異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜
トーラス学園〜課外授業⑧〜
ハァ……ハァ……
明け方の林道を男は必死になって走っていた。息を切らしながらも、男は足を止めることなく回し続け、一歩でも早く先を目指していた。
もうすぐだ……あと少しで……
男は目的の場所が近くなると、口に出して自分に言い聞かせる。そうすることで、疲れ切った足も少しだけ元気を取り戻す。
「見つけたっ!!」
ひっ……!!
背後から唐突に投げられた言葉に男は何かを察したのか青ざめる。男は振り返ることはせずに、疲れて重くなっている足を必死に動かした。早く! 早く! 一歩でも早く! と死に物狂いで前へと進んだ。だが、声は離れるどころか先ほどより近くから発せられた。
「往生際が悪い人間だな。でもまあ、無様な姿を晒してでも生き延びようとするところは、流石人間と言ったところだ」
「うるさい化け物!! 騎士がいたらお前なんて何もできずにやられておしまいだ!!」
「お前の言う騎士はここには居ないがな! あはははっ」
「くっ……」
男が諦めかけたその時、少し先に灯を見つけた。——男は最後の力を振り絞る。
「チッ、面倒が増えたぜ。じゃあな人間!!」
チクショー!! チクショォォオ!!
男は叫びながら灯に向かって手を伸ばした。最後の悪あがきと知っていても、その灯を掴もうと手を伸ばしたのだ。
そして、男は感じた。
自分の手の中に灯の感触があることを……
ダブルッ——!!
任せてください!!
叫ぶ声とともに自分の手が強く引かれ、灯のもとまで投げ飛ばされていたのだ。ダブルは風のクッションを作り出し飛ばされてくる男を上手く受け止める。
「大丈夫ですか?」
「あぁ。き、君たちは……?」
「僕たちは冒険者です」
「冒険者……ハッ、それよりあの化け物!! 魔人は!?」
「貴方を追っていたあれは魔人……なんですか……?」
「そうだ!! だから、助けを呼びに国境の砦まで来たんだ」
ダブルの纏っている空気が変わった。そこへ後方支援の三人がやってきた。
「あんたら何やってんだい、突っ込みすぎだよ。とその男は誰なんだい?」
「チロルさん、この方をよろしくお願いします」
それだけ言うと、戦っているカーネルの元へと向かった。チロルはその背中を見て、「どこの誰に似たんだか」とため息を吐いた。
「メイちゃんここを任せてもいいかい? アタイはあのバカ2人のサポートしてくるよ」
「ふふっ、懐かしいですね。チーちゃんも気をつけて」
頷くとチロルも直ぐにダブルを追いかけた。
〜
男を追っていた魔人とカーネルは相対していた。
「貴様、何者だ?」
「赤い目にその背中の羽……お前魔人か。悪いが魔人に語る名は持ち合わせていないぜ」
「調子にのるなよ人間風情がぁ!!」
「あーハイハイ。そういうのはいいからかかってこい。格の違いを教えてやる」
「クソガァアアア!!」
カーネルの挑発に怒り狂うと、魔人の周囲にいくつもの黒い炎が出現する。その一つ一つに込められた魔力は只の人が込めれる魔力を優に超えていた。
「跡形もなく消えろっ!! 暗き炎の流星」
黒い炎が一斉にカーネルを襲いかかる。だがカーネルは、迫り来る攻撃を気にもとめずにその場から動かなかった。——当然魔人の放った攻撃は全てカーネルに直撃する。
着弾するたびに熱と煙が舞い上がり、その光景を見ながら笑う魔人の声が響いた。
「アハハハハ!! 見事にピチュリやがったぜ。なーにが格の違いだ、所詮は人間よな!!」
再び男を追いかけようと飛び去ろうとした時、
「おいおい、どこ行くんだお前? まさかあの程度で死んだとでも思ったか?」
魔人はすぐさま振り返るとそこには、首をポキポキ鳴らしながら立つカーネルの姿があった
「な……んだと……!?」
「魔人様の大層な魔法はどうやら俺には通用しないみたいだぜ」
「そんなバカなことがあってたまるか!!」
「んなこと言われてもなぁ。悪いことは言わねぇ。投降しな……」
「くっ……!!」
魔人の表情が歪んだ。
(なんだこの人間は……まあいい、一旦撤退し彼の方達に伝えなくては。それに相手は人間飛んで逃げれば追ってこれまい)
「この場は一旦引くが次会った時がお前の最後と知れ!!」
「あ、コラ、逃げんじゃねぇ!!」
魔人は高く飛び上がろうと、羽を動かす。がしかし、いくら動かしても高度は上がらずむしろ下がっていた。——そのまま自由落下した魔人は地面に激突する。
「何がどうなってやがる……」
ムクッと起き上がった魔人は自分の背中を確認すると羽がなくなっていることに気付いた。そして、今まで感じなかった痛みが一気に押し寄せてくる。
ぐあぁぁぁっ!! お、おれの羽がっ——!
魔人はヨロけながら立ち上がる。背中からは焼けるような痛みが継続的に襲ってくるが、魔人には痛がっている時間などこれっぽっちもない。急いでこの場から去らなければ、自らの命が絶たれることを十分に理解していたからだ。
「何処へ、行くつもりですか?」
冷酷な声が魔人に向かって届く。ふつふつと込み上げてくる怒りを殺して、その人物、ダブルは言葉を続けた。
「僕が魔人を見逃すと思っているんですか? それも人を襲おうとした魔人を……」
「くっ、人間如きにぃいいい!!」
ダブルは魔人に手をかざすと、魔人が業火に包まれた。
「まあ、落ち着けダブル。こいつは貴重な情報源だからな、殺すのは無しだ」
「……わかりました」
魔人を前にし黒い感情が出ていたダブルだが、カーネルの指示を素直に聞いた。この魔人がブルに関わる情報を持っているかもしれなかったからだ。
そこへ、後衛にいた仲間たちも2人の元にやってくる。
「カーネル、無事かい?」
「まあ、見ての通りだ」
「……魔人。ってことは、あんたが言ってたことは本当のことだったんだね」
「だから言ったじゃないか! 魔人が急に村を襲ってきたんだ。 だから頼む、村を救ってくれ……!!」
全員カーネルの方を見る、当然ダブルもだ。今ここまできているのはあくまで依頼があってのことで、その依頼を受けているキメラの両翼のリーダーであるカーネルに従うほかないからだ。
「俺たちが受けてる依頼も似たようなものだろ。引き受けて損することはないか」
「それはいいが、こいつはどうするんだい? 連れてくわけにはいかないだろ」
チロルはカーネルの魔法によって拘束されている魔人を指差す。
「そうだな……得策じゃないが、また2組に分かれるしかないな。魔人相手だから一緒に行動したかったんだが、今は情報も惜しい」
「それでは、私とダブル君とで情報を聞き出すのでもいいでしょうか?」
今まで黙っていたメイデンが提案をしてきた。
「…………わかった。ダブルを頼んだぞ」
カーネルはそれだけを言い残し、2人を残して村へと向かった。
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