓矢で大蛇を狙おうとする。
だが、大蛇の尻尾が地面を叩き、白煙が掻き消される。大蛇はそのままブライアンたちに襲い掛かる。
大蛇の動きは速い。視覚で姿を捉えることが難しいほどに。そのためか、ライアンの放つ弓矢は全て外れてしまう。
大蛇は牙を見せブライアンの頭を噛もうとする。
「ここまでか」
ブライアンが目をつむると、突然ブライアンの目の前に巨大な壁が出現する。
煉瓦造りの大きな壁。大蛇はその壁に激突し、反動によって飛ばされた。
直後、暗闇から一人の男が現れた。黒色のローブに身を包んだ長身の男。世のすべての女性たちが振り向くほどのルックス。逆立った緋色の髪。吊り上がった目。
男は大蛇を見て頬を緩ませる。
「やっと見つけた。この三日間張り込んで正解じゃった。欲しかったんじゃよ。夜パープルスネークの皮膚に分泌されるエキスがしみ込んだ、そなたの尻尾が」
男は地面に手を置く。すると地面に魔法陣が出現した。構成された魔法陣は、大蛇の這う地面まで移動していき、瞬く間に檻が大蛇を閉じ込めていく。
男は身動きができない大蛇まで近づき、適当に壁に触れた。そこから魔法陣が出現し、重たそうな長剣が生成される。そして、男は剣を振り下ろし、大蛇の尻尾を切断した。
「安心せぇ。尻尾は三時間もすれば生えてくる。それまでの辛抱よ」
男が大蛇の尻尾を袋に入れると、ブライアンとハントの二人は拍手した。その時男はこの場に二人がいることに気が付く。
ブライアンは男に近づき握手を求める。
「お兄ちゃん。助けてくれてありがとう」
「何。助けたつもりはないよ。わしは大蛇の尻尾が手に入ればそれでよかっただけ。ところでお前たちはハンターか?」
「そうだぜ」
ハントがはっきりと答えると、男は人差し指を立てる。
「だったら今日の狩りは止めたほうがいい。このレベルのモンスターに苦戦するようなら、出口に住み着いている主に瞬殺されるのがオチ。もう一度忠告する。夜のエクトプラズムの洞窟は危険じゃから、今日は帰ったほうがよかろう。朝になったらここで狩りを楽しめばいい。この一週間エクトプラズムの洞窟に住み着き、サバイバル生活をやっているわしの意見じゃ。聞くか聞かないかは任せるが、次は助けんよ」
ハント・フレイムとブライアン・フレイムの二人は男の意見に耳を貸し、足早に洞窟の入り口へと戻る。
その男の名前はブラフマ・ヴィシュヴァ。五大錬金術師の一人。

翌日の早朝。二つの人影がエクトプラズムの洞窟の入り口の前に立つ。
右肩に黒猫を乗せた大柄な体型に茶髪のショートヘアの女とパラキルススドライの怪人と呼ばれていた黒いローブを着た男。
パラキルススドライの怪人。即ちマエストロ・ルークは右肩に黒猫を乗せた女に尋ねる。
「そろそろ教えてくれないか? お前らは何者なのか」
「そうね。でもトール師匠に会わせるまでは言えないことになっているんだよ。新メンバーはトールが認めた人物に限定される、というのが組織のルール。トールに認められないメンバーは即処刑。あなたが処刑されたら私たちも罰ゲームを受けなければならない。だから処刑されないように頑張ってね」
「組織。お前たち以外にも仲間がいるということだな。危ない連中だということが分かった。そのトールっていう奴のお眼鏡にかなわないと処刑というルール。それは無意味だろう。俺はどんなものでも手刀で切断する能力を持っている。錬金術は通用しない」
パラキルススドライの怪人の発言を聞き、女は鼻で笑う。
「何も分かっていないね。あなたは絶対にトールに負ける。トールの絶対的能力に相性は関係ない。私でも勝てないから」
女の声に怪人は目を輝かせた。
「そんなに強い奴がいるのか! 実力はあの餓鬼以上か?」
「あの餓鬼というのはパラキルススドライであなたと戦った白銀長髪の女の子のことかな。確かのあの娘の錬金術はプロレベルだけど、トールの能力は、錬金術も通用しないから瞬殺でしょうね」
「確認だが、トールに餓鬼は俺の獲物だと訴えることはできるのか。できなければお前らの仲間にならず、あの餓鬼を殺しに行く」
「それくらいなら可能。危険な組織だと言われるけれど、基本的メンバーは仲がいいからね。万が一トールがあの娘を殺すことになっても、恨まないでよ。トールは邪魔な人間を平気で殺すような人だから、約束を破ることもある。その場合あなたはトールを殺そうとするでしょう」
女がマエストロの顔を見ると、彼は首を縦に振った。
「そうだな。あの餓鬼が死んだら、それ以上の実力を持つトールを殺して欲求不満を解消するだろう」
「それだけは止めたほうがいいよ。もう一度言うけど、あなたは絶対にトールを勝てない。死ぬのがオチ。あの世であの娘と殺し合いをしたいのなら、話は別だけどね。兎に角、トールがいるのは、エクトプラズムの洞窟を抜けた先にあるアルケア八大都市の一つ、サラマンダー。その町でメンバーが全員集合する。約束の日は二日後だから急がなくてもいいんだよね。ということで今日はエクトプラズムの洞窟で狩りでも楽しみましょうか」
二人と一匹はエクトプラズムの洞窟に入っていく。これから絶対的能力者による狩りが始まる。

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