異世界ライフ 〜異世界の自分を自分で救ってみました〜

スーナ

冒険者②

2018/06/25  誤字修正しました。





 受付嬢に説明を聞いたダブルはそのまま依頼ボードの前へとやってきた。


 み、見えない……


 ボードの前には人溜まりができていて近付けないのだ。それに、なんと言っても今のダブルは背が小さい。小動物のようにぴょんぴょん跳ねていると、ボードの前にいた冒険者達がダブルの存在に気付き、道を開けてくれた。 


「この小さい仮面は……さっきモブ兄弟を瞬殺したやつじゃないか?」
「近くで見ると結構小さいな……」


(なんか噂になってるなー、控えめに行動しなきゃ素顔を探ってくる輩が出てくるかもしれないな、気を付けよ)


 それよりも依頼を確認しなくてはと、依頼ボードを眺めると結構な数の紙が貼り出されていた。ダブルは一通り目を通してから、その中の1枚に注目する。



 ゴブリン討伐か。条件はFランクからで、討伐数に応じて報奨金がアップか。なかなかいい感じの依頼じゃないか


(一体につき5銅貨か……確か宿代は1日5銅貨だから食費も考えると、二体倒すだけで今日は凌げるか)


 ダブルはその貼り剥がし、先ほどの受付嬢のいるカウンターまで持っていった。


「あら、早速依頼を受けるのね」
「うむ、僕に丁度いいのがあったからね」

「ゴブリン討伐ね、じゃぁここにサインしてくれるかしら」
「受付のお姉さん、これでいいかい」


 間違って本当の名前でサインするところだったが、直前で気付き、ちゃんとダブルの名前でサインをした。



「はい、受付完了です。討伐部位は忘れずに剥ぎ取って下さいね。それがないと討伐したとみなされませんので。あと、町に入りる時は冒険者カードが必要なので掲示して下さい」


「お姉さんありがとう」
「『コヒー』です……」


「はい?」


 コヒーと言った受付嬢は座りながら上目遣いでこちらを見ている。

(そういうことか!! 名前を教えて自分の客にしようとしてるのか)



「コヒーさんありがとう、それじゃあ行ってくるよ」
「はい!  お気をつけて」


 満面の笑みでコヒーは言った。流石はマドンナ!  笑顔がとっても綺麗だ!  と思いながらダブルは冒険者組合を出て行った。


 そして、この時裏で2つの影が同時に動いていることをダブルは知らないでいた。










 ラバーズの町の外に出たダブルは、ゴブリンが発生している森へと来ていた。



確かこの辺だったかな、ゴブリンの発生地は。そう言えばこの森で初めて戦闘したんだっけか



 最近の事なのに、昔に起きたように感じてしまい、もうおじいちゃんなのかなと、下らないことを考えながら歩いていた。

 そして、今日のゴブリンとの戦闘はどうやって戦おうかと考え始めた。


ゴブリンって、どんなお話でも弱小扱いされてたような…………よし、色々試してみるかな。



 ゴブリン程度ならなんとかなるだろうと、使ったことのない属性で戦ってみることにした。そして、アティが言っていた属性を思い出す。



「確か……『火、水、風、土、雷』って言っていたな。う〜〜、どれにしようか悩む」



 土と雷は使ったことあるから、『火、水、風』の中のどれかにしようと属性を絞っていく。そして、水は濡れるのが嫌だからと却下し、火は森の中で使うとか論外となり、最終的に風におさまる。


 なんの属性を使うか決めたダブルは早速行動に移す。全身に風を纏うイメージをして、魔力を込める。


  フワッ--


 少しだが身体が浮くのを感じる。


 スゲーッ!

 飛んでるよ! スゲーッ!!!!




 バカみたいに叫びながら森の中を飛び、駆け抜ける。適当に飛んでいるたダブルはひらけた場所に出た。--そこには、小さな木と草でできたプレハブ小屋みたいな感じの家がたくさんあったのだ。



「なんだここは?」と一度魔法を解除して近づいてみる、--すると!



  グギャギャ
  グギャギャ



 何かの泣き声が聞こえたと思うと、家からゴブリンが出てきたのだ。ゴブリンの中には棍棒を持ってるものや、弓を持っているのもいたため、ダブルはすぐに警戒態勢に入る。
 

(なるほどね、ここはゴブリンの集落だったのか)

「5匹程度ならなんとか…………って、えっ!?」



  他の家からも、ゴブリンがどんどん出てきたのだ。その数はなんと20を軽く超えていた。


流石にこの数は厳しいな…………って、突っ込んできたし--!!

 
  グギャギャグギャギャ
  グギャギャグギャギャ



 ゴブリンが一斉にダブルに襲いかかるってくる。--ダブルはすぐにイメージを固め、魔法を発動する。


(ゴブリンなんかにやられてたまるか!  纏った風を維持しながら、魔法で雷槍を創る)

  「よし、同時発動できた!」



 既に目の前まで迫っていたゴブリンが棍棒で殴りかかってくる。それを雷槍で防ごうとした瞬間--!!



--バチィィン!


 雷鳴が発生し、ダブルは気付くと先ほどいた場所から10メートル程吹き飛ばされていたのだ。まだ、ゴブリンは残っている、と立ち上がろうとすると腕に痛みが走った。

「痛ッ!」


 腕を見ると血が流れていた。先ほど襲いかかってきていたゴブリンを確認すると、それは黒焦げになっていて、プスプスと焼け落ちる音が聞こえていた。


「何が……起きたんだ……」



(爆発したのか?  でも原因はなんだ!?)



 あれこれ考えていると、残りのゴブリンがこちらに向かってくる。



「くそ!  なりふり構わず襲ってくるなよ!」


 解けていた風の魔法を再度発動し、一度ゴブリンから距離をとった。ダブルは今の腕の状態で長期戦は危険だと判断して魔力を込め始める。


「集中しろ……集中しろ……」


  纏っていた風がダブルの目の前に集束していき、風の玉が作られる。圧縮された風は高音を発していた。


「一気に倒してやる--〈集束する風クラスターウインド〉!」




 ダブルが放った風の玉はゴブリンの群れの中心で破裂し、強力な竜巻が発生した。


  グギャッグギャッ


 ゴブリンは1匹残らずその竜巻に吸い寄せられ、ダブルはすかさず別の魔法を発動する。


「終わりだ、〈複数攻撃マルチプルマジック雷槍グロームスピア〉」


  無数の槍がすべてのゴブリンを貫いた。



ハアッ……ハアッ……ゴブリンでこのザマか……


 ダブルは少し横になり、ふと思った。このダメージはエスティにリンクしているのかなと。そして、少しだけ彼女が心配になった。




「さて、長居しても面倒しかなさそうだし、討伐部位回収してとっとと帰ろう」


 ゴブリンに近づくと殆どのゴブリンが黒焦げになっていた。こんな状態でも大丈夫かなと心配になるが、コヒーさんならなんとかしてくれるだろうと、勝手に思いながら討伐部位の回収を始めた。




「おいおい見ろよ! ゴブリンごときに苦戦してる奴がいるぞ!」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ってみると、朝に冒険者組合で瞬殺したモブ兄弟と、取り巻きが複数人いた。



(げぇ……こんなとこ来てまで絡むなよな、早く帰りたいのに!)
「ハァ……、何か僕にご用ですか?」


「ふざけてんのかっ!  朝テメェがしたことをもう忘れたのか!」

「あれは、あなた達から手を----!  って、これはどういうつもりですか?」



 ダブルは拘束魔法をかけられていた。



「クックック、それくらい察しろよ。  これからお前を痛めつけるんだよぉ!」
「冒険者がこんなことして、許されると思っているんですか?」


「誰も見てねぇし、お前みたいな怪しい奴の言うことなんて誰も信じねぇだろ!  ギャハハ」




(正気なのかな、こんな怪我人いたぶって楽しむとか。まぁ、何を言っても無駄みたいだし)

「わかりました。こちらも対応させていただくので、覚悟してください!」


「ぬかせっ!  --〈土の球クレイショット〉!」


 拘束されたダブルに向かって土の塊が飛んでくる。


 ダブルは慌てることなく、それならと無詠唱で魔法を発動する。すると、ダブルの目の前に高さ二メートルくらいの土の壁が瞬時にできあがり、飛んできた魔法を防いだ。


「ちっ! なかなかやりやがる。--おい! 一斉に魔法を打ち込め!!」



 (正当防衛とはいえ、殺すのはダメだな…………よし、逃げるか)

 風を全身に纏い、猛スピードでその場から逃げる。




「なんだ!?  あのスピードは!! 兄貴追いつけねぇよ」
「早く追え!! 冒険者組合に言われたら面倒なことになるぞ!!」


 だが、男達はもうダブルの姿を捉えることができなかった。








 ダブルは町の前まで逃げてきていた。森の方を一度振り向いて追ってきてないことを確認すると、肩を落としながら安堵する。


「流石にここまでくれば追ってはこないか。っと、そうだった、町に入る前にこの土枷外さなきゃな」



 スパッ!  っと風の刃で切断する。最初から切断しとけば良かったと思ったが、特に支障は無かったから、まぁいいかと流す。

  そして、纏っていた魔法を解除し門に向かってゆっくりと歩く。



(それにしてもなんであんなに突っかかってくるんだろ、何かしたのかな僕……とりあえずコピーさんには相談してくか)


「君、止まりなさい!」


 急に声をかけられたダブルはハッとなり、そして言われた通り門の前で止まった。


「す、すいません。少し考え事していました」

「そうか。 町に入るんだろ?  身分を証明するものを見せてくれ」


「身分を証明するもの……? ああ! 冒険者カードですね」


 ダブルは依頼を受ける前にコヒーさんと話していたことを思い出し。そして冒険者カードを門番の人に渡した。


「ん!? なんだいこれは?」
「冒険者組合で登録した時に貰った、冒険者カードです」

「なにを言っているんだ、黒色の冒険者カードがあるわけないだろ。冒険者カードの色は本人の属性の色を表しているんだぞ」


(えっ!  そんな話聞いてない!  ってかコヒーさん冒険者カードの説明忘れてるじゃん!)


「すまないが、君を町の中に入れるわけにはいかないな」
「そこをなんとか!  お願いします!」



  ダブルは頭を下げるが、マニュアル人間の門番は聞く耳を持たなかった。だが、ダブルが頭を下げ続けていると、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。

 ダブルと門番は声がする方をみると、茶色の髪を揺らしながら、こちらに向かって走ってくるコヒーさんの姿があった。


 おーい! おーい!



「--コヒーさん!!」


 受付嬢のコヒーさんがなんでこんな所にと思うが、そんなのはどうでもよかった。今、ダブルの目に映っているコヒーさんは女神にしか見えなかったからだ。


「ごめんね。冒険者カードの件で町に入れないかもって、思って来て----って!!  どうしたのその腕!?」

「いやー、色々ありまして」
「色々じゃないです! 早く治療しないと! 門番さん!!」


 コヒーさんの必死の表情に、門番の人が困った顔をしながら聞いてくる。


「すいません、この仮面の子はコヒーさんのお知り合いですか?」

「そうよ、今日冒険者登録したばかりの子よ。冒険者カードはミスがあってこんな色をしてしまっていますが、正式に登録されている冒険者です。私が保証するから通してもいいかしら?」



 門番の人はダブルを見て、ため息を吐きながら言った。


「マドンナのコヒーさんが言うなら今回は特別ですよ?」

「やった。 ありがとう」

 コヒーの笑顔に、門番は顔を赤くしていた。こうして初めての依頼から、町に戻ることができたのだ。





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