異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜

スーナ

冒険者⑤

2018/07/03 誤字修正しました。





「なんとか日暮れに間に合いましたね」

「ダブルさん、今日はこれ以上は進みませんので、ゆっくり休んでください」



 その言葉はとっても嬉しいのだが、問題が1つあった。宿代を払える程のお金を持っていなかったのだ。



「エスティ様すいません………実は……」



 ダブルは言いかけると、彼女は何を言おうとしているのかを察したのか、「宿代のことなら心配しなくても大丈夫ですよ」と言ってきたのだ。


 彼女の親切心に、ダブルは少し困惑してしまう。



「唯でさえ依頼に連れてきてもらっている身で、更に宿代まで払ってもらうとなると……流石に申し訳ないので……」



 ダブルの言い分を聞いたエスティは、1人でなるほどと納得していた。当然、彼女が納得している理由がわからないダブルは首をかしげる。

 そんなダブルの姿が微笑ましく思えたのか、エスティは笑みをこぼしていた。




「宿代を出したのは私たちじゃないわよ」

「え? それじゃあ、誰が……?」



「コヒーさんです。出立前にあなたの宿代を、払ってくれてたのよ」

「コヒーさんが……? でもなんでなんだろ」



「ふふっ、言伝もちゃんと貰ってるわ、『これは私からの初依頼達成のお祝いです、くれぐれもお怪我はしないように』と言っていたわ」



(コヒーさん太っ腹じゃないか!!  本人の前で太っ腹なんて言ったら怒られそうだから今言っておこう--太っ腹だ!!)



 仮面越しでも分かるくらい、ダブルからは喜びの感情が溢れ出ていた。








「では、そろそろお部屋に行きましょうか。部屋は別々なので、何かありましたら呼びにきてください」


 始めて会った時の態度からじゃ想像できない優しさに驚くも、「ありがとうございます」とちゃんと感謝を述べた。そんな2人の雰囲気に我慢できなくなったススゥが、眉間にしわを寄せて割って入ってきた。




「ちょっとあんた、寝込みに襲ったりしたらぶっ殺すからね!!」


 ススゥさんそれはフリですか? と言ったら本当に殺されそうな気がしたので口には出さなかった。


「ススゥさんは僕を獣かなんかと思っているんですか? 安心してください、そんなことしませんので」

「そのものじゃない」


 ………………。


 ダブルは事故とはいえ、実際にススゥの慎ましい胸を揉んでしまっていたので、なにも言い返せなかった。


 その後、部屋の前で一旦別れたダブルは、自分に与えられた部屋に入り、すかさずベッドにダイブしていた。そして、気怠げな声をあげる。




 ぬわぁ〜〜



 つかれた〜〜



 まさか、いきなり戦闘があるとは思わなかったよ…………それに、この世界はゲームも漫画もないのに、充実感が前よりすごく感じる




 それにしても……



 ダブルは急に寝返りをうち、仰向けになる。


「パーティーか…………にししししっ」





   嬉しさのあまり枕を顔に押し付けながら笑っていると、ノックの音が聞こえた。


 誰だろうと考える間も無く、ドア越しから声が聞こえる。


 いるなら開けなさい!




 この上から物を言ってくる態度に、この声、部屋にやってきた人物はススゥだなとダブルは確信する。

 ため息を1つ吐いてから、ドアの前にいるであろうススゥに返事する。


「カギあいてるから、入ってきなよ」
「私がきてあげたんだから、開けなさいよね」


(いや、自分で開けなよ………)と思うが、終わりのないやりとりが始まるだろうと、重い体を渋々動かし、ドアの前まで来る。



 はい、はい、今開けますよー



 ドアを開けた瞬間、ドンッ!  と突き飛ばされた。そのまま倒れたダブルは、驚きのあまり目をパチパチさせていた。

(なんだ!?)


 前を見るとススゥが自分の上に馬乗りしていたのだ。そして、この光景にデジャヴを感じる。





「捕まえた、これで逃げれないわよ」
「何をふざけてっ!?」


「ふざけてないわよ…………ねぇ、ミズキ!!」
「--っ!! はて、ミズキ? 知らないよそんな奴……」


 身体を動かそうとするが、全く動かない。--動かない部分を見ると、既に土魔法で拘束されていたのだ。




「なっ! 無詠唱だと!!」
「それくらい普通よ。さぁその仮面の下を見せてもらうわ!!」


(くそっ!  野蛮な女め!)



 必死に振りほどこうとするが、魔法無しにススゥの土魔法をどうすることもできなかった。そこへ、一番きて欲しくなかった人物がやってきた。


「なにか騒ぎ声がしみしたが、大丈夫ですか?」


(エスティだとぉぉおお!! 彼女に正体がバレるのだけはなんとしても阻止しなきゃ!!)



「 ----ちょっ! ススゥ!? なにしてるのっ!!」

「エスティ様! 丁度良かったです。今こいつの正体を暴くところです!!」

  こう言う時は、

「エスティ様、良いところに! すいませんが助けて下さい!!」


 敢えて、助けを乞うのだ。



「…………」

(おいおい、なにを考えているんだ? この状況、普通すぐ助けるよ!!)


「…………そう…………2人とも程々にね」


 そう言い残し部屋に戻っていった。

「エスティ様ぁ!?」

(くそっ! 何かないか!? 一瞬だけでも隙が作れれば----)

「観念なさい!!」
  ススゥの手が自分の顔に迫ってくる。

「--す、ススゥさん!!  ……パンツ見えてますよ」


 ボフンッ!

  一瞬でススゥの顔がゆでダコのように赤くなる。

  (ここだ!  今しかない!)


 ダブルは無詠唱で風魔法を使い、拘束魔法を切断した。身体の自由が戻ったダブルは、ススゥをどかそうと動こうとするが、そこには涙目になったススゥがいた。

「あの、ススゥさん? そのですね……冗談ですよ?」

「--うるさい!!」

 バチィィン。


 思いっきり平手打ちを食らい、つけていた仮面が割れてしまう。

「なっ!!」



 ダブルは仮面が割れたことに驚く。何故割れたのかと考えると思い当たることが1つだけあった。--ゴブリンとの戦闘の時だ。

(あの爆発のダメージのせいか)



 仮面の割れた部分の素顔が晒される。そして、ススゥは「やっぱり、ミズキじゃない……」と小さく呟いていた。


「うん。エスティとアティにはバレたくないからドア閉めさせてくれるかな?」


 ダブルにまたがっていたススゥは、一度頷いてから素直にどいてくれた。

 ダブルはドアを閉めると、念のためカギも閉めた。ふぅ、とエスティにバレなかったことに一息つくと、後ろから声がかかる。



「…………なんで偽名なんて使ってるのよ」



「色々事情があってね。ところでなんで僕って分かったんだい?」

「当たり前でしょ、誰がその仮面作ったと思ってるのよ。そのフード……私のだったし……」



(やっぱりか。まぁ、ススゥにはバレるかもって思ってたからいいんだけど)

「バレるとタダじゃ済まなそうだし、エスティにだけは黙っててくれないかな?」


「やだっ!」

「へ……?」

 ススゥの即答に変な声を上げてしまう。お願いします、と頭を下げているダブルにススゥは顔をそらしてから言った。

「次あった時…………仮面を外して会えた時、一度だけ私の言うこと聞いてくれたら、黙っててあげる」


 ダブルは顔を上げススゥを見ながら約束した。

「わかったよ。約束する」

「絶対よ!?」


「うん、約束だ!!」

 ススゥは顔を服の袖で拭いながら立ち上がると背中越しに話しかける。


「……仮面」

「ん?  今なんか言った?」


「明日までに、新しい仮面作り直しておくから」


 それだけ言い残し、そのまま部屋を出て行った。ダブルはふらふらとベットまで行くと倒れるように横になる。


(お風呂入りたいな……いや、明日の朝でいいか、今日は休もう)


 ダブルは布団へと潜った。




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