異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜

スーナ

トーラス学園〜クラス対抗戦④〜

2018/10/01 誤字修正



 闘技場では今、審判であろう先生を挟んでRクラスとBクラスが向かい合いあっていた。まだ試合が始まってないにもかかわらず、Rクラスからは客席からでもわかるほどの存在感をかもし出していた。中でも生徒会長のユリアがズバ抜けているのを見ている全員が感じており、流石は3年のRクラスだと誰もが思っていた。


 そして、両クラスの陣営は20メートルほど距離を取り構える。だが、3人構えているBクラスに対してRクラスは生徒会長のユリアだけが構えをとっていた。他の2人はユリアの数歩後ろに下がり、余裕の態度を取っていた。


 Rクラスのとった行動に、Bクラスのリーダーの男から苛立ちの声が漏れる。

「チッ……相手が俺たちBクラスだからって舐めやがって!! 後悔してもしらねぇぞ、生徒会長さんよぉ!!」



「いえ、ご心配なさらずに。それに……もしできるのであれば、私を後悔させて見せてください」


 ユリアが苦笑いしながら言うと、審判をしている先生から開始の声がかかる。


「第1試合、——始めっ!!」


 開始早々、Bクラスが先制しようと動き出す。

「いくぞっ!! 〈複数攻撃マルチプルマジック鉱物生成マテリアルフォーム戦斧ハルバード〉」

 3人の目の前に戦斧と槍を合わせた武器が瞬時に生成される。瞬時に武器を3つも生成するのを目にした生徒と観客から、歓声が沸き上がる。

 ハルバードを手に取った3人は後ろに下がっているRクラスの2人を無視してユリア1人に的を絞った。もちろん、Rクラスがなめてかかってきていることがわかっているからこその戦法であった。

 更に、魔法を発動しながらユリアの両サイドから囲むように近づく、


「〈 魔法付与エンチャント剛腕パワー〉」
「〈 魔法付与エンチャント敏捷アジリティ〉」

 
 パワーとスピードが上乗せされた3人が、同時にユリアに一撃を放った。無防備で受けていたら間違いなく即死の一撃であっただろう…………だが、そこにはあり得ないことに、今もまだ無防備で立ったままのユリアの姿があった。——そんな状況のでも、ユリアはニコッとしながら言葉にする。

「なかなかいい攻撃でしたね。ですが、まだまだ物足りないですよ」
 
「嘘でしょ……?」
「クソっ!! 何故だ!?」



 そう、ユリアに当たる前で見えない何かに3人の攻撃が受け止められていたのだ。


「勉強不足ですね……また戦えることを楽しみにしていますよ、〈爆風の衝撃波ブラストウェーブ〉」


 人を簡単に吹き飛ばせるほどの風が3人を襲った。そして、吹き飛ばされた3人は体の自由を奪われながら闘技場の壁に打ち付けられ、そのまま全員意識を失った。


「勝者、Rクラス!!」


 誰が見てもRクラスの圧勝だった。その後の試合も同じように上のクラスが圧勝する形で試合が進んでいった。圧勝続きの試合を立て続けに観たヒミさんが、ぼそっと何かを言った。


「3年生ともなるとやっぱりすごいですね……。私たちも大敗なんてことはないですよね……少し心配になってきました」

「気にするな、こう見えてダブルはめちゃくちゃ強いんだ、あのユリア会長にだってきっと勝てるぜ」
「そ、そうですよね! ダブルさんたちならきっと勝ってくれますよね!!」


(またなにか言ってるけど、気にしてたらキリないか……それより次はミャルさんの試合か。相手はSクラスだけどどんな戦いになるんだろ……早く見たい)

 王族でイケメンのミャルが闘技場の場に現れると、一斉に黄色い声援が飛び交った。


「ん、ダブル君どうかしたの?」
「ああ、いや、声援がすごいなって思っただけですよ。それよりも始まるみたいですよ」


 審判の先生から開始の宣言があり、ミャルの試合が始まった。ミャルの対戦相手はSクラスで、初戦から決勝カードみたいなものだった。

 対戦相手が相手だけあって、ミャルはいつもの穏やかな笑顔ではなく、真剣な表情をして相手と向き合っていた。そして、一番最初に動いたのはRクラスの方だった。


「ウード、リエル、油断せずにいこう!! 〈複数攻撃マルチプルマジック鉱物生成マテリアルフォーム戦斧アックス〉」


 ミャルは両手に一本づつ戦斧を生成する。そしてそれに続くように、『ウード』と呼ばれたガタイのいい男がランタン・シールドを生成した。

「もちろんそのつもりです、ミャル様。そして危険ですので、私の後ろにお回りください」
「ウードさんは相変わらずです。私にお任せあれです。それとミャル様、私から離れないで下さいです」

 ウードが言うと、すかさず『リエル』と呼ばれた小さめの女の子も同じ反応をした。


「私が2人相手取る、ウードはリエルと一緒にリーダーの1人を相手してくれ」
「わかりましたです! いきますです、〈水流の円蓋ウォータードーム〉」


 何もない場所から水が吹き上がり高さ5メートル程の水のドームが出来上がる。
 流石はRクラスと言えるだろう、完璧な魔力コントロールでミャルのご希望通りお互いが、リーダー対2人の状況を作ったのだ。


「おい、ダブル見ろよ! 水属性魔法だ! 魔道具以外で使ってるところ初めてみたぞ」

「そ、そうですね」
(朝いつもくらわせてるのも水魔法なんだけどな〜、気付かれてなくて良かったよ)


「えー、あれじゃ戦いが見えないじゃん。ダブル君何とかしてよ」
「ウェラさん無茶言わないでください、それにミャルさんの方は観れるじゃないですか」


 〈水流の円蓋ウォータードーム〉の中ではウードとリエル、そして、分断されたSクラスのリーダーが余裕のある口調で話していた。


「いいのかい? 王族であるミャル様を1人にしちゃって、それに下のランクにやられたとなると恥を晒すことになってしまいますよ」

「問題ない。ミャル様は負けることを恥とは思っていない、それに……ミャル様はこの場にいる誰よりも強い」

「もう、ウードは真面目に答えなくていいです。時間稼ぎに決まってるです」


 そう言ってリエルは自分の〈水流の円蓋ウォータードーム〉の水から水弾を作り、まるで雨のように連続で相手に向けて放つ。その攻撃の1発1発の威力は相当のもので、着弾した場所はえぐられていた。

 リエルが攻撃の手を止めると、既にその場に相手の姿はなかった。どこに消えた、と見渡すリエル。すると、すぐ下の地面が盛り上がった。


「リエルっ、下だ!!」
「えっ?」

 盛り上がった土が檻の形状に変わりリエルを襲う。回避しようとするが、気付くのが遅れたリエルはそれに閉じ込められてしまう。


「——っ! やられたです」
「くくっ、Rクラスともあろうものが無様だね」

「まったくその通りだ。リエル、少しは反省するんだな」
「ぐぬぬっ、ウードのくせにです」

「さて、戦えるのは君だけになったな。降参でもするかい?」


 相手のリーダーがリエルを拘束したことによって、更に余裕な態度を取ってくる。彼はリエルを拘束しただけであって、戦闘不能状態にしていないのだ。


「おい、あまりRクラスをなめてると痛い目をみるぞ」
「この状態でなにを言っても負け惜しみにしか聞こえないんだよ!!」


 ウードに向けて、土球クレイショットを連射する。


「チッ……」

 ウードが舌打ちをしながらその巨体からは想像できない身のこなしでそれを躱していく。
 C級魔法でも使う者によってはB級並みの威力がでるため、回避可能であれば下手に防御するよりは回避した方がいいのだ。


「ほらほら、回避してるだけかい!! Rクラスって肩書きだけで、大したことないなぁ!!」


「……そうか。ならっ——」

 相手の懐に一気に踏み込みウードが言う、


「——反撃させてもらおう」
「ひぃっ!!」


 一気に距離を詰めたウードは拳を振り抜く。相手はその振り抜いた拳を自らが大きく後ろに飛び退くことでギリギリで回避することができた。だが、ウードの狙いは最初から相手選手ではなかった。振り抜いた拳とは逆の手でリエルを拘束している檻の一部を粉々に砕いたのだ。


「ぬわっ!!」
「ビポックのステーキ定食特盛だ……それでミャル様には黙っていてやろう」
「——っ!! ウードのバカヤローです!!」


(私の魔法を殴って壊すなどあり得ない!)

「くそっ!! 全てを飲み込め〈砂丘の巻き波ザントヴェレ〉」


 3メートルの高さの砂の波が2人に襲いかかる。勢からしても飲み込まれたらタダでは済まないのは一目瞭然だった。


「これは私が止める。リエルはあいつを仕留めろ」
「わかったです」


 ウードは直ぐに魔力を込め魔法を発動する

「受け止めろ……〈大地の壁エルドワル〉」


 ゴゴゴゴと地響きを立てながら2人の前に壁ができる。
 そして、砂の波がものすごい勢いで壁に衝突した。何度も押し寄せてくる波に壁が悲鳴をあげながらも負けじと防ぎ続けている。


「ほらほらどうしたウード!? このままだと私の砂にのまれてしまうぞ!!」


 ウードはリエルの方に目だけを向けると、やっとかという感じで鼻で笑った。


「これで終わりです〈落水の裁きウルフォールトレント〉」


 相手の上空から激しく叩きつけるように水が放出される。


「なっ! いつのまに!! ——ぐあぁぁぁぁ!!」

「これで終わりじゃないです」

 
 リエルは攻撃した水でそのまま相手をのみ込み、水の牢獄に閉じ込めた。同時に展開していた〈水流の円蓋ウォータードーム〉を解除すると、近寄ってた先生が戦況をみて、戦闘不能の合図をだした。


「ふふん、楽勝です」
「何が楽勝だ……ビポックのステーキ定食特盛り忘れるなよ」


「ぐぬぬっ! わかってるです!」



 そしてミャル様のことを思い出したリエルは助けに行こうとするが、既に決着がついていたのか相手選手は倒れていた。


「ミャル様ご無事ですかです?」
「ああ、私は大丈夫だよ。それよりリエルたちは大丈夫だったかい?」


「もちろん、楽勝だったです」

 何か言いたげそうな表情でウードがリエルの前に出てくる。


「ミャル様実は……」

 ウードが何かを言おうとした時、背後からポコポコとリエルがパンチを繰り出していた。ウードの巨体にリエルの姿が隠れている為ミャルは気付かない。
 そして、このくらいやっておけばリエルは約束を守るだろうと、ウードは彼女が足元をすくわれたことは言わずに別の話をした。

「リエルの言った通り、思ったよりかは楽勝でした」
「そうか。では私たちも戻ろうか」


 退場していく彼等に大勢から歓声が上がった。





「ねぇ……ミールはミャル様の動き見えた?」
「…………見えなかった」

 ミールはミャルの戦いを見ていたのにもかかわらず見ることができなかった。ただそれは、ミールだけが見えなかったのではなく、ここにいるほとんどの者が圧倒的なミャルの動きを視界に捉えることができなかったのだ。
 そんな中ダブルだけが何事もなかったかのようにミャルのことを称えていた。


「流石はミャルさんですね、やはり生徒会長の次くらいの実力はあるのではないでしょうか」
「もしかしてダブルさんは今の見えていたんですか!?」

「一応見えていましたよ。学生であの動きは正直驚きますね」

 ヒミの言葉にダブルは素直に肯定した。そして、見えていると言ったお前に驚きだ! と4人は心の中で突っ込むのであった。


「さて、ミール、ウェラさん、私たちは待機室に向かいましょうか」
「そうだね、作戦会議もしなきゃだしね」

「ちゃんと応援してやるから絶対負けんじゃねぇぞ、ダブル!」
「初戦から負けるつもりはないですよ」


 3人はついに始まる自分たちの試合に向けて準備をするために、待機室へと向った。





「私たちの順番まであと少しですが、準備はどうでしょうか?」

「ミャル様の試合をみて少し自信無くしてしまったが、やるだけやってみるさ」
「うん、ここまできたんだ後悔だけはしないようにするよ」


 2人とも意気消沈してるかと思いきや意外とやる気があることにダブルは安心した。そして、これなら問題ないかと話の本題に入った。


「私たちの相手はAクラスです。上位クラスの中では一番下ですが、実力は確かだと思っています」

 実力は確かという言葉に2人は不安になる。

「ですがそれはあくまで個人としてです、チームとしては私たちの方が上だと思っていますよ」


 話を聞いているウェラが難しい顔をするが、それとは別にミールはなるほど、と頷いていた。


「ミールぅ、どういうこと?」
「チーム戦ではいくら個々の能力が高くても、お互いの連携が取れていなかった場合は仲間同士で足を引っ張り合って戦うことになるんだ。つまり、連携を取ってきてる相手に対して、仲間に足を引っ張られた状態で対処しなきゃいけないということなんだよ」

「その通りです。今までの試合を見てきましたが、上のクラスの人達はみなプライドが高く、一人で対処しようと殆どが、一対一で戦っていました。私たちはそこに付け入るのです」

「確かに! それならボクたちでも勝てるかもね」
「それでは、残りの時間作戦を考えましょう」

 やる気の出た2人と作戦会議を始めるのであった。
 それから2時間が経ち、ダブル達Dクラスの試合が始まる。




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