異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜

スーナ

冒険者⑧

2018/09/20 誤字修正しました。




  ハァハァ


「ここまで逃げてくれば大丈夫そうね」

「エスティ様……はなしてください……」

 そう言ったススゥの目からは涙が溢れていた。そして、不意に震える声が漏れる。


 ……なんで………………



「え?」


「なんで!!  ——なんであいつを見捨てたんですか!! エスティ様!!!!」

 エスティはススゥの顔を見れなかった。——自分の弱さに歯をくいしばりススゥから目を背けていた。


 ススゥはダブルがいた場所へ戻るため、歩き出す。そして、何も答えないエスティの横を通り過ぎると、ススゥが再び口を開いた。


「私の知っているエスティ様は……そんな弱い人間ではなかったです…………」

「————っ!!」

 エスティはススゥになにも言い返せず、止めることすらできなかった。只々、自分の弱さを恨んだのだ。


  その時だった、ダブルがいる方向が赤く染まったのだ。そして、2人は信じられない光景を目の当たりにしていた。高さ20メートルはある猛火が、全てを呑み込みながらこちらに向かっていたのだ。


「なによあれ……」

「終わりね……」


 圧倒的なまでの力に、ススゥとエスティは逃げることも諦めてしまった。

「ミズキ…………」

 覚悟を決め目をつむる。




 なにを諦めているんですか?  そんなのススゥらしくないよ




 ミズキの声が聞こえる…………



 幻聴でも最後に声が聞けてよかったと思いながら、もうすぐやってくる死を今か今かと待ち続ける。


「ススゥ……まだ終わってない、生きることを諦めちゃだめだ」



 再び幻聴がきこえ、ススゥが目を開けると、そこにはミズキの姿があった。


「うそ……なんで……」



「必ず守るって約束したからね」



「————っ!! そんな約束もういいわよ!! もう充分にやったわ!!  一緒に逃げるのよ!!」


 ミズキは最大魔力を込めながら、ススゥに向かって言った。

「この魔法を使ったら僕はもう動けなくなるけど、あの攻撃だけは必ず防ぎきるから。だから……約束してくれるかい…………ちゃんと逃げ切って生きると」


 ミズキは仮面を着けているため表情は分からなかったが、ススゥにはなんとなくどんな表情をしてるかが分かった。


「バカッ——」


 もう猛火は目の前まできていた。


「必ずまたっ!! 生きて合うのよ!!」

 ミズキは猛火に向き頷く


「うん、約束だ」



  最大魔力を込め魔法を今放った——


エリコの壁ウォールズ・オブ・ジェリコ



 大地が震え、猛火をも超える高さの壁が出現する。そして、絶対的な防御壁と全てを呑み込み焼き尽くす猛火が激突する。


 ドゴゴゴゴゴ


 猛火が壁を破壊している音が響く。それの音はとても重く激しく、聞く者の内側から全てを削っているような重低音だった。

 そんな状況の中でエスティは、動くはずもない身体を雷魔法で無理矢理無動かし、ススゥとアティを抱えて全力でその場を離れていった。










 ミズキは気付くと仰向けに倒れていた。

「まさか三途の1つを止められるとは思いませんでしたよ。あなたは本当に人間ですか?」

 ハースターマプラープタの声が聞こえるが、僕はもう動けない

「僕は人間だ、それよりあんた、名前が長いんだよ……」
「こんな状況で面白い事をいいますね。教えてもしょうがないですが、人間からは『サク』と呼ばれていますよ。では、私達にとって危険なあなたはここで死んでもらいます」

 ミズキにトドメを刺そうとしたがサクの動きが急に止まる。

「何者ですかね?」
「あー、気付かれちゃったかい? ただの通りすがりさ」

 サクは肩をすくめながら言う、
「ハァ、今なら見逃してさしあげます。死にたくなければ立ち去りなさい」

 だがその男は既にサクの目の前まできていた。そして気付いた時には、男の拳がサクを襲っていた。

「なっ!!」

(なんだよこの人の力!?  殴っただけであんなに吹き飛ばすなんて!!)


「すごい状態だけど……君、大丈夫かい?」
「すいません、全く体が動きません」

「そうかい、ならそこで休んでてくれ」
「貴方は……?」

「うーん……ブルだ。ブルさんと呼んでくれよ」

 ブルと名乗った見た目は30代くらいのこの男は、体格は大きめで、スポーツマンみたいに引き締まっている。顎髭をはやした姿は20代後半にモテそうなダンディな男だった。

 こんな時に呑気な人だ。でもこの人がズバ抜けて強いのが分かる。

「ブル……? トーラス・ブルですか。こんな所でゾディアックの1人に出逢えるとは思いませんでした」
「俺が誰だろうと関係ないだろ? 町ごと潰そうとしたお前を俺は許さない」

 ブルからもの凄い威圧を感じる。

(まるで突進する前の闘牛じゃないか)


「残念ですが、今はまだ本調子ではないのです。またの機会に……」

 そう言ってサクはその場から消えたのだった。

「さて、君かい?」
「はい?」

 壁を指差しながら再度聞いてくる。

「これを作ったのは君かと聞いてるんだ」
「そうです」

「よし決めた、俺の弟子になるといい」

 急に弟子になれと言われた僕は、戸惑いを隠せなかった。

「そんな急には——」
 だがブルはミズキの言葉を遮るように言ってきた。

「さっきのサクのことを知ってるかい?」
「いえ、なにも…………」

「そうか、話すと長くなる先にその半身を治療しようか〈水仙の粉塵ナーシサスダスト〉」


  小さなスイセンがミズキの焼けた右半身を包む。そして数十秒後には元に戻っていた。

「今のは!?」
「俺のユニーク魔法さ。……さて話をしたいから場所を移動しようか」

  傷が癒え歩けるようになった、ミズキはブルと一緒に移動した。





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