異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜

スーナ

トーラス学園〜閉会式①〜

2018/10/09 タイトル修正



「『連れてきた』って、先生なに言ってるんっすか。俺はヒミさんと2人でここへ…………ひっ!!」

 テッツは後ろを振り返ると、確かにドアのところに見知らぬ人物が一人立っていたのだ。その人物は誰が見ても異常だった。

 長い髪、身にまとっている服、隙間から見える肌も全てが白かった。それだけならまだ良かったが、異常と言わせるのに決め手となったのは女性の顔でかたどられた鉄の被り物をしていたからだ。


 テッツは慌てて喋り出す。
「いやいや、俺が連れてきたわけじゃないですよ! というか、先生方の知り合いじゃ?」

「いえ、私の知人にそのような人はいません!! 貴方は何者ですか……!? この学園のものじゃありませんね」

 ダニロは冷静に対応する。すると、部屋の入り口で立っていたその人物は部屋の中へと入ってきた。すると鉄の被り物をしているとは思えないくらい透き通った声が聞こえた。
 
「初めましてでしょうか。私は——」

 この時、誰もが時が止まったように感じた。



 背中越しに聞いていた、メンテがその鉄の被り物をした人物に斬りかかっていた。——手には一振りで全てを焼き尽くしてしまいそうな炎獄の槍を持っていた。
 普通であれば、この大陸の次期ゾディアックに最も近いと言われている人物の一撃を簡単に防ぐことはできないだろう。

 だが、その鉄の被り物をした人物はメンテの攻撃を受け止めていたのだ。その光景にダニロ、テッツ、ヒミの3人は言葉もでなかった。

 余波で吹き飛ばないよう制御したとは言え、メンテの一撃を止めたのだ。只者ではないことは明白だった。


「見境なしの攻撃とは…………随分と手荒い歓迎ですね、メンテ・ワース」

「黙れ、なぜ貴様がここにいる【ヴァーゴ・メイデン】!!」

「話になりません……まずはその乱暴な矛を下ろしなさい」

 しかし、メンテは矛を下すことはしない。譲らないメンテにメイデンが言った。

「私は争いに来たのではありません。…………ですが、どうしてもというのであれば、相手になりましょう」

 息がつまるような殺気が室内を支配した。

 ぺたん……


 後ろでヒミが腰を抜かし息を荒げていた。テッツやダニロも辛うじて立っているが、同じように息を荒げている。

 その状況になり、ようやくメンテが矛を下ろした。それと同時に、殺気も嘘だったかのように消え去った。


「手荒な真似をしてしまい、申し訳ございません」

 ダニロが答える。
「い、いえ……大丈夫です。それよりも、聞き間違えでなければ、貴方様は」


「はい。申し遅れました。私はヴァーゴ・メイデン。ヴァーゴ大陸のゾディアックの座につかせてもらっている者です」

「先程は大変失礼を致しました!!」

 ダニロは謝罪する。知らずとは言え他国の地位ある者に、失礼な態度をとってしまったからだ。ダニロが頭を下げてる中、チラッとメンテに目をやると、「私は謝らないわよ」と彼女に喧嘩を売っていた。

「——メ、メンテ先生っ!!」

「かまいません。この娘が昔からこのような性格であることは知っていますので」

(メンテ先生をこの娘扱い……)


「失礼ながら、ヴァーゴ大陸のゾディアックであられる貴方が、どのような理由でこのような場所に来られたのでしょうか?」


 ダブルを放って話が始まりそうだったのを感じたテッツが会話を断ち切った。

「ちょっと待ってくれ先生!! それよりも先にダブルを!!」
「先程も言ったが、呼びに行かせた2人が戻ってくるまでは私たちにはどうすることもできない」

「違うわ。彼の言う通り今の最優先事項はダブル君よ…………」
「ですがメンテ先生。貴方の回復魔法は他人に使えません。となればダブルを治療する手段がありません」

「方法なら1つある……」

 メンテはそう言ってメイデンの方を向いた。


「メイデン頼みがある」
「貴方から頼み事とは珍しいこともあるのですね。頼みとは何でしょうか?」


「そこで傷ついているダブルを治療してくれないか……」

 絶対に頭を下げることのないメンテが頭を下げたのだ。


(話の流れからしてこうなることは分かってはいましたが、まさかこの娘が頭を下げるとは思いませんでした…………ブル様といい、この娘といい本当に似ていますね)

「わかりました。その願い聞き入れましょう」

 メイデンはダブルに近づくと胸の前で手を合わせた。


 そして、祈り始める。




 天より照らす慈愛の光よ、彼の者を癒したまえ——〈聖天の射光リルミネ


 室内にも関わらず、淡い光がダブルを照らした。


 見る見るうちに傷が癒えていき、ほんの数秒で外傷は全てなくなっていた。


「もう大丈夫です。時期に眼が覚めるでしょう

「噂はには聞いていましたが、これほどの回復魔法とは……」
「わ、私もこんな魔法初めて見ました!! 本当にすごいです!!」


「当たり前だ。メイデンはゾディアックの中でも1番の回復魔法の使い手だからな。その上、近接戦闘も馬鹿みたいに強いバケモノだ」


「あら、安心した途端酷い言いようね。まあいいでしょう、此方も本来の用件に入りたいので、場所を変えましょうか。メンテ……貴方に伝えなくてはいけないことがあります」


「わかったわ。それじゃあ、私はメイデンと話してくるから、後のことはよろしく頼むわ」


 メンテとメイデンは医務室を出ていった。



 2人が去った後、数時間が経っていた。
 その間、3人の間に会話はなく、なかなか目覚めないダブルを前に、ただ時間だけが過ぎ去っていた。

「と、もうこんな時間か。私は仕事に戻ります。2人もそろそろ戻ってください」

 気付けば外は暗くなっていた。

「ヒミさんは帰って休んでくれ。先生、俺はダブルが目を覚ますまでここにいます」

「仕方ないですね、ここの担当の先生には私から伝えておきましょう。ですが、テッツもあまり無理をせずに、空いてるベッドで休んでください」

 そして、医務室にはテッツだけになった。

 誰もいなくなり力が抜けたのか、ダブルが寝ているベッドに腰をかけると俯いた。

 ……なあ、お前が負けたのってやっぱり俺のせいだよな


 そんなことないよ



 いや……もし、俺が黒い連中からヒミさんを守れていたら、こんなことにはなってなかったはずだ!


 それこそ間違いだよ。例えヒミさんを助けに行かないで勝負していたとしても、負けてたし。だから気にしないで、顔をあげなよ。


(フッ……幻聴にまで同情されてるよ)
 こんな時でも優しいんだなダブル……

 テッツは寝ているダブルを見る。

 へっ…………


「そうです。テッツさんに下を向いてる姿なんて似合わないよ。」
「お前……目が覚めて!!」
「うん、ついさっきね——って!! うわっ!!」


 テッツがダブルに抱きついたのだ。

「よかった! 流石のお前でも死んじゃうんじゃねぇかって……」
「あははっ。正直ギリギリでしたね。流石はエスティさんですよ」

 普段なら抱きつこうものなら、魔法の1つや2つぶっ込むのだが、こんな時くらいはいいかと。少しこのままでいることにした。


「なあ、ダブル」
「急に改まって、どうしたんですか?」

「少し汗臭いぞ、体ふいて——」
「————ヘンタイっ!!」

 ダブルはテッツを投げ飛ばした。ベチンと痛々しい音する。

「いっ…………これが看病をしていた人への仕打ちか!! 俺はお前が病み上がりだからふいてやろうかって言っただけなのに!!」

「そ、それはすみません……テッツさんの日頃の行いのせいでもあるんですから、おあいこということで」

「まあ、とりあえずは回復してそうでよかった」

 テッツは空いてるベッドへダイブした。そしてそのままミノムシのように布団にくるまると、すぐに隙間から寝息が聞こえてきた。


 ありがとうございます……ゆっくり休んでください


 すでに寝ている彼に言うとダブルも眠りに落ちた。





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