異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜
トーラス学園〜課外授業③〜
~
今僕は視線だけで殺されそうな状況にあります。
ダブルとリエルは作戦会議をするためテーブルを挟んで向かい合って座っていた。だが、座ってからといい未だ話一つしていなかったのだ。ただただ目の前から強烈な視線がダブルをさし続けていたのだ。
(これ、仮面をしてなかったら逃げ出していたな…………いつかのススゥみたいだ……。そういえばススゥがここにいないってことは魔法騎士団のほうを選んだのか、うまくやってるのかな)
「……です!」
「へ……?」
いきなり「です」とだけ言ってきたリエルに意味が分からずダブルは間抜けな声を出してしまった。
「お前なに変な声出してるですか、やっぱりミャル様の近くにはおいては置けないです」
「いや、今「です」って言ってきませんでしたか?」
「ただの舌打ちです」
「そ、そうなんですね……ははっ……」
(ええ~~~~っ!! さっきの舌打ちなの!?)
リエルのペースに完全に飲まれてしまったダブルはすべてをあきらめた。同時に、普段側近として置いているミャル先輩にさらなる尊敬の念が生まれてきたのだ。
(今度このペットのような娘をどうやって扱っているのか聞いてみよう)
その後も作戦会議はできずただカーネルとチロルが来るのを待つだけになってしまった。
「待たせたな。2人とも」
「あっ、お帰りなさい」
「どうだ、作戦は練れたか?」
「それなんですが…………」
「作戦なんて必要ないです。私一人で十分です」
ダブルの心境をなんとなく察したカーネルは苦笑いしながら言った。
「そうかそうか、威勢がいいのは嫌いじゃないぞ。それじゃ時間も惜しいし演習場に行くぞ」
「ふんっ、私の実力を思い知らせてやるです!!」
(先が思いやられる……)
遠い目でリエルを見つめながら、ダブルは3人の後ろをついていった。
演習場に着いた面々は準備をしていた。ダブルは軽く準備運動をし体をほぐしながらぼーっと考えていた。——僕は戦闘狂でもなんでもないのにと。
そしてチラッとリエルを見る。
確かリエルさんは水属性の魔法を使ってたってけか、上手く合わせて戦うしかないか……それに、あの2人相当強いみたいだし。
「そろそろ始めるか」
「あ、はい。わかりました」
座っていたダブルは立ち上がり、地面に触れていた箇所を軽く叩いた。その間にキメラの両翼の2人は距離を取りダブルとリエルの2人と向かい合った。
「あ〜そうそう。言い忘れてたんだが、俺かチロルのどちらかを戦闘不能状態にできなきゃ今回の話……課外授業は無しだ。そんじゃま、始め——!!」
『な——っ!!』
リエルとダブルは面を喰らう。課外授業がなくなるという話もそうだが、SSランク冒険者が生徒相手に不意をつくように始めたからだ。
「それ、先ずは嬢ちゃんからだ」
カーネルはリエルに接近した勢いを利用し、右足を突き出した。
「——くっ!! 間に合わな——っ!!」
彼女の小さい体でまともにくらえば、ひとたまりもないことは本人も直ぐに理解できた。——そして、次の瞬間には「ドゴッ!!」と鈍い音が聞こえた。
リエルの体はボールのように吹き飛び、壁に激突する!!
このくらいじゃ死にはしないだろうとカーネルはそう思っていた。だが——
「…………おい、マジかよ。まさか防がれちまうとはな。こりゃ一本取られたぜ!! ハッハッハッ!!」
「それなら、合格ってことで終わりにしませんか」
両手をクロスさせカーネルの蹴りを受け止めるダブルの姿がそこにあった。
「冗談じゃない、面白くなってきたばかりじゃねぇか」
「リエルさん!!」
「わかってるです!! 水柱」
カーネルの下から天に向けて水の柱が立った。普通の人なら水の立つ勢いで体ごと上空に放り出されるのだが、カーネルは何事も無かったかのように水柱のから出てきた。
「どうなってるですかあいつの体!!」
「あーあー、びしゃびしゃになったじゃね〜か」
そこへ、後方で見ていたチロルがカーネルの元まで来ていた。
「おっ、やっとやる気になったか?」
「カーネルあんたどういうつもりだい」
「なにがだ?」
「とぼけるんじゃないよ。さっきの蹴り当たってたら、あの娘大怪我してたよ!」
「そりゃ、それなりに力入れて蹴ったからな」
「ただの生徒相手に大人気ないんじゃないかって言ってるんだ」
側から見ても大人気ないのは一目瞭然だろうだが、カーネルはそう思ってはいなかった。
「そうか…………? まあいい。それよりもチロルお前、普通の生徒だったら大怪我するって言ってたな?」
「ああ、言ったさ。それがどうだっていうんだい?」
「まさか気づいてないとか言わないよな? お前が言うただの生徒が蹴りを止めたってことを」
「…………!!」
チロルは数秒固まった後に、表情が一変した。
「あの子なんで平然としてるんだい!?」
「お、気になるか? だが教えんぞ。自分で試してみるんだな」
「チッ! 相変わらずケチくさいねぇ」
学生相手にハンデも何もなしで戦うことが嫌だったチロルも、ダブルの力を知りたいという気持ちが上回り結局参戦することにした。
一方、ダブルたちもダブルたちでなにやら話し込んでいた。
「リエルさん大丈夫ですか?」
「感謝はしないですよ、あれぐらい避けれたです……」
リエルは悔しそうな顔で言うと、ダブルはカーネルから目を逸らすことはせずに「それで構いません」とだけ答えた。——いつまた、不意を突かれるか分からなかったからだ。
するとリエルは、「むぅ〜」と唸りながら自分の髪をわしゃわしゃとし始めた。そして何かが吹っ切れたかのように言ってくる。
しょうがないから力を貸してやるです……
ダブルは最初耳を疑ったが、後の言葉を聞いて空耳でないことを確信した。
勘違いするなですよ、お前のためじゃない私は私のために協力するだけです!!
(私がミャル様をお守りするんだ。こんな所でつまずいてちゃダメなんです)
リエルはダブルの横に並ぶように立った。
「どうやら次はチロルさんも加わってくるみたいですね」
「私が援護するので、お前がどちらかを確保するです」
「わかりました!!」
今度は不意をついてくることはせずに向こうも構えを取っていた。
それじゃあ、2ラウンド目といこうか!!
再びカーネルの開戦のゴングが鳴らされた。
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