異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜

スーナ

トーラス学園〜課外授業⑦〜





 王都を出てからといい馬車内からはカーネルの声だけしか聞こえなかった。他のみんなは寝ているわけでもなく、しっかりと起きていてこの状況になっていた。

 なぜかと問われると、カーネル以外の全員が口を揃えてこういうだろう。『知らない人が乗ってるんだけど!!』と。

 すると、その人物が喋り始めた。

「カーネルさん、どうやらみなさん私のことが気になっているみたいですよ」
「ん? ああ、言ってなかったか。こちら今回案内をしてくれるメイデンさんだ」


 ——メイデン!?


 名前を聞いてリエルは声を出して驚く。つい声を上げてしまったせいか、口元を両手で覆い隠していた。

「すみません。つい声を上げてしまったです」
「ふふふ、謝らなくていいのよ。元はと言えばカーネルさんが紹介していなかったのが悪いのですから」

「あの、メイデンさんはあのヴァーゴ・メイデン様ですか?」


 「そろそろ大丈夫かしら」とメイデンは被っていたフードを取る。——鉄でできた仮面があらわになった。

「おいっ、見るです!! 本物です!!」
「リエルさん、い、痛いです! み、見てますから叩かないでください!!」


 リエルは興奮のあまりダブルをバシバシ叩いていた。突然目の前にゾディアックが現れ、しかもその相手がリエルの憧れる人物とあれば仕方のないことだった。

 だが、ダブルは違う。リエルとは真逆で目の前の人物が誰だかがわからなかった。有名人といえど、知られていなければ一般人と変わらない。それ故にリエルがこうも興奮してるのかがダブルには分からなかったのだ。


「えっと、メイデンさんはどういう方なんですか?」
『え……!?』
「ん……?」


 ダブルは周りの反応に首をかしげる。そんなダブルにリエルが恐る恐る聞く。


「お前まさかメイデン様を知らないですか?」
「すみません」
「ハッハッハ、ダブルは意外と世俗に疎いんだな。俺が教えてやろう」


 カーネルは太い腕を組み、鼻を鳴らす。その姿を見たチロルは嫌な予感がしていた。


「そこにいるメイデンはゾディアックだ!! そしてブルに惚れている乙女だ」
「ちょ、カーネル!!」

「あら、カーネルさん。それは言わない約束でなかったかしら?」


 馬車内が殺気で満たされる。

「す、すまん。今度好きなもん奢ってやるから……」
「カーネルさん、ちゃんと謝らないとダメですよ。でも、想い人がいてくれるって素晴らしいことだと僕は思います。なんというか大切にされてるって実感できるじゃないですか」


「……今回だけですよ。次はありません。皆さんも今の話はお忘れください」
「はぁ、カーネルは本当にトラブルメーカーだねぇ」

 チロルが首を横に振り呆れ果てていた。

「まあ、話はこの辺で終いにしよう。大陸境い国境まではまだ時間があるからな、今のうちに寝ておいてくれ」

 そう言われてダブルは目をつむった。





 それから数時間が経ち、ガラガラと音を立てて進んでいた馬車が止まる。
 そこは、林道を出てすぐの場所で、続く道先にはお城の様な砦が見えてとれる場所だった。

 そして、近づいてくる足音が聞こえてくる。

 ついたか……


 ドアの前で足音が止まると、ドア越しに声をかけられる。

「到着しました、準備をお願いします」
「……わかった」

(さて、コイツらを起こすか……)

 カーネルは頭をかきながら他の寝ている者を起こし始める。起きた者から馬車を降り、身体を伸ばして凝り固まった部分をほぐし始めていた。そして、しばらく経ってからカーネルとダブルが降りてきた。


「ダブルのヤツ、やっと起きたぞ」
「みなさん、すみません」

「流石平民です。あんなお尻が痛くなるところで熟睡するなんて貴族の私には無理です」

 すると、メイデンが不思議そうに口を挟んできた。


「リエルさんも仮面の殿方の肩を借りて気持ちよさそうに寝ていた風に見えていたのですが、あれは違ったのですね」
「メ、メイデン様それはあのです。私が貸してあげてたのです」

 リエルの顔が一瞬で茹で蛸状態になる。まだ辺りは暗いにも関わらずわかる程にだ。そんな可愛らしい姿に、メイデンからは笑みが溢れていた。


「ふふふっ、わかりました。そういうことにしておきますね」




 カーネルは全員いることを確認すると、気持ちを切り替える。

「おし、全員揃ったな…………んじゃま行きますか」


 キメラの両翼一行は巨大な門の前まで移動する。——そこには重装備をした騎士2人と、魔法装束の格好をした人物が1人が立っていた。


「そこの者たち止まれ。こんな時間に何様だ……?」
「俺たちは冒険者で極秘の依頼できている。すまないが詳細は言えない」

「ふむ…………わかった。とりあえず全員冒険者カードを掲示してくれ」
「感謝する」


 カーネルは理解してくれた騎士に感謝をすると、懐から冒険者カードを掲示した。——それはあまり見たことがない赤色をしていた。

 騎士は出された冒険者カードを見ると今度は別の注文をしてきた。


「すみませんが、夜間となりますので魔力を込めて貰えますか」
「ああ、すまなかった。これでいいか?」

「——こ、これは!!」
『——!!』

 騎士が驚きの声を上げると、残りの2人が武器を構え始めた。その姿を目にした騎士は慌てて2人を止める。

「すまない、2人とも武器を収めてくれ」
「一体どうしたっていうんだ……?」
「いや、思った以上に凄いお方で驚いてしまったんだ。この方はキメラの両翼のカーネルさんだ」

『!!』

 それを聞いた2人も同じように驚いていた。


「取り乱してしまってすみませんでした。残りのお方も確認いたしますので、冒険者カードの掲示をお願いします」


 全員言われた通り順番に冒険者カードを掲示していった。当然ダブルはダミーのカードを掲示していたが、バレることなく事なきを得た。
 

「それではお通り下さい」


 騎士が言うと、魔法装束の男が門の横に手を当て魔力を流し込見始めた。すると、巨大な門がゆっくりと開いていった。——門が開ききると反対側の門まで続く一本の橋が現れた。

 100メートルを超える橋を渡り、再び身元確認を行い終えたダブル達はようやくジェミニ大陸に入った。



「まずは近くの村に寄って足を確保する。もうすぐ日が昇るとはいえ、まだ暗いからな注意しておけよ」

 カーネルは、林道を進むための火明ひあ かりとなる魔法を使った。手のひらから「ボッ」と火の玉が出現すると、先導するかのように火の玉が浮遊移動を開始していた。——拳サイズくらいの火の玉なのだが、大きさの割に辺りを照らしていた。

「そんじゃ、あの火の玉の後を追うぞ。それと火明かりの届く範囲には入るなよ、格好の的になるからな」

 火の玉を頼りに、林道を進み始めた。



「そういえば、気になったことがあるのです」


 唐突に気になることがあると言い出したリエルにダブルが聞き返した。

「リエルさん、何か気になることでもありました?」
「さっき門で身分確認をしてた時、メイデン様だけスルーされてたです」
「そういわれれば、確認されてなかった気がします……」


 その疑問にメイデン本人が答え始めた。

「うふふ、それはですね、私が魔法で騎士達の視覚に映らないようにしてたからですよ」
「ん? ん? どうしてそのようなことをしたですか?」

 メイデンの回答にリエルが混乱してしまう。


「メイデン、お前さんはまた私情で動いてるのか……」
「今回は仕方が無かったのです。それとも、トーラス大陸のゾディアックの捜索依頼が、他国のゾディアックである私の元に入ってくると思っているのかしら」

「それが何か関係あるですか?」
「はぁ……仮にもRクラスだろうにちゃんと授業受けてるのかリエル」
「勉学はウードに任せてるから、気にせず教えるです!!」


 相変わらずの上からの物言いにダブルは仮面の下で苦笑いする。


「12大陸共通の禁則事項としてゾディアックは正式な依頼が無ければ、他大陸に足を踏み入れることを禁止されているんだ。 ゾディアックが本気を出せば、1つの大陸を相手取ることもできるから当然ではあるがな」

「つまり、今回メイデンさんはその禁則を破っているため、見つかると非常にマズイということですね」

「そういうことだ。それに、ゾディアックが存在しない大陸相手には、物事を優位に進められるからな、自国のゾディアックに捜索依頼を任せるわけもないってことだ」
(こんな禁則と立場があるから、メイデンはブルに想いを告げることなく身を引いたんだ。奴の捜索くらい好きにさせてやってくれよ……)


「そういう理由だったんですね、なるほどです」


 疑問が解消されたリエルはスッキリした表情に変わっていた。だが、それも一時の感情で終わる。

「止まれ……」


 前を歩いていたカーネルが手を挙げ全員に指示を出したのだ。


「なにかこちらに向かってきますね。これは……どうやら追われているみたいですね」
「ああ、そのようだ。 追ってる方は結構な魔力だな、ダブルと俺で対処する。メイデン、チロル、リエルは後方支援だ」


 高ランクの依頼初の戦闘で言葉が漏れる。

「くっ、緊張してきたです」
「バッカ……リエル。緊張はするなよ。いざって時に動けなくなるぞ」
「わかっているです!!」




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