異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜

スーナ

トーラス学園〜クラス対抗戦・決勝④〜





 「後はダブルに任せておけばいいだろう」とミールが言った直後、轟音と共にモドレスが吹き飛ばされてきた。--ロールとエスティはそのことに驚き、揃えて声を漏らしていた。


『……え!?』


 3人はモドレスが吹き飛んできた方に視線を戻すと、砂塵の中からウェラに肩を貸しながらダブルが姿を見せた。


「お待たせ、よく頑張ってくれたね」

「ふっ……流石にもうダメかと思ったぞ。……ウェラは大丈夫なのか?」


「命には別状は無いけど、早めに診てもらった方がいい、任せていいかな?」

「ああ、私も流石に限界だからな。試合の方はダブルに任せる」



 ミールにウェラを任せると、ダブルはエスティとロールに向き合った。








「嘘……あのモっちがやられるなんて」

「…………」


 エスティは何も言わなかった。そして、エスティの全身がブルッと震えた。


 エスティは考える。この震えは彼の力に恐れてのものなのか、それとも、これから憧れていた人物と戦えることに対してのものなのかを。






 そして分かる……この震えは後者だと。






 やっと。


 やっとこの人と戦える。





 ゾディアックになる為、この人を越える為に努力してきたのだ。今までの力を出し切る他ないと脳が全身に訴えかけていた。



 その時、エスティの後ろから声がしたのだ。


「グッ……まだだ!! まだ……私は負けてないぞっ--」

 モドレスだ。あの負傷でまだ立ち上がろうとしていたのだ。その時--


 バチィン!!


 --立ち上がろうとしているモドレスの足元に、エスティが魔法を放ったのだ。



「エスっち!! 何してるんすか!!」
「モドレス下がってなさい。貴方はもう戦えないわ」


「なんだ……と!!」



 モドレスは鬼の形相でエスティを睨む。だが、エスティの言ってることは最もだった。未だ立ち上がれない彼は足手まといの何者でもなかったのだ。



「ロール貴方もよ……モドレスを連れて下がってちょうだい」

「でも、私は……!!」






 ロールは分かってしまっていた。今のダブルは明らかにエスティ様より強いということに。そんな相手に一対一で戦わせていいのかと。


「2度は言わないわよ。どの道、私たち3人で相手しても彼の方に勝つことは無理よ……私は私のために戦いたいだけ、これは私のワガママなの。分かってくれるかしら……」


 ロールは顔を振り、迷いを捨てた。

「エスっち! 必ず勝って下さいっす!!」







 ん、ここは……


 見慣れた天井が目の前にはあった。すると、それを遮るように誰かが顔を覗かせてきた。


「目を覚まされたんですね。ここはテッツさんの部屋ですよ」


 テッツは目をパチパチさせ、覗いてきた人物に焦点を合わせる。


 ----ぇ!?


 テッツの顔が急激に真っ赤に染まった。


「ひ、ひ、ひっ----ヒミさん!? なんで、ここに--! 痛っ--!!」



 テッツは離れようとするが、疲労と痛みで体を動かすことができなかった。


「あっ! まだ動いちゃダメですよ! 傷は直しましたが、身体への負担までは取れてないのですから」



 彼女に注意されテッツは脱力する。


「はぁ……あわよくばって思ったけど、なんもできなかったな……」

「そんなことありません--!! 私とダブルさんは知っています。テッツさんは私のために……! 誰もが逃げたくなるような無謀な戦いの場に、立ってくれたことを!!」




 急にヒミさんに怒鳴られ、テッツは目を丸くしていた。


「えっ……ヒミさん?」

「それを…………それを「何もできなかった」なんて、そんな悲しいこと言わないでください……」




「ハハッ…………」





 そういや、今までロクなことなかったな……嫌なことから逃げて、自分の中に閉じこもって……楽な方、楽な方って道を選んでたな。

 今回も本当は何もしたくなかったんだよな……どうせ失敗するんじゃないかって思ってたし。でも、ダブルに……ミズキに出会って、こんな自分でも変われたんじゃないかって、希望にすがってみたけど、結局なにもできなくて…………





 ホント嫌になるよな









 でもよ……






 『それを…………それを「何もできなかった」なんて、そんな悲しいこと言わないでください……』







 こんなこと言われちゃさ…………





「やってみて良かったって思っちゃうよなあ゛」


 テッツの瞳からポロポロと涙が溢れていた。


「テッツさん!? どこか痛むんですか!?」
「あれ、おかしいな。なんだろこれ……ごめんヒミさん、うっ……んぐっ……こんなみっともない姿見せて」


「大丈夫です、みっともなくなんてありません。それに、ここには私とテッツさんしかいませんので我慢しなくていいんですよ? 今は思いっきり出し切っちゃって下さい。ふふっ、私とテッツさん2人だけの秘密ですね」


「うっ……ぅゔ……うわああぁぁ」

 ヒミさんは、子供のように泣きじゃくるテッツさんの頭を撫で続けてあげた。







 しばらくし、涙も出なくなったのか、ズズッと鼻水をすすり、涙を拭った。

「ううっ……ヒミさん……ありがとう、もう大丈夫だから」

「はい」


 そして、ヒミさんに背を向けて起き上がった。--テッツは動けるくらいまでに回復していたのだ。



(ああ、恥ずかしい! これじゃ顔も合わせられない!!)


 だが、そんな事お構いなしにヒミさんが回り込んできた。

「テッツさん、ダブルさんの応援に行きましょう。まだ終わってないと思いますので」

「ちょっ、ヒミさん今は--」
「大丈夫ですか? 顔赤いですよ? もしかして怪我の所為で、熱が出てしまったとか」



 ヒミさんは自分の額とテッツの額に触れて熱を測る。「熱は無いみたいですね」と首をかしげている。


(かっ……かわいいっ!!)


 待て待て待てとテッツは自分の頬を、軽く叩いた。ダブルの応援に行ってやらないとと、無理やり気持ちを切り替えたのだ。


「ヒミさん、もう大丈夫ですので、あいつの応援に行きましょう」
「そ、そうですか? あまり無理しないでくださいね」



 テッツとヒミは部屋を出て、ダブルを応援しに闘技場へと向かった。その道中、テッツはヒミに気になってたことを聞いていた。



「そういえば、俺の傷ってヒミさんが治してくれたんだってけ?」
「あ、はい。まだどこか痛みますか?」


「でもどうやって治したの? ポーションを使った風にも見えなかったんだけど」
「私の魔法で治したんですよ」


「ええ!! それって--」
「はい、未熟ですが、私は光属性の魔法が使えるみたいで……」

「すごい、すごいぞヒミさん!! そんな人に助けてもらったのか俺は」

「すごくなんて無いです……私、時折思ってしまうんです。もし私じゃなくて他の人が使えていたら、もっと沢山の人の役に立てたんじゃ無いかと」


「俺は他の人じゃなく、ヒミさんが使えて良かったって思ってるぜ。だってよ、ヒミさんはこんなにも優しいじゃん。ヒミさん以上にぴったりな奴なんていないぜきっと! 助けてもらった俺が保証する!!」

「テッツさん……」

「そろそろだな、急ごう」




 そして2人は闘技場に着くと、観客席へと急いだ。頼むからまだ終わってくれるなよと願いながら階段を上る。最後の通路を駆けて観客席へとたどり着いた。




「試合は--!?」



 ドゴォォオオン!!



 試合終了!! 勝者--



 ウソだろ…………







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