異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜
トーラス学園〜クラス対抗戦⑧〜
2018/12/20 誤字修正
今ダブルは待機室の椅子に座っていた。お腹の少し上の部分をさすりながらこれから始まる試合の事を考えていた。そもそもなんで相手がススゥなんだよと心の中でつぶやいてもこればっかりはどうしようもない。
(というか侍女のくせになんでSクラスなのかな〜、強すぎでしょ)
「……胃が痛い」
そんな様子でいるダブルを同じ部屋にいたミールが心配そうに見ていた。
「なあ、ウェラどう思う?」
「ん、なにが?」
「何がじゃない、気付いているだろ! 明らかにダブルの様子がおかしいじゃないか」
「う〜ん、そうなんだけどさ、ボクたちが何かを言って割り切れるものじゃないと思うし」
ウェラの言っている事は正しい。そのことはミールにも分かっていた。だが、ミールも今回の一戦を特別なものと思っていたのだ。
確かに初戦でAクラスに勝つことができたが、まだミール自身に力があると証明するには材料として弱いのだ。もしこの試合で敗北してしまった場合、自己顕示欲の強いミールの父であれば、間違いなく1回戦で上のクラスに勝利できたのもマグレだと思うだろう。——そうなるとミールはマスク家から追放されてしまう。
なまじ期待が持ててしまった分ミールも勝利にしがみつきたくなっているのだ。
「ウェラの言っていることは正しい、だけど私はっ……」
唇を噛み難しい顔をする。ミールの気持ちが痛いほどわかるウェラは1つため息を吐くと、未だ1人で考え事をしているダブルのもとに行き話しかけた。
「ダブル君さ……色々と考えてるみたいだけど、どうするか決まったのかな?」
「あっ、ウェラさん……すいません実はまだ考えがまとまらなくて……」
「やっぱりススゥさんのこと?」
「はい。正直、私は戦いたくないのだと思います…………ですがミールとの約束も破りたくはないのです」
そう、この世界では知人との手合わせや試合は、ごく当たり前のことで、逆にダブルのように知人とは戦いたくない方が珍しいのだ。
確かに元いた世界でも格闘技などスポーツとして存在していたが、それをダブルはやってきていたわけでもなく、手をあげること自体に抵抗があったのだ。
「そっか、なら戦わなくていいよ」
「えっ!?」
ダブルは一瞬自分の耳を疑った。だがそれは聞き間違いでもなんでもないことを次の言葉が証明していた。
「だから、戦わなくていいよ。無理して戦ってもあれでしょ?」
「でも」と言ってくるダブルに片手をあげ抑止する。
「もちろん試合には出てもらうよ。ただ、う〜ん、そうだね、ボクとミールが攻撃担当になるからダブル君はボク達を守ってよ」
ウェラの提案を聞いて、確かにそれなら自分がススゥに攻撃することはないがと思うが、やはり少しだけ抵抗が残る。——自分がやるはずだった事を全て2人に任してしまうところに抵抗を感じていた。
「でもこれだけは約束して、もしボクとミールがやられても棄権はしないで欲しいの、そういう中途半端な結果にだけはしたくないからさ」
「わかりました。その時はなんとかします」
ダブルの返事を聞けたウェラは「よし!」と気合を入れながら立った。そこへ、タイミングよくダニロ先生が試合が終わった事を伝えにやってきた。
「前の試合が終わりましたよ。準備してすぐ向かってください」
「あっ、はい。わかりました。ほら2人とも行くよ」
2人はウェラに手を引かれる形で向かうのだった。
会場内ではメンテのアナウンスで会場が沸き上がっていた。なにせ本日の試合の最後がDクラスながらAクラスを破ったダークホースの試合だったからだ。
形はどうあれ、今日見にきているほとんどの者がこの試合に注目しているのだ。
(さ〜て、ブルさんの弟子はどうな戦いをするのかな〜……楽しみ〜)
そして、選手の入場と共に更に会場が湧き上がった。
今、闘技場の上では対する2つのクラスの姿がある。SクラスとDクラスだ。
SクラスはRクラスに継ぐ実力者が集まるクラスなのだが、そんなSクラスにはある仕組みのようなものが存在している。
それは、例えSクラス以上の実力が有ったとしても、貴族位を持たない者はこのSクラスまでしか上がれないというものだ。
つまりはRクラスに入れる程の実力者が、稀にSクラスに留まっている、ということもあるということだ。——そしてその人物が今年のSクラスには存在していた。
「よく、逃げなかったわね。あんたのことだから『知り合いとは戦いたくない』とかなにかと理由つけて棄権するのかと思っていたわよ」
ダブルは仮面の下で少しだけムッとする。
「ススゥさん……こうして話すのは久しぶりですね。本来ならそうしたかったのですが、こちらも約束していますので、貴方達に勝つと」
売り言葉に買い言葉だ、ダブルの口から「勝つ」という言葉がでてきて、イラっとしたのか今度はススゥが舌打ちする。
「まあ、いいわ。この際だから痛めつけてあげる、覚悟しなさい!!」
「そっちこそ、負けても泣かないでくださいよ」
2人は背を向け指定の場所まで移動した。
「ミール、ウェラさん、Sクラスに一泡吹かせましょう! 攻撃よろしくお願いします」
急にスイッチの入ったダブルに2人はキョトンとしていた。そして、——第3試合始め!! と開戦の合図がされる。
ミールは少しばかり反応に遅れたが、相手の1人に向かって速攻をかける。——速攻をかけながら鉱物生成・武装と鉱物生成・長槍を発動していた。
「Aクラスに勝ったからって調子にのるなよっ!! 鉱物生成・槍、接近戦は俺の得意分野だ!!」
ありえないスピードで、まるで何もないところから現れるように槍が出現したことにミールは一瞬驚くが、そのままパルチザンを突き出す。だが、相手はカウンターを狙っていたのかそれを寸前で躱し、そのまま体を回転させ後ろへ回り込んだ。
「馬鹿め! 終わりだ、魔法付与・大地の力」
槍を構え、槍先に魔力を集める。そしてミール目掛け強烈な突きを放った。その槍はミールの鎧ごと貫いきミールは膝から倒れこむ…………。——そうなる筈だった。
「この俺が、魔力を察知できなかっただと!!」
彼の体にはいつのまにか地面から伸びた錠で拘束されていたのだ。
「さっきの言葉返させてもらうぞ!!」
ミールはこうなることが分かっていた。むしろこうなるように動いていたのだ。——既に腰を落としパルチザンを構えていた。
「地槍術、一閃!!」
ミールは高速で薙ぎ払うが、その攻撃は相手には届かなかった。瞬時に出現した土壁に止められていたのだ。
「バカなっ!! 私の一太刀をこんな薄い土魔法で……!!」
自信のある一撃を止められショックを隠せなかったが、今はそんな事を嘆いている時じゃないと直ぐに復活し、相手から距離をとった。
「油断してんじゃないわよ!! アンタそれでよくSクラスにいられるわね」
「黙れ!! 余計な手出しするな」
「アンタさぁ、誰に向かって言ってるのよ」
ススゥはやられかけた仲間を睨みつけると、その男は黙ってしまう。
「まあいいわ、あの後ろの奴には注意しなさい」
(ふむ、仲間割れしたと思ったけどどうやら立て直したみたいだね。っと言うかススゥ相変わらずだな)
「ミール、ウェラさん、3分でいいのでススゥの足止めお願いします。それまでに私はあの2人を仕留めます」
ダブルは挑発するように、あえて相手に聞こえるように言うと、面白いくらいに食いついてきた。
「お前っ!! 平民の分際で俺をバカにするんじゃねぇ!!」
一人で突っ込んでくる相手をみて、ススゥも大変だなと同情してると、意外と動きが早く、ミールとウェラの攻撃をくぐり抜けダブルの目の前まで来ていた。
ダブルは勢いよく攻撃してくる相手の懐に一瞬で潜り込むと相手の腰に片腕を回し、相手を自分の腰に乗せた。そのまま相手の勢いを利用して大腰を決める。
「ぐぁっ!!」
叩きつけられた相手からは声が漏れる。だが、投げ技だけでは防御魔法が付加された制服に、あまりダメージが通っていない事を知っているダブルは、トドメの一撃を放った。
「一人目です。——荒狂う嵐風」
風魔法が相手を更に叩きつける。Aクラスのリーダーを倒した時の技だが、あの時と比べると威力は出ていなかった。それでも、相手の意識を刈るのには十分な威力で、まともに食らった相手はピクリとも動かなかった。
(さて、あと1人を倒して、2人に頑張ってもらわないとね……って、相手は女の子か)
ダブルはもう1人の相手の方を向くと、1つため息を吐いた。
「女だからってナメないでください」
「すいませんが、降参して————」
ダブルはその場から後ろへと飛び退いた。先程いたばしょには石矢が刺さっていた。飛んできた方向を見るとススゥがミールとウェラの相手をしながらこちらに魔法を放っていたのだ。
(器用なことしないでよ!! でもまあ、Sクラスってのは嘘じゃないみたいだね)
ススゥは戦闘中にも関わらず、ダブルの方を見て笑みをこぼした。ダブルは嫌な予感がしすぐに警戒するが遅かった。
「かかりましたわね、範囲全体魔法・大地の壁」
ダブルを囲うように大地の壁が出現した。四方を見ても逃げ場はなく、ダブルは今の状況に小さく舌打ちをする。
(めんどくさいなあ……とりあえず風魔法で飛び越えるしかないよね。格好の的にはなるかもだけど、仕方ないよか)
ダブルは風を纏い、飛び越えようと上を見る。——その瞬間、体中から冷や汗が出てきた。
「えーっと、2人と戦ってなかったっけ?」
囲んでいる壁の上にはススゥが立っていた。それだけなら良かったのだが、更に上には無数の砂の塊が浮いていた。
「あの2人程度の強さなら、わざわざ私が相手する必要もないわ。2人に戦わせて私と戦わないつもりだったみたいだけど、残念だったわね」
ススゥはしてやったりの顔をしていた。
(これはまずい! 非常にまずい!!)
何か手はないかと、ない頭をフル回転させる。だが、無情にもススゥは既にやる気満々で、次には行動していた。
「今まで溜まりに溜まってきたもの、ぶつけてやるんだから!! 砂の雨」
なぜか、ススゥは活き活きとした声で魔法を唱えていた。
「ちょっ! 待っ——」
ズドドドドド——!!
会場に激しい音が響く。
ある者は目を逸らし、ある者は「もっとやれー」と叫んでいた。
砂煙の中、上半身だけだがうつ伏せに倒れているダブルの姿が見えた。ススゥは壁から飛び降り、倒れているダブルの元までいく。
「フン、いいザマね。これに懲りたら…………もう勝手にいなくならないことね」
戻ろうと振り向いた先の、まだ残っている砂煙の中に人影が見えた。--ススゥはすぐに構えを取る。
「強くなったねススゥ、流石の僕も驚いたよ」
「うそ……だって、あそこに……!!」
ススゥはダブルが倒れていた場所を見る。そこには確かにダブルのフードがあった。が、しかし、そこにはフードしかなかったのだ。
「ススゥは相変わらず加減ってものを知らないみたいだね。それじゃあお嫁さんに行けないよ」
「う、煩いわね!! アンタには関係ないでしょ!!」
彼女は顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「それに……」
「それにって、なによ」
「このフード大事にしてたのに……」
ススゥの中で心臓が1つ跳ね上がる。
「試合の最中に何言ってるのよ……!! でも、私がボロボロにしたんだから……お、終わったら、直して……あげるわよ……」
「ありがとう!! それじゃあ仕切り直しといきますか」
「なによ、戦いたくなかったんじゃないの」
確かに先程までは戦いたくないとダブルは思っていた。だが、あの出来事から明らかに彼女は成長していて、実際どれ程までになっているのか、今は知りたい気持ちが勝っていたのだ。
「気が変わったよ、今のススゥと戦ってみたくなったよ」
(なんだろ、この気持ち……あんだけ戦いたくないって思ってたのに……ついに僕も戦闘狂の仲間入りかな)
ダブルは風を纏い構えた。ススゥも大きく息を吐き構えた。
「そう……本気でいくから覚悟しなさい」
今ダブルは待機室の椅子に座っていた。お腹の少し上の部分をさすりながらこれから始まる試合の事を考えていた。そもそもなんで相手がススゥなんだよと心の中でつぶやいてもこればっかりはどうしようもない。
(というか侍女のくせになんでSクラスなのかな〜、強すぎでしょ)
「……胃が痛い」
そんな様子でいるダブルを同じ部屋にいたミールが心配そうに見ていた。
「なあ、ウェラどう思う?」
「ん、なにが?」
「何がじゃない、気付いているだろ! 明らかにダブルの様子がおかしいじゃないか」
「う〜ん、そうなんだけどさ、ボクたちが何かを言って割り切れるものじゃないと思うし」
ウェラの言っている事は正しい。そのことはミールにも分かっていた。だが、ミールも今回の一戦を特別なものと思っていたのだ。
確かに初戦でAクラスに勝つことができたが、まだミール自身に力があると証明するには材料として弱いのだ。もしこの試合で敗北してしまった場合、自己顕示欲の強いミールの父であれば、間違いなく1回戦で上のクラスに勝利できたのもマグレだと思うだろう。——そうなるとミールはマスク家から追放されてしまう。
なまじ期待が持ててしまった分ミールも勝利にしがみつきたくなっているのだ。
「ウェラの言っていることは正しい、だけど私はっ……」
唇を噛み難しい顔をする。ミールの気持ちが痛いほどわかるウェラは1つため息を吐くと、未だ1人で考え事をしているダブルのもとに行き話しかけた。
「ダブル君さ……色々と考えてるみたいだけど、どうするか決まったのかな?」
「あっ、ウェラさん……すいません実はまだ考えがまとまらなくて……」
「やっぱりススゥさんのこと?」
「はい。正直、私は戦いたくないのだと思います…………ですがミールとの約束も破りたくはないのです」
そう、この世界では知人との手合わせや試合は、ごく当たり前のことで、逆にダブルのように知人とは戦いたくない方が珍しいのだ。
確かに元いた世界でも格闘技などスポーツとして存在していたが、それをダブルはやってきていたわけでもなく、手をあげること自体に抵抗があったのだ。
「そっか、なら戦わなくていいよ」
「えっ!?」
ダブルは一瞬自分の耳を疑った。だがそれは聞き間違いでもなんでもないことを次の言葉が証明していた。
「だから、戦わなくていいよ。無理して戦ってもあれでしょ?」
「でも」と言ってくるダブルに片手をあげ抑止する。
「もちろん試合には出てもらうよ。ただ、う〜ん、そうだね、ボクとミールが攻撃担当になるからダブル君はボク達を守ってよ」
ウェラの提案を聞いて、確かにそれなら自分がススゥに攻撃することはないがと思うが、やはり少しだけ抵抗が残る。——自分がやるはずだった事を全て2人に任してしまうところに抵抗を感じていた。
「でもこれだけは約束して、もしボクとミールがやられても棄権はしないで欲しいの、そういう中途半端な結果にだけはしたくないからさ」
「わかりました。その時はなんとかします」
ダブルの返事を聞けたウェラは「よし!」と気合を入れながら立った。そこへ、タイミングよくダニロ先生が試合が終わった事を伝えにやってきた。
「前の試合が終わりましたよ。準備してすぐ向かってください」
「あっ、はい。わかりました。ほら2人とも行くよ」
2人はウェラに手を引かれる形で向かうのだった。
会場内ではメンテのアナウンスで会場が沸き上がっていた。なにせ本日の試合の最後がDクラスながらAクラスを破ったダークホースの試合だったからだ。
形はどうあれ、今日見にきているほとんどの者がこの試合に注目しているのだ。
(さ〜て、ブルさんの弟子はどうな戦いをするのかな〜……楽しみ〜)
そして、選手の入場と共に更に会場が湧き上がった。
今、闘技場の上では対する2つのクラスの姿がある。SクラスとDクラスだ。
SクラスはRクラスに継ぐ実力者が集まるクラスなのだが、そんなSクラスにはある仕組みのようなものが存在している。
それは、例えSクラス以上の実力が有ったとしても、貴族位を持たない者はこのSクラスまでしか上がれないというものだ。
つまりはRクラスに入れる程の実力者が、稀にSクラスに留まっている、ということもあるということだ。——そしてその人物が今年のSクラスには存在していた。
「よく、逃げなかったわね。あんたのことだから『知り合いとは戦いたくない』とかなにかと理由つけて棄権するのかと思っていたわよ」
ダブルは仮面の下で少しだけムッとする。
「ススゥさん……こうして話すのは久しぶりですね。本来ならそうしたかったのですが、こちらも約束していますので、貴方達に勝つと」
売り言葉に買い言葉だ、ダブルの口から「勝つ」という言葉がでてきて、イラっとしたのか今度はススゥが舌打ちする。
「まあ、いいわ。この際だから痛めつけてあげる、覚悟しなさい!!」
「そっちこそ、負けても泣かないでくださいよ」
2人は背を向け指定の場所まで移動した。
「ミール、ウェラさん、Sクラスに一泡吹かせましょう! 攻撃よろしくお願いします」
急にスイッチの入ったダブルに2人はキョトンとしていた。そして、——第3試合始め!! と開戦の合図がされる。
ミールは少しばかり反応に遅れたが、相手の1人に向かって速攻をかける。——速攻をかけながら鉱物生成・武装と鉱物生成・長槍を発動していた。
「Aクラスに勝ったからって調子にのるなよっ!! 鉱物生成・槍、接近戦は俺の得意分野だ!!」
ありえないスピードで、まるで何もないところから現れるように槍が出現したことにミールは一瞬驚くが、そのままパルチザンを突き出す。だが、相手はカウンターを狙っていたのかそれを寸前で躱し、そのまま体を回転させ後ろへ回り込んだ。
「馬鹿め! 終わりだ、魔法付与・大地の力」
槍を構え、槍先に魔力を集める。そしてミール目掛け強烈な突きを放った。その槍はミールの鎧ごと貫いきミールは膝から倒れこむ…………。——そうなる筈だった。
「この俺が、魔力を察知できなかっただと!!」
彼の体にはいつのまにか地面から伸びた錠で拘束されていたのだ。
「さっきの言葉返させてもらうぞ!!」
ミールはこうなることが分かっていた。むしろこうなるように動いていたのだ。——既に腰を落としパルチザンを構えていた。
「地槍術、一閃!!」
ミールは高速で薙ぎ払うが、その攻撃は相手には届かなかった。瞬時に出現した土壁に止められていたのだ。
「バカなっ!! 私の一太刀をこんな薄い土魔法で……!!」
自信のある一撃を止められショックを隠せなかったが、今はそんな事を嘆いている時じゃないと直ぐに復活し、相手から距離をとった。
「油断してんじゃないわよ!! アンタそれでよくSクラスにいられるわね」
「黙れ!! 余計な手出しするな」
「アンタさぁ、誰に向かって言ってるのよ」
ススゥはやられかけた仲間を睨みつけると、その男は黙ってしまう。
「まあいいわ、あの後ろの奴には注意しなさい」
(ふむ、仲間割れしたと思ったけどどうやら立て直したみたいだね。っと言うかススゥ相変わらずだな)
「ミール、ウェラさん、3分でいいのでススゥの足止めお願いします。それまでに私はあの2人を仕留めます」
ダブルは挑発するように、あえて相手に聞こえるように言うと、面白いくらいに食いついてきた。
「お前っ!! 平民の分際で俺をバカにするんじゃねぇ!!」
一人で突っ込んでくる相手をみて、ススゥも大変だなと同情してると、意外と動きが早く、ミールとウェラの攻撃をくぐり抜けダブルの目の前まで来ていた。
ダブルは勢いよく攻撃してくる相手の懐に一瞬で潜り込むと相手の腰に片腕を回し、相手を自分の腰に乗せた。そのまま相手の勢いを利用して大腰を決める。
「ぐぁっ!!」
叩きつけられた相手からは声が漏れる。だが、投げ技だけでは防御魔法が付加された制服に、あまりダメージが通っていない事を知っているダブルは、トドメの一撃を放った。
「一人目です。——荒狂う嵐風」
風魔法が相手を更に叩きつける。Aクラスのリーダーを倒した時の技だが、あの時と比べると威力は出ていなかった。それでも、相手の意識を刈るのには十分な威力で、まともに食らった相手はピクリとも動かなかった。
(さて、あと1人を倒して、2人に頑張ってもらわないとね……って、相手は女の子か)
ダブルはもう1人の相手の方を向くと、1つため息を吐いた。
「女だからってナメないでください」
「すいませんが、降参して————」
ダブルはその場から後ろへと飛び退いた。先程いたばしょには石矢が刺さっていた。飛んできた方向を見るとススゥがミールとウェラの相手をしながらこちらに魔法を放っていたのだ。
(器用なことしないでよ!! でもまあ、Sクラスってのは嘘じゃないみたいだね)
ススゥは戦闘中にも関わらず、ダブルの方を見て笑みをこぼした。ダブルは嫌な予感がしすぐに警戒するが遅かった。
「かかりましたわね、範囲全体魔法・大地の壁」
ダブルを囲うように大地の壁が出現した。四方を見ても逃げ場はなく、ダブルは今の状況に小さく舌打ちをする。
(めんどくさいなあ……とりあえず風魔法で飛び越えるしかないよね。格好の的にはなるかもだけど、仕方ないよか)
ダブルは風を纏い、飛び越えようと上を見る。——その瞬間、体中から冷や汗が出てきた。
「えーっと、2人と戦ってなかったっけ?」
囲んでいる壁の上にはススゥが立っていた。それだけなら良かったのだが、更に上には無数の砂の塊が浮いていた。
「あの2人程度の強さなら、わざわざ私が相手する必要もないわ。2人に戦わせて私と戦わないつもりだったみたいだけど、残念だったわね」
ススゥはしてやったりの顔をしていた。
(これはまずい! 非常にまずい!!)
何か手はないかと、ない頭をフル回転させる。だが、無情にもススゥは既にやる気満々で、次には行動していた。
「今まで溜まりに溜まってきたもの、ぶつけてやるんだから!! 砂の雨」
なぜか、ススゥは活き活きとした声で魔法を唱えていた。
「ちょっ! 待っ——」
ズドドドドド——!!
会場に激しい音が響く。
ある者は目を逸らし、ある者は「もっとやれー」と叫んでいた。
砂煙の中、上半身だけだがうつ伏せに倒れているダブルの姿が見えた。ススゥは壁から飛び降り、倒れているダブルの元までいく。
「フン、いいザマね。これに懲りたら…………もう勝手にいなくならないことね」
戻ろうと振り向いた先の、まだ残っている砂煙の中に人影が見えた。--ススゥはすぐに構えを取る。
「強くなったねススゥ、流石の僕も驚いたよ」
「うそ……だって、あそこに……!!」
ススゥはダブルが倒れていた場所を見る。そこには確かにダブルのフードがあった。が、しかし、そこにはフードしかなかったのだ。
「ススゥは相変わらず加減ってものを知らないみたいだね。それじゃあお嫁さんに行けないよ」
「う、煩いわね!! アンタには関係ないでしょ!!」
彼女は顔を真っ赤にして怒鳴っていた。
「それに……」
「それにって、なによ」
「このフード大事にしてたのに……」
ススゥの中で心臓が1つ跳ね上がる。
「試合の最中に何言ってるのよ……!! でも、私がボロボロにしたんだから……お、終わったら、直して……あげるわよ……」
「ありがとう!! それじゃあ仕切り直しといきますか」
「なによ、戦いたくなかったんじゃないの」
確かに先程までは戦いたくないとダブルは思っていた。だが、あの出来事から明らかに彼女は成長していて、実際どれ程までになっているのか、今は知りたい気持ちが勝っていたのだ。
「気が変わったよ、今のススゥと戦ってみたくなったよ」
(なんだろ、この気持ち……あんだけ戦いたくないって思ってたのに……ついに僕も戦闘狂の仲間入りかな)
ダブルは風を纏い構えた。ススゥも大きく息を吐き構えた。
「そう……本気でいくから覚悟しなさい」
コメント
スーナ
パパ6年生さん
誤字報告ありがとうございます。
誤字につきましては修正させていただきます
また、何かありましたら教えて頂けると嬉しいです!!
久留米天狗
クラス対抗戦⑧誤字報告『「ミール、ウェラさん、Rクラスに一泡吹かせましょう! 攻撃よろしくお願いします」』『Rじゃなく、Sクラスですよね?』